企業経営を健全に保ち、持続的な成長を支える要となる「ガバナンス」。特にコーポレートガバナンスは、組織全体の統制を図り、透明性と信頼性を高める仕組みとして注目されています。
本コラムでは、その基本的な意味や具体的な施策、ガバナンスが果たす役割について掘り下げ、企業にとっての重要性を解説します。
Contents
- 1 コーポレートガバナンスとは
- 2 組織におけるガバナンスの重要性
- 3 ガバナンスの具体的な施策
- 4 遵守すべき「ガバナンスコード」とは
- 5 ガバナンスとリスクマネジメントの関係性
- 6 ガバナンスと混同されやすいワード
- 7 ガバナンスの重要性を再認識するために
コーポレートガバナンスとは

コーポレートガバナンスとは、日本語では「企業統治」と訳され、企業活動を適正かつ効率的に運営するための仕組みや手順を指します。具体的には、経営者が企業の利益を最大化するために活動する一方で、株主やその他の利害関係者(ステークホルダー)の利益を保護するために、経営の透明性や公平性を確保するための枠組みやルールを意味します。
コーポレートガバナンスは、企業の信頼性向上や持続的な成長のために欠かせない要素であり、現代の企業運営において最も注目されるテーマの一つです。
コーポレートガバナンスの目的
コーポレートガバナンスの目的は、主に以下の3つに分類されます。
1.経営の健全性を確保する
経営者が株主やステークホルダーの利益を最大化するために、適切な意思決定を行う仕組みを整備します。これにより、不正や権力の乱用を防ぎ、企業活動が適切に運営されるようになります。
2.経営の透明性を向上させる
情報の非対称性を解消するために、企業は株主や投資家に対して必要な情報を開示します。たとえば、財務状況や経営戦略、リスク情報などを明らかにすることで、信頼関係を構築します。
3.企業価値の向上を図る
ガバナンスを強化することで、長期的な視点で企業価値を向上させます。これにより、株主のみならず、従業員や顧客など多様なステークホルダーの満足度向上にもつながります。
コーポレートガバナンスの仕組み
コーポレートガバナンスを実現するためには、具体的な仕組みを導入する必要があります。その中でも特に重要とされるのが「取締役会」と「監査役」の存在です。
取締役会
取締役会は、経営方針の決定や業務執行の監督を行う組織です。経営者による意思決定を監視し、企業が健全に運営されるようにする役割を果たします。特に、社外取締役の活用は近年注目を集めており、外部の視点を取り入れることで透明性を高めることが期待されています。
監査役および監査役会
監査役は、取締役や執行役員の業務が適切に行われているかを監視します。不正やミスを未然に防ぐとともに、企業の信用性を高める役割を担います。
また、最近では「指名委員会等設置会社」や「監査等委員会設置会社」といった形態も広がり、企業規模や業態に応じた柔軟なガバナンス体制の整備が進んでいます。
コーポレートガバナンス
は、企業の持続的成長や信頼性向上のために不可欠な要素です。不祥事の防止やステークホルダーとの信頼関係の構築、企業価値の最大化を目指すためには、ガバナンスの適切な整備が欠かせません。経営者や企業関係者は、単なる規則としてではなく、ガバナンスを企業文化として根付かせることが求められています。今後も、コーポレートガバナンスの役割と重要性はさらに高まっていくでしょう。
組織におけるガバナンスの重要性

組織における「ガバナンス」とは、組織の意思決定や行動を適正に管理し、目標達成に向けて一貫性を持たせる仕組みです。特に企業組織においては、「ガバナンス」は組織が健全で持続的に運営されるための基盤であり、効率的な経営や信頼性の確保に欠かせない要素です。
ここでは、組織におけるガバナンスがどのように重要であるかを、複数の視点から解説します。
1.ガバナンスが組織にもたらす役割
組織におけるガバナンスの主な役割は以下の通りです。
1.意思決定の透明性と公平性を確保する
ガバナンスの基本的な役割の一つは、意思決定の手順を明確化し、不正や偏りを防ぐことです。経営陣やリーダーが個人的な利益や感情に基づいて決定を下すのではなく、組織全体や利害関係者の利益を考慮した意思決定が行われることを保証します。
2.リスクの軽減と予防
適切なガバナンスは、組織が直面する可能性のあるリスクを事前に特定し、必要な対策を講じる役割を果たします。たとえば、不正会計やコンプライアンス違反といった重大な問題を未然に防ぐための監視体制がガバナンスによって整備されます。
3.ステークホルダーとの信頼関係の構築
ガバナンスがしっかりしている組織は、株主、従業員、取引先、顧客など、すべてのステークホルダーから信頼を得やすくなります。これは、透明性が確保された組織運営によって「信頼できる組織」と認識されるためです。
4.長期的な成長を支える
短期的な利益を追求するだけでなく、持続可能な成長を目指すための仕組みを整備するのもガバナンスの役割です。これにより、組織は環境や社会、経済に配慮したバランスの取れた経営を実現することができます。
また、人事制度の透明性や適切な人材配置も、長期的な組織成長に欠かせません。公正な人事評価やリーダー育成の仕組みを整えることで、組織の持続的な発展を支えることができます。
2.ガバナンスが求められる背景
ガバナンスが重要視されるようになった背景には、過去の不祥事や環境の変化があります。
1.不祥事による教訓
組織内部での不正行為やガバナンスの欠如が原因で、信頼を失った企業の事例は少なくありません。たとえば、粉飾決算や情報隠蔽が発覚した企業は、社会的信用を失い、事業継続が困難になることがあります。
2.経営環境の複雑化
グローバル化やデジタル化の進展により、企業が直面する環境はかつてないほど複雑になっています。多様なステークホルダーの利益を調整しつつ、変化に柔軟に対応するためには、適切なガバナンスが必要です。
3.社会的責任の重視
ESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)といった概念が注目される中で、組織が果たすべき社会的責任が高まっています。これに応じる形で、透明で責任ある運営を実現するためにガバナンスが求められています。
ESG | 企業が環境保護や社会的課題への対応、適切なガバナンス(企業統治)を通じて持続可能な成長を目指すための枠組み。 |
SDGs | 国連が定めた2030年までに達成すべき17の目標であり、貧困や気候変動、ジェンダー平等など、地球規模の課題解決を目指す。 |
3.ガバナンスの文化を組織に根付かせる
単なる規則や仕組みの整備だけでは、ガバナンスを十分に機能させることはできません。ガバナンスを組織文化として根付かせるためには、リーダーシップが重要です。経営層が率先して透明性や責任ある行動を示し、従業員一人ひとりがその価値観を共有することで、初めて強固なガバナンスが実現します。
特に、人事部門はガバナンスの浸透において重要な役割を担います。適切な採用基準や人材育成を通じて、組織の価値観を明確にし、ガバナンスを支える人材を育てることが求められます。
組織におけるガバナンスは、単なる「ルール作り」や「監視体制の整備」に留まらず、組織全体を適正に運営するための基盤です。適切なガバナンスがあることで、組織はリスクを軽減し、信頼を獲得しながら持続的に成長することができます。そのため、ガバナンスを「運用する仕組み」ではなく「文化」として捉え、組織全体で浸透させることが重要です。
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ガバナンスの具体的な施策

コーポレートガバナンスを実現するためには、具体的かつ実効性のある施策を組織内で整備し、実践することが不可欠です。
ここでは、ガバナンスを機能させるために企業や組織が取り組むべき主な施策を以下のように整理して紹介します。
1.取締役会の適切な運営と構成
取締役会はガバナンスの中核を担う存在です。施策として以下の取り組みが挙げられます。
独立性の確保
外部取締役を積極的に起用することで、経営陣の意思決定が偏らないようにします。これにより、経営監視機能が強化され、透明性が高まります。
多様性の推進
性別、年齢、国籍、専門分野が異なるメンバーを取締役に加えることで、多角的な視点を経営に取り入れることができます。
定期的な評価
取締役会の運営状況を定期的に評価し、その改善点を洗い出して次に活かす仕組みを整備します。
2.内部統制システムの構築
内部統制とは、組織内での業務を適切かつ効率的に進めるための管理体制です。これに関する施策は次の通りです。
規程類の整備
業務の進め方や手順をルールとして分かりやすくまとめ、社員全体に伝えます。これにより、仕事のやり方が統一され、誰にとっても分かりやすい仕組みが整います。
監査部門の強化
内部監査部門を設けて、業務が規程通りに進められているかを定期的に確認し、問題があれば迅速に是正します。
内部通報制度の導入
不正や非倫理的行動が発生した場合に、従業員が匿名で報告できる仕組みを整備し、問題の早期発見を可能にします。
3.リスク管理体制の強化
ガバナンスにはリスクマネジメントが不可欠です。次のような施策を導入することで、リスクに強い組織を作ることができます。
リスクアセスメントの実施
組織が直面しうるリスクを洗い出し、それぞれのリスクに対する影響度や発生可能性を評価します。
リスク対応計画の策定
リスクが実際に起きたときにどう対応するかを事前に考え、具体的な行動計画を準備します。
災害対策の準備
天災やサイバー攻撃といった非常時に備えて、業務継続計画(BCP: Business Continuity Plan)を策定し、定期的に訓練を行います。
4.コンプライアンスの徹底
法令や規則を守るコンプライアンスの遵守は、ガバナンスにおいて基本中の基本です。これに関連する施策は以下の通りです。
コンプライアンス教育の実施
全従業員を対象にした教育を実施し、法令遵守や倫理的行動の重要性を浸透させます。
コンプライアンスチェックリストの導入
事業活動や仕事の進め方が法律や社内のルールに違反していないかを、定期的に確認する仕組みを整えます。
外部専門家との連携
弁護士やコンサルタントなどの専門家と連携し、法令改正や社会の変化に迅速に対応できる体制を整備します。
5.透明性の高い情報開示
組織が外部に対して誠実かつ適切に情報を開示することは、信頼性の向上につながります。次の施策が重要です。
定期的な財務報告
正確な財務データを適切なタイミングで開示し、株主や投資家に対して説明責任を果たします。
非財務情報の公開
ESGやSDGsへの取り組み状況など、財務以外の情報も公開し、ステークホルダーとの信頼関係を構築します。
双方向のコミュニケーション
株主総会や説明会を通じて、投資家やステークホルダーと直接意見を交換する機会を設けます。
6.デジタル技術の活用
ガバナンスを強化するために、デジタルツールを活用する企業が増えています。
データ管理システムの導入
仕事の進め方をデジタル化し、データをまとめて管理することで、業務の見える化を進め、効率を高めます。
AIによるリスク検知
AI技術を活用して、不正の兆候やリスクの早期発見を可能にします。
オンラインプラットフォームの活用
取締役会や内部監査をオンラインで行うことで、地理的な制約を超えて迅速な意思決定が可能となります。
ガバナンスを効果的に機能させるためには、具体的な施策を適切に計画し、実行することが求められます。これらの施策は、組織の透明性や効率性を向上させるだけでなく、ステークホルダーからの信頼を獲得し、持続可能な成長を支える基盤となります。
企業の規模や業界によって施策の具体的内容は異なりますが、基本的な取り組みを怠ることなく、変化する社会環境に対応した柔軟なガバナンスを実現することが重要です。
遵守すべき「ガバナンスコード」とは

コーポレートガバナンスを語る上で欠かせないのが、「ガバナンスコード」の存在です。ガバナンスコードは、企業が健全で透明性の高い経営を行うための原則や指針を示したルールのことを指します。これは、企業が株主やステークホルダーに対して責任を果たすだけでなく、持続可能な成長を目指すための指針としても機能します。
ここでは、ガバナンスコードの概要や、その重要性、そして企業が遵守すべき具体的なポイントについて解説します。
ガバナンスコードとは?
ガバナンスコードは、企業統治を強化する目的で策定される一連の規範や指針です。これらは法律で定められた義務とは異なり、企業の自主的な取り組みを促すために設定されるものです。ただし、近年ではその遵守が株主や市場から強く求められており、事実上の「ルール」として認識されつつあります。
日本においては、金融庁と東京証券取引所が2015年に「コーポレートガバナンス・コード」を初めて公表しました。このコードは、上場企業が企業統治を強化し、中長期的な企業価値の向上を目指すための指針を提供するものです。その後、経済や社会の変化に伴い、2021年には改訂が行われ、持続可能な成長(サステナビリティ)や多様性への対応がより強調されました。
ガバナンスコードの目的
ガバナンスコードの目的は、株主やその他のステークホルダーとの信頼関係を構築し、企業価値を長期的に向上させることです。そのため、以下のような企業経営の基本的な規範が重視されています。
1.透明性の向上
企業の意思決定の進め方や業務の進行方法を透明にし、利害関係者に対して公正で信頼できる情報を提供すること。
2.説明責任(アカウンタビリティ)
株主やステークホルダーに対して、経営方針や成果について明確に説明する責任を果たすこと。
3.監視体制の強化
取締役会や監査役が経営陣を適切に監視し、不正やリスクを未然に防ぐ仕組みを構築すること。
4.ステークホルダーの利益の保護
株主だけでなく、従業員、顧客、取引先、地域社会といった多様なステークホルダーの利益を考慮すること。
コーポレートガバナンス・コードの基本原則
企業が持続可能な成長を遂げるためには、健全な経営体制を確立し、株主やステークホルダーの信頼を得ることが欠かせません。日本のコーポレートガバナンス・コードでは、そのための基本原則として、以下の重要な要素が掲げられています。
1.株主の権利・平等性の確保
株主は企業の所有者であり、企業に対して正当な権利を有しています。特に少数株主を含めた全ての株主が公平に扱われることが求められます。この原則では以下が重視されます。
株主総会での議決権行使の支援
株主が必要な情報を得て、自らの意思を適切に表明できるよう、情報提供や議決権行使の手続きが整備されていること。
配当政策の透明性
利益の適正な分配や、株主への還元に関する方針の明確化。
少数株主の保護
特に大株主や支配株主による不当な影響力を防ぎ、公平性を担保する姿勢が必要です。
2.株主以外のステークホルダーとの適切な協働
企業は、株主だけでなく、従業員、顧客、取引先、地域社会、環境など多様なステークホルダーに対して責任を持ちます。これにより、社会全体における持続可能な発展を目指すことが求められます。具体的には以下が挙げられます。
従業員との協働
働きやすい職場環境の整備や、多様性・包摂性の推進。
顧客や取引先との関係
安全で高品質な製品やサービスの提供、公正な取引慣行の確立。
地域社会への貢献
地域コミュニティとの連携や社会貢献活動の推進。
環境問題への対応
脱炭素化や循環型経済の実現に向けた取り組み。
3.適切な情報開示と透明性の確保
投資家やステークホルダーが企業を正しく理解するためには、正確かつ適切なタイミングで情報を開示することが不可欠です。情報開示は、単に義務を果たすだけでなく、企業に対する信頼を築き、持続的な関係を構築するための重要な手段です。特に以下が重要です。
財務情報の適切な開示
会計基準に基づいた信頼性のある財務報告。
非財務情報の開示
企業のサステナビリティやESG(環境・社会・ガバナンス)に関する情報の発信。特に、環境負荷削減や労働環境の改善に関する情報が求められます。
リスク情報の開示
経営リスクや危機管理に関する透明な説明。
4.取締役会等の責務
取締役会は企業の経営方針を策定し、業務執行を監督する重要な役割を担っています。この原則では、以下の点が求められます。
外部取締役の導入
独立した視点で経営を監視し、企業の透明性と公平性を高める役割を果たします。
取締役会の多様性
ジェンダーや国籍、専門性の多様性を取り入れることで、経営の質を向上させる。
監督機能の強化
業務執行と監督の明確な分離や、コンプライアンス遵守のための体制整備。
中長期的な視点の重視
短期的な利益にとらわれず、企業の持続的成長を見据えた意思決定。
5.株主との対話
企業は、株主との建設的な対話を通じて、持続可能な成長を目指すべきです。具体的には以下の取り組みが含まれます。
IR活動の充実
投資家向け説明会やレポートを通じた定期的な情報提供。
株主の声を経営に反映
株主から寄せられる意見や提案を、経営方針や戦略に反映する仕組みづくり。
透明性の確保
経営戦略や方針を明確にし、株主との信頼関係を築く努力。
遵守すべき理由
ガバナンスコードは、企業が持続可能な成長を遂げるための経営の基本規範ともいえるものです。その遵守は、単なる形式的な義務ではなく、透明性や説明責任を果たし、ステークホルダーとの信頼関係を築くための本質的な努力を意味します。
ガバナンスコードを遵守することは、企業にとって次のようなメリットをもたらします。
1.信頼性の向上
ガバナンスコードを遵守する企業は、投資家や取引先からの信頼を得やすくなります。これにより、資金調達や取引の機会が拡大します。
2.リスク管理の強化
ガバナンス体制を整備することで、内部統制が強化され、不正やトラブルを未然に防ぐことができます。
3.競争力の向上
サステナビリティや多様性に配慮した経営は、社会的評価を高めるだけでなく、優秀な人材の獲得にも繋がります。
4.持続可能な成長の実現
短期的な利益追求ではなく、長期的な視点で経営を行う基盤が整い、企業の持続可能な成長が可能になります。
ガバナンスコードを遵守しない場合のリスク
一方で、ガバナンスコードを軽視する企業には、以下のようなリスクが伴います。
投資家の信頼喪失
ガバナンス体制が不十分な企業は、株主や投資家からの信頼を失い、株価の下落や資金調達の困難に直結します。
法的問題の発生
ガバナンスの欠如が不正行為や重大なコンプライアンス違反に繋がり、法的責任を問われる可能性があります。
ブランドイメージの低下
ステークホルダーとの信頼関係が損なわれ、社会的評価やブランドイメージが大きく毀損される恐れがあります。
ガバナンスコードは、企業の健全な経営を支える重要な指針です。その遵守は、単なる形式的な取り組みではなく、透明性や説明責任を果たし、ステークホルダーとの信頼関係を築くための本質的な努力を意味します。持続可能な成長を実現するためには、経営陣がこのコードの意義を深く理解し、全社的な取り組みとして推進することが求められます。
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ガバナンスとリスクマネジメントの関係性

現代の企業経営において、ガバナンスとリスクマネジメントは、持続可能な成長を支える2つの重要な要素です。これらはそれぞれ異なる目的や役割を持ちながらも、互いに密接に関連しています。
ここでは、ガバナンスとリスクマネジメントの関係性について詳しく解説します。
1.ガバナンスとリスクマネジメントの基本的な役割
「コーポレートガバナンスとは」の節でも述べたように、コーポレートガバナンスとは、企業が適切に統治され、株主やステークホルダーの利益が守られるようにする仕組みです。企業の経営方針を策定し、意思決定の透明性や公正性を確保しながら、持続的な成長を目指すための枠組みを提供します。
一方、リスクマネジメントとは、企業が直面する可能性のあるリスクを見つけ出し、その内容を評価したうえで、被害を最小限に抑えたり適切に対応したりするための一連の取り組みです。経済的リスク、法的リスク、環境リスクなど、様々な分野にわたる課題を予測し、対応することで、企業の安定性を確保します。
ガバナンスが企業全体の「仕組み作り」であるのに対し、リスクマネジメントはその仕組みの中で「個別のリスク対応」を具体的に行う役割を担います。
2.ガバナンスがリスクマネジメントを支える仕組み
コーポレートガバナンスは、リスクマネジメントの実効性を高める土台として機能します。以下はその具体例です。
リスク対応方針の策定
取締役会や経営陣は、企業がどのようにリスクに対応するかを定めた方針を策定します。この方針は、企業全体に共有され、従業員が一貫した行動を取るための指針となります。
内部統制の整備
内部統制システムは、業務遂行が適切に行われることを保証し、不正やエラーの発生を防ぐ役割を果たします。これはリスクマネジメントの基盤となり、リスクを未然に防ぐ仕組みです。
リスク管理の監視機能
コーポレートガバナンスの一環として設置される監査委員会や外部取締役は、リスクマネジメントの有効性を監視し、経営陣に対する牽制機能を果たします。
3.リスクマネジメントがガバナンスに与える影響
一方で、リスクマネジメントの充実は、ガバナンスの実効性を高める要素となります。効果的なリスクマネジメントが実施されることで、以下のようなメリットが生まれます。
経営の透明性向上
リスクマネジメントによって経営リスクが適切に把握されると、株主やステークホルダーに対する情報開示がより正確かつ透明になります。これにより、企業の信頼性が向上します。
意思決定の質の向上
リスク評価を踏まえた意思決定が行われることで、経営陣の判断がより合理的で持続可能なものとなります。
企業価値の保全
突発的なリスク(不祥事、自然災害、サイバー攻撃など)への備えが強化されることで、企業価値の毀損を防ぎ、長期的な利益を確保できます。
4.ガバナンスとリスクマネジメントの連携事例
具体的な事例を挙げると、以下のようなケースでガバナンスとリスクマネジメントが連携しています。
不祥事防止
企業が内部統制システムを整備し、コンプライアンス研修を実施することは、ガバナンスの一環として行われます。同時に、不正リスクを低減するリスクマネジメントの施策とも言えます。
サイバーセキュリティ対応
取締役会がサイバー攻撃への対応を経営課題として位置づけ、セキュリティポリシーの策定や予算配分を行うのはガバナンスの役割です。一方で、IT部門がセキュリティ対策を実行し、攻撃を未然に防ぐ具体的な活動はリスクマネジメントに該当します。
災害リスク管理
ガバナンスの視点では、災害リスクを経営課題と位置づけ、事業継続計画(BCP)を策定します。その計画をもとに、具体的な災害訓練や資源確保を行うのがリスクマネジメントの役割です。
5.ガバナンスとリスクマネジメントを強化するためのポイント
両者を効果的に連携させるためには、以下のようなポイントが重要です。
取締役会の役割強化
リスク管理を経営課題として積極的に取り上げることで、ガバナンスの視点からリスクマネジメントを支援します。
専門部門の設置
リスクマネジメント専門の部門や、リスクを管理する役員を配置し、経営陣との連携を密にすることで、リスクへの対応力を高めます。
データ活用の推進
リスクの早期発見や管理にはデータ分析が不可欠です。特にデジタルツールやAIを活用することで、リスク対応のスピードと精度が向上します。
従業員教育の徹底
ガバナンスとリスクマネジメントの取り組みを全社員が理解し、現場レベルで実践できるよう、教育・研修を行うことが求められます。
ガバナンスとリスクマネジメントは、企業が持続的に成長し、競争力を維持するために欠かせない要素です。ガバナンスが企業の統治体制を整える枠組みであるのに対し、リスクマネジメントはその中で具体的なリスクに対応する役割を果たします。
この2つが連携することで、企業はより強固な経営基盤を築き、外部環境の変化や予測不能なリスクに対しても柔軟に対応できるようになります。
持続可能な経営の実現には、ガバナンスとリスクマネジメントを一体的に捉え、それぞれの役割を最大限に活用することが不可欠です。
ガバナンスと混同されやすいワード

「ガバナンス」という言葉は企業や組織運営の文脈で頻繁に使われますが、同時に他の関連概念と混同されやすい特徴があります。特に「コンプライアンス」「内部監査」「内部統制」「組織マネジメント」「リスクマネジメント」などの言葉は、ガバナンスと密接に関係していますが、それぞれ異なる役割を持っています。
本記事では、これらの用語とガバナンスとの違いについて詳しく解説します。
1.コンプライアンス(法令遵守)
コンプライアンスとは、企業が法令や規則、社会的倫理を守りながら事業を運営することを指します。具体的には、労働基準法の遵守、環境規制への対応、取引における不正防止などが含まれます。
ガバナンスは、企業の全体的な経営管理や統治の枠組みを指します。一方、コンプライアンスはその枠組みの中で、法令や倫理を守るための基盤的な要素です。コンプライアンスが欠けると、ガバナンス全体の信頼性が失われるため、ガバナンスを支える重要な一部といえます。
例
企業が取締役会でコンプライアンス違反の報告を受け、それに対する改善策を指示するのは、ガバナンスの役割。一方で、現場で従業員がコンプライアンス研修を受けるのは、法令遵守を実現するための具体的な取り組みです。
2.内部監査
内部監査とは、企業が行う業務が正しく効率的に進められているかを確認し、必要な改善点を指摘する仕組みです。主に、社内の手続きや活動内容を評価し、リスク管理や法令遵守がしっかりと実施されているかをチェックします。
ガバナンスは組織全体を監督する仕組みであり、内部監査はその一部として機能します。内部監査は、ガバナンスが意図した方針や制度が正しく運用されているかをチェックする役割を担います
例
取締役会がリスク管理方針を策定するのはガバナンスの一環です。その後、内部監査がその方針に沿った実行状況を確認し、不備があれば是正を提言するという流れで、両者は補完的に機能します。
3.内部統制
内部統制とは、業務の効率化、不正防止、財務報告の正確性確保などを目的として、企業内部で定められたルールや手続きの仕組みを指します。具体的には、役割分担を明確にしたり、誰がどの段階で承認するかを定めた流れを設けたりすることが含まれます。
内部統制は、ガバナンスを実現するための実務的な仕組みの一部です。ガバナンスが企業全体の統治システムを指すのに対し、内部統制はその中で具体的な業務の管理・運用をサポートします。
例
取締役会が「不正防止のための体制整備」を決定するのはガバナンスの役割です。それを具体化するために、「全ての支出には2名以上の承認が必要」という内部統制のルールが設けられます。
4.組織マネジメント
組織マネジメントとは、組織全体を効率的かつ効果的に運営するための管理手法を指します。目標設定、人材育成、資源配分、業績評価など、組織のパフォーマンスを最大化するための取り組みが含まれます。
ガバナンスは主に統治や監視に焦点を当てる一方、組織マネジメントは目標達成のための具体的な活動やリーダーシップに重きを置きます。両者は補完的な関係にあり、ガバナンスが作り上げた枠組みの中で、組織マネジメントが実行されます。
例
取締役会が全社的な目標を策定し、達成に向けた方針を示すのはガバナンスです。その方針を具体化し、各部門に展開して実行するのは組織マネジメントの役割です。
5.リスクマネジメント
リスクマネジメントとは、企業が直面する可能性のあるリスクを特定・評価し、それらを最小限に抑えるための取り組みです。自然災害、法的リスク、サイバー攻撃など、多様なリスクに対応することが求められます。
リスクマネジメントは、ガバナンスの枠組みの中で具体的なリスクへの対応を担います。ガバナンスがリスク管理方針を決定し、全体の監視体制を整えるのに対し、リスクマネジメントはリスクに対する実践的な対応を行います
例
ガバナンスの役割として、取締役会が「自然災害への事業継続計画(BCP)」を策定します。その計画に基づき、災害時の対応訓練や予防策を実施するのがリスクマネジメントの具体的な行動です。
「ガバナンス」と関連用語は互いに補完し合いながら、企業の持続可能な成長を支えています。
コンプライアンス ガバナンスの基盤となる法令遵守の姿勢を示す。 内部監査 ガバナンスの実効性を確認する役割を果たす。 内部統制 ガバナンスの方針を具体化したルールや仕組み。 組織マネジメント ガバナンスの下で実行される管理活動。 リスクマネジメント ガバナンスの枠組みの中でリスク対応を具体化する取り組み。 これらを正しく理解し、適切に運用することで、企業は外部環境の変化に柔軟に対応し、持続可能な発展を目指すことができます。
ガバナンスの重要性を再認識するために
ガバナンスは、企業や組織の持続的な成長と信頼の基盤を築くために欠かせない要素です。本コラムを通じて、コーポレートガバナンスの基本から、具体的な施策、ガバナンスコードの重要性、そしてリスクマネジメントとの関係性まで、多角的に解説しました。また、混同されやすいワードとの違いを明確にすることで、ガバナンスをより深く理解する一助となれば幸いです。
現代のビジネス環境では、ガバナンスは単なる「管理」の枠を超え、企業価値を高めるための「戦略的なフレームワーク」として機能するべきものです。特に、中堅・中小企業においては、使える人材や資金、時間が限られているからこそ、明確なガバナンス体制の整備が競争力を維持するカギとなります。
最後に、ガバナンスは「完成」するものではなく、時代の変化や社会的要請に合わせて進化し続けるものであることを強調したいと思います。これを機に、自組織におけるガバナンスの在り方を見直し、より透明性と信頼性の高い組織づくりを目指していただければと願っています。
監修者

- 株式会社秀實社 代表取締役
- 2010年、株式会社秀實社を設立。創業時より組織人事コンサルティング事業を手掛け、クライアントの中には、コンサルティング支援を始めて3年後に米国のナスダック市場へ上場を果たした企業もある。2012年「未来の百年企業」を発足し、経済情報誌「未来企業通信」を監修。2013年「次代の日本を担う人財」の育成を目的として、次代人財養成塾One-Willを開講し、産経新聞社と共に3500名の塾生を指導する。現在は、全国の中堅、中小企業の経営課題の解決に従事しているが、課題要因は戦略人事の機能を持ち合わせていないことと判断し、人事部の機能を担うコンサルティングサービスの提供を強化している。「仕事の教科書(KADOKAWA)」他5冊を出版。コンサルティング支援先企業の内18社が、株式公開を果たす。
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