KPIとKGIとは?違いや設定のコツについて、具体例でわかりやすく解説

1 組織戦略・マネジメント

KPIKGIは、経営目標を具体化し、組織の行動を整えるために欠かせない重要な指標です。本コラムでは、それぞれの違いや役割、目的に応じた設定方法をわかりやすく解説し、指標設定の際のポイントやOKR・KSFとの関連まで、目標管理に役立つ実践的な知識を具体例とともに紹介します。

ビジネスの目標達成を目指すうえで、KPI(重要業績評価指標)KGI(重要目標達成指標)は、戦略と実行を結びつける重要な指標です。しかし、これらの違いや使い分け、具体的な設定方法について、正しく理解されていないケースも少なくありません。

本記事では、KPI・KGIの基礎から実践的な設定手順、さらにKSF(重要成功要因)やOKR(目標と主要な成果)などの関連フレームワークまで、目標管理に必要な知識を一つひとつ丁寧に解説します。

KPIの基礎知識

〜成果につながる「見える目標」をつくる〜

KPIとは何か?

KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)は、企業や部門の目標達成に向けた進捗を、数値で測定できる=定量的に“見える化”するための指標です。たとえば「売上5,000万円達成」という目標があるとき、その達成状況を客観的に把握するためのチェックポイントがKPIです。

経営層にとっては、事業戦略の進捗を確認するレーダーであり、現場にとっては「日々の行動が成果につながっているかどうか」を確かめるコンパスのような存在です。

KPIは、組織全体が共通の方向を向いて行動するためのツールであり、次のような効果があります。

  • 戦略の実行を具体的な行動に落とし込める
  • 社員一人ひとりが「何を頑張ればいいか」を明確にできる
  • 成果を“運任せ”にせず、計画→実行→評価→改善のサイクル(=PDCA)が回るようになる

KPIの5つの役割

経営や人事の現場でKPIを活用するうえで、以下の役割を押さえておくことが大切です。

役割説明
1.進捗の可視化数値で進捗状況を見える化し、行動の“ズレ”を早期発見できる
2.パフォーマンス評価部門や個人の成果を客観的に把握し、公正な評価や適切な支援に活かせる
3.改善の促進数値が悪化した原因を探ることで、業務プロセスの見直し・改善が進む
4.戦略の調整KPIの変動から戦略の“ズレ”を察知し、方向性を見直すきっかけにできる
5.モチベーション向上目標数値が明確だからこそ、達成に向けて自発的な行動が促される

KPIの主な種類

組織の目的に応じて、KPIはさまざまな分野に設定されます。以下は代表的な4カテゴリです。

種類具体例活用目的
財務KPI売上高、利益率、実際に使える資金の増減(キャッシュフロー)など経営の健全性や収益性を評価
顧客KPI顧客満足度、リピート率、LTV(顧客1人あたりの累計購入金額)など顧客との関係強化、ブランド価値の測定
プロセスKPI納期遵守率、生産効率、クレーム件数など業務の品質・効率の見直しに活用
従業員KPI離職率、エンゲージメントスコアなど組織の健全性や人材育成の指標

経営者や人事がKPIを設定する際は、これらを組み合わせて「財務だけを追いすぎない、バランスの取れた指標設計」が重要です。

実例:具体的なKPIの活用

営業部門

KPI月間商談件数、成約率、顧客獲得単価
活用成約率が低ければ、営業時の話し方や伝え方をまとめたトークスクリプト(営業用の台本)を見直すなど改善策を講じる

人事部門

KPI内定辞退率、オンボーディング完了率(入社後の導入研修や業務定着支援の完了割合)、研修後評価スコア
活用離職防止や教育改善の施策判断に役立つ

カスタマーサポート部門

KPI応答速度、満足度スコア、1件あたり対応時間
活用品質向上・人員配置の最適化に活用可能

このように、KPIは「ただの数値」ではなく、組織の未来を左右する“行動の道しるべ”です。特にWeb施策においては、アクセス数やコンバージョン率(=商品購入や問い合わせなど、目標とする行動に至った割合)などのKPIが、マーケティング戦略の精度を高める指標として活用されます。
KPIの考え方や構成要素を整理したダウンロード資料なども多く流通しており、実践に役立つツールとして活用されています。

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KGIの基礎知識

〜組織が向かう「最終ゴール」を明確にする〜

KGIとは?

KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)とは、企業が最終的に達成すべきゴール(成果)を数値化したものです。簡単に言えば、「この目標を達成できれば、会社として成功といえる」と判断できる基準を示すものです。

KGIは、売上や利益、市場シェアの拡大など、企業が「将来こうありたい」と描く理想の姿(ビジョン)や中長期の経営戦略と直結した成果を表す指標です。ゴールが定まっていなければ、どんなに努力しても組織は迷走してしまいます。
KGIは、組織が目指すべき目的地を示す“北極星”のような存在であり、全員が同じ方向を向いて進むための指針となります。

たとえば、

  • 「年間売上10億円を達成」
  • 「市場シェアを3年以内に20%に拡大」
  • 「顧客満足度を90%以上に維持」

といった具体的な数値がKGIになります。

KGIは経営層だけのものではなく、組織全体が共有すべき最終目標です。現場の一人ひとりが「なぜこのKPIを追っているのか?」を理解するためには、KGIが明確である必要があります。

KGIの主な役割

役割説明
1.戦略の方向性を示す長期ビジョンを数値に落とし込み、組織が向かう方向を一本化する
2.成果の判断基準になる成功かどうかを明確に測れる「達成ライン」を定める
3.リソース配分の軸になる人手・時間・資金などの限られた経営資源(=リソース)を、最も重要な目標達成に集中できるようにする
4.モチベーションを高めるゴールが明確になることで、現場の行動にも“意義”が生まれ、主体性が育つ
5.継続成長を支える達成後の振り返りや次なる目標設定のベースとなり、成長のサイクルを作り出せる

KGIの種類

KGIは企業の性質や成長段階に応じてさまざまな切り口で設定されます。

分類主な指標例目的
財務KGI年間売上利益率ROE(自己資本をどれだけ効率よく利益に変えているかを示す指標)、EBITDA(利息・税金・減価償却前の利益で、本業の収益力を示す指標)など経営の健全性や収益性を数値で把握するため
市場KGI市場シェアブランド認知新規顧客数など市場での存在感・競争力の向上を目指す
成長KGI新製品数研究開発費特許取得数など中長期的な競争優位性を築く
顧客KGI顧客満足度NPS(ネット・プロモーター・スコア:顧客の推奨度を測る指標)、リピート率など顧客基盤の強化・ロイヤルティ(=継続的に選ばれる信頼関係)の向上
社会貢献KGICO2削減量CSR活動実績(地域貢献やボランティアなどの社会的取り組みの成果)、ESG評価(環境・社会・ガバナンスの観点から企業を評価する指標)などサステナビリティ(=環境や社会に配慮した持続可能な経営)や企業価値向上

KGIの具体例(活用イメージ)

企業の目的KGIの例
売上拡大年間売上10億円を達成
市場での存在感を高めたい国内市場シェア20%の獲得
技術力を強化したい年間で5件の新製品をリリース
利益体質を改善したい通年の営業利益率を15%以上にする
顧客との関係性を強化したい顧客満足度調査で90%以上の満足を獲得
社員の定着率を上げたい離職率を10%未満に維持
社会的評価を高めたいESG評価のスコアを前年比20%向上

KGIは、企業のビジョンと現場の行動をつなぐ「最終的な結果を示すゴール」の指標です。
これを明確にすることで、企業は戦略をぶらさず、全社員が納得感を持って前に進むことができます。

KPI・KGIはどちらを優先するべきか

~短期の行動か、長期の成果か。目的に応じた指標設計を~

KPIとKGIの違いを整理しよう

企業経営において、KPI(重要業績評価指標)KGI(重要目標達成指標)はどちらも欠かせない存在です。

本節では、両者の違いや活用方法を事例とともに解説し、「どちらを優先すべきか」を状況に応じて判断する視点を紹介します。

項目KGI(Key Goal Indicator)KPI(Key Performance Indicator)
目的長期的な経営目標の達成短期的な業務の成果を可視化
位置づけビジョンやミッション(=企業が「なぜ存在するのか」「社会にどう貢献するか」を示す方針)に基づく「ゴール」ゴール達成までの「途中経過のチェックポイント」
利用主体経営層・部門責任者・全社で共有部門・チーム・現場単位で運用
売上10億円、シェア20%、海外比率30%など商談数100件/月、顧客満足度80点以上、欠品率5%未満など

KPIを優先すべきケース

短期的な業績改善や業務効率化が必要な場面では、KPIの設定と管理が成功のポイントとなります。
以下に、KPIを効果的に運用している企業事例をイメージした具体ケースを紹介します。

1.新製品の販売促進

「発売後3ヶ月以内に5000台販売」といった具体的なKPIを設けることで、販売チームの行動を加速させます。

2.マーケティング効果の検証

「キャンペーン期間中に新規顧客1000名獲得」など、施策ごとの成果をすぐに把握できるようにすることで、PDCAを高速回転させます。

3.現場改善・業務の見直し

「生産ライン稼働率80%以上」など、KPIで現場の改善点を“見える化”し、即時対応につなげます。

KGIを優先すべきケース

企業の成長やビジョン実現に向けた長期戦略では、KGIを軸に考えることが重要です。

1.市場シェアの拡大

「5年以内に市場シェア20%達成」など、数年単位での成果をKGIとして掲げ、中長期戦略に反映させます。

2.新規事業の立ち上げ

「3年以内に新規事業で年間売上10億円を達成」など、新領域の育成には長期目標が不可欠です。

3.グローバル展開の推進

「海外売上比率を5年以内に30%に引き上げる」など、大規模な戦略転換にもKGIが軸となります。

KPIとKGIは“どちらか”ではなく“両方”が必要

短期と長期、現場と経営、行動と成果。KPIとKGIは、役割こそ違えど、どちらも欠かせない“経営の両輪”です。大切なのは、「今どこにいて、どこへ向かっているか」を明確にすること。

KPIとKGIをつなぐ運用のポイント

施策解説
KPIとKGIの整合性を保つKPIはKGIの達成にどうつながるかを明確に。部分最適を避ける。
段階的な目標の設計KGIに向かって“逆算”しながら、KPIを四半期・月単位で設計する。
定期的な進捗確認と調整KPI・KGIは一度決めたら終わりではない。定期的に振り返りや見直しを行い、必要に応じて修正することが重要である。

状況に応じた使い分けが重要なポイント

  • 短期的な現場改善KPIを主軸に設計
  • 中長期的な事業戦略KGIを中心に構想

両者の整合性を保ち、目先の行動と未来の成果をつなげる設計が、企業の継続的成長につながります。

KPI・KGIの設定方法

~短期と長期の目標をつなぐ、実行力ある指標設計~

目標管理を機能させるうえで、KPI(短期の行動指標)KGI(長期の成果指標)は車の両輪のような存在です。
しかし、指標はただ決めれば良いものではなく、自社の戦略や体制に沿った「設計」と「運用」があってこそ意味を持ちます。近年では、KPI・KGIの正しい設計手法を学ぶための実務型セミナーも増えており、組織内の運用スキル向上に役立てられています。

ここでは、それぞれの設定手順と、共通の設計ポイントを解説します。

KPIの設定手順

現場の行動を成果につなげる「短期指標」をどう設計するか

KPI(重要業績評価指標)は、目標達成に向けた「行動の道しるべ」です。
とりわけ、KGIという長期的なゴールに対して、その中間地点での進捗を測る指標として機能します。途中経過を“見える化”することで、適切な支援や調整が可能となり、成果への確実な道筋をつくることができます。

ただし、KPIは「数値を決めるだけ」では不十分です。
目標との整合性を持ち、現場で実際に使える形に設計されてこそ、KPIは意味を持ちます。

ここでは、KPIを成果につなげ、組織全体を着実に前へ進めていくための実践ステップをご紹介します。

1.目標(KGI)を明確にする

まずは、KPIの出発点である最終目標(KGI)を設定します。
例:「新規顧客数を前年比120%にする」「年間売上10億円を達成する」

2.成功要因(KSF)を洗い出す

その目標を達成するために必要な行動や要素(=KSF:重要成功要因)を明確にします。
例:「問い合わせ件数の増加」「営業の商談数」「クレーム対応スピードの改善」など

3.KPIを設定する

KSFをもとに、「何をどのくらいの水準で達成すれば良いのか」をKPIとして数値で設計します。
例:「月の問い合わせ件数100件」「週3件の商談実施」「CSアンケート平均スコア4.3以上」など

4.SMART原則で指標をチェック

KPIは以下の5つの観点(SMART)に沿って設計すると、運用の質が高まります。

S(Specific:具体的)誰が見ても内容が明確か
M(Measurable:測定可能)数値で測れるか
A(Achievable:達成可能)現実的かつ挑戦的か
R(Relevant:目標に関連)KGIにきちんと結びついているか
T(Time-bound:期限付き)達成期限が明確か

5.測定基準・データの定義を明確にする

「何をもって達成とするのか」を明文化し、情報の解釈のズレが起きないようにします。
例:「月末時点での累計数」「前年同月比で10%増」など

6.組織全体で共有し、行動に落とし込む

設計したKPIは、チーム・個人レベルまで丁寧に共有し、
資料などを活用しながら、「なぜこのKPIなのか」「どう行動すべきか」を全員が理解できるようにします。

7.定期的な振り返りと柔軟な見直し

KPIは、設定したあとも“本当に現場の行動につながっているか”を確認し続けることが大切です。
定期的に進捗を振り返り、「意味があるか」「行動を引き出しているか」を確認し、必要に応じて修正を行うことで、KPIの効果を最大化できます。

KPIは、企業の戦略を現場の行動に変える「設計図」であり、必要な情報を正しく伝えるための共通言語でもあります。
しっかりとKGI・KSFと結びつけ、SMARTな設計を行い、全員が納得して行動できるKPIを整えることが、戦略を実行に移すための“起点”となります。

KGIの設定手順

KGI(Key Goal Indicator/重要目標達成指標)は、企業が最終的に達成すべきゴールを数値化したものです。
戦略を実行するうえで、「どこに向かうのか」を明確に示す羅針盤の役割を果たします。

しかし、KGIは安易に決めるものではありません。企業のビジョンとの整合性組織の実力とのバランスを踏まえ、慎重かつ戦略的に設計する必要があります。

1.ビジョン・ミッションの再確認

まずは、KGIの出発点となる企業の存在意義(ミッション)と目指す姿(ビジョン)を明確にします。
例:

  • 「業界トップシェアを目指す」
  • 「社会課題を解決する新たな事業を育てる」
  • 「持続可能な成長を追求する」など

これにより、「何のための目標か」が全社員にとって腹落ちする状態をつくります。

2.最終目標(KGI)の設定

ビジョンに基づき、「これが達成されれば成功と言える」ゴールを具体的な数値で定義します。
例:

  • 「年間売上10億円の達成」
  • 「5年以内に市場シェア20%を獲得」
  • 「海外売上比率を30%にする」など

3.達成基準・評価期間の設計

KGIがただの理想論にならないよう、達成とみなす明確な基準と期限を設定します。
例:

  • 「2026年度末までに売上10億円」
  • 「1年以内に主要3市場へ新規参入」
  • 「4四半期連続で増収増益を達成」など

4.組織内での共有と納得形成

KGIは経営層だけで把握するものではありません。現場のメンバーにとっても「自分ごと」になるように共有と対話を行います。
そのうえで、「なぜこのKGIなのか」「自分たちの行動とどうつながるのか」を理解させることが重要です。

5.定期的な進捗確認と柔軟な修正

KGIは、外部環境や企業戦略の変化に合わせて見直すべき“経営の羅針盤”です。
市場や組織の変化に応じて、進捗を定期的に確認し、必要に応じて見直すことで、常に実情に合った目標管理が可能になります。

KGIの設定は、単なる数値の設定ではなく、企業全体の方向性を定める戦略的な意思決定です。
しっかりとビジョン・ミッションと結びつけ、評価基準を明確にし、現場に浸透させることが、KGIを“生きた指標”に変えるポイントです。

KPIとKGIを設定する際の4つのポイント

観点解説
1.具体性抽象的ではなく、「誰が見ても数値で判断できる」ようにする
2.現実性実行可能な目標かどうか。高すぎる目標は現場のモチベーションを下げる
3.一貫性会社の戦略・方針とつながっているか(目標の“意味”があるか)
4.柔軟性状況に応じて見直せる設計か(想定外の事態に対応できるか)

KPIとKGIを設計する際は、「KGI(最終ゴール)→ KSF(成功要因)→ KPI(日々の行動)」と、ツリー構造で整理すると分かりやすくなります。
目標達成に必要な要素がどうつながっているのかを可視化することで、現場の納得感や実行力も高まります。


行動につながる「目標設計」が企業を強くする

  • KPIは日々の行動の道しるべ
  • KGIは企業の未来のゴール

この両者をきちんと設計し、現場と経営が一貫した方向を向いている状態をつくることが、成果を生む土台となります。設定して終わりにせず、常に「この目標は意味があるか?」を問い直す運用ができるかどうかが、企業の成長力を左右します。

KPI・KGIの設計は、“戦略を行動へ”とつなげるための仕組みづくりです。
組織全体が目標に向かって進んでいくためにも、継続的な見直しと、実行の積み重ねが欠かせません。

KPIやKGIの設定は、構造的に整理しておくことでスムーズに進めることができます。
KPIの基本構造をまとめたダウンロード資料なども多数存在しており、設計時の参考にするのも有効です。

設定後に変更することはあるか

~変化に対応できる“しなやかな目標設計”が組織を強くする~

KPIやKGIは、設定して終わりではありません。
ビジネス環境は常に変化しており、目標指標も柔軟に見直すことが組織の成長には不可欠です。

ここでは、KPI・KGIを見直すべきタイミングや理由、変更時の進め方について整理します。

KPIは「状況に応じて柔軟に見直す」もの

KPIは日々の業務に密接に関わる短期指標であり、変化に応じて頻繁に見直すことが前提です。むしろ、「現場に合わないKPIを放置する」ことの方がリスクになります。

KPIを見直す主な理由

理由具体例
市場環境の変化競合の増加、顧客ニーズの急変、業界動向の変化など
業務プロセスの変更新ツール導入、業務の流れの刷新、担当者の入れ替えなど
設定KPIの妥当性に疑問がある達成困難すぎる、逆に簡単すぎる、行動につながっていないなど

例:

「問い合わせ件数100件/月」というKPIが、新しい営業ツール導入により3倍に達成されている場合、KPIの水準を引き上げることで、再び成長を促せます。

KGIは「必要なときに慎重に見直す」もの

一方、KGIは企業の将来像に関わる長期目標です。頻繁に変えるべきではありませんが、経営の根本が変わったときには、KGIも見直す必要があります。

KGIを見直す主な理由

理由具体例
ビジョン・ミッションの変更事業転換、企業の存在意義や社会的役割の見直し(パーパスの再定義)、新しい経営陣の方針など
市場環境の大きな変化業界再編、法規制の変更、パンデミック・災害などの外的要因
長期戦略の見直し新市場への参入、M&A(企業の合併・買収)による事業再構築、経営資源の再配分など

KPI・KGI変更の基本プロセス

目標指標を変更する際は、以下のような手順で進めると、現場とのズレを最小限に抑えることができます。

1.定期的な振り返り

  • 四半期・半期・年度単位で、KPIやKGIの進捗と有効性をチェック
  • 「目標は現実とズレていないか?」「行動が変わっているか?」を確認

2.変更の判断と合意形成

KPI部門責任者レベルで柔軟に調整
KGI経営層による戦略的判断が必要(経営会議・方針変更の承認)

3.変更の実施と周知

  • 新たなKPIやKGIを明文化し、関係者に丁寧に説明
  • 目標の背景・意味・期待される行動を共有する
  • モニタリング方法も合わせて再設計

変えてはいけないのは「目的」、変えてよいのは「手段」

KPI・KGIは、企業の目的を実現するための“手段”です。
そのため、環境や戦略の変化に応じて「柔軟に変える力」こそが、実行力ある組織の証です。

「目標を変えることはぶれることではない」
むしろ、変化を無視して旧来の目標にしがみつく方が、リスクを招く時代です。

「KSF」 「OKR」とは

~KPI・KGIの設計と運用を支える、もう一つの重要な視点~

KPI(重要業績評価指標)やKGI(重要目標達成指標)に関連する概念として、「KSF(Key Success Factor)」「OKR(Objectives and Key Results)」があります。これらは、目標の“質”と“達成プロセス”を支えるフレームワークとして、組織運営において非常に有効です。

KSFとは?(Key Success Factor)

=成功するために外せない“決め手”となる要因

KSFは「重要成功要因」と訳され、企業がKGI(最終目標)を達成するうえで、特に重要な成功要因を指します。
「どこに注力すべきか」「何を強化すれば成果が出るか」を見極め、KPI設計の土台ともなる考え方です。

KSFの役割

  • 成功の要因を明確にする
     例:競合と差別化するためには“顧客満足度”が最重要 など
  • 戦略の優先順位を決める
     例:市場シェアを広げるには“価格戦略”より“製品品質”に注力するべき
  • 経営資源の集中配分
     限られた人材・資金・時間を「勝ち筋」に集中させる

KSFの具体例

成果目標(KGI)重要成功要因(KSF)
顧客満足度90%を維持カスタマーサポートの質、問い合わせ対応のスピード
市場シェアを3年で20%に拡大新商品投入スピード、マーケティング施策の的確さ
製品の不良率を半減品質管理体制の強化、製造プロセスの見直し

KPIはKSFを数値化したものと捉えると、KPI設計の筋道が見えやすくなります。

OKRとは?(Objectives and Key Results)

=「やるべきこと」と「できたかどうか」をセットで管理する仕組み

OKRは「目標と主要な成果」と訳され、Googleやメルカリなど多くの企業が導入している目標管理手法です。
特徴は、「目指す姿(Objective)」と「測定できる成果(Key Results)」をセットにして管理すること。KPIと似ていますが、数値では測りづらい意欲的な挑戦目標(=定性的な目標)をベースにしている点が異なります。

OKRの構成

O(Objective:目標)組織が達成したい方向性や挑戦的なゴール
 例:「顧客にとって最も信頼されるサービスを提供する」
KR(Key Results:主要な成果)Objectiveの達成度を測る具体的な成果
 例:「カスタマー満足度を85%以上にする」
「クレーム件数を前月比30%削減」

OKRの特徴と活用効果

  • 全社・チーム・個人で“目線を揃える”ために使える
  • 四半期など短いサイクルで設定・見直しが可能
  • 定性的な目標(O)にも“やったかどうか”の評価軸(KR)があるため、行動につながる

OKRの運用ステップ

1.目標(Objective)の設定

挑戦的かつ組織の方向性と一致した目標を掲げる

2.主要な成果(Key Results)の設定

Oを達成するための具体的な成果を数値で明示する

3.定期的な振り返りと調整

週次・月次など短いサイクルで進捗を共有し、必要があれば見直す

KPI・KGIとの違いと使い分け

指標特徴目的
KGI最終的に達成すべきゴール長期視点での成果評価
KPIKGI達成のための進捗指標行動レベルでの業務管理
KSF成功するために欠かせない要因戦略策定とKPI設計の土台
OKRやるべきことと成果のセット管理組織の挑戦的な目標と連携の強化

  • KSFは、何に注力すべきかを見極める「成功のカギ」
  • OKRは、全員で目線を合わせて取り組む「行動と成果のマネジメント手法」

KGIとKPIを設定するだけでなく、それを現場で「行動に落とし込む仕組み」としてKSFやOKRを併用することで、目標の実現力は格段に高まります。

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〜KPI・KGI・OKRを「絵に描いた餅」で終わらせないために〜

KPIやKGIは、企業が目標を達成するうえで欠かせない指標です。
それぞれの役割と違いを正しく理解し、戦略と連動させて設計・運用することで、日々の業務から長期的な成長までを一貫してマネジメントできるようになります。

KPIは、日常業務の進捗や短期的な成果を可視化し、スピード感ある意思決定や改善を後押しします。
一方、KGIは企業のビジョンやミッションに基づく「最終的なゴール」であり、組織全体の方向性を示す指針です。状況に応じてどちらを重視するかを見極めながら、両者のバランスをとることが成果につながります。

また、KSF(重要成功要因)を明確にすることで、組織が「何に力を注ぐべきか」を整理でき、戦略的なリソース配分が可能になります。さらに、OKR(目標と主要な成果)を組み合わせることで、チームや個人の行動を企業の大きな目標としっかり結びつける仕組みが実現します。

これらの指標は、一度設定すれば終わりではありません。定期的な振り返りと柔軟な見直しを通じて、常に組織の現状と未来に合致した目標管理を行うことが大切です。

KPI・KGI・KSF・OKR――。それぞれの特性を活かしながら、自社の戦略と日々の行動をつなげ、目標達成に向けた“実行力のある組織”をつくっていきましょう。

監修者

髙𣘺秀幸
髙𣘺秀幸株式会社秀實社 代表取締役
2010年、株式会社秀實社を設立。創業時より組織人事コンサルティング事業を手掛け、クライアントの中には、コンサルティング支援を始めて3年後に米国のナスダック市場へ上場を果たした企業もある。2012年「未来の百年企業」を発足し、経済情報誌「未来企業通信」を監修。2013年「次代の日本を担う人財」の育成を目的として、次代人財養成塾One-Willを開講し、産経新聞社と共に3500名の塾生を指導する。現在は、全国の中堅、中小企業の経営課題の解決に従事しているが、課題要因は戦略人事の機能を持ち合わせていないことと判断し、人事部の機能を担うコンサルティングサービスの提供を強化している。「仕事の教科書(KADOKAWA)」他5冊を出版。コンサルティング支援先企業の内18社が、株式公開を果たす。

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