KPIマネジメントの基本から目標設定、進捗管理、達成までの一連の流れ(=プロセス)を丁寧に解説した記事です。中小企業の成功事例を交えながら、成果を生み出す実践的なマネジメント手法をご紹介します。KPIを“組織を動かす仕組み”として活用するためのヒントが詰まっています。
企業の目標達成において、KPIマネジメントは欠かせない要素です。
本記事では、KPIマネジメントの重要性や導入の背景、必要性に加え、具体的な設定方法やよくある失敗例、運用時のポイントまでを詳しく解説します。
特に中小企業の経営者や人事担当者にとって実践的なヒントとなるよう、実際の中小企業の成功事例を交えながら、現場で活かせる具体的な取り組み方法をご紹介します。ぜひご参考ください。
Contents
KPIマネジメントはなぜ重要か

~組織の方向性と成果を一致させる経営の中核~
KPI(重要業績評価指標)は、組織が目指す「企業として実現したい将来像=ビジョン」や「戦略」を、「現場での行動」へと落とし込むための橋渡しです。KPIをマネジメントすることは、単なる数字の追跡ではなく、社員の動きを経営目標にリンクさせ、組織全体の生産性を高める戦略的な取り組みです。
本記事では、KPIマネジメントの重要性を4つの観点から解説します。
1.組織全体の「目的地」を明確にする
KPIマネジメントの最大の意義は、「全員が同じ方向に向かって進む」状態をつくることです。
中小企業A社では、「売上〇千万円の達成」という経営目標を、営業部は「月間契約件数」、マーケティング部は「新規リード獲得数(資料請求や問い合わせなど、見込み顧客の情報を得た件数)」といったKPIに分解。これにより、部門を超えて共通の意識が自然と生まれ、組織全体に一体感が生まれました。
経営者にとっては、目標が抽象的なままでは組織は動きません。KPIを通じて「目標を数値化・共有」することが、経営の第一歩になります。
2.パフォーマンスを可視化し、適切に評価する
KPIは、組織や個人の業務の進捗を「数値」で把握できる仕組みです。
たとえば、B社では製造部門のKPIとして「日当たり生産数」「不良率」を設定し、週次でモニタリングを実施。問題の兆候を早期に発見し、対策を講じるサイクルが確立されています。
このように、KPIマネジメントは単なる“監視”ではなく、成果を正しく評価し、迅速な意思決定を促すためのツールです。
3.継続的な改善を生み出す
KPIは、現場が「何をどう改善すべきか」を明らかにします。
たとえば、中小企業C社は「顧客満足度」をKPIに設定し、定期的なアンケートを実施。その分析を通じて、サポート対応や商品説明の改善点を明確化し、サービス品質の底上げにつなげました。
改善のヒントは、現場の中にあります。KPIマネジメントを軸に据えることで、現場主導の改善サイクルが定着しやすくなります。
4.社員のモチベーションを高める
KPIは、単なる「目標」ではなく、努力が報われる仕組みにもなり得ます。
中小企業D社では、KPI達成に応じてインセンティブ(成果に応じた報奨金や特別手当)を支給する仕組みを導入。営業チームの月間目標達成率が85%から98%へと大幅に改善されました。
また、KPIは「自分の役割が、組織全体の成果とつながっている」と実感できる要素でもあります。この“納得感”が、社員のエンゲージメント(仕事への意欲や組織への貢献意識)向上につながります。
補足:KPIマネジメントにおけるリーダーシップの重要性
KPIを正しく機能させるには、リーダーの関与と発信が欠かせません。特に中小企業では、現場との距離が近い分、トップの言葉がKPIの価値を左右します。
- ビジョンと数値目標をつなげて語る
- KPIの背景や意図をチームに伝える
- 成果に対して適切にフィードバックを行う
これらの行動を通じて、KPIは「会社から課された数字」ではなく、「自分たちの成功指標」へと転換されていきます。
KPIマネジメントは、組織経営の土台
KPIマネジメントは、単なる評価制度ではなく、経営の意思を現場に浸透させる強力なマネジメント手法です。
経営者自身がその意義を理解し、各部門に応じたKPIを設計・共有・運用することで、組織は一丸となって目標達成に向かって進んでいきます。
KPIマネジメントが重要視される背景

~変化の激しい時代にこそ求められる「数値で動かす組織」~
2024年現在、KPIマネジメントが注目されているのは偶然ではありません。時代の変化とともに、組織の運営にも「見える指標での管理」が求められるようになってきました。特に中小企業においては、限られた人員や資源で成果を上げるために、「的を絞ったマネジメント」が企業力の差を生む時代となっています。
以下では、その背景となる4つの環境変化を解説します。
1.グローバル競争の激化
企業を取り巻く競争環境は、もはや国内だけではありません。大手企業に限らず、中小企業も海外の競合他社との競争を意識する必要が出てきています。こうした環境下では、感覚ではなくデータに基づいた判断と行動が不可欠です。
たとえば、中小企業E社では、海外展開を視野に入れ、現地での自社製品やサービスの占有率(=どれだけ選ばれているか)をKPIとして設定。これにより、曖昧だった「進出の成果」が明確な数値で可視化され、経営判断のスピードが上がりました。
2.テクノロジーの進化
デジタルツールやクラウドサービスの普及により、誰でも簡単にデータを集めて可視化できる時代になりました。KPIマネジメントは、こうした技術の恩恵を最大限に活用できるフレームワークです。
中小企業F社では、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールを導入。販売データや顧客動向をリアルタイムで分析し、「どの商品をどの層にいつ売るか」をKPIに反映。売上が伸び悩んでいる原因を素早く特定し、対応できるようになりました。
3.働き方の多様化
テレワーク、フレックスタイム、副業容認など、働き方は多様化しています。こうした環境では、管理職が「部下の様子を見て評価する」従来の方法が通用しにくくなっています。そこで役立つのがKPIです。業務成果を数値で捉えることで、場所や時間に縛られずに評価が可能になります。
中小企業G社では、リモート勤務者の業務生産性をKPI化。業務の進捗が「見える化」されたことで、管理者の評価精度が高まり、部下との信頼関係強化にもつながっています。
4.エンゲージメント向上の必要性
社員の働きがいや会社への貢献意識(エンゲージメント)は、企業成長の土台です。そのエンゲージメントを高める鍵が「役割と期待値の明確化」です。KPIを通じて「自分に何が求められているのか」が明確になると、社員は自らの行動に自信と意味を見いだせるようになります。
中小企業H社では、社員の将来的な役割や立場(たとえば管理職や専門職など)を見据えた成長計画に基づいてKPIを設定。目標に向かって段階的に評価される仕組みにより、社内に前向きな成長意識が根付きました。
変化に対応する「仕組み」としてのKPIマネジメント
激しく変化する時代において、勘や経験だけに頼った経営には限界があります。KPIマネジメントは、数字を軸に、組織全体を「見える化」「納得化」「機動化」する経営の羅針盤です。
中小企業こそ、早い段階でKPIマネジメントの仕組みを取り入れることで、少数精鋭でも成果を出せる強い組織を築くことができます。
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KPIマネジメントはなぜ必要か

~全社のリソースと意志を“成果”に集中させる仕組み~
KPIマネジメントは、単に数値目標を掲げる手法ではありません。ここで言う「リソース」とは、企業が持つ時間・人材・資金などの経営資源のこと。KPIマネジメントは、それらを最大限に活かし、成果を上げるための経営の指針となる仕組みです。
ここでは、その必要性を4つの観点から解説します。
1.戦略を具体化し、社員と共有する
KPIは、経営戦略を現場に落とし込むためのツールです。組織の方向性を数値で明示することで、社員一人ひとりの行動がバラバラにならず、全社一丸で「戦う組織」をつくることができます。
たとえば中小企業I社では、新製品の市場シェア拡大を目指す中で、「初年度売上2,000万円」をKPIとして設定。全社員が共通目標に向かって動けるようになり、営業・開発・マーケティングが連携強化に成功しました。
2.リソースを集中させ、無駄を省く
KPIは「何に注力すべきか」を明らかにする指標でもあります。感覚や経験に頼るのではなく、数字を根拠にした判断が可能になるため、リソースの集中と選択がしやすくなります。
中小企業J社では、各マーケティング施策のROI(費用対効果)をKPIとして設定。効果の高い施策に人員と予算を集中させ、販促効果を2倍に引き上げました。
3.迅速な意思決定と問題解決を促す
KPIは、業務の状況をリアルタイムで把握できる“ダッシュボード”のような役割を果たします。何が、どこで、どれだけ遅れているのかが明確になるため、スピーディに手を打つことが可能です。
たとえば中小企業K社では、不良品率をKPIとして設定。数値が基準を超えた場合、即座に原因分析と改善が行われる体制を構築。これにより、製品クレーム件数を半年で40%削減しました。
4.継続的な改善と成長につながる
KPIマネジメントは「一度設定して終わり」ではなく、評価と改善のサイクルを回すための仕組みです。目標→実行→振り返り→改善という流れを継続することで、組織全体のパフォーマンスは着実に高まっていきます。
中小企業L社では、顧客満足度をKPIとし、四半期ごとにアンケートを実施。結果を分析し、商品説明や接客の手順、対応の流れを改善した結果、リピート率が25%向上しました。
KPIマネジメントは“仕組みで成果を生む”ための必須条件
ビジョンや戦略を持っていても、現場で実行されなければ意味がありません。KPIは、戦略を具体化し、社員と結びつけ、成果に変える仕組みです。
特に変化の激しい時代では、感覚ではなくデータに基づく「動かすマネジメント」が企業の成長を左右します。中小企業こそ、早期にKPIマネジメントを導入することが、未来への投資になるといえるでしょう。
マネジメントを意識したKPIの設定方法

~行動につながる“意味のある目標”をどう作るか~
KPIを設定する際、「とりあえず数値を決める」だけでは、組織は動きません。KPIはマネジメントの“軸”となるものだからこそ、戦略と現場、経営と行動をつなぐ設計力が求められます。
ここでいうKPIの“Key”とは、数ある業務指標の中でも特に成果に直結する「要(かなめ)」を指します。そのため、KPI設計では何を最も重視すべきか、つまり「Keyは何か」を見極める目が必要です。
ここでは、効果的なKPIを設計する4つの原則をご紹介します。
1.SMARTの原則に基づく設計
KPIを設計するうえでまず意識したいのが「SMARTの原則」です。これは、次の5つの要素の頭文字を取ったフレームワークです。
S:Specific(具体的) | 曖昧な表現ではなく、「誰が」「何を」「どのように」達成するのかが明確であること。 例:中小企業M社では「来年度末までに売上を10%増加させる」といった具体的な数値を設定し、社員の行動が明確になりました。 |
M:Measurable(測定可能) | 目標が数値で測れること。進捗を“見える化”できることで、マネジメントの質が高まります。 例:中小企業N社では顧客満足度アンケートを四半期ごとに実施し、その結果をKPIとして評価に反映しています。 |
A:Achievable(達成可能) | 高すぎる目標は挫折につながります。やや努力が必要なくらいが、最もやる気を引き出します。 例:中小企業O社では、過去の実績と照らし合わせて適正な目標値を設定し、「頑張れば届く」範囲で設計しています。 |
R:Relevant(関連性がある) | そのKPIが企業の戦略や部門のミッション(=果たすべき役割や目的)に直結していること。個別最適にならないよう注意が必要です。 例:中小企業P社では、新市場への進出に向けて、現地シェアの拡大を主要KPIとして設定しています。 |
T:Time-bound(期限がある) | いつまでに達成するのか。期限があるからこそ、計画と進捗の管理が可能になります。 例:中小企業Q社では、KPIの期限を「年度末まで」と明確に設定し、計画的に行動できるようにしています。 |
2.組織全体の目標とつなげる
KPIは個人や部門の目標でありながら、組織全体の目標と整合していることが重要です。バラバラな方向を向いていては、いくら数値があっても意味がありません。
ここで大切なのが、KPIの“上位指標”としてKGI(重要目標達成指標)を明確にすることです。KGIは、企業が最終的に達成すべき成果を示すゴールであり、KPIはそのゴールに向かう途中の具体的な行動指標です。
例:
たとえば「全社売上10億円」というKGIがあるなら、それを支えるKPIとして、営業部には「契約件数」、マーケティング部には「新規リード数(=資料請求や問い合わせなど、将来的に顧客になり得る見込み客の件数)」を設定するといった具合です。中小企業R社では、このようにKGIから逆算して部門ごとのKPIを設計。進捗は月次で共有し、全体の達成度を把握しています。 |
3.現実的かつ挑戦的な目標を設定する
KPIには「背伸び感」が必要です。簡単すぎればやりがいがなく、高すぎれば諦める。最も成果が出やすいのは「ちょっと頑張れば届く」レベルです。
例:
中小企業S社では、前年実績を基に現実的な目標を設定しつつ、あえて5〜10%上乗せしてKPIを設計。社員のモチベーションと達成感の両立を実現しています。 |
4.定期的な見直しで“形骸化”を防ぐ
KPIは一度決めたら終わりではありません。環境変化や進捗状況に応じて見直し、更新することが重要です。
例:
中小企業T社では、四半期ごとに振り返りと見直しを実施。市場動向や社内事情を踏まえ、必要に応じて目標を調整することで、常に“今の組織に合ったKPI”を維持しています。 |
KPIは「数字」ではなく「動きを生む仕組み」
KPIの本質は、「管理する」ことではなく、「動かす」こと。
よく設計されたKPIは、社員の行動を変え、組織を同じ方向に動かし、成果へと導きます。
マネジメントにおいてKPIをどう設計するかは、企業の成長力そのものを左右する“戦略の技術”とも言えるでしょう。
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KPIマネジメントの失敗例

~“形だけのKPI”が組織の足を引っ張る~
KPIを導入しても成果が出ない企業には、共通した落とし穴があります。設定方法や運用のズレが、かえって組織の混乱や社員のモチベーション低下を招いているケースも少なくありません。
ここでは、よくある失敗パターンを5つ紹介し、その背景と教訓を整理します。
1.目標が曖昧で具体性に欠ける
「顧客満足度を高める」「売上を伸ばす」といった漠然とした目標では、社員が何をすればよいのかが不明確になり、行動に結びつきません。
失敗事例 | 中小企業U社では、具体性のない目標設定をしていた結果、現場ではゴールが見えず、社員のやる気も低下。業績も頭打ちになりました。 |
教訓 | 「来年度末までに顧客満足度スコアを10ポイント向上」など、測定可能な数値と期限を明示した目標に落とし込むことが重要です |
2.高すぎる目標で現場が疲弊する
「攻めの数字」を掲げたつもりが、実態に見合っておらず、かえって社員の意欲を奪ってしまうケースがあります。
失敗事例 | 中小企業V社では、前年度比150%の売上目標を設定。しかし、根拠や支援体制が不十分で、社員が早々に諦めムードに。結果、組織全体の達成意識が崩れました。 |
教訓 | 過去の実績や市場環境を踏まえた「頑張れば届く」目標水準が理想です。 |
3.フィードバックがないまま放置される
KPIは、ただ設定するだけでは不十分です。その後の進捗確認とフィードバックがあってこそ、マネジメントとして機能します。
失敗事例 | 中小企業W社では、KPIの進捗確認が年1回のみ。社員は「評価されていない」と感じ、主体的な改善行動が生まれませんでした。 |
教訓 | 最低でも月次・四半期での進捗状況を確認する機会や1on1での対話が必要です。 |
4.一貫性がない目標運用
経営側の方針転換やブレたメッセージにより、現場は「結局、何が重要なのか」が分からなくなってしまうこともあります。
失敗事例 | 中小企業X社では、年度途中でKPIが頻繁に変更され、現場は混乱。社員からは「どうせ変わるから意味がない」と不信感が広がりました。 |
教訓 | 方針の一貫性と、変更がある場合の納得感ある説明が、KPIを信頼される仕組みに変えます。 |
5.KPIの数が多すぎて混乱する
KPIを「できるだけ網羅的に」と多く設定しすぎると、現場は優先順位を見失い、何に注力すべきか分からなくなります。
失敗事例 | 中小企業Y社では、KPIが10項目以上設定され、現場では「結局、何が大事なのか分からない」と混乱。最も重要な売上や顧客対応に注力できず、成果が伴いませんでした。 |
教訓 | 本当に重要な3~5項目程度に絞り、「集中すべきこと」を明確に伝える設計が効果的です。 |
KPIは“制度”ではなく“習慣”である
KPIマネジメントの失敗は、制度設計よりも運用・浸透のプロセスに原因があることがほとんどです。
経営陣が「数字を動かす」のではなく、「人と組織を動かす」意識で取り組むことで、KPIははじめて機能します。
KPIマネジメントにおける中小企業の成功事例

~具体的な導入効果から学ぶ、“動くKPI”のつくり方~
KPIマネジメントは大企業だけのものではありません。中小企業でも、現場に即したKPIをうまく設計・運用することで、業績改善や組織力の向上を実現している事例が多数あります。ここでは、3社の具体事例を紹介します。
1.地域密着型の小売業が売上20%アップ
─ 中小企業FF社:売上拡大事例
地域に根ざした小売業を営む中小企業FF社では、売上拡大を目指して「月次売上」と「新規顧客数」をKPIとして設定。これらの数値を週単位でモニタリングし、販売スタッフ向けに継続的なトレーニングも実施しました。 現場が自分のKPIを日々意識しながら動ける仕組みを整えたことで、わずか半年で売上が前年比120%を記録するなど、確かな成果が現れました。 |
2. 製造業で稼働率10%アップ、不良率30%改善
─ 中小企業GG社:製造効率向上事例
精密機械部品を製造するGG社は、「生産ラインの稼働率」と「不良品率」をKPIとして設定。製造工程の見直し、自動化設備の導入、品質管理体制の強化をセットで推進しました。 結果として、稼働率は10%向上し、不良率は30%削減。KPIを基軸にしたマネジメントが、生産性向上とコストダウンの両立に貢献しました。 |
3. 顧客満足度スコア15ポイント向上
─ 中小企業HH社:サービス業の満足度改善事例
ITソリューションを手がけるHH社では、「顧客満足度スコア」をKPIとして設定。定期的にアンケートを実施し、顧客からのフィードバックを即座にサービス改善へ反映。同時に、顧客対応部門のスキルアップを図る研修も強化しました。 その結果、満足度スコアは15ポイント上昇し、リピート顧客比率も増加。KPIが“お客様の声”と直結した成功事例です。 |
KPIマネジメントを支えるツールと技術

~データを“見える化”し、組織を動かすために~
KPIマネジメントを効果的に実施するには、感覚や記憶に頼らず、現場の状況を正確に把握できるツールの活用が不可欠です。特に中小企業では、少人数で大きな成果を出すために、シンプルで効果的な仕組みが求められます。
1.BIツール(ビジネスインテリジェンス)
データ分析による意思決定の加速
TableauやPower BIなどのBIツールは、売上や顧客データをリアルタイムに可視化し、KPIの進捗管理を“見える化”します。
中小企業II社では、BIツールを活用して営業データを自動で集計。週次で目標達成率を確認し、早期の対策を打てる体制を整えました。
2.プロジェクト管理ツール
チームのタスクをKPIと紐づける
AsanaやTrello、JIRAなどを活用すれば、個々のタスクとKPIを連動させながら進捗管理が可能です。
中小企業JJ社では、Asanaを導入してチーム内の作業を可視化。KPIの達成度と日々の行動の因果関係を把握しやすくなりました。
3.クラウド型データ管理システム
リアルタイムでの情報共有と分析
Google CloudやAWSなどのクラウドシステムを使えば、各部門のデータを安全に一元管理できます。
中小企業KK社では、Google Cloudを活用してKPIに関するデータを即時共有。経営層と現場が同じ数字を見ながら議論できる体制が整いました。
4.CRM(顧客管理)ツール
顧客満足度や商談進捗をKPIで管理
SalesforceやHubSpotなどのCRMは、顧客対応の質をKPIで測定する上で不可欠です。
中小企業LL社では、Salesforceを導入し、「問合せ対応時間」や「解決率」をKPIとして運用。対応品質のばらつきを改善しました。
5.HRM(人事管理)システム
社員の成果と育成を可視化する
WorkdayやSAP SuccessFactorsなどのHRMシステムを使えば、KPIに基づく人材評価や育成が可能です。
中小企業MM社では、Workdayで社員のパフォーマンスデータを一元管理。KPIの達成状況に応じた報奨制度を運用し、モチベーション向上につなげています。
ツールはKPIを「動かす」ための手段
どんなに優れたKPIを設計しても、それが現場で活かされなければ意味がありません。
「見える」「わかる」「動ける」状態をつくるには、ツールや仕組みの導入が欠かせません。中小企業にとっても、シンプルで効果的なツールを選び、自社に合ったKPI運用スタイルを構築することが、成果への近道です。
マネジメントを実施するときのポイント

~KPIを“使いこなす”ための6つの実践的な取り組み~
KPIを設定しても、運用がうまくいかなければ成果にはつながりません。KPIマネジメントを“動かす仕組み”として根付かせるには、現場との丁寧な連携と、継続的な見直しや働きかけが不可欠です。
以下では、運用時に意識すべき6つのポイントを紹介します。
1.社内コミュニケーションの徹底
KPIマネジメントは「数字の管理」ではなく「人と組織のマネジメント」です。目標の意味や背景をしっかりと伝え、進捗状況を定期的に共有することが重要です。
事例:
中小企業Z社では、月次ミーティングや社内報を通じてKPIの達成状況を“見える化”。これにより、社員一人ひとりが自分の役割と会社の目標を結びつけて捉えるようになりました。 |
2.KPI運用スキルの継続的な習得支援
現場にKPIを任せきりにせず、社員が「理解して実践できる」状態をつくることが成果につながる重要なポイントです。設定・運用に関する研修や事例共有が有効です。
事例:
中小企業AA社では、KPIの設定方法やデータの読み方を学ぶトレーニングを定期開催。社員の“数字に強い力”を育み、現場主体のマネジメントを促進しています。 |
3.環境変化への柔軟な対応
KPIは固定されたものではなく、状況に応じて柔軟に見直す姿勢が重要です。環境変化に合わせて軌道修正できる設計が必要です。
事例:
中小企業BB社では、四半期ごとに市場動向を踏まえてKPIを再評価。「現実を見ながら成果を出す」運用が、持続的な成長につながっています。 |
4.成果の見える化と適切な報奨
KPIは達成して終わりではなく、「評価され、報われる」仕組みがあることで、社員のやる気を引き出す仕掛けとなります。
事例:
中小企業CC社では、KPI達成に応じて表彰制度やインセンティブを整備。成果が正しく評価されることで、前向きな競争とチーム意識が高まりました。 |
5.データに基づく意思決定
感覚ではなく、事実と数値に基づく意思決定がKPIマネジメントの基本です。そのためには、リアルタイムのデータ収集と分析環境が欠かせません。
事例:
中小企業DD社ではBIツールを導入し、KPIに紐づいたデータをリアルタイムで把握。経営層と現場が同じ指標を見ながら議論する文化が定着しています。 |
6.継続的な評価と改善サイクルの実践
KPIは、運用を続けてこそ価値を発揮する指標です。定期的な振り返りと改善こそが、成長を生む原動力です。
事例:
中小企業EE社では、四半期ごとにKPIレビュー会議を開催。達成率の確認だけでなく、「なぜ達成できたのか」「次にどこを強化すべきか」を全社で議論しています。 |
KPIを“制度”ではなく“文化”に変える
KPIマネジメントは、単なる評価制度ではなく、社員と組織を成長させる「仕組み」そのものです。
マネジメントの視点をもって丁寧に運用すれば、KPIは数字ではなく「行動」と「成果」を生み出す力になります。成功に導くために最も大切なのは、人と現場にしっかり向き合う姿勢です。
KPIマネジメントは「人と組織を動かす経営の実践知」

本コラムでは、KPIマネジメントの重要性・背景・実践方法・失敗例・運用ポイントについて、具体的な視点から整理してきました。
KPI(重要業績評価指標)は、単なる数字の管理ではなく、組織の方向性を示し、行動を促し、成果を生み出すための経営の道具です。だからこそ、設定するだけでなく、「どう活かすか」「どう運用に乗せるか」が問われます。
中小企業においても、適切なKPI設計と丁寧な運用によって、限られたリソースを最大限に活かすことができます。失敗例にも見られるように、「目標があいまい」「多すぎるKPI」「運用が形骸化」などは、どの企業にも起こりうることです。しかし、逆に言えば、“見直し方”さえ分かれば、組織は確実に前進できるということでもあります。
本コラムを通じて、KPIマネジメントの基礎と実践のヒントを得ていただき、自社の目標達成や組織活性化につながる第一歩となれば幸いです。KPIは、企業の未来を描く「数字の地図」。それをどう読み解き、どう活かすかが、経営者や人事の腕の見せ所です。
監修者

- 株式会社秀實社 代表取締役
- 2010年、株式会社秀實社を設立。創業時より組織人事コンサルティング事業を手掛け、クライアントの中には、コンサルティング支援を始めて3年後に米国のナスダック市場へ上場を果たした企業もある。2012年「未来の百年企業」を発足し、経済情報誌「未来企業通信」を監修。2013年「次代の日本を担う人財」の育成を目的として、次代人財養成塾One-Willを開講し、産経新聞社と共に3500名の塾生を指導する。現在は、全国の中堅、中小企業の経営課題の解決に従事しているが、課題要因は戦略人事の機能を持ち合わせていないことと判断し、人事部の機能を担うコンサルティングサービスの提供を強化している。「仕事の教科書(KADOKAWA)」他5冊を出版。コンサルティング支援先企業の内18社が、株式公開を果たす。
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