現代の企業経営において、人事データの分析と活用は不可欠です。適切な方法でデータを活用することで、人材の最適配置や離職防止、採用戦略の精度向上など、多くのメリットを得られます。本コラムでは、人事データ分析の基本から、導入のポイントまでを解説します。
Contents
人事データ分析とは

近年、多くの企業で「人事データ分析(HRアナリティクス)」が注目されています。人材の獲得競争が激化し、労働人口が減少する中で、優秀な人材を確保し、適切に育成・配置することが企業の競争力を左右する時代になりました。従来の経験や勘に頼った人事管理ではなく、データを活用してより合理的な意思決定を行うことが求められています。
ここでは、「人事データ分析とは何か?」について詳しく解説し、人事データ分析の基本的な内容や意義、活用の方向性を探っていきます。
人事データ分析とは?——データで人事を最適化する時代へ
人事データ分析とは、企業が持つ人材に関するさまざまなデータを収集・分析し、採用・育成・配置・評価・定着といった人事戦略に活用する手法のことです。英語では「HR Analytics(HRアナリティクス)」や「People Analytics(ピープルアナリティクス)」と呼ばれることもあります。
単なるデータの集計にとどまらず、統計的手法やAI(人工知能)を活用し、企業の生産性向上や離職率低下、従業員が会社や仕事に対して持つ愛着や意欲の度合いであるエンゲージメントの向上などに寄与することが期待されています。
人事データ分析の特徴と従来の人事との違い
従来の人事管理は、担当者の経験や主観に基づく意思決定が多く、人材に関する意思決定の精度が一定ではありませんでした。しかし、人事データ分析を活用すると、以下のような違いが生まれます。
項目 | 従来の人事 | 人事データ分析 |
---|---|---|
判断基準 | 経験・勘 | データ・科学的根拠 |
意思決定 | 主観的 | 客観的 |
施策の効果測定 | 難しい | 明確な指標で評価可能 |
課題解決のスピード | 遅い(問題発生後に対応) | 予測的に対応可能 |
たとえば、「離職率が高い」と感じたとき、従来の人事管理では「働きやすい環境を整えよう」と漠然とした対策を取ることが多くありました。しかし、人事データ分析を活用すると、「特定の部署で残業時間が平均30時間を超えると、離職率が急上昇する」といった具体的な傾向を把握し、ピンポイントで改善策を講じることができます。
「人事データ分析」とは、人材に関するデータを活用し、客観的な根拠に基づいた人事戦略を立案・実行する手法です。採用、育成、配置、評価、定着などの各領域において、データを活用することで、従来の経験や勘に頼った意思決定の課題を克服し、より合理的かつ効果的な施策を実行できます。
労働市場の変化や技術革新により、人事データ分析の重要性は今後さらに高まるでしょう。
人事データ分析が注目されるようになった背景

近年、多くの企業が「人事データ分析(HRアナリティクス)」を導入し、採用や人材配置、離職防止、エンゲージメント向上といった人事施策の高度化を進めています。従来の経験や勘に頼る人事管理ではなく、データに基づいた意思決定が求められるようになった背景には、さまざまな社会的・技術的な変化があります。
以下では、「なぜ今、人事データ分析が必要なのか?」を解説します。
1.労働市場の変化:人材不足と流動性の向上
1.少子高齢化による人材不足
日本では少子高齢化が進み、生産年齢人口(15歳~64歳)が年々減少しています。総務省のデータによると、1995年には8,700万人以上いた生産年齢人口が、2020年には7,400万人程度まで減少しました。さらに、今後もこの傾向は続くと予測されています。
このような環境では、優秀な人材の確保が企業にとって重要な課題となります。従来の採用手法だけでは十分な人材を確保できず、データを活用して「どのような人材が自社にマッチするのか」「採用後の定着率を高めるにはどうすればよいのか」を分析する必要性が高まっています。
2.転職市場の活性化
終身雇用の崩壊や働き方の多様化により、転職市場が活発になっています。特に若手人材は、キャリアアップのために積極的に転職を考える傾向が強まっています。
企業側も優秀な人材を確保し続けるためには、離職リスクを予測し、適切なエンゲージメント施策を講じる必要があります。そのため、人事データ分析を活用し、離職要因の特定や社員のモチベーション管理を行う動きが広がっています。
2.働き方の多様化:リモートワークの普及とDX(デジタルトランスフォーメーション)
1.リモートワークの定着
新型コロナウイルスの影響で、多くの企業がリモートワークを導入しました。出社前提の働き方から、時間や場所を問わずに働ける環境へのシフトが進んでいます。
しかし、リモートワークには課題もあります。たとえば、以下のような問題が発生しています。
- 上司と部下のコミュニケーション機会の減少
- 従業員の業務状況やコンディションの把握が難しくなる
- エンゲージメントの低下による生産性の低下
こうした課題を解決するために、人事データ分析が活用されています。たとえば、チャットツールの使用頻度や業務の成果データを分析することで、リモートワーク下でも適切なパフォーマンス評価やチームマネジメントが可能になります。
2.DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用して業務の進め方を変革し、企業の競争力を向上させることを指します。単なるシステムの導入やデジタル化ではなく、組織全体の仕事の流れや意思決定の仕組みを変えることが目的です。
企業全体でデジタル化が進む中、人事部門でもDXが求められています。データを活用した人事管理は、採用・評価・育成・配置のすべての領域で有効です。
たとえば、以下のような取り組みが進んでいます。
AIを活用した採用選考
応募者の適性をデータで評価し、最適な人材を選定
業績データを活用した評価制度
売上やプロジェクト成果と連動した公平な評価
社員のスキルマップの可視化
データ分析に基づく最適な配置・育成プランの設計
このように、DXの流れの中で「人事もデータを活用するべき」という意識が高まり、HRアナリティクスが注目を集めています。
3.戦略人事の推進:人事部の役割が変わる
1.これまでの人事と戦略人事の違い
従来の人事部門は、主に労務管理や給与計算、採用活動などの「管理業務」に重きを置いていました。しかし、近年は経営戦略の一環として「戦略人事(Strategic HR)」を推進する企業が増えています。
項目 | 従来の人事 | 戦略人事 |
---|---|---|
目的 | 人事管理の円滑化 | 企業の成長を支える人材戦略 |
意思決定 | 経験や勘に頼る | データ分析に基づく |
施策の範囲 | 採用・労務管理 | 採用・育成・配置・組織開発・評価 |
経営との関係 | 独立した管理部門 | 経営戦略と連携 |
戦略人事の実現には、データに基づく意思決定が不可欠です。たとえば、「どのような人材が成功するのか」「どの部署で生産性が高いのか」「どのスキルを強化すれば事業成長につながるのか」などを可視化し、戦略的に人材を育成・配置する必要があります。
2.人事データ分析が戦略人事を支える
人事データ分析を活用することで、企業は以下のような戦略的な意思決定を行うことが可能になります。
- 優秀な社員の共通点を分析し、採用基準を最適化
- 従業員のスキルと業績データを活用し、最適なキャリアの道筋を設計
- エンゲージメントデータを活用し、離職リスクを低減
これにより、人材を単なる「コスト」としてではなく、「企業の成長を支える資本」として捉える動きが加速しています。
4.人的資本経営の推進
1.人材を「資本」として捉える時代
従来の経営は「モノ」や「カネ」を中心に考えられてきましたが、近年では「ヒト(人的資本)」の価値が重要視されるようになっています。特に、持続的な成長を目指す企業は、人材投資を戦略的に行うことが求められています。
2.ESG経営・情報開示の義務化
ESG投資(環境・社会・ガバナンスを重視した投資)の広がりにより、企業の人的資本に関する情報開示が求められるようになっています。2023年には、日本でも上場企業に対して人的資本の情報開示が義務化されました。
これにより、単なる人事管理ではなく、データに基づいた「戦略的な人材マネジメント」が求められるようになったのです。
人事データ分析が注目される背景には、以下の要因があります。
1.労働市場の変化(人材不足・転職市場の活性化)
2.働き方の多様化(リモートワーク・DXの推進)
3.戦略人事の推進(経営と連携した人材戦略)
4.人的資本経営の推進(人的資本の情報開示義務化)
これらの変化を踏まえ、人事データを活用した戦略的な意思決定がますます重要になっています。
関連コンテンツ
目的とメリット

人事データ分析の目的とメリット——データを活用した戦略的な人事管理へ
企業が持続的に成長するためには、優れた人材を確保し、適切に育成・配置しながら組織全体のパフォーマンスを最大化することが不可欠です。
そこで注目されているのが「人事データ分析」です。ここでは、人事データ分析を活用する目的と、企業や従業員にとってのメリットについて詳しく解説します。
1.人事データ分析の目的
人事データ分析の目的は、「データに基づいた客観的な意思決定を行い、人事施策の精度を高めること」です。具体的には、以下のような目的が挙げられます。
1.採用の最適化
企業にとって、人材採用は重要な経営戦略の一つです。しかし、「優秀な人材を採用したはずなのに、すぐに辞めてしまった」「採用後の活躍が期待通りではなかった」といった課題を抱えている企業は少なくありません。
データ分析の活用例
- 過去の採用データ(学歴、職務経験、適性検査結果など)と業績データを関連付け、活躍する人材の特徴を特定。
- 採用の各段階ごとの歩留まり率(応募→書類選考→面接→内定)を分析し、効果的な採用経路を明確化。
「歩留まり率(ぶどまりりつ)」とは、ここでは「採用の各段階で、次のステップに進めた応募者の割合」を意味します。歩留まり率を分析することで、「どの段階で多くの応募者が脱落しているか」「採用のどこに課題があるか」を特定し、採用活動の改善につなげることができます。
たとえば、「面接の歩留まり率が低い場合、面接官の評価基準を見直すべきかもしれない」などの施策が考えられます。
2.従業員のパフォーマンス向上と人材育成
「成果を出している社員」と「そうでない社員」の違いを明確にし、人材育成の視点を取り入れながら、効果的な育成・評価制度を構築することができます。
データ分析の活用例
- 優秀な社員の行動特性を分析し、社内の研修プログラムに反映。
- 営業職であれば、過去の成績と行動データ(アポイント件数、商談時間など)を分析し、成功パターンを見出す。
3.従業員の定着率向上
企業にとって、優秀な社員が長く活躍できる環境を作ることは重要です。人事データ分析を活用することで、従業員が働きやすい環境を整え、適切な支援やサポートを行うことが可能になります。
データ分析の活用例
- 勤務時間、給与満足度、エンゲージメント調査の結果などを組み合わせ、働きがいを感じやすい要因や課題を把握。
- 定着率が高い社員のこれまでの職務経験や昇進の傾向を分析し、適切な成長支援やスキルアップの機会を提供。
- 過去のデータから、定着率の高い社員に共通する条件(職場環境、キャリアの進み方、福利厚生など)を特定し、それを活かした職場改善を実施。
4.人材配置の最適化
従業員のスキル・適性をデータで可視化し、最適な配置を行うことで、組織全体の生産性を向上させることができます。
データ分析の活用例
- 各社員のスキルや強みを可視化し、プロジェクトごとの最適な人員配置を実施。
- 新規事業立ち上げの際に、過去のデータを基に適性の高い人材を配置する。
5.エンゲージメントの向上
エンゲージメントの高い社員は、業績が向上し、離職率も低下すると言われています。
データ分析の活用例
- 定期的な従業員満足度調査のデータを活用し、職場環境の改善ポイントを特定。
- 社員のモチベーションやストレスレベルをリアルタイムで把握し、適切なフィードバックを提供。
2.人事データ分析のメリット
人事データ分析を導入することで、企業や従業員にとってどのようなメリットがあるのでしょうか?
1.客観的で公平な評価が可能になる
従来の人事評価では、上司の主観や思い込みが評価に影響することがありました。しかし、データに基づく評価を導入することで、より公平で納得感のある評価が可能になります。
たとえば、営業職の評価において、「成約件数」や「商談数」といったデータを活用することで、客観的な評価基準を設定できます。
2.経営の意思決定をサポート
人事データを経営戦略と連携させることで、「どの部門に人材を強化すべきか」「将来的に必要となるスキルは何か」といった経営判断をより精度高く行うことができます。
たとえば、今後の事業拡大を見据えて、「どの部署でどのスキルを持つ人材が不足しているのか」をデータ分析によって把握し、適切な採用・育成計画を立てることができます。
3.離職率の低減と組織の安定
離職が多発すると、採用コストが増加し、組織の安定性が失われます。人事データ分析を活用することで、離職リスクの高い社員を特定し、必要なサポートを提供することができます。
たとえば、過去の退職者データを分析し、「転職活動を始める前にどのような兆候があったのか」を把握することで、事前に対策を打つことが可能になります。
4.社員の成長を促進
人事データを活用することで、社員のスキルや経験に応じた適切な人材育成計画を提供できるようになります。
たとえば、研修プログラムの効果をデータで分析し、「どの研修を受けた社員がその後の業績向上につながったのか」を明らかにすることで、より効果的な育成施策を実施できます。
5.業務の効率化
データを活用することで、人事業務の自動化・効率化が可能になります。
たとえば、AIを活用して応募者の履歴書を分析し、企業の求めるスキルとの適合度を判定することで、採用活動の効率を向上させることができます。
データを活用することで、優秀な人材の確保、従業員の定着率向上、公平な評価の実現など、企業にとって多くのメリットをもたらします。また、経営判断の精度向上や人事業務の効率化にもつながり、組織全体のパフォーマンスを高めることができます。
人事データ分析を戦略的に活用し、データに基づいて意思決定を行う組織づくりを進めることで、企業の持続的な成長を実現しましょう。
関連コンテンツ
人事データ分析の課題

人事データ分析は、採用の最適化や従業員の定着率向上、エンゲージメントの強化など、多くのメリットをもたらします。しかし、導入すればすぐに効果が出るわけではなく、さまざまな課題が存在します。
ここでは、人事データ分析を実施する際に直面しやすい課題と、その解決の方向性について詳しく解説します。
1.データの収集と管理の難しさ
1.データが分散している
人事データは採用、評価、勤怠、エンゲージメント、離職など、複数のシステムに分かれて管理されていることが多く、必要なデータを統合するのが難しい場合があります。
具体的な課題例
- 採用管理システム(ATS)、勤怠管理システム、人事評価システムがバラバラに管理されており、統合分析ができない。
- データフォーマットが異なり、一元的な分析がしづらい。
解決の方向性
- データの一元管理を目指し、HRテックツールを活用する。
- クラウド型の統合人事システム(HRIS)を導入し、データを一括管理する。
2.データの正確性の担保
データの入力ミスや更新漏れがあると、分析結果の信頼性が低下します。また、勤怠データや評価データが適切に記録されていないと、正確な分析が難しくなります。
具体的な課題例
- 手入力によるデータの誤りや抜け漏れが発生しやすい。
- 一部の部署がデータ入力を怠り、分析対象データが不完全になる。
解決の方向性
- 入力作業の自動化(例:勤怠管理システムと連携させる、AIで入力ミスを検知する)。
- データガバナンスの強化(データの正確性を保つためのルールを設定し、定期的にデータの品質チェックを行う)。
2.データ分析のスキル不足
1.人事担当者の分析スキルの課題
多くの企業では、人事部門にデータ分析の専門家がいないため、データを適切に活用するのが難しい場合があります。
具体的な課題例
- エクセルを使った簡単な分析はできるが、高度な統計分析やAIを活用した予測分析はできない。
- BI(ビジネスインテリジェンス)ツールやデータベースの扱いに不慣れ。
解決の方向性
- 人事部門の業務に必要な新しいスキルの習得(データ分析スキルの研修を受講する)。
- データサイエンスの専門家と連携し、人事部とデータ分析チームの協働体制を構築する。
2.適切な分析手法の選定
データを収集しても、どのような手法で分析すればよいのかわからない企業も多いです。
具体的な課題例
- 退職リスクを分析したいが、どの変数を使えばよいかわからない。
- 採用基準を見直したいが、過去のデータをどのように活用すればよいのか判断できない。
解決の方向性
- シンプルな分析からスタートし、徐々に高度な分析へ移行する。
- 外部のHRアナリティクスの専門家やコンサルタントの支援を受ける。
3.データ活用に対する社内の理解不足
1.人事データ分析への抵抗感
「人事にデータ分析は不要」という考えを持つ経営者や管理職がいると、データ活用が進みにくくなります。
具体的な課題例
- 「社員の働きぶりは数字では測れない」といった意見が出る。
- 上層部が経験や勘に頼った意思決定を好み、データを活用しない。
解決の方向性
- データ分析の成功事例を社内で共有し、メリットを伝える。
- 小さなプロジェクトで成果を出し、データ分析の有効性を証明する。
2.従業員の不安や不信感
従業員が「データを監視されている」と感じると、エンゲージメントが低下する可能性があります。
具体的な課題例
- 「データが評価にどのように使われるのか不透明」と感じる社員が増える。
- 「数値だけで評価され、実際の努力が評価されないのでは?」という不安。
解決の方向性
- データ活用の目的を明確に伝え、透明性を確保する(例:「個人を監視するのではなく、働きやすい環境を作るために活用する」と説明)。
- 社員の意見を取り入れながら運用を進める(アンケートを実施し、不安に感じる点を聞き取る)。
4.データの活用と実践のギャップ
1.分析結果が施策に活かされない
データを分析しても、実際の人事施策に活かせなければ意味がありません。
具体的な課題例
- 離職リスクの高い社員を特定したが、必要な支援や対応を行う仕組みが整っていない。
- エンゲージメント調査を実施したが、結果が共有されず放置される。
解決の方向性
- データ分析の結果を基に行動計画を策定し、施策に落とし込む。
- 経営層・マネージャーにもデータを共有し、意思決定に活用してもらう。
2.PDCAの仕組みが確立されていない
データを活用した人事施策は、一度実施して終わりではなく、継続的に改善していく必要があります。
具体的な課題例
- 採用のデータ分析を行ったが、次年度以降に活用されない。
- 施策の効果測定をしていないため、何が成功しているのかがわからない。
解決の方向性
- データ活用のPDCA(Plan=計画→Do=実行→Check=検証→Act=改善)サイクルを確立する。
- 定期的に分析結果を振り返り、次の施策につなげる。
PDCAとは、業務や施策を継続的に改善していくための考え方で、データ分析を活用した人事施策においても重要なフレームワークとなる。
人事データ分析には多くのメリットがありますが、導入には以下のような課題が伴います。
1.データの収集と管理の難しさ(データの分散・正確性の問題)
2.データ分析のスキル不足(人事部の新しいスキル習得、専門家との連携)
3.データ活用に対する社内の理解不足(経営層・従業員の不安や抵抗感)
4.データの活用と実践のギャップ(分析結果を施策に反映し、PDCAを回す仕組みづくり)
これらの課題を乗り越えることで、人事データ分析を経営の意思決定に活かし、より効果的な人材マネジメントが可能になります。
一般的な流れと各フェーズのポイント

効果的な人事データ分析を行うためには、適切な手順を踏むことが重要です。
ここでは、人事データ分析の一般的な流れと各フェーズのポイントを解説します。
1.人事データ分析の一般的な流れ
人事データ分析は、次の5つのフェーズで進めるのが一般的です。
1.目的の設定
2.データの収集
3.データの整理・前処理
4.データの分析
5.施策の実行と評価
この流れを理解し、各フェーズでの重要ポイントを押さえることで、効果的な人事データ分析が可能になります。
2. 各フェーズのポイント
1.目的の設定:何を分析し、どのような課題を解決するのか?
人事データ分析を成功させるためには、まず明確な目的を設定することが不可欠です。データを収集しても、目的が曖昧では適切な施策につなげることができません。
目的設定のポイント
- 「何のためにデータを分析するのか?」を明確にする。
- 具体的な課題を特定する(例:「離職率を10%改善したい」「営業職の採用成功率を向上させたい」)。
- 分析結果がどのように経営や人事施策に活かせるのかを考える。
目的設定の例
採用分析
「どの採用経路から入社した社員が定着しやすいかを明らかにする」
離職予測
「過去の離職データを分析し、退職リスクの高い社員の特徴を特定する」
パフォーマンス分析
「業績が高い社員の共通点を見つけ、育成プログラムを最適化する」
2.データの収集:適切なデータを集める
目的が明確になったら、必要なデータを収集します。人事データには、以下のような種類があります。
主な人事データの種類
データカテゴリ | 具体的なデータの例 |
---|---|
採用データ | 応募者数、応募経路、選考通過率、適性検査結果、面接評価、内定承諾率、採用後の定着率 |
評価データ | 業績評価、スキル評価、昇進履歴、360度フィードバック |
勤怠データ | 出勤・退勤時間、残業時間、有給消化率、休職履歴 |
従業員エンゲージメント | 従業員満足度調査、離職率、組織内コミュニケーション状況 |
生産性データ | 各従業員のKPI達成率、プロジェクト貢献度 |
キャリアデータ | 昇進スピード、異動履歴、研修受講履歴 |
データ収集のポイント
- 収集するデータは、目的と直接関連があるものに限定する。
- データの正確性を確保する(入力ミスや不完全なデータがないか確認)。
- 必要に応じて、外部データ(市場データや競合データ)を活用する。
3.データの整理・前処理:データの品質を高める
収集したデータがそのまま分析に使えるとは限りません。データの欠損値(空白のデータ)、重複、異常値などを整理することが必要です。
データ整理のポイント
欠損値の処理
データが不足している部分を補完する、または除外する。
異常値の確認
極端に大きな数値や明らかに間違ったデータをチェックする。
データ形式の統一
フォーマットがバラバラなデータ(例:日付の書式が異なる)を統一する。
データの品質が低いと、分析結果の精度も下がるため、慎重な前処理が求められます。
4.データの分析:適切な手法を選択
データを整理したら、実際に分析を行います。分析方法は、目的によって異なります。
分析の種類 | 活用例 |
---|---|
統計分析 | 採用の成功率、離職率の傾向分析 |
機械学習(AI) | 離職予測モデル、エンゲージメントスコアの予測 |
可視化(BIツール) | 評価データを分かりやすくまとめる (例:社員の評価スコアを折れ線グラフや棒グラフで変化を示したり、部門ごとの比較を分かりやすく表示したりする) |
データ分析のポイント
- シンプルな分析から始める(基本的な統計分析 → 高度な機械学習)。
- データの相関関係を理解する(例:「残業時間が長いほど離職率が高いのか?」)。
- BIツール(例:Tableau、Power BI)を活用し、可視化して社内で共有しやすくする。
5.施策の実行と評価:データを活かす
分析結果をもとに、人事施策を実行します。重要なのは、施策を実行した後にその効果を検証し、必要に応じて改善を行うことです。
施策実行のポイント
- データ分析の結果を具体的な計画につなげる(例:「退職リスクの高い社員には、1on1面談を増やす」)。
- PDCAサイクル(計画→実行→検証→改善)を回し、継続的に見直す。
- 施策の効果を測定し、次回の分析にフィードバックする。
実施後の評価例
- 新しい採用施策を導入した後、定着率が向上したかを検証。
- 研修プログラムを見直した結果、業績が向上したかを分析。
人事データ分析の流れは、大きく「目的設定 → データ収集 → データ整理 → 分析 → 施策の実行・評価」の5つのフェーズで構成されます。
フェーズ | ポイント |
---|---|
目的の設定 | 分析の目的を明確にし、具体的な課題を特定する。 |
データの収集 | 必要なデータを適切に集め、正確性を確保する。 |
データの整理 | 欠損値・異常値を処理し、データの品質を向上させる。 |
データの分析 | 目的に応じた分析手法を選択し、結果を可視化する。 |
施策の実行と評価 | 分析結果をもとに施策を実行し、PDCAを回す。 |
人事データ分析を成功させるためには、単にデータを集めるだけでなく、その結果をどのように人事戦略に活かすかが重要です。
分析に使えるツールと選び方

人事データ分析を行う際、適切なツールを活用することで、データの収集・整理・可視化・分析がスムーズに進みます。しかし、ツールにはさまざまな種類があり、企業の目的や状況に応じた選択が必要です。
以下では、人事データ分析に使える主なツールの種類と、選び方のポイントについて紹介します。
1. 人事データ分析に使えるツールの種類
人事データ分析に活用できるツールは、大きく以下の5つに分類できます。
1.統合型人事管理システム(HRIS・HRTech)
2.データ可視化・BIツール
3.統計・機械学習ツール
4.エンゲージメント分析ツール
5.勤怠・生産性管理ツール
1.統合型人事管理システム(HRIS・HRTech)
統合型人事管理システム(HRIS=Human Resource Information System)は、人事情報を一元管理し、データの収集・分析を容易にするツールです。統合型人事管理システム(HRIS・HRTech)には、タレントマネジメントシステム(TMS)を含むものもあり、人事情報の一元管理とともに、従業員のスキルやキャリアの可視化・育成を支援する機能を持つものもある。
代表的な機能
- 人事データの統合管理(採用情報、勤怠データ、評価情報、給与情報など)
- ダッシュボード機能(リアルタイムで人事データを可視化)
- 従業員のスキルやキャリアの管理
主なツール
ツール名 | 特徴 |
---|---|
カオナビ | 人事データの一元管理、評価制度の運用に強み |
HRBrain | 人事評価やタレントマネジメントに特化 |
SmartHR | 人事・労務管理の効率化、給与データとの連携 |
選び方のポイント
- 既存の人事データと統合できるか(他のシステムとの連携性)
- 分析機能がどの程度備わっているか(可視化・レポート作成機能)
- 操作性の良さ(誰でも簡単に使えるか)
2.データ可視化・BIツール
データ可視化・BI(Business Intelligence)ツールは、人事データをわかりやすいグラフやダッシュボードにまとめ、意思決定に役立てるためのツールです。
代表的な機能
- リアルタイムでのデータ可視化
- KPI(主要業績指標)のモニタリング
- レポート作成・共有機能
主なツール
ツール名 | 特徴 |
---|---|
Tableau | 直感的な操作でデータの可視化が可能 |
Microsoft Power BI | Excelとの親和性が高く、コストパフォーマンスが良い |
Google Looker | クラウドベースで大規模データの分析に強い |
選び方のポイント
- データの接続性(HRISやExcelなどと連携できるか)
- 可視化のしやすさ(ダッシュボードのカスタマイズ性)
- コストと機能のバランス(無料プランや企業向けプランの比較)
3.統計・機械学習ツール
データを高度に分析し、離職予測や採用成功率の向上などに活用できるのが、統計・機械学習ツールです。
代表的な機能
- 統計分析・相関分析
- 機械学習を活用した予測モデル
- データクレンジング(データ整理)
主なツール
ツール名 | 特徴 |
---|---|
Python(pandas, scikit-learn) | 高度なデータ分析・機械学習に活用可能 |
R(RStudio) | 統計解析に強みがあり、データ分析の専門家向け |
IBM SPSS | GUIベースで操作しやすい統計解析ツール |
選び方のポイント
- 人事部門で扱えるか(専門知識が必要か、使いやすいか)
- AI・機械学習をどこまで活用したいか
- データのセキュリティと管理体制
4.エンゲージメント分析ツール
従業員の満足度やモチベーションを数値化し、組織の課題を特定するためのツールです。
代表的な機能
- 従業員アンケートの自動実施
- エンゲージメントスコアの可視化
- 離職リスクの予測
主なツール
ツール名 | 特徴 |
---|---|
Wevox | 定期的なアンケートで組織の課題を可視化 |
モチベーションクラウド | エンゲージメント向上施策の提案機能が充実 |
Qualtrics | 詳細な調査とデータ分析が可能 |
選び方のポイント
- 自社の課題に合った分析ができるか
- 定期的なフィードバックが可能か
- 組織の変化をリアルタイムで把握できるか
5.勤怠・生産性管理ツール
従業員の勤務状況や生産性を把握し、働き方の最適化を支援するツールです。
代表的な機能
- 勤務時間の管理
- 残業時間・有給取得率の可視化
- 業務効率の分析
主なツール
ツール名 | 特徴 |
---|---|
KING OF TIME | 勤怠管理に特化し、シンプルな操作性 |
ジョブカン | 勤怠・工数管理など幅広く対応 |
Workday | グローバル企業向けの人事管理機能も搭載 |
選び方のポイント
- 勤怠データと人事データを統合できるか
- 生産性向上に役立つ指標が取得できるか
- クラウド対応でリモートワークにも対応できるか
2.人事データ分析ツールの選び方
ツールを選ぶ際には、以下のポイントを考慮すると良いでしょう。
1.目的に合った機能が備わっているか
例:「離職予測を行いたい」→統計・機械学習ツール
「採用データを可視化したい」→BIツール
2.既存システムと連携できるか
HRISや勤怠管理システムとデータが連携できるかを確認。
3.コストと導入しやすさ
小規模企業なら、無料版や低コストのツールから試すのも有効。
4.データのセキュリティ
個人情報を扱うため、セキュリティ対策が十分かを確認。
人事データ分析に活用できるツールは多岐にわたります。それぞれのツールの特徴を理解し、自社の目的や課題に合ったものを選ぶことが重要です。
人事データ分析を経営の武器にするために
これまでのコラムを通じて、人事データ分析の基本概念から、その重要性、具体的な活用方法、導入の課題、流れ、ツールの選び方までを詳しく解説してきました。
データ活用が進む現代において、人事領域においても「経験や勘に頼った意思決定」から「データに基づく客観的な意思決定」へと移行することが求められています。採用、育成、評価、配置、エンゲージメント向上といったあらゆる場面で、人事データ分析を活用することで、組織の成長を支える「人的資本」を最大限に活かすことが可能になります。
しかしながら、データ分析は単にツールを導入すれば成功するものではありません。
- どのような課題を解決したいのかを明確にすること
- 適切なデータを収集し、正しく整理・分析すること
- 分析結果をもとに具体的な施策を実行し、PDCAを回しながら改善を続けること
これらを意識しながら、人事データ分析を実践することが重要です。
人事データ分析は、単なる業務効率化の手段ではなく、「企業の成長戦略そのもの」と捉えることができます。データを活用し、従業員一人ひとりのパフォーマンスを最大化できる組織を作ることが、持続的な競争優位性を築く鍵となるでしょう。
本コラムが、人事データ分析の導入や活用を検討されている経営者・人事担当者の皆様にとって、実践のヒントになれば幸いです。
監修者

- 株式会社秀實社 代表取締役
- 2010年、株式会社秀實社を設立。創業時より組織人事コンサルティング事業を手掛け、クライアントの中には、コンサルティング支援を始めて3年後に米国のナスダック市場へ上場を果たした企業もある。2012年「未来の百年企業」を発足し、経済情報誌「未来企業通信」を監修。2013年「次代の日本を担う人財」の育成を目的として、次代人財養成塾One-Willを開講し、産経新聞社と共に3500名の塾生を指導する。現在は、全国の中堅、中小企業の経営課題の解決に従事しているが、課題要因は戦略人事の機能を持ち合わせていないことと判断し、人事部の機能を担うコンサルティングサービスの提供を強化している。「仕事の教科書(KADOKAWA)」他5冊を出版。コンサルティング支援先企業の内18社が、株式公開を果たす。
最新の投稿
1 組織戦略・マネジメント2025年2月7日組織論が果たす役割とは?
2 人事評価制度2025年1月5日人事異動の内示を正しく伝える方法を解説!トラブル回避のポイントとは?
2 人事評価制度2025年1月3日人事異動の決め方とは?成功のためのポイントを解説
5 部下指導・育成2024年12月31日リスキリングとは?社員研修における研修解説
コメント