KPIの設定や数値目標の立て方をわかりやすく解説し、モチベーションを引き出す評価制度の構築法を紹介。評価の納得感を高め、人材育成と組織力向上を両立するための具体的な方法について学べます。数値化の意義と活用法を知りたい経営者・人事担当者の皆様、必読の内容です。
KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)は、企業の目標達成に向けた“道しるべ”として、多くの組織で活用されています。
業務パフォーマンスを見える化し、戦略的な意思決定や人材マネジメントに役立てる上で欠かせない指標ですが、すべてが数値化できるわけではありません。特に、人材育成やチームビルディング、創造性といった要素は、数字だけでは評価しきれない重要な側面です。
本コラムでは、KPIの正しい設定方法から職種別の活用例、数値化のメリットと限界、さらに定性的な評価手法までを体系的に解説し、実務で活かせるヒントをご提供します。
Contents
【職種別】設定すべきKPIの項目

~業務パフォーマンスの数値化が組織力を強くする~
KPI設計の基本は、職種ごとの業務特性を踏まえた適切な目標設定にあります。
組織の成長を目指す上で、「目標の数値化」は避けて通れない課題です。特にKPI(重要業績評価指標)は、職種ごとの業務成果や仕事ぶりを客観的に可視化し、目標達成に向けた行動の質と量をマネジメントするツールとして、多くの企業に導入されています。
とはいえ、KPIは一律に適用できるものではありません。職種によって業務内容や成果の出し方が異なるため、「その業務において何を成果と見なすか」を明確にしたうえで、適切な指標を数値化する必要があります。
以下では、代表的な職種別に、KPI設定の具体項目を整理します。
管理職
組織成果とメンバー育成の両輪を担うポジション
管理職は、自身の成果よりもチームの生産性やプロジェクト全体の成果を引き出す役割が求められます。そのため、以下のような“マネジメント力の可視化”がポイントです。
プロジェクト完了率 | 計画どおりのプロジェクト遂行力を測定 |
チーム生産性向上率 | 月次や四半期ごとのタスク完了数・質の向上度合い |
コスト管理達成率 | 予算内完了の精度や改善額の記録 |
これらのKPIは、組織全体のリズムや現場力を支える“見えない貢献”を定量化(=数値で可視化)する仕組みとして有効です。これにより、担当者の感覚や好みに左右されるような評価ではなく、客観的にマネジメントできるようになります。
営業職
最も数値化が進んでいる成果主義の代表格
営業職は、「結果が数字に表れる」業務の典型です。したがって、KPIも明確かつ直接的に数値化可能です。
売上目標達成率 | 月次・四半期ごとの売上達成度 |
新規顧客獲得数 | 営業活動の広がりと市場開拓の実績 |
契約成立率 | 提案数に対する受注数の割合 |
KPIを営業チームに明示することは、個人の行動の方向性を揃え、全体目標と連動させることに直結します。
マーケティング職
売上に直結する「集客力」「反応率」を多面的に可視化
マーケティング職は、集客からリード獲得、ナーチャリング(育成)までのプロセス全体に関与します。
ここでの「プロセス」とは、見込み顧客を集め、関心を高め、購買や契約といった最終的な成果に結び付けるまでの段階的な取り組みを指します。そのため、「量」(どれだけ多くの見込み客に接触できたか)と「質」(どれだけ見込み度の高い顧客に絞れているか)の両方からKPIを設計することが効果的です。
リード獲得数 | 月間の問い合わせ件数や資料請求数 |
コンバージョン率(CVR) | 広告閲覧数に対する問い合わせ・購買の割合 |
成約単価 | 1件あたりの売上獲得コスト |
オンライン施策や広告運用では、データをどう活用するかが評価の決め手になります。
人事職
採用・育成・定着まで、組織を支える「人の力」を見える化
人事は「数値では表しにくい感覚や印象」に基づく定性的になりがちな業務が多いですが、以下のように数値化することで、戦略的に動けるようになります。
採用充足率 | 計画人員に対する実際の採用数 |
研修参加率・修了率 | 階層別・目的別の実施状況 |
定着率・離職率 | 新入社員や若手社員の継続勤務の状況 |
育成施策の効果を測定するには、研修後の行動変化や評価の推移といったKPIも有効です。
小売業
現場の売上と接客力をKPIで見える化し、改善に直結
販売スタッフの業績は比較的数値にしやすく、個人ごと・店舗ごとの成果や働きぶりを明確に示せます。
客単価 | 1人当たりの購入金額 |
販売点数 | 1回の接客で購入された商品数 |
レジ待ち時間 | 顧客体験に直結する待機時間の平均 |
キャンペーンや接客研修の効果も、これらの数値で測定可能です。
飲食業
サービス品質と店舗運営の安定性をKPIで可視化
飲食業では、接客スピード・調理品質・回転率など、多くの数値指標が存在します。
回転率 | 1テーブルあたりの1日利用回数 |
原価率 | 食材コストの売上に対する比率 |
顧客レビュー評価 | Googleや食べログの評価点数 |
KPIをもとにスタッフの教育や、日々の仕事の進め方を見直すことで、全体の業績アップが期待できます
美容業
リピート率や単価など、顧客との関係性の深さがKPIに表れる
美容業は、技術力だけでなく接客力や継続利用への働きかけが重要です。
顧客リピート率 | 2回目以降の来店割合 |
店販率 | 施術後の商品購入率 |
予約キャンセル率 | 直前のキャンセルや無断キャンセルの割合 |
美容業のKPIは、顧客満足度と密接に関連しています。
不動産業
高単価取引のための「信頼構築」と「クロージング力」をKPIで測定
不動産営業は商談期間が長く、信頼を築くプロセスも重要です。また、最終的に契約を結ぶまで持ち込む「クロージング力」(顧客の意思決定を後押しし、契約に導く力)も、成果を左右する大きな要素となります。以下のような段階ごとの指標が役立ちます。
内見件数 | 月間での案内実績数 |
成約率 | 案内に対して契約に至った割合 |
平均販売日数 | 物件掲載から成約までの日数 |
これらの数値をもとに営業活動を振り返ることで、提案力・交渉力の改善に繋がります。
技術職
進捗・品質・安定稼働という複合的成果を管理
開発職や社内システムやネットワークの安定稼働を支えるインフラ担当者においては、プロジェクトの進捗と安定性の両立が重視されます。
プロジェクト完了時間 | スケジュール通りの納品率 |
技術開発の進捗度 | 開発工程(フェーズ)ごとの達成率(例:70%完了など) |
システム稼働率 | サーバーやシステムの安定稼働状況(稼働99.5%など) |
“裏方業務”として評価が遅れやすい職種だからこそ、日々の成果を可視化し、承認と成長支援につなげる視点が求められます。
サポート職
顧客接点の質が企業ブランドを左右する最前線
顧客の声に最も近いサポート職では、対応のスピード・質・満足度が成果に直結します。
顧客満足度(CS) | アンケート評価、顧客がその企業やサービスを「どの程度他人に勧めたいと思うか」を0〜10の数値で評価してもらう NPSスコア(Net Promoter Score) など |
クレーム対応時間 | お客様から問い合わせやクレームがあった際に、最初に返答や対応を開始するまでにかかった時間(初動レスポンス) の平均値 |
一次解決率 | 1回のやり取りで解決できた割合 |
現場での判断力や丁寧で心のこもった応対が求められる業務の“再現性”を担保するためにも、言葉や印象など、数値では表しにくい定性的な評価に数値的裏付けを加えることがポイントです。
クリエイティブ職
“見えにくい価値”の言語化と定量化がポイント
アイデアやデザインを扱うクリエイティブ職は、定量化が難しい業務とされがちですが、提案力・完成度・影響力といった観点での評価が可能です。
提案回数 | 企画提出数、改善案の発信回数 |
成果物の評価 | 顧客満足・上司やチームからのフィードバック評価 |
採用率 | 提出案が実際に採用された割合 |
定性的な活動も、数値と組み合わせることで納得感のある評価が実現します。
KPIの数値化が、組織マネジメントの起点になる
どの職種であっても、KPIを「見える化=数値化」することは、組織の戦略を現場にまで浸透させる重要な起点です。
経営者や人事部門は、「何を成果と定義し、どう測るか」を明確にすることで、組織内の納得感と行動変容を生み出すことができます。
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KPI目標を数値化するメリット

~曖昧さを排除し、行動と成果を可視化する~
KPI(重要業績評価指標)を明確な数値で設定することには、多くの実務的なメリットがあります。感覚や印象に頼る属人的な評価から脱却し、客観的で納得感のある評価やマネジメントの実現が可能になります。
KPIは、売上や利益などのKGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)を実現するための中間指標としても機能します。
そのため、KPIを数値で設定することは、従業員の行動を最終的なゴールに結び付け、日々の業務を戦略的に進めるための指針となります。
数値化は単なる目標設定にとどまらず、業務改善・従業員のモチベーション・チーム力の強化にまでつながる重要な手段です。以下に、その代表的な効果を解説します。
1.目標が明確になり、集中力が高まる
KPIを「売上1億円」「月10件の新規顧客獲得」などの具体的な数値で設定すると、従業員は何を達成すればよいのかを明確に理解できるようになります。
一方、「頑張る」「成果を出す」といった抽象的な目標では、行動の方向性が定まらず、業務の優先順位も不明瞭になります。数値化は、目標への意識を高めるだけでなく、日々の業務に集中しやすい環境を整えます。
さらに、進捗を数字で確認できること自体が小さな達成感となり、前向きな働き方を促す要因にもなります。
2.客観的な評価が可能になる
KPIを数値化することで、評価の基準が明確になります。つまり、「売上〇〇円達成」「目標の達成率〇%」など、結果が誰にでも分かる形で示されるのです。
これにより、評価が上司の感覚や好みに左右されることなく、公平で透明性の高い人事評価が実現します。特に、営業やプロジェクトのように成果が比較的見えやすい職種では、数値での評価が納得感を生み、従業員の信頼にもつながります。
3.業務改善のヒントを見つけやすくなる
KPIの数値は、単なる評価ツールではなく、分析と改善の起点にもなります。
たとえば、売上目標が未達だった場合、「どの月に数字が落ちていたか」「どの業務の流れや進行過程に時間がかかっていたか」などを数字で振り返ることで、業務が滞っていた原因や課題の箇所を発見しやすくなります。
このように、数値化された実績をもとに原因を特定し、改善策を講じるというサイクルを回すことができれば、組織の生産性は継続的に向上していきます。
4.モチベーションが高まる
目標が数値で明示されることで、従業員は自分の進捗を具体的に把握できます。進んでいる実感を得ることは、自己効力感(自分はできるという実感)を高め、やる気を引き出す大きな要因になります。
また、目標達成時には「数字」という明確な証拠が残るため、自己評価にも上司からの評価にも自信を持てるようになります。これは、営業職や管理職など、自律的に動く職種ほど顕著です。
5.チームの連携と透明性が向上する
数値化されたKPIをチームで共有することは、誰がどこまで進んでいるか、どこに支援が必要かを明確にすることにつながります。
これにより、メンバー間の情報共有が活性化し、進捗の確認や支援が行いやすくなる環境が整います。プロジェクトのように複数人で進める業務においては、チーム全体の見える化がそのまま成果に直結する場面も多いでしょう。
数値化は「評価」ではなく「成長支援」のツール
KPIの数値化は、単に「成績をつけるため」ではありません。それはむしろ、一人ひとりの成長を支援し、チーム全体の方向性を整えるための仕組みです。
曖昧さをなくし、行動を促し、成果を再現可能にする。そのようなマネジメントの第一歩として、KPIの数値化は非常に強力な手段であるといえるでしょう。
数値化できないKPIの項目とは

~「見えない価値」をどう扱うか~
KPI(重要業績評価指標)と聞くと、売上や顧客数など「数字で測れるもの」を思い浮かべがちです。しかし、企業活動の中には、数値だけでは測りきれない、言葉や印象、人の感じ方など“質”に関わる“定性的”な価値も数多く存在します。
特に人材育成やチームの関係性、創造性、企業文化といった要素は、重要であるにもかかわらず、数値化が難しいKPIです。こうした項目は、単に業務成果として評価されにくいだけでなく、放置すれば組織の土台を揺るがす要因にもなり得ます。
ここでは、数値化が難しい代表的なKPI項目を整理し、その扱い方のポイントを解説します。
1.顧客満足度
顧客満足度は、多くの企業で最重要KPIの一つとされていますが、その本質は非常に主観的な感情や印象に基づくため、完全に数値で表すことは困難です。
たとえば、「迅速な対応」を求める顧客と、「丁寧な説明」を重視する顧客では、同じサービスを受けても感じ方が異なります。アンケートやNPSスコア(推奨度)で数値化することは可能でも、その裏にある理由や期待値の違いまでは読み取れません。
したがって、顧客満足度をKPIとする際は、定量的なスコアだけでなく、顧客の声(コメントや意見)を定性的に読み取る仕組みを併せて設けることが重要です。
2.チームのコミュニケーションの質
チーム内の連携や信頼関係も、業務の生産性に直結する重要な要素ですが、「良いコミュニケーションができているか」を単純に数値で測ることはできません。
たとえば、会議の回数やチャットの投稿数は数値として把握できますが、それだけでは対話の深さや信頼の厚さは見えてきません。実際に、有効なやり取りができているか、意見が出やすい雰囲気があるか、といった関係性の質は、定性的に捉える必要があります。
このような場合は、メンバーに直接話を聞くことや、1on1ミーティングの内容、チームリーダーの観察といった“人の目”による評価と、業務中の行動記録などの数値による定量データを組み合わせることで、実態把握が可能になります。
3.創造性
クリエイティブ職や新規事業開発など、「新しい価値を生み出すこと」が求められる職種において、創造性はKPIとして極めて重要です。
しかし、「ユニークな発想」「独創的なデザイン」「画期的なアイデア」といった要素は、数値での評価が非常に難しく、一律の基準を設けにくい側面があります。提案数や納品件数といった定量的な指標は補助的には使えますが、それだけでは創造性の深みや革新性を正当に評価することはできません。
そこで、クライアントからの評価や、社内での意見や評価、過去の成功事例と照らし合わせた質的評価など、「成果の文脈」を読み取る視点が重要になります。評価の際には、企画書やデザイン案、プレゼン資料などの制作物を記録した資料や、過去の提案との比較データ、さらには関連するプロジェクトの成果や社内評価といった情報も組み合わせることで、より具体的な評価が可能になります。
4.社内文化や従業員のエンゲージメント
「会社に対する思い入れ」や「仕事への前向きな姿勢」などを示すエンゲージメントは、離職率や業績への影響が大きいため、企業として軽視できない要素です。
しかし、これらは従業員の気持ちや職場環境に対する感じ方に根差すものであり、単純に数値だけで把握するのは困難です。エンゲージメント調査や離職率、勤怠データなどが定量的指標として使われますが、それだけでは「なぜそう感じているのか」という背景は見えてきません。
この領域では、上司や同僚によるフィードバック、1on1ミーティングでの対話、社内イベントでの様子の観察など、定性的な情報が評価の軸となります。「数値には出てこない空気感」をどう捉えるかが、マネジメントの腕の見せ所です。
数値にできない価値こそ、組織の本質を映す鏡
KPIは「成果の指標」ですが、全てを数字で捉えようとすると、本質的に大切なことがこぼれ落ちることがあります。
企業文化、信頼、創造力、対話力といった「見えない価値」は、経営の根幹にかかわる要素であり、定性的なKPIとして丁寧に扱うべき領域です。
定量評価と定性評価をバランスよく組み合わせることが、人と組織を正しく理解し、成長につなげる唯一の道と言えるでしょう。また、こうした評価を支える仕組みとして、1on1ミーティングの記録やフィードバックシートなどの評価資料を活用し、言語化と蓄積を進めることも効果的です。
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数値化できないことがなぜ問題か

~“曖昧な目標”が生む、組織マネジメントの停滞~
KPI(重要業績評価指標)は、目標達成に向けた行動を具体化・見える化するツールです。しかし、KPIが数値化されていない、あるいは数値化が難しい項目については、組織運営上のいくつかのリスクや課題が潜んでいます。
とくに評価の曖昧さや業務改善の困難さ、モチベーションの低下など、現場レベルから経営層まで幅広い影響が出るため、慎重な対応が求められます。以下では、数値化できないKPIがもたらす代表的な問題を整理します。
1.主観的な評価が増え、不公平感を招く
数値化されていないKPIでは、評価が“感覚”や“印象”に左右されやすくなります。たとえば、創造性やコミュニケーション力といった要素は、上司や評価者の主観によって判断が分かれることが少なくありません。
「あなたの提案には新しさが足りない」「チームとの関係性が弱い」といったフィードバックは、評価基準が曖昧なまま伝わると、従業員にとっては不透明かつ不公平に感じられる可能性が高くなります。
このような状態が続くと、「自分は正当に評価されていない」という不満が蓄積され、モチベーションの低下や離職のリスクにもつながります。
2.業務改善の方向性が見えにくくなる
数値で示されないKPIは、業務のどこに課題があるのかを特定しにくくなります。たとえば、「チームの雰囲気がよくない」「連携が弱い」といった課題は、何をどう改善すればよいのかが曖昧になりがちです。
定量的なデータがあれば、「ミーティングの頻度」「意見提出数」などから変化を読み取りやすくなりますが、感覚的な評価だけでは、改善後の成果も測定しづらくなります。
この結果、PDCA(計画・実行・評価・改善)の「C(評価)」と「A(改善)」の精度が低下し、組織の改善力そのものが停滞する恐れがあります。
3.モチベーションの維持が難しくなる
目標が明確に数値化されていると、従業員は自分の進捗を確認しやすく、達成感を得ながら働くことができます。しかし、「頑張っているけど、それが評価につながっているのかわからない」と感じる状態では、努力の方向性も達成感も見えなくなります。
たとえば、「チームとの連携を良くすることが目標」と言われても、それが実現できているかどうかを自分で判断するのは難しく、達成感を感じにくくなります。
このように、数値化されていないKPIは、“目標がぼやけた状態”をつくりやすく、長期的には従業員の意欲やエンゲージメントの低下につながります。
4.評価基準が不透明になり、組織の信頼感が揺らぐ
KPIが数値化されていない場合、評価の基準があいまいになり、従業員が「どんな行動が評価されるのか」を理解しにくくなります。その結果、評価への納得感が低くなり、組織全体の信頼関係にも悪影響を与えます。
とくに、評価基準の説明が「上司の経験則」によってなされる場合、従業員側では再現可能な行動が見えず、評価の“運まかせ感”が強まる傾向があります。
評価とは、従業員の成長を支援し、次の行動につなげる仕組みであるべきですが、評価基準の不透明さは、かえって成長を妨げる要因となりかねません。
定性的KPIこそ、補助的な数値とセットで扱う
数値化が難しいKPIそのものが悪いわけではありません。むしろ、企業文化や創造性といった“見えにくい価値”をどう扱うかが、組織の成熟度を左右します。
重要なのは、評価基準をできる限り明確にし、補助的な数値やフィードバックと組み合わせて運用することです。たとえ完全に数値化できなくても、「何を、どのように見ているのか」を共有するだけでも、従業員の納得感は大きく変わります。
数値化できない項目の評価方法

~「見えにくい力」を、見逃さない評価へ~
売上や数値目標のような定量的KPIに比べ、創造性やコミュニケーション力、チームへの貢献など、数字にしにくい“定性的”な要素は評価が難しく、曖昧になりがちです。
しかし、こうした「目に見えにくい力」こそ、組織の成長を支える土台です。そのため、数値化できないKPIに対しては、人の声や行動から読み取る評価手法=“定性的な評価”を適切に組み合わせることが重要です。
ここでは、企業で活用しやすい具体的な評価方法を5つご紹介します。
1.フィードバックの活用
フィードバック(上司・同僚・部下からの意見や感想)は、数値では見えない行動や姿勢を捉えるために非常に有効です。
活用例
定期的な1on1ミーティング
上司と部下が定期的に面談し、仕事の進め方や強み・課題について対話します。特に、コミュニケーションの質やチームワークの様子など、数値化しづらい分野を深掘りするのに適しています。
プロジェクト終了時の振り返り
チームでの仕事が一区切りついたタイミングで、相互にフィードバックを交換します。協力体制やリーダーシップ、アイデアの貢献度などを評価する手法として有効です。
フィードバックは「誰がどのように感じていたか」を可視化するため、“行動の背景”に注目した評価が可能になります。
2.360度評価の導入
360度評価とは、上司だけでなく、同僚や部下、時には顧客など複数の関係者が1人の従業員を評価する仕組みです。
活用メリット
- 一方向では捉えきれないリーダーシップや協調性、信頼感などの定性的KPIを、多面的に評価可能
- 評価の偏りを防ぎ、公正さ・納得感のある評価が実現
たとえば、部下から見た「頼れる上司像」や、同僚から見た「協力姿勢」など、“働き方のリアル”が浮き彫りになるのが特徴です。
導入にあたっては、「フィードバックは建設的に」「評価は成長につなげる」という文化づくりと教育も重要です。
3.ケーススタディやロールプレイ
特に接客・営業・クリエイティブ職など、“状況対応力”が問われる場面では、実践的な評価手法が効果を発揮します。
活用例
- お客様対応の場面を模したシミュレーション(ロールプレイ)で、対応力・判断力・伝え方などを観察
- デザインや企画などのプロジェクト進行プロセスと成果物を通じた創造性の評価
単なる結果ではなく、「どのように取り組んだか」という行動プロセスに焦点を当てられるのが特徴です。
4.定性的インタビュー
従業員の考え方や行動の背景を理解するためには、対話による深掘り(=定性的インタビュー)が有効です。
活用のポイント
- 「なぜその行動を取ったのか?」「困難をどう乗り越えたか?」など、成果に至る過程や工夫を丁寧に聞き出す
- 成果や働きぶりだけでなく、価値観や姿勢も含めた評価が可能になる
上司が部下の仕事ぶりを正しく理解し、努力や工夫を“見える化”する手段として役立ちます。
5.顧客の声(VOC:Voice of the Customer)
お客様からの評価や意見は、接客や営業における“成果”を測るうえで欠かせません。
活用方法
- 顧客アンケートやインタビューによって、「感じの良さ」「信頼感」「対応の丁寧さ」などの定性的な反応を収集
- 単なる「満足/不満」ではなく、具体的な言葉やエピソードを評価に活用
たとえば「対応が丁寧で安心できた」「何度も説明してくれてありがたかった」など、数字では表現できない“好印象”を拾い上げる評価軸として活用できます。
見えないものを見ようとする姿勢が、信頼を生む
数値に表せないKPIは、評価の対象から外されがちですが、そこにこそ人や組織の本質的な力が表れます。
「数字では見えないが、確実に価値がある」。そのような要素を正しく評価するためには、フィードバックや対話、多角的な観察が欠かせません。
定性的な評価は手間がかかりますが、だからこそ、従業員の納得と信頼、成長を支える土台となります。評価は管理のための手段ではなく、人を動かし、組織を育てる力であることを、改めて意識したいものです。
KPIを「成果につながる評価軸」に育てるために

KPI(重要業績評価指標)は、企業が目標に向かって進むための「道しるべ」であり、組織全体の行動を整える強力なマネジメントツールです。
本コラムでは、職種別のKPI設計から、数値化のメリット、そして数値では測りきれない業務への対応方法までを解説してきました。
確かに、KPIは可能な限り数値化することで、業務の成果や課題が“見える化”され、評価の納得感や業務改善が促進されます。一方で、創造性や人間関係の質など、定量的には測りにくい領域も存在します。こうした項目を「評価できないもの」として放置するのではなく、フィードバックや360度評価、インタビューなどの“定性的評価”を丁寧に組み合わせていくことが、組織としての成熟を促します。
企業の成長には、成果だけではなく、そこに至るプロセスや働く人の姿勢・行動を正しく認めることが欠かせません。だからこそ、KPIは単なる数値の管理指標ではなく、従業員の努力を見つけ、称える仕組みであるべきです。
これからKPIを見直す企業にとっては、「何を測るか」だけでなく、「どう測るか」への目配りが、持続的な成長の鍵となります。定量と定性、双方の視点をバランスよく取り入れたKPI設計が、従業員のモチベーションを高め、組織の力を最大化する第一歩となるでしょう。
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監修者

- 株式会社秀實社 代表取締役
- 2010年、株式会社秀實社を設立。創業時より組織人事コンサルティング事業を手掛け、クライアントの中には、コンサルティング支援を始めて3年後に米国のナスダック市場へ上場を果たした企業もある。2012年「未来の百年企業」を発足し、経済情報誌「未来企業通信」を監修。2013年「次代の日本を担う人財」の育成を目的として、次代人財養成塾One-Willを開講し、産経新聞社と共に3500名の塾生を指導する。現在は、全国の中堅、中小企業の経営課題の解決に従事しているが、課題要因は戦略人事の機能を持ち合わせていないことと判断し、人事部の機能を担うコンサルティングサービスの提供を強化している。「仕事の教科書(KADOKAWA)」他5冊を出版。コンサルティング支援先企業の内18社が、株式公開を果たす。
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