KPI設定の方法をわかりやすく解説!組織の目標達成に向けた実践知識とは?

1 組織戦略・マネジメント

KPIの設定方法を基礎から丁寧に解説。適切な目標や指標の例に加え、成功事例からKPIマネジメントの実践力を養います。

KPI(重要業績評価指標)は、組織の目標達成に向けた“行動の質”と“成果の量”を見える化するツールです。経営戦略を実行に移すには、的確なKPI設定と継続的な管理が欠かせません。

本記事では、KPIの基本から、適切な目標・指標の選び方、実際の成功事例までを体系的に解説。KPIマネジメントを組織に根づかせたい方に役立つ実践的なヒントをお届けします。

Contents

KPIの基礎知識

〜組織の成長を支える「見える化」戦略〜

KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)とは、組織が掲げた目標に対して「何を、どれだけ達成すればよいか」を数値で示す指標のことです。組織の目標を「見える化」することで、戦略の進捗状況を数値やデータに基づいて客観的に(=定量的に)把握することができます。

1.KPIで可視化される「結果」と「プロセス」

KPIは、最終的な成果(結果)だけでなく、その成果に至るまでの行動や工程(プロセス)も数値化します。

種別具体例説明
結果指標売上高、利益率、顧客満足度目標達成の“成果”を示す指標
プロセス指標
※ここでのプロセスとは、目標を達成するまでの具体的な行動や業務ステップを意味します
商談数、作業完了率、生産数成果に至るまでの“行動”や“流れ”を示す指標

2.KPIとKGIの関係

KPIは、最終目標(KGI:Key Goal Indicator)を達成するための中間指標です。

項目
KGI(最終目標)売上を前年比110%にする
KPI(中間目標)月間の新規顧客数、商談数、成約率

これにより、現場の行動と経営戦略をつなぐ“架け橋”となり、全社が一丸となって目標に向かう基盤が整います。

3.業種ごとのKPI例

KPIは業種や目的によって異なります。以下は一例です。

業種KPI例目的
製造業1日あたりの生産数、不良品率生産効率・品質の改善
サービス業クレーム件数、リピート率顧客満足度の向上
営業職商談数、契約件数、受注率営業成果の最大化

4.KPIは経営判断と業務改善の土台

KPIは「何に注力すべきか」を示す指針となり、PDCA(計画・実行・振り返り・改善)サイクルの精度を高めます。

経営層戦略の修正や、人材・時間・予算などの経営資源であるリソース配分の判断材料に
現場改善活動の成果を確認する基準に

5.KPI導入の本質的な価値

KPIの活用により、特定の人の主観や経験に頼った評価や、感覚に基づく判断から脱却し、「事実に基づいたマネジメント」が可能になります。

  • 組織全体の成果や生産性(=パフォーマンス)が数値で見える化される
  • 社員の目標意識とエンゲージメントが向上
  • 持続的な成長戦略の基盤を整える

KPIの基礎は「戦略の見える化」から始まる

KPIは、組織の目標を数値で明確にし、現場の行動と戦略を結びつける“見える化”のツールです。
成果だけでなく、そのプロセスも可視化することで、経営判断や業務改善の根拠となり、組織全体の成果創出を支える土台となります。まずはKPIの役割を正しく理解することが、実践的なマネジメントの第一歩です。

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最前提の考え方

〜KPIはビジョンから逆算して設計する〜

1.KPIは「ビジョン・ミッション」に基づいて設定する

KPIを効果的に機能させるためには、まず組織のビジョン(=目指す理想の将来像)やミッション(=果たすべき使命や存在意義)と直結した目標を明確にすることが欠かせません。KPIは単なる数値目標ではなく、戦略の方向性を示す“羅針盤”です。これが明確になることで、全社員が同じ方向を向き、目標達成に向かって一丸となって行動できます。

2.ビジョン→中長期目標→KPIのつながり

KPIは「今期の目標」だけでなく、ビジョンから逆算した長期的な戦略目標を支えるものです。以下のような関係性を意識すると、KPIの意味が明確になります。

段階内容
ビジョン組織が目指す理想の未来像環境に優しい製品を提供する
中長期目標ビジョンを実現するための指針サステナブルな(持続可能な)生産体制の構築
KPI(短期)日々の業務で追う具体的な数値目標二酸化炭素排出量の削減率、再生可能エネルギーの使用率

このように、KPIは長期的なゴールに向けた“日々の進捗を測る物差し”として設計されるべきです。

3.KPIは「達成可能で挑戦的」であるべき

KPIは現実的で達成可能な範囲に設定しながらも、成長を促す適度な難易度が必要です。

設定が甘すぎる場合設定が厳しすぎる場合
モチベーションが上がらず、成長が鈍化士気が低下し、成果につながらない

社員のやる気を引き出し、成果につなげるには、現実的でありながら成長を促すような基準の設定が必要です。

4.各部門のKPIにも整合性が必要

KPIは組織全体のビジョンと一致しているだけでなく、部門ごとの目標とも一貫性を持たせる必要があります。

たとえば、

部門KPI例連携の意図
営業部門新規顧客獲得数市場拡大の最前線
マーケティング部門リードジェネレーション数(見込み客の獲得)営業部門を下支えする

このように、部門間で連携したKPI設計を行うことで、全体最適が実現し、KPIの効果も最大化されます。


KPIは“つながり”が命

KPI設定の最前提は、「ビジョン→戦略→目標→KPI」の一貫性をもった流れをつくることです。
その上で、達成可能でありながらやりがいがあり、成長を促すようなKPIを設定し、部門間でも整合性を保てば、全社で成果を出す土台が整います

KPIの設定にかかわる他の要素

〜正しいKPIは「5つの視点」から生まれる〜

KPIを効果的に機能させるには、「何を測るか」だけでなく、その“質”をどう担保するかが重要です。下記の5つの要素を意識することで、KPIはより実行可能で、戦略的なものになります。

これらの視点は、KPI設計の基本原則として知られる「SMART(スマート)」の考え方にも通じており、具体的(Specific)・測定可能(Measurable)・達成可能(Achievable)・関連性(Relevant)・期限設定(Time-bound)という5つの基準を押さえることで、より質の高いKPI設計が実現できます。

1.KPI設定で重視すべき5つの視点

視点意味補足説明・例
具体性曖昧ではなく、数値で示されている×「顧客満足度を上げる」
○「顧客満足度アンケートで80%以上」
測定可能性データで追えるかどうか定量的に把握可能で、進捗評価ができる
達成可能性実現可能な範囲かどうか現場のリソースや制約を踏まえた目標設定
関連性組織の戦略とつながっているかビジョン・戦略に直結している必要あり
期限いつまでに達成するか時間を区切ることで行動が明確になる

1.【具体性】目標は数値で明確に

KPIは誰が見ても同じように理解できる形で設定することが大切です。

×「顧客満足度を高める」

○「顧客アンケートで満足度80%以上を達成する」

このように、あいまいな表現は避け、定量的な目標に落とし込むことで、行動の指針が明確になります。

2. 【測定可能性】定量化できなければKPIではない

KPIは進捗を「測る」ためのものです。測定できない目標は、改善にもつながりません。

測定しやすい指標売上高、契約数、利益率、平均単価など
測定に工夫が必要な指標従業員満足度、チーム力
→ アンケートや360度評価で定量化可能

360度評価とは、本人の上司だけでなく、同僚や部下など多方面から評価を受ける仕組みで、チーム力やコミュニケーション能力などの定量化が難しい項目の把握に有効です。

3.【達成可能性】“頑張れば届く”が適切

KPIは「現実離れしていないか?」を常にチェックしましょう。

現場のリソース(人員・時間・予算)を踏まえて設定

例:突然「売上を3倍に」ではなく、「半年で20%アップ」を目指す など

4. 【関連性】KPIは戦略と結びついてこそ意味がある

KPIは組織のビジョン・戦略に沿ったものでなければ、部署ごとや個人ごとにバラバラな目標を追ってしまい、全体の方向性とズレてしまうリスクがあります。

例:企業が「市場拡大」をビジョンに掲げているなら

   →KPI:「新規顧客獲得数」「市場シェアの拡大率」など

5.【期限】時間を区切ることで実行力が上がる

KPIには達成期限を明示することが必須です。期限がないと、行動の優先順位が曖昧になります。

例:「6ヶ月以内に新製品の売上を20%アップさせる」

定期的に進捗を確認し、必要な調整を行うことで、KPIの精度と成果の再現性が高まります。

2. 【実践例】製造業におけるKPIの具体化

たとえば、製造業において「品質向上」「コスト削減」を目指す場合

目的KPI例対応部門
品質向上不良品率の削減(例:1%未満に)品質管理部門
コスト削減生産コストの10%削減、部品単価の最適化製造部門・調達部門

各部門が連携して施策を実行することで、KPIの達成率が高まります。


KPIの質が、組織の成長力を決める

KPIは「見える目標」であるだけでなく、組織の行動を方向付ける“実行計画”の一部です。
「誰が見ても分かる」「測れて」「実行できる」「つながっている」「時間軸がある」――
この5つの視点を押さえることで、戦略に直結するKPI設定が実現します。

KPIを設定するメリット

〜目標を“見える化”することが、ビジネスと組織の力を引き出す〜

KPIを設定することには、「数字を定める」だけではない価値があります。
以下のように、ビジネスの成果向上や、組織運営・人材マネジメントのあらゆる場面でプラスの効果をもたらします。

1.KPI導入で得られる4つのメリット

メリット内容効果
1.目標の明確化組織全体の目指す方向を共有社員の役割認識が高まり、行動が統一される
2.成果の可視化数字で進捗を確認できる改善点が明確になり、評価も公平に
3.モチベーション向上達成感・成長実感が得られる自律的に努力する社員が増える
4.リソース配分の最適化投資すべき部門や業務が明確になる限られた予算や人員を効率的に活用できる

1.【目標の明確化】個々の役割がクリアになる

KPIを設定すると、組織の大きな目標と個人の行動が結びつきます。
各自が「自分は何を達成すればよいか」が明確になることで、仕事の優先順位がはっきりします。

例:

組織目標売上前年比110%
営業KPI月間売上300万円、新規顧客5件
→ 各営業が具体的な数値に基づき行動できるようになります。

2.【成果の可視化】改善点が“数字で”見える

KPIは、成果や進捗を数値で把握するための“指標”です。

担当者の経験や主観に左右される評価ではなく、数値に基づいた公平で客観的な判断ができるようになります。

例:

  • 顧客満足度調査を毎月実施
  • 「満足度80%以上」のKPIを設定
    → 数値の変化に応じて、対応改善や施策を調整できる

3.【モチベーション向上】目標達成が自己成長につながる

KPIがあることで、目指すべきゴールが明確になり、達成時には達成感が得られます。
特に「少し難しいが、努力すれば届く」ような目標設定は、社員のやる気を引き出します。

さらに、チームで達成するKPIは「連帯感」も生み出し、組織の一体感を高める要因にもなります。

4.【リソース配分の最適化】限られた資源を有効に使う

KPIを設定することで、成果につながる業務とそうでない業務の見極めが可能になります。
これにより、ビジネス全体の効率化や利益最大化を見据えた、人材・時間・予算といったリソースの使い方に優先順位がつけられます

例:

  • あるプロジェクトのKPI達成率が低い → 原因分析を行い、別の施策にリソースを集中
  • 成果が高い施策 → 増員や予算を集中投下し、投資対効果を最大化

KPIは「管理のため」ではなく「成長のため」のツール

KPIは“管理だけ”を目的としたものではなく、組織の成果を引き出す“成長装置”です。
目標が明確になり、成果が見え、行動が変わり、ビジネスの成長と組織力の強化につながる――
KPIはそのすべてのプロセスに寄与する、戦略的なツールです。

KPIの設定手順

〜組織の戦略を「実行可能な行動」に変える7ステップ〜

KPI(重要業績評価指標)を効果的に活用するためには、段階的に計画されたプロセスが不可欠です。ここでは、KPIを設定し、実行・見直しまでを行うための手順を、具体例とともに整理します。

1.目標設定:ビジョンとミッションに基づく明確な方向づけ

KPI設定の第一歩は、組織全体の目標を明確にすることです。ここで言う目標とは、組織のビジョン(=目指す将来像)やミッション(=社会的な使命)に基づいて中長期的に描かれる方向性を意味します。これを明確にすることで、KPIが戦略的な道しるべとなり、社員全体が同じ方向を向いて動けるようになります。

たとえば、「市場シェアを拡大する」というビジョンを掲げる企業であれば、KPIとして「新規顧客獲得数」「リピート率」「競合比較での認知度」などが選ばれます。ビジョンから目標へ、目標からKPIへと、一貫性を持たせることが重要です。

このとき有効なのが「KPIツリー」と呼ばれる整理法です。KPIツリーとは、全体目標(KGI)から、それを達成するための要素を枝分かれのように階層化して整理する手法で、目標とKPIのつながりを視覚的に把握できます。

2.指標選定:目標に直結する数値を定める

目標が定まったら、その達成に必要な「何を測るか(=KPI)」を選定します。KPIとして選ぶ指標は、目標に対して直接的な因果関係を持つものにする必要があります。

たとえば、売上向上が目標であれば、売上高・利益率といった財務指標が有効です。また、長期的な顧客との関係性を重視するならば、顧客満足度やリピート率などの非財務指標も欠かせません。これらは、数値化と管理が可能である必要があります。

3.データ収集方法の確立:正確な把握の仕組みをつくる

KPIを運用するには、その数値を日常的に計測・収集できる環境づくりが求められます。どのように、誰が、どの頻度でデータを取得するかを決めることが肝要です。

たとえば、顧客満足度をKPIにする場合は、毎月のアンケートを実施し、結果をデータベースに蓄積していく運用が考えられます。売上高や利益率などの財務指標については、既存の会計システムから自動抽出する方法が一般的です。正確かつ継続的なデータの確保は、KPI管理の成否を左右します。

4.目標値の設定:努力が求められる“現実的な数値”

KPIには必ず数値的な目標(ターゲット)を設定します。この目標値は、無理のない範囲で達成可能でありつつ、組織や個人の努力を促す程度の挑戦性を備えていることが望ましいです。

たとえば、「6ヶ月以内に新製品の売上を20%向上させる」「顧客満足度を80%以上に維持する」など、具体的で行動につながる目標を設定することが推奨されます。目標値の精度は、現場のやる気とパフォーマンスに大きく影響します。

5.モニタリングと評価:継続的なチェックと対応が成功を生む

KPIは設定して終わりではありません。定期的にその進捗状況をモニタリングし、評価を行うプロセスが欠かせません。これにより、問題の早期発見と、目標への着実な前進が可能になります。

営業部門であれば月次の売上報告会、製造部門であれば週次の不良品率のチェックなど、KPIの性質に応じたモニタリング頻度を設定します。また、評価結果に基づいて改善策を講じることで、継続的な成長サイクルを実現できます。

6.継続的改善:KPIは“変化を前提に設計する指標”である

KPIは、設定段階から「後に見直す可能性がある」という前提で設計しておくことが重要です。実際の業務運用の中では、外部環境の変化や組織内の方針転換、新しい課題の出現などによって、設定時のKPIが適さなくなることがあります。

たとえば、競合企業の動きや業界全体の動きや傾向、テクノロジーの進化によって、従来のKPIでは現状を正確に反映できなくなる場合があります。そのため、KPIの数値や指標そのものについても、定期的に振り返り、必要に応じて見直しができる設計・運用体制を整えておくことが大切です。

この段階では、「いつでも見直せるようにしておくこと」が主眼であり、KPIの柔軟性や変更への備えを含めた設計を行うことが、実際の運用を円滑に進める基盤となります。

7.KPIの浸透とコミュニケーション:社内での共有と納得形成

KPIは全社員にとって“共通の言語”でなければ意味がありません。設定したKPIは、背景や目的、期待される行動を含めて、関係者に丁寧に伝える必要があります。

たとえば、KPIを導入した際は、説明会やガイド資料を用いて全社員に共有し、定例会や報告資料を通じて継続的に進捗を伝えます。また、社内専用の情報共有サイト(社内ポータル)や社内報での情報発信も有効です。加えて、新入社員や異動者向けにKPI教育を行うことで、全社的な理解と定着が進みます。


KPIの設定は、組織目標を“実行可能な行動”へ落とし込むプロセス

ビジョンの明確化から指標の選定、運用・見直し、社内浸透まで、段階的に設計することで、KPIは指標である以上の役割を持ち、組織を動かすための“実践的なツール”となります。

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ビジネスを成功させるためのKPIマネジメント

〜“数値を動かす”ではなく、“人と組織を動かす”運用へ〜

KPIは、組織を前進させるためのマネジメントツールです。ここでは、KPIを活用して継続的に成果を生み出すための運用ポイントを紹介します。

1.定期的なモニタリング:進捗を見える化し、次の行動へつなげる

前の節「KPIの設定手順」でも触れましたが、KPIマネジメントの土台となるのが、定期的な進捗確認です。KPIの達成状況を定期的に確認することで、組織の現状を客観的に把握し、すぐに対応することが可能になります。

ここでは、実際の運用現場におけるモニタリングの進め方と、そのポイントについてさらに踏み込んで解説します。

実施例

  • 週次または月次の部門別ミーティングでKPI進捗を報告
  • 進捗が遅れている場合は、原因となっている課題の特定と対応策の検討を行う
  • 必要に応じて、KPIの数値や指標自体の見直しを実施

ポイント

モニタリングは“管理”ではなく“前進のための確認”と捉えることが重要です。

2.フィードバックと改善:成果は評価し、課題は共有する

KPIの達成状況に応じた適切なフィードバックは、従業員のモチベーションを高め、次の行動に繋がります。

フィードバックの方向性

達成成果を称賛し、報酬や表彰を通じて評価
未達成要因を分析し、改善の方向性をチームで議論

このプロセスを通じて、組織としての「学び」を積み重ねることができます。

ポイント

フィードバックは評価にとどまるものではなく“行動につながる”内容にする。

3.組織全体での共有と協力体制づくり

KPIは個人・部門で完結するものではなく、全社的な取り組みとしての共有が重要です。従業員同士が目標や進捗状況を理解し合うことで、連携と助け合いの文化が生まれます。

実施例

  • 部門を越えた合同ミーティングやワークショップを開催
  • 成果事例や改善事例の社内共有
  • KPI進捗を社内ポータルや社報で可視化

ポイント

KPIは、全社的に共有されることで初めて効果を発揮します。情報を開示・共有することで、個人や部門を越えた“連携による達成”が可能になります。

4.柔軟な見直し:環境変化に応じたKPIの更新

KPIは固定されたものではなく、変化に対応できる柔軟性が求められます。

KPIは固定されたものではなく、実際の運用状況や外部環境の変化に応じて、柔軟に見直すことが求められます。前節「KPIの設定手順」でも、設計段階から“変化を前提にする”考え方に触れましたが、ここでは、運用中の実際の調整・更新プロセスに焦点を当てて解説します。

見直しが必要となる代表的な場面

  • 新たな競合の出現により市場構造が変化したとき
  • 法規制や業界の方向性の変化に対応する必要があるとき
  • 新製品や新サービスの導入など、事業の重点が変わったとき

これらの状況では、KPIが現状にそぐわなくなり、結果として従業員の行動指針がぶれてしまう恐れがあります。したがって、KPIが実態に合っているかを定期的に確認し、必要に応じて数値や指標を修正することが、的確な意思決定と実行力につながります。

この柔軟性は、KPIを日々の業務で活用していくうえで重要な“調整力”であり、組織が変化に柔軟に対応しながら成長を続けるために欠かせない視点です。

ポイント

KPIは、状況に応じて見直し続ける“運用型の指標”です。変化を察知して調整できることが、KPIマネジメントの強さとなります。

5.継続的な学習:KPI運用スキルを全社で育てる

KPIマネジメントを成果につなげるには、従業員一人ひとりがKPIの考え方や活用方法を理解していることが必要です。

学習・育成の仕組み

  • 定期的な社内トレーニングや勉強会の実施
  • KPI運用ツールの使い方講座
  • 他社事例や最新の動向の紹介(社内資料・セミナーなど)

ポイント

KPIマネジメントは「一部の管理職の仕事」ではなく、「全社員の共通言語」として根付かせることが重要です。


KPIマネジメントは「組織を動かす仕組み」そのもの

KPIマネジメントは、表面的な数値管理にとどまるものではなく、組織の力を最大限に引き出すための運用体制そのものです。
適切にモニタリングし、フィードバックし、共有し、柔軟に見直し、学びを蓄積していく――
この一連の流れを通じて、KPIは“数字”から“行動と成果”へと変わり、組織全体を前進させる推進力になります。

成功事例からみるKPI設定

〜現場の実践に学ぶKPI活用のヒント〜

ここでは、実際に成果を上げた企業のKPI設定事例を紹介します。 KPIがどのように業績向上や組織改善に寄与したのかを、業種別に具体的に見ていきましょう。

1.製造業の事例:品質と効率を同時に向上

ある製造業の企業では、品質管理と生産効率の向上を目指して、以下のKPIを設定しました。

  • 月間生産量
  • 不良品率

毎月の生産量を一定以上に保ちつつ、不良品の発生率を低下させることを目標とし、定期的なモニタリングを実施。 その結果、生産ラインの効率化や工程改善が進み、コスト削減にも成功しました。また、品質向上により顧客満足度の向上も実現しました。

2.サービス業の事例:顧客ロイヤルティの向上

あるサービス業の企業では、顧客体験の質を高め、継続的な利用を促すことを狙いとして、以下のKPIを設定しました。

  • 顧客満足度
  • リピート率

顧客アンケートによる満足度調査と、リピート顧客の割合の定点観測を継続的に行うことで、接客やサービス改善に役立てました。 結果として、顧客満足度とリピート率のいずれも向上し、安定的な収益基盤を構築できました。

3.IT業界の事例:プロジェクト管理とチーム力の強化

あるIT企業では、プロジェクトの円滑な遂行とチームの生産性向上を目指して、以下のKPIを導入しました。

  • プロジェクト完了率
  • チーム生産性

プロジェクトの進捗を完了率で可視化し、あわせて各メンバーの作業量と成果物の質を定期的に評価。 これにより、プロジェクトの進行がスムーズになり、チームの成果も向上しました。


成功事例に共通するポイント

これらの事例から学べることは、以下の3点に集約されます。

1.目的に直結した指標を選定すること

2.施策とKPIを連動させること

3.定期的なモニタリングとフィードバックを実施すること

単に数値を設定するのではなく、「どう改善につなげるか」「現場でどう活かすか」に重点を置くことで、KPIが現場の行動変容を生み出します。

成功の横展開が、全社最適を生む

成功事例は、他部門にも応用することで組織全体の業績や働きの質の向上につながります。 たとえば、製造業のKPI活用を販売部門に応用し、「月間売上高」「顧客満足度」といったKPIを設定することで、同様の成果を生む可能性があります。

このように、事例を共有・展開していくことは、KPIマネジメントの成熟度を高める有効な手段です。


KPIを実際に機能させるために重要なのは、“活用と共有”

KPIは、現場での具体的な活用と、成功事例の横展開によって、真の効果を発揮します。 「何を測るか」だけでなく、「どう活かすか」「誰と共有するか」までを意識することで、KPIは組織全体を成長させる起点となるのです。

KPIは「組織の未来を動かす設計図」

KPIを正しく設定し、効果的に運用することは、組織の目標達成に直結する重要な取り組みです。
本コラムでは、KPIの基本から設定の手順、運用のポイント、そして実際の成功事例までを通して、KPIはただの“管理指標”ではなく、組織の成長を支える実践的なマネジメントツールであることをお伝えしてきました。

KPIを機能させるためには、組織のビジョンやミッションとつながった、具体的かつ行動に落とし込める目標を定めることが出発点となります。さらに、定期的なモニタリングとフィードバックを重ねることで、現場の動きと戦略を一致させることができます。

また、成功事例からは、「良いKPI」は常に現場の実態と向き合い、改善を繰り返しながら進化していることが分かります。市場環境が変われば、KPIも柔軟に見直す――この姿勢こそが、持続的な成長の鍵です。

今日では、データ分析ツールやAIなどの新たな技術を活用することで、より高度なKPIマネジメントも可能になっています。こうした技術も取り入れながら、KPIを“数字”ではなく“行動を変える力”として設計・活用することが、これからのビジネスに求められます。

ぜひ本コラムをヒントに、貴社にとって最適なKPIマネジメントを再設計し、効率的かつ成果につながる組織運営にお役立てください。

監修者

髙𣘺秀幸
髙𣘺秀幸株式会社秀實社 代表取締役
2010年、株式会社秀實社を設立。創業時より組織人事コンサルティング事業を手掛け、クライアントの中には、コンサルティング支援を始めて3年後に米国のナスダック市場へ上場を果たした企業もある。2012年「未来の百年企業」を発足し、経済情報誌「未来企業通信」を監修。2013年「次代の日本を担う人財」の育成を目的として、次代人財養成塾One-Willを開講し、産経新聞社と共に3500名の塾生を指導する。現在は、全国の中堅、中小企業の経営課題の解決に従事しているが、課題要因は戦略人事の機能を持ち合わせていないことと判断し、人事部の機能を担うコンサルティングサービスの提供を強化している。「仕事の教科書(KADOKAWA)」他5冊を出版。コンサルティング支援先企業の内18社が、株式公開を果たす。

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