現場で人を育てるOJTとは?教育効果・進め方・メリットについて具体的に解説

5 部下指導・育成

OJTとは、現場の業務を通じて人材を育成する教育方法です。

本コラムでは、その基本的な考え方や進め方、実践を通じて得られるメリットやポイントをご紹介します。Off-JT(Off the Job Training)と組み合わせた効果的な教育手法についても、解説していきます。

Contents

OJT(On the Job Training)とは何か

OJT(On the Job Training)とは、実際の職場における業務を通じて社員を育成する教育手法です。マニュアルや座学に頼らず、リアルな業務体験を通じてスキルや知識を身につけることを目的としており、新入社員だけでなく、部署異動や昇進で新たな役割を担う社員にも適用されます。

特に中堅・中小企業や新しく事業を立ち上げたばかりの企業では、OJTが即戦力の人材を効率よく育てる実践的な手段として重視されています。限られた教育予算の中でも、既存社員の知見を活かしながら人材育成を図れることが最大の魅力です。

たとえば、「営業職のOJT具体例」としては、新人が先輩社員に同行し、顧客対応の現場で名刺交換の流れやお客様の話を丁寧に聞き出す技術を学ぶケースがよく見られます。これは、単にマニュアルを読むだけでは得られない、顧客との空気感や言葉の選び方といった“暗黙知”を学ぶ機会になります。

なお、本コラムでは、OJTの基本的な考え方から具体的な活用方法までを、実践に役立つ具体例とともにわかりやすく説明しています。目次から気になるトピックを選び、必要な情報にすぐアクセスいただけます。


OJTは単なる「現場任せの教育」ではなく、企業の成長戦略に直結する人材開発の柱と位置づけることができます。

OJTの必要性

OJTは、企業が実践的な人材を短期間で育成するために欠かせない教育手法です。

以下の3つの観点から、その重要性が年々高まっています。

1.実務を通じてこそ身につくスキルがある

どれだけ座学で知識を学んでも、実際に体を動かしてみなければわからないことがあります。たとえば、カスタマーサービスでは、マニュアルにない対応力や判断力が求められます。

OJTでは、先輩社員のサポートを受けながら、実際の現場でリアルなやり取りを経験できるため、即戦力となるスキルが自然と身につきます。

2.企業文化を直接伝える手段になる

OJTは単なる業務の訓練にとどまらず、企業が大切にする価値観や文化を現場で体感させる機会でもあります。

たとえば、「お客様との距離感をどう保つか」や「上司とのやり取りのしかた」など、文字には表せない部分を行動を通じて理解させることができるのです。こうした体験を通じて、新人は早期に組織の一員としての自覚を持つようになります。

3.早期の戦力化で組織全体の生産性が上がる

採用した人材を、できるだけ早く現場で活躍させたい──

これはすべての企業に共通する課題です。OJTを活用することで、新入社員や中途入社者が「まずやってみる」中で業務の流れをつかみ、新しい役割に早期に順応できるようになります。その結果、上司やチームの負担も軽減され、組織全体の成果や働きぶりの質が高まるのです。


OJTの導入は、単なる教育コストの削減ではなく、企業の競争力を支える戦略的投資と捉えるべきです。とくに変化の激しい現代においては、マニュアルを学ぶ時間よりも、「現場で学ぶ時間」こそが人材成長の原動力になります。

OJTのメリット・デメリット

OJT(On the Job Training)は、現場での実務を通じてスキルを身につける効果的な育成手法です。ただし、導入・運用の仕方によっては、期待した成果が得られないこともあります。

OJTを効果的に機能させるためには、その長所と短所を正しく理解し、適切に運用することが欠かせません。

ここでは、OJTの代表的なメリットとデメリットを一覧で整理します。

メリット一覧

項目内容補足ポイント
1.即時のフィードバック上司や先輩がその場で改善点を伝えることで、学習効果が高まる指導者がフィードバックの技術を身につけるとさらに効果的
2.実務を通じたスキル習得理論では得られない現場対応力・判断力が養われる振り返りの時間を設けることで定着度が高まる
3.職場の関係性が深まる日常的な対話により、質問しやすい関係が築けるチームの一体感や心理的安全性の向上にもつながる

ここからは、表で紹介したメリット3つについて、実際の現場での効果や具体例を交えて詳しく解説します。

1.即時のフィードバックで学びが深まる

OJTでは、上司や先輩社員がすぐそばで業務を見守り、リアルタイムでアドバイスや改善点を伝えることができます。この即時性が、学習のスピードを早め、ミスの修正や業務習得の精度を高めます。また、「自分を見てもらえている」という安心感が、本人のやる気の維持にもつながります。

2.実務を通じて“使える力”が身につく

理論やマニュアルだけでは得られない、現場ならではの判断力や対応力が自然と身につくのもOJTの特長です。たとえば、クレーム対応の現場や突発的なトラブルに接することで、柔軟な対応力や冷静な判断が養われます。これはまさに「経験の中でしか得られない力」です。

3.チームの結束力を高める

OJTでは、日常のやり取りの中で先輩社員と新人のコミュニケーションが活発になります。質問しやすい関係が築かれることで、職場の雰囲気も良くなり、自然とチームの連携が強化されます。これは職場全体の成果にもつながる重要な効果です。

デメリット一覧

項目内容補足ポイント
1.指導内容にばらつきが出やすい指導者の経験やスキルに差があると、習得度にも差が出るマニュアル整備や指導者研修で標準化を図る
2.指導者の業務負担が増える通常業務と並行して新人指導を行うため、効率が下がる可能性がある業務計画への組み込みや時間配分の工夫が必要
3.被教育者のモチベーション低下単調な業務が続くと飽きや不安を感じることがある小さな目標設定や達成体験でやる気を維持

なお、これらのOJTのデメリットについては、このあと『OJTにおける課題』の章で詳しく解説します。

OJTを効果的に機能させるためには、その長所と短所を正しく理解し、適切に運用することが欠かせません。


メリットを活かし、デメリットに備える

OJTは、正しく運用すれば非常に効果的な教育手法です。リアルタイムでのフィードバックや実務経験を通じて社員の即戦力化が期待できる一方で、計画性や指導力が欠けると、かえって負担や非効率を生むリスクもあります。

このように、OJTの効果を最大限に引き出すには、計画的な運用と育成の仕組みづくりが不可欠です。

なお、「OJTにおける課題」の章では、こうした課題をどのように捉え、どのように解決していくかについて、具体的に解説していきます。

OJTとOff-JTとの違い

人材育成を進める上で欠かせないのが、OJTOff-JTそれぞれの特徴を理解し、目的に応じて使い分けることです。両者は、教育の「場」と「学びの性質」が大きく異なります。

Off-JT(Off the Job Training)とは

職場の外で、セミナーや講義、eラーニングなどを通じて行う教育です。業務から離れた環境で、集中して理論や専門知識を深く学べます。

マネジメント研修、コンプライアンス講座、DXセミナーなど
特長体系的な知識習得に適しており、長期的なスキル形成に有効
活用場面管理職育成、ITスキル強化、法律・人権研修など

OJTとOff-JTの違い

項目OJT(職場内教育)Off-JT(職場外教育)
教育の場実際の職場会議室、研修施設、オンラインなど
学びの内容実務に即したスキル・判断力理論・知識の体系的な理解、専門知識
即戦力育成高い(すぐに業務に活かせる)低い(実務には間接的に活きる)
成果の実感出やすい(仕事を通じて実感)出にくい(業務にどう活かすかを整理する必要がある)
社員の関わり方上司・先輩によるマンツーマン指導講師・指導担当者などによる一斉または個別指導
教育のタイミング日々の業務の中で随時計画的に実施される(年次研修など)

両者を組み合わせて“効果倍増”

理論をOff-JTで学び、それをOJTで実践する

──この組み合わせが最も効果的な人材育成を実現します。

活用の具体例

Off-JTで「営業スキルの基本(理論)」を学ぶ

OJTで実際に顧客対応を経験し、知識を現場で使う

上司からのフィードバックを受けながら改善を重ねる

この流れにより、学びが一過性で終わらず、「現場で活きる知識」へと転換されます。

モチベーション向上にもつながる

Off-JTで学んだ内容をすぐにOJTで試すことができれば、「学んで終わり」にならず、成長の実感が得られやすくなります。この体験は、社員のモチベーションを高め、学びへの意欲を引き出します。


OJTは“現場で学ぶ”、Off-JTは“座学で学ぶ”。それぞれの強みを活かし、人材の「即戦力化」と「将来のリーダー育成」を両立させることが、これからの人材戦略に求められます。

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OJTを行うステップ

OJTを「ただの現場任せ」にしないためには、計画的かつ体系的なステップを踏むことが不可欠です。

以下の5ステップを押さえることで、人材育成の精度と再現性が高まり、組織全体の教育レベルも底上げされます。

1.目標設定:何を、どこまでできるようにするかを明確に

目的OJTのゴールを明文化することで、指導の方向性がブレなくなる
具体例「3か月で見積書作成、電話応対、簡単な顧客対応を自立して行えるようになる」
ポイント業務ごとに「何ができたら合格か」の基準(評価指標)を設定

2.計画立案:指導計画と担当者を明確にする

目的業務内容や担当指導者、実施タイミングを事前に整理しておく
具体例「1週目は社内システムの使い方」「2週目は受発注対応」など週単位で設計
ポイントOJTチェックリストやスケジュール表などの計画用資料を整備し、進捗の見える化と指導内容の標準化がしやすくする

3.指導実施:実務を通じた丁寧な指導

目的日々の業務の中で実際に手を動かしながら、実務スキルを定着させる
具体例「顧客管理ソフトの入力を一緒に行いながら、入力ルールを指導する」
ポイントいきなり任せず「見せる→一緒にやる→任せる」の段階を意識する

4.フィードバック:定期的な振り返りでモチベーションを保つ

目的進捗を客観的に確認し、必要なサポートや修正を行う
具体例「毎週の1on1面談で、今週できたこと・できなかったことを振り返る」
ポイント「良かった点」+「次に伸ばすべき点」のセットで伝える

5.評価と改善:成果を測定し、次につなげる

目的OJTの効果を把握し、今後の育成手法に反映させる
具体例「OJT終了時に簡単な業務テストや、上司・本人の評価面談を実施」
ポイント指導内容・体制・スケジュールに対して改善点をフィードバックシートで収集

OJTステップの全体像

ステップ内容の要点実務へのポイント
1.目標設定目的を明確にする「何ができれば一人前か」を定義する
2.計画立案指導計画と担当者を設定チェックリストや週次スケジュールを用意
3.指導実施実務を通じた習得支援段階的に任せて成功体験を積ませる
4.フィードバック振り返りと改善点の共有面談やミーティングで習得度を確認する
5.評価と改善成果の検証とOJT体制の見直し改善点を次の育成設計に活かす

各ステップを支える資料(例:チェックリスト、評価シート、フィードバック記録)は、OJTの再現性と品質を高める重要なツールです。これらをテンプレート化しておくことで、育成の属人化を防ぎながら、誰でも同じ質で指導できる体制づくりにつながります。

OJT体制が整うことで得られる効果

  • 人材の育成スピードが上がる
  • 新人の定着率が向上する
  • 育成の属人化を防げる(個人任せにならないようにできる)
  • 組織に「教える文化」が根づく

これらはすべて、中長期的に企業の競争力を高める重要な基盤です。

OJTにおける課題

OJTは実務を通じて人材を育成できる効果的な手法ですが、現場任せで運用すると、“教えているつもり”“育っているつもり”の形だけの教育になってしまう恐れがあります。

ここでは、現場で頻繁に見られるOJTの課題を整理し、その背景や発生要因を明らかにします。

1.指導者の負担が大きい

OJTは業務の合間に自然に行われることが多く、明確な育成スケジュールがない企業では、育成が後回しになることも少なくありません。

背景

OJTは多くの場合、日々の業務の中に組み込まれる形で自然発生的に行われます。そのため、明確な育成スケジュールが設けられていない企業では、育成活動が後回しにされる傾向が見られます

2.教育の質にばらつきが出る

指導者によって教え方や伝え方に差があるため、教育内容が統一されず、新人の習得度にばらつきが生じることがあります。

背景

OJTは指導者の裁量に大きく依存しており、内容や進め方が標準化されていないケースが多く見られます。そのため、教育の質が個人のスキルや経験に左右されやすくなります。

3.被教育者のモチベーション低下

OJTが長期にわたる場合、日々の業務が単調に感じられたり、成長実感が得られなかったりすることで、学習意欲が低下することがあります。

背景

日々同じ業務を繰り返す中で、達成感や評価が得られにくい状況が続くと、「自分が成長している実感が持てない」と感じるようになり、やる気の低下につながります。

4.成果の評価が難しい

OJTの成果を客観的に評価することが難しく、育成の進捗や効果を把握しづらいという課題があります。

背景

OJTでは、定量的な指標(数値で測れる成果)だけでなく、行動や姿勢といった数値化しにくい定性的な要素も多く含まれます。そのため、育成の効果を明確に可視化することが難しい場面も少なくありません。
ここでいう定性的な評価とは、“どれくらいできたか”ではなく、“どのように取り組んでいたか”といった過程や姿勢を見るものです。

5. 時間の確保が困難

業務の繁忙や人手不足などにより、OJTに必要な時間を十分に確保できない現場もあります。

背景

「育成は現場で自然に行われるもの」といった暗黙の前提がある場合、明確な育成計画やスケジュールが設定されておらず、日々の業務の中で育成時間が削られてしまう状況が起こります。


課題は“構造的”に捉える必要がある

OJTに関するこれらの課題は、単なる現場の一時的な問題ではなく、制度や計画の不備に起因する構造的な問題であることが多いです。だからこそ、特定の人のやり方や経験に頼るのではなく、企業全体でOJTを「仕組み」として整備し、一貫した育成に取り組む体制を築いていく必要があります。

なお、次章では、これらの課題をどのように解決していくかについて、具体的な手法や制度設計のポイントを詳しく紹介します。

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課題を解決するための方法

OJTは、社員の実践力を高めるうえで非常に有効な手段です。しかし、課題を放置したままでは「やっているつもり」の形式的な教育に終始し、十分な成果は得られません。

ここでは、前章で整理した主な課題に対して、それぞれに有効な取り組みと解決策を示しながら、現場任せにせず仕組みとして継続的に運用できるOJTへの道筋を紹介します。

1.指導者の負担増 → 育成を“役割”として明文化し、支援する体制を整備

OJTを単なる善意の延長ではなく、「業務の一部」として正式に位置づけ、担当者の役割として明確にすることが必要です。

実施例

  • OJT担当者に対する「OJT指導者研修」の実施
  • 人事評価制度に「育成・指導」項目を加える

ポイント

  • 「教えること」も正式な業務と定義し、評価制度に反映させる
  • 指導を1人に偏らせず、マニュアルやチェックリストを用いてチームで分担できる仕組みをつくる

2.教育の質のばらつき → 育成内容を標準化し、個人任せにならない仕組みを導入する

教育の内容や進め方を標準化し、誰が指導しても一定の質を保てるようにします。

実施例

  • 職種・階層別のOJTマニュアルやチェックリストの整備
  • トレーニング進捗シートを用いたチーム内での進捗共有・確認

ポイント

  • 「どの業務を」「どの順で」「どのレベルまで」習得させるかを明示する
  • 進捗を定期的に確認できるような体制(共有シートや週ごとの振り返りの場)を整える

3.モチベーションの低下 → 目標・選択肢・承認の3点で刺激を与える

単調さを防ぎ、被教育者が成長を実感できるような仕組みが必要です。

実施例

  • 目標達成に応じたインセンティブ(表彰・報奨制度)の導入
  • 被教育者が希望するテーマを選べる「OJT課題の選択制」や、「ジョブローテーション(業務内容を一時的に変更し経験の幅を広げる仕組み)」の導入

ポイント

  • 定期的な1on1面談やポジティブフィードバックにより、心理的安全性と自己効力感を高める
  • 「できたこと」を棚卸しし、成長実感を明確にする仕掛けを設ける

4.成果の評価が難しい → 定量+定性のハイブリッド評価を設計

評価を「数字だけ」で捉えるのではなく、行動や姿勢なども含めて、多面的に評価できる仕組みが必要です。

実施例

  • 定量評価(例:受電数、処理件数、エラー件数など)と、
  • 定性評価(例:主体性、責任感、報連相の精度など)を組み合わせて評価

ポイント

  • 評価基準をあらかじめ見える化し、指導者と被教育者の認識のズレを防ぐ
  • 上司だけでなく、同僚や部下など複数の立場から評価を受ける360度評価」や自己評価を併用し、評価の納得感と透明性を高める

5.時間の確保が難しい → 育成時間を“意図して確保する”設計を導入

OJTの効果を上げるには、育成の時間を「取れるかどうか」ではなく「確保する前提」で業務設計を行うことが重要です。

実施例

  • 「業務時間内に指導時間を確保する」前提でOJTスケジュールを作成
  • 繁忙期には「マイクロOJT(10~15分の短時間育成)」や、Off-JT(外部研修やeラーニング)との併用で柔軟に対応する

ポイント

  • OJTを優先業務の一つと位置づけ、無理なく実施できる前提を整える
  • 人手不足の部署には、必要に応じて外部人材・短期サポートスタッフを配置して育成に集中できる環境を整える

OJTの課題は、現場ではなく“制度”で解決する

OJTの成果を左右するのは、現場の熱意や個人の力量ではなく、企業としての仕組みの有無です。
指導力の標準化、育成の見える化、評価方法の多様化といった組織的な取り組みを通じて、OJTを“企業文化”として定着させることが、持続的な人材成長と組織力の強化につながります。

OJTの具体例

OJTは新入社員だけでなく、キャリア採用者・既存社員・マネジメント層に至るまで、あらゆる層に対応できる柔軟な育成手法です。以下に、代表的なOJTの活用シーンを目的別に紹介します。

1.新人研修(新卒社員向け)

新入社員が入社後、現場での実務を通じて基本的な業務を習得します。これにより、新入社員は早期に業務に慣れ、即戦力として活躍できるようになります。

目的職場への早期適応と、基本業務の習得
実施例カスタマーサポートの新入社員が、先輩社員のサポートを受けながら実際の顧客対応を経験
効果現場の業務の流れや顧客対応スキルを体感的に学び、早期戦力化を促進

2.転職者の導入研修(中途入社者向け)

転職者が新しい職場に適応するために、OJTを通じて業務を学ぶことで、新しい環境にも早く慣れ、スムーズに業務を遂行できるようになります。

目的企業文化・仕事の手順や流れを理解し、スムーズに適応
実施例エンジニア職の転職者が、現場で実際に社内ツールや開発手法を学びながら業務を遂行
効果既存スキルを活かしつつ、新しい組織への順応が加速し、即戦力としての立ち上がりが早くなる

3.スキルアップ研修(既存社員向け)

現職社員が新たなスキルを身につけるためにOJTを実施することで、業務の幅が広がり、結果として業務効率の向上が期待できます。

目的変化する業務環境への対応力向上
実施例新しい業務ソフトの導入に伴い、現場で社員が操作実務を習得
効果研修で得た知識をすぐに業務で試すことで、学習定着率が高まり、業務効率の向上につながる

4.リーダーシップ研修(次世代管理職向け)

将来のリーダー候補が、現場での実務を通じてリーダーシップスキルを学ぶことで、実践を通じて着実に成長し、組織のリーダー層の強化につながります。

目的チームを率いるための現場感覚と対人スキルの習得
実施例リーダー候補者が、現場で少人数チームを任され、指示・報連相・課題解決を実地で体験
効果マネジメントの基本行動を経験から学び、管理職への土台を築く

5.プロジェクト管理研修(中堅社員・PM候補向け)

プロジェクトマネージャーが、現場での実務を通じてプロジェクト管理スキルを学ぶことで、プロジェクトの成功率が高まり、組織全体のプロジェクトマネジメント能力の底上げにつながります。

目的プロジェクト遂行スキルとリスク管理能力の向上
実施例プロジェクトマネージャーが実際のプロジェクトをリードしながら、計画立案・進捗管理・調整力を習得
効果実務を通じてプロジェクト全体の流れを掴み、マネジメント力を磨く

OJTは「育成対象に合わせて柔軟にカスタマイズできる教育手法」です。
新入社員の即戦力化から、将来の幹部候補育成まで――企業は自社のニーズに応じて、OJTを“戦略的にデザイン”することで、日々の業務に直結する実践的な学びを提供し、実際の現場で“すぐに役立つ”教育を実現することが可能です。
結果として、人材力と組織力の底上げにつながります。

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OJTとOff-JTを組み合わせた教育の具体例

OJT(職場内訓練)とOff-JT(職場外研修)を効果的に組み合わせることで、理論と実践の両面からバランスよく人材を育成することが可能になります。特に、職場での実務経験(OJT)に加えて、座学や演習(Off-JT)で理論的な理解を深めることにより、学習の定着率や応用力が高まります。

以下では、OJTとOff-JTを組み合わせた具体的な活用方法を5つ紹介し、それぞれの目的や実施ステップ、得られる効果について詳しく解説します。

活用パターン一覧

活用方法概要と狙い
理論と実践の統合Off-JTで学んだ知識をOJTで即実践し、理解と定着を促進
階層別研修階層ごとの役割に応じて、Off-JTで理論習得→OJTで職務に活用
フィードバックループ理論→実践→振り返り→再学習のサイクルでスキルを継続的に磨く
メンタープログラムOJTとOff-JTに加えて、経験豊富な先輩社員(=メンター)が新入社員や若手に寄り添いながら支援する仕組みを活用。日常的な対話を通じて、心理的な安心感と実務面での成長を後押しする
クロスファンクショナル研修異部門間でのOJT・Off-JTを交差させ、視野を広げ組織間連携を強化

1.理論と実践の統合:製造業の新人研修

目的

理論と現場体験を一体化させ、短期間で即戦力を育成する。

実施ステップ

1.Off-JT(座学)

製造の手順・品質管理の理論を講義で学習

例:作業手順、安全管理、品質基準の理解

2.OJT(現場実践)
  • 実際の製造ラインに入り、機械操作や製品検査を体験
  • 先輩社員の指導を受けながら、理論を現場で応用
3.フィードバック

作業後に上司・先輩から具体的な改善点を共有

例:動作手順の見直し、判断基準の修正など

4.再学習・再実践
  • 振り返り後に再度理論を学習し、理解を深める
  • 継続的な学びと実践を繰り返し、定着を促進

効果

短期間で基本スキルを習得でき、即戦力として配属可能に。実務との結びつきが強いため、学習意欲も高まりやすい。

2.階層別研修:中間管理職のリーダーシップ育成

目的

役職に応じたマネジメント力の習得と実務応用。

実施ステップ

1.Off-JT(マネジメント講義)
  • リーダーシップ理論、コミュニケーション技術、問題解決手法の学習
  • ケーススタディやディスカッション中心のプログラム
2.OJT(現場実践)
  • チームの進捗管理、メンバーとの1on1面談、業務改善の実行
  • 学んだ理論を日常業務の中で実践
3.メンタリング/コーチング
  • 上級管理職や外部講師による定期的な助言・支援

メンタリングでは、経験豊富な先輩社員がロールモデルとなり、キャリアや人間関係に関する相談など長期的な支援を行う。コーチングでは、問いかけを通じて本人の気づきを促し、自ら答えを導き出す支援を行う。それぞれの手法を併用することで、現場の課題や悩みに柔軟かつ実践的に対応できる。)

  • 現場での悩みや課題に即した対応を可能に
4.評価・フィードバック
  • チーム成果や行動の変化を評価し、次の行動計画を策定

効果

学んだ理論が実際のマネジメント場面に直結するため、成果が見えやすい。管理職としての自信と実行力が向上。

3.フィードバックループ:営業職のスキル強化

目的

営業スキルの実践→振り返り→改善の循環を確立し、営業力を底上げする。

実施ステップ

1.Off-JT(スキル研修)

営業トーク、商談の流れ、顧客心理などを講義・ロールプレイで学習

2.OJT(現場営業)
  • 実際の顧客訪問・商談で学んだ技術を活用
  • 上司が同行し、行動を見守りながら助言や支援を行う
3.成果のフィードバック
  • 商談結果を分析し、成功・失敗の要因を共有
  • 成果だけでなく過程を評価
4.再学習・改善策の立案

課題に応じた再学習(Off-JT)を行い、次回に活かす準備を整える

効果

営業社員が「やりっぱなし」にならず、常に自分を更新し続けられる教育サイクルを確立できる。チーム全体の底上げにもつながる。

4.メンタープログラム:新入社員の適応と定着支援

目的

新入社員が職場に早期に適応し、安心して成長できる環境を整える。そのために、OJT・Off-JTに加えて、日常的に相談や助言を行う先輩社員(=メンター)による精神的・実務的な支援を取り入れることで、離職リスクを低減し、学習の質を高めることができる。

実施ステップ

1.メンター選定と導入準備(OJT・Off-JTの前提整備)
  • 各部署の先輩社員の中からメンターを選定
  • メンターには役割と期待される支援内容を事前に伝え、簡単な研修を実施(Off-JT)
2.Off-JT:基本研修の実施
  • 新入社員には、ビジネスマナー・業務基礎・企業理念等の座学を実施
  • 研修中やその後の振り返りにもメンターが関与
3.OJT:現場実務でのサポート
  • 日々の業務にメンターが伴走しながら、業務の進め方や判断ポイントを共有
  • 不安や悩みへの相談役も担う
4.定期的な面談とフィードバック
  • 週次または月次でメンターと面談し、業務習熟度や精神面を確認
  • 面談結果は人事部とも連携し、必要に応じてOJT計画を見直す

効果

  • 新入社員が「孤立しない・相談できる環境」で安心して挑戦できる
  • 定着率の向上、初期段階での業務理解・習得がスムーズに進む
  • OJTを特定の人だけに任せるのではなく、育成の過程をチームで支える文化が根づく

5.クロスファンクショナル研修:組織全体の視野と連携力の強化

目的

部署を超えて多様な業務に触れることで、社員一人ひとりの視野を広げ、部門間連携力を高める。OJTでの体験+Off-JTでの知識習得を組み合わせ、全社視点を持った人材を育てる。

実施ステップ

1.Off-JT:部門間理解のための基礎研修

自部門だけでなく、他部門の役割や業務の流れを学ぶ座学研修を実施

例:営業部員が製造や物流の仕組みを学ぶ/開発担当がマーケティング戦略を理解する

2.OJT:異部門での実務体験
  • 一定期間、他部門のOJTに参加(例:営業職が製造現場で1日業務体験)
  • 実際の業務を通じて、業務の流れ・苦労・工夫を理解
3.Off-JT:共有・振り返りセッション
  • 体験後にクロスレビュー(体験内容・気づき・改善提案)を発表
  • 他部門メンバーとのディスカッションで視点を広げる
4.業務への反映・改善提案の実行
  • OJTで得た学びを自部門の業務改善に活かす
  • 部門横断プロジェクトへの参加や改善提案の制度化も推進

効果

  • 他部門への理解が深まり、「自分ごと」で考える意識が自然と身につく
  • 部門間の連携が強化され、社内のサイロ化(縦割り思考)の打破につながる
  • 変化に対応できる柔軟な人材と、組織横断で動けるリーダー候補を育成

組み合わせ設計こそが成果を左右する

OJTとOff-JTは、単体では不十分です。「学ぶ→やってみる→振り返る→また学ぶ」というサイクルが、個人の成長と組織の生産性向上を支えます。特に、育成対象の階層やスキルレベルに応じて、タイミングと内容を最適化した組み合わせ設計が鍵となります。

OJTを活かすかどうかは「仕組み」と「意志」次第

OJTは、現場での実務を通じて社員を育てる、非常に実践的で効果的な教育手法です。
ただし、ただ業務を経験させるだけでは十分とは言えません。計画的な設計・丁寧な指導・継続的なフィードバックによってはじめて、OJTは真価を発揮します。

さらに、Off-JT(職場外研修)と組み合わせることで、理論と実践を相互に補い合いながら、理解と応用力を深める教育が実現できます。
この“組み合わせの工夫”こそが、特定の人のやり方や経験に頼った指導・育成を防ぎ、企業全体の教育力を底上げする重要な要素となります。

そのためには、指導者の育成・動機付け・評価制度の設計といった制度面の整備も欠かせません。OJTを「現場に任せきり」にせず、企業全体で支える仕組みを築くことが、持続可能な人材育成と組織成長の土台となるのです。

本コラムで紹介したOJTの進め方や具体的な事例、Off-JTとの連携のあり方を参考にしながら、ぜひ自社に適した育成スタイルを見直してみてください。
現場から育つ人材が、組織の力を変えていきます。

監修者

髙𣘺秀幸
髙𣘺秀幸株式会社秀實社 代表取締役
2010年、株式会社秀實社を設立。創業時より組織人事コンサルティング事業を手掛け、クライアントの中には、コンサルティング支援を始めて3年後に米国のナスダック市場へ上場を果たした企業もある。2012年「未来の百年企業」を発足し、経済情報誌「未来企業通信」を監修。2013年「次代の日本を担う人財」の育成を目的として、次代人財養成塾One-Willを開講し、産経新聞社と共に3500名の塾生を指導する。現在は、全国の中堅、中小企業の経営課題の解決に従事しているが、課題要因は戦略人事の機能を持ち合わせていないことと判断し、人事部の機能を担うコンサルティングサービスの提供を強化している。「仕事の教科書(KADOKAWA)」他5冊を出版。コンサルティング支援先企業の内18社が、株式公開を果たす。

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