組織を横断的に動かしたい、限られた人材を最大限に活かしたい——。
そんな課題を抱える経営者や人事担当者のみなさまに向けて、マトリックス組織とは何か、その導入メリット・デメリットについてご紹介!他の組織形態との違いまでを分かりやすく解説します。
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マトリックス組織とは

〜人材を横断的に活用し、事業のスピードと柔軟性を高める仕組み〜
マトリックス組織とは、「職能(機能)別」と「事業(製品・顧客・地域)別」の2つの視点で組織を編成する形態です。
一般的な組織では、営業部、開発部、人事部など縦割り(機能別)に分かれていますが、マトリックス組織ではそれに加えて、たとえば「A事業部」や「東日本プロジェクト」などの横軸も持ち、1人の社員が2つの指揮命令系統のもとで働くという構造になります。
このような構造は、「ダブルボス制(Two-Boss System)」とも呼ばれ、担当業務ごとに異なる上司(機能上司とプロジェクト上司など)から指示を受けるのが特徴です。
たとえば、こんなイメージです
ある営業担当の社員が、「営業部の上司(課長)」の指示を受けつつ、「新製品開発プロジェクトのリーダー」からも同時に依頼を受ける。
このように、社員が縦軸(職能)と横軸(プロジェクト・事業)を行き来しながら業務にあたることで、組織全体の連携とスピードが向上します。
- 縦のライン:営業、開発、マーケティングなどの専門部門
- 横のライン:A製品、B製品、C製品といった製品別のチームや、特定顧客・プロジェクト別のチーム
- 交差点に配置された社員:それぞれの「職能上司」と「事業上司」双方とやり取りしながら業務を遂行
このように、人材の能力を固定された部署だけでなく、組織横断的に最大活用できるのがマトリックス組織の最大の強みです。
なぜ今、マトリックス組織が注目されているのか?
現代のビジネスは、スピード・顧客ニーズの多様化・グローバル対応など、組織に対して高い柔軟性と連携力が求められています。
マトリックス組織は、以下のようなニーズに応える形で導入されることが増えてきました。
- 多様な専門人材を横断的に活用したい
- プロジェクトごとに最適なチームを編成したい
- 顧客志向・事業別の視点を強化したい
- 部署間の壁をなくし、情報共有を促進したい
とくに製品開発、IT、コンサルティング、グローバル展開企業など、複雑な業務を担う企業で導入が進んでいます。
マトリックス組織の本質は「調整力」と「信頼関係」
ただし、マトリックス組織は「形」をつくるだけでは成果に結びつきません。
重要なのは、2つの指揮命令の間で社員が混乱しないためのルール設計と、職能部門・事業部門の間にある信頼関係の構築です。
マトリックス組織の種類
〜プロジェクト推進の「力のバランス」で分かれるタイプ〜
マトリックス組織は、「職能部門」と「プロジェクト部門」の2つの指揮系統を持つ点が特徴ですが、実際に導入する際には「どちらの指揮系統が強いか?」によって、3つのタイプに分けられます。
それぞれの特徴と向いている状況を見ていきましょう。
1.バランス型マトリックス組織
〜両者の力を釣り合わせ、協働を促す〜
バランス型は、職能部門とプロジェクト部門の力関係がほぼ同等で、両者が協力し合う形で業務を進めます。
プロジェクトごとに専任リーダーを1名配置し、全体の進捗を把握しながらチームをけん引していきます。
一方で、部署や事業部側の上司も存在しており、現場のメンバーは「2人の上司」から指示を受けることになります。
メリット
- プロジェクトの全体像をつかみやすく、進捗の管理がしやすい
- 部門間の連携が取りやすく、全体最適を実現しやすい
デメリット
- 指示の調整に手間がかかる
- 上司間の連携不足があると、現場で混乱が起きやすい
向いているケース
- 規模の大きいプロジェクトを複数同時に進めている企業
- 事業・職能両面での意思決定が重要な組織
2.ストロング型マトリックス組織
〜プロジェクトリーダーが主導する強力推進型〜
ストロング型では、プロジェクト側に大きな権限が集中します。
リーダーはプロジェクト業務に専念できる体制で、他部門のマネージャーよりも強い意思決定権を持つ場合もあります。
プロジェクトの推進力を重視する組織にとっては、非常に効果的な構造です。
メリット
- 指揮命令が明確で、プロジェクトのスピードが速い
- 専任のリーダーが意思決定を担うことで、統率力が強まる
デメリット
- 専任体制の構築に人材・コストがかかる
- 職能部門の育成や業務との両立が難しくなる場合がある
向いているケース
- 組織を挙げて取り組む大規模プロジェクト
- 新規事業開発や短期間での成果が求められる場面
3.ウィーク型マトリックス組織
〜現場メンバーの裁量に任せたフラットな構造〜
ウィーク型では、プロジェクトリーダーを明確に置かず、現場メンバーの裁量で進めていく形式が中心です。
1人ひとりが自分の判断で動き、柔軟かつスピーディに対応することを重視します。
メリット
- 意思決定のスピードが速い
- 組織の縛りが少なく、柔軟な対応が可能
デメリット
- 情報共有が不十分になりやすく、進捗が不安定になることも
- プロジェクトの質がメンバーの力量に左右されやすい
向いているケース
- 少人数で進めるスピード重視のプロジェクト
- スタートアップや臨機応変な判断が求められる業務
どのタイプが自社にフィットするか?
マトリックス組織は、万能ではありません。
だからこそ、以下の観点から自社の特性に合ったスタイルを選ぶことが大切です。
- プロジェクトにどれだけの権限と予算を持たせたいか?
ストロング型はリーダーに大きな裁量を与える分、組織全体の調整力や経営資源の分配判断が求められます。
一方、ウィーク型ではプロジェクトごとの負担や自由度は小さくなりますが、軽やかな運営が可能です。
- 現場メンバーの自律性や経験値はどの程度あるか?
ウィーク型は個々の判断力が前提になるため、自律的な働き方が浸透している組織には向いています。
一方で、新人や未経験者が多い職場では、明確なリーダーやルールを用意した方が混乱が少なくなります。
- 組織の文化は「調整型」か「トップダウン型」か?
ここでいう「調整型」とは、関係者同士で意見をすり合わせて意思決定を進める文化を指します。
反対に「トップダウン型」とは、上位者の判断が最優先され、指示命令が明確な文化です。
マトリックス型、とくにバランス型は「調整型」の文化に馴染みやすく、お互いの立場を尊重しながら進める姿勢がある組織に向いています。
トップダウン文化が強い組織では、ストロング型を選んだ方が運用がしやすい場合もあります。
また、最初から完璧な形を目指す必要はありません。
たとえば、最初は「ウィーク型」や「バランス型」から小規模に導入し、少しずつ組織に馴染ませながら、必要に応じて「ストロング型」へと移行していく——こうした段階的な進行のしかたも効果的です。
マトリックス組織を導入するメリット
〜変化の激しい時代に求められる「柔軟で強い組織」〜
マトリックス組織の導入には一定の設計や調整力が求められますが、それを上回る多くの経営的・組織的メリットがあります。ここでは、マトリックス型の導入で得られる主な利点を紹介します。
1.人材の有効活用が進む
マトリックス組織では、部署の枠を超えてプロジェクトに人を配置できるため、人材を組織全体で共有・活用できる仕組みができます。
- 一部の部署に偏っていたスキルや経験が、他部門にも広がる。
- 必要な人材をプロジェクトごとに柔軟に配置できる。
- 仕事の少ない時期の社員にも他のチームで活躍してもらえる仕組みが作れるため、人材をムダなく活かせる。また、さまざまな経験を通じて一人ひとりの仕事の幅が広がっていく。
特に中堅・中小企業においては、「限られた人数で成果を出す」必要があるため、この柔軟な人材活用は大きな武器になります。
2.部門間の連携が深まり、情報共有が進む
従来の縦割り組織では、「営業は営業」「開発は開発」といったように、部門ごとに閉じてしまい、お互いの連携が取りにくくなることがよくあります。
しかし、マトリックス組織では職能とプロジェクトが交差することで、部門間のコミュニケーションが自然と活性化されます。
- 部門をまたぐメンバー同士のつながりができる
- 顧客情報や技術情報がリアルタイムで共有されやすくなる
- 組織のスピード感や一体感が生まれる
このような横断的な連携は、顧客対応の迅速化や、課題発見・解決力の向上にもつながります。
3.プロジェクトの推進力・機動力が高まる
マトリックス組織では、プロジェクトごとに最適なメンバーを集めてチームを組成できます。
そのため、専門性と現場感の両方を備えた、スピード感ある意思決定と実行が可能になります。
たとえば、
- 新製品開発に営業・開発・マーケティングを同時参画させる
- 顧客対応チームに、現場と本社の両方からメンバーを選出する
といった形で、課題に対してすぐに取り組める体制が整うのです。
4.社員の視野が広がり、成長につながる
マトリックス組織では、職能の枠を超えて異なる分野のメンバーと協働するため、社員にとっても大きな学びと成長の機会となります。
- 他部署の業務や考え方に触れることで視野が広がる
- 自ら調整し、判断しながら動く力が身につく
- チームワーク・対人スキルが鍛えられる
これは、単なる「制度の変化」ではなく、組織文化や人材育成の質そのものを高める効果も期待できます。
実際に導入する企業の声
- 「営業と開発が協力して顧客対応をする体制になったことで、対応スピードが格段に上がった」
- 「管理職を中心に、全社的な視点で物事を考える人が増えてきた」
- 「属人化していた仕事を、チームで分担する体制が整ってきた」
このように、マトリックス組織の導入は、組織の成長エンジンとしての可能性を秘めています。
マトリックス組織を導入するデメリット
〜複雑さをどう乗り越えるかが成功につながるポイント〜
マトリックス組織は、多様な視点で人材を活用し、柔軟なチーム編成を可能にするメリットがある一方で、運用の難しさや混乱が生じやすい構造でもあります。
導入にあたっては、あらかじめ想定されるデメリットや課題を理解し、対応策を講じておくことが重要です。
1.指示系統が複雑になり、現場が混乱しやすい
マトリックス組織の最大の特徴は、1人の社員が2人の上司(職能上司とプロジェクト上司)から指示を受けるという点です。
しかしこれが裏を返せば、「どちらの指示を優先すべきか分からない」「異なる方向性の指示が出てしまう」といった混乱やストレスの原因になりやすいのです。
たとえば営業部に所属しながら新製品の開発プロジェクトに参加している社員が、「今日は外回りに集中してほしい(営業上司)」と「会議に出て提案資料をまとめてほしい(プロジェクト上司)」という相反する要望を受けた場合、どちらを優先すべきか迷ってしまいます。
2.調整に時間がかかり、スピード感を損なうことがある
指示の調整や優先順位の確認に手間がかかるため、物事の決定や実行に時間がかかるケースもあります。
特に、関係者が多くなると、各上司の意見をすり合わせたり、承認を得るまでの手順が複雑になったりして、意思決定のスピードが鈍ることも。
このような状況では、現場のメンバーや管理職が「気を遣いすぎて動けなくなる」「どこまで確認すればよいか不明確」といった状態に陥ることもあります。
3.評価制度が複雑になりやすい
2つの上司が存在するということは、評価の基準や責任の所在も2つに分かれるということです。
「誰がどこまでその社員の成果を評価するのか」が曖昧になりやすく、社員側も納得しにくい評価になってしまうことがあります。
たとえば、「本業では良い結果を出しているのに、プロジェクトでうまくいかなかったことが評価に響いた」あるいはその逆など、評価の不公平感につながる懸念も無視できません。
4.上司同士の信頼と連携が不可欠
マトリックス組織では、職能側の上司とプロジェクト側の上司が連携し、共通の目的に向かって進む必要があります。
しかし、両者のコミュニケーションがうまくいっていない場合、「うちの部署の人員が取られて困る」「あのプロジェクトは自分には関係ない」という縦割り意識や対立構造が生まれてしまうこともあります。
上司同士の関係が良好であれば柔軟に調整できますが、そうでなければ部下が板挟みになるリスクが高まります
デメリットを乗り越えるための視点
これらのデメリットは、マトリックス組織の仕組みそのものというよりも、運用面でのルールや文化の整備不足によって顕在化する課題です。
導入に際しては以下のような対策が重要です。
- 指示系統と優先順位の明文化
- 評価の仕組みの見直し(両上司による共同評価など)
- 上司同士の定期的な連携ミーティングの実施
- 社員への制度説明や、その後の継続的なサポートの実施
また、いきなり全社導入を目指すのではなく、特定部署やプロジェクトでの「パイロット導入」から始めることで、課題を見極めながら段階的に整備していくことが推奨されます。
他の組織形態との違い
〜なぜマトリックス組織が選ばれるのか?〜
マトリックス組織の特長をより深く理解するには、他の代表的な組織形態と比較してみることが効果的です。
ここでは、企業で多く採用されている「職能別組織」「事業部制組織」「プロジェクト型組織」と比較しながら、マトリックス組織ならではの特徴を解説していきます。
1.職能別組織(=機能型組織)との違い
(例:営業部、開発部、人事部などで構成される従来型)
「職能別組織」は、「営業」「開発」「人事」などの専門業務ごとに社員を分ける組織形態です。
この職能別組織は、「機能型組織(functional organization)」とも呼ばれ、基本的に同じ意味として使われます。実務上では「職能別組織」と呼ばれることが多く、企業内資料や研修などでもよく登場します。
この構造は、業務の効率化や専門性の向上には非常に有効です。
しかしその一方で、部門ごとに独立して動くため、他部門との連携が取りづらくなる(=サイロ化)という課題が起きやすいのも事実です。
マトリックス組織では、職能の強みを維持しながら、プロジェクトや事業の横軸で部門をまたいだチームを形成できるため、こうした縦割りの弊害を克服することができます。
職能別(機能型) | 専門性は高いが、部門間の壁ができやすい |
マトリックス | 専門性と横断性の両立を実現 |
2.事業部制組織との違い
(例:製品別・地域別・顧客別に部門を構成)
事業部制組織は、製品や地域ごとに独立した部門を持ち、それぞれが収益責任を持って動く自立型の構造です。
意思決定が現場に近く、スピーディな対応がしやすい点が魅力です。
ただし、同じような職能(例:営業や総務)が各事業部に存在するため、人材や時間、労力といった業務に必要な資源(=リソース)が重複し、非効率が生まれやすくなります。
マトリックス組織は、職能部門を全社で共有しつつ、事業の横軸も取り入れることで、組織全体での効率性と柔軟性の両立を図れます。
事業部制 | スピーディで現場志向だが、部門間に重複が出やすい |
マトリックス | 全社でリソースを共有しつつ事業対応が可能 |
3.プロジェクト型組織との違い
(例:期間限定の特命チーム)
プロジェクト型組織は、特定の目的達成のために社内から人を集めて、一時的な横断チームを編成する構造です。
短期間で成果を出したい時や新規事業を立ち上げたい場面で非常に有効です。
ただし、プロジェクト終了後の人材配置や評価が不透明になりがちで、継続性や人事制度との整合性が課題になることもあります。
マトリックス組織では、プロジェクト活動と職能部門が並立しているため、プロジェクトが終わった後も明確な帰属先があり、キャリア形成や評価がしやすいという利点があります。
プロジェクト型 | 短期集中には強いが、持続性・安定性に課題 |
マトリックス | 継続性を保ちながら、プロジェクトを柔軟に動かせる |
なぜ今、マトリックス組織が注目されるのか?
急速に変化するビジネス環境では、「専門性」だけでなく、「横の連携力」「柔軟な人材配置」「多様な働き方対応」など、複雑なニーズに応える組織構造が求められています。
マトリックス組織は、その多面的な要請に応えるための一つの選択肢であり、組織が変化に強くなるための「土台」になるのです。
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具体的な導入方法と導入時の注意点
〜「仕組みの導入」ではなく「組織の変革」である〜
マトリックス組織を導入するうえで、最も重要なのは「組織図を変えるだけでは成果は出ない」という認識です。
ここでは、導入の各段階(=フェーズ)ごとに踏むべきステップと、そのフェーズでの注意点を整理してご紹介します。
ステップ1:目的と導入範囲を明確にする
〜なぜマトリックス型なのか?を全社で共有〜
まずは、「なぜマトリックス組織を導入するのか」という導入目的を明確にし、その目的が現場にも伝わる形で共有されているかを確認しましょう。
よくある目的例
- 部門を超えて連携を強化したい
- 新規事業にスピードと柔軟性を持たせたい
- 限られた人材を全社的に有効活用したい
注意点
- 「仕組みを導入すること」が目的化しないように注意
- 経営陣の考えだけで進めるのではなく、管理職や現場で働く社員の声も反映させる
- 目的がぶれないよう、シンプルなキーワードで整理する(例:「部門横断のスピード強化」など)
ステップ2:組織図と役割・指揮系統を設計する
〜誰が誰に、何を指示するのかを明確に〜
マトリックス組織では、1人の社員に複数の指揮命令ルートが生まれるため、「役割と優先順位のルール」が必要不可欠です。
設計のポイント
- 組織図に、職能側とプロジェクト側の上司を明記
- 「どちらの上司が何を決めるのか」をルール化
- 優先順位の判断基準(例:緊急時はプロジェクト優先 など)を全社で共有
注意点
- 指示系統が不明確なまま進めると、社員が板挟みに
- 組織図の「線」だけでなく、「関係性」を言語化することが大切(例:日々の業務は誰に報告するか)
- 特に中間管理職にとって、負担が一時的に増えることを想定し、相談体制を整備する
ステップ3:評価制度・人事制度の見直し
〜「誰が誰を評価するのか」を明確に〜
マトリックス組織は「ダブルボス制」が基本となるため、評価制度にもその前提が反映されていなければ、不満や不信感につながります。
見直しポイント
- 職能とプロジェクト、双方の成果を見える化した評価項目を設定
- 上司同士での「共同評価」や「すり合わせ面談」の実施
- 評価結果のフィードバック時に、本人への納得感を意識
注意点
- 評価者の負担増や基準の不統一に要注意
- 中間管理職の「調整力」が問われるため、評価者研修の実施を検討
- 被評価者(社員)に対しても、「何が評価されるか」を丁寧に伝える場を設ける
ステップ4:マネジメント層の教育と連携強化
〜上司同士の連携が組織の強さを決める〜
マトリックス組織の本質は「縦と横のバランス」にあります。
このバランスを保つには、上司同士の信頼関係と情報共有の文化が不可欠です。
教育・連携のポイント
- 管理職に対して「合意形成」「優先順位判断」「ファシリテーション」の研修を実施
➡ 上司同士やメンバーとの対話を通じて方針を整える力、複数の業務や意見を調整して進める力を身につけることが目的です。
マトリックス組織では、指示を出すよりも「周囲を巻き込み、まとめていく力」が重視されます。
- プロジェクトと職能のリーダー同士で、定例の連携会議を設ける
➡ 日常的な情報共有の場をつくることで、指示の重複や矛盾を減らし、現場の混乱を防ぎます。
定例会議は「お互いの進捗状況を把握し、優先順位をすり合わせる場」として非常に効果的です。
- 調整・対話を前提とした「人間関係マネジメント」の意識づけ
➡組織を動かすのは“構造”だけでなく“人の関係性”です。
感情面のすれ違いや立場の違いを放置せず、対話で関係性を整える視点を、リーダー層が持つことが求められます。
単なる業務指示だけでなく、関係をマネジメントする力が組織の信頼を支えます。
フェーズの注意点
- 「誰が責任を持つのか」が曖昧になると、連携は空中分解しやすい
- 上司同士の対立が起こる可能性もあるため、一時的な対立を恐れず議論できる文化を育てることが重要
- リーダー層に「個人業績」ではなく「組織成果」への視点を持たせる
導入する際に確認しておきたいポイント
〜制度を機能させる“土台”はできていますか?〜
マトリックス組織は、その構造の複雑さから「制度や仕組み」を重視して導入されがちです。
しかし、制度を設計し、導入を進める前に確認しておきたいのが、それを支える“組織の土台”が整っているかどうかです。
制度そのものは完成していても、現場の文化や関係性、人材の状態が追いついていなければ、形だけの組織になりかねません。
ここでは、マトリックス組織を機能させるために、導入前に立ち返って確認すべき7つの観点をチェックリスト形式で整理します。
チェックリスト:マトリックス導入前に確認したい7つの視点
1.導入目的は明確で、社員にも共有されているか?
制度導入が「目的化」していないかを見直しましょう。
「部門連携の強化」「人材活用の柔軟性向上」など、シンプルで明確な導入目的があり、それが管理職や現場にも正しく伝わっているかが重要です。
2.組織に“部門横断の協力文化”はあるか?
マトリックス組織では、部門をまたいだ連携が常態化していなければなりません。
すでに部署を超えて協働した経験があるか、他部門と自然に情報共有できる風土があるかを確認しましょう。
もし未経験であれば、先に小規模な横断プロジェクトから始めるのも効果的です。
3.上司同士の信頼関係は築かれているか?
社員が混乱せずに働けるかどうかは、上司同士の信頼関係と連携の質にかかっています。
互いに相談できる関係か、進捗共有やすり合わせの習慣があるか。
「情報共有の文化」がなければ、マトリックス型はすぐに形骸化してしまいます。
4.指示の優先順位や役割分担が決まっているか?
「職能の上司」と「プロジェクトの上司」、どちらが何を決め、どこまで指示できるのか。
その線引きや優先順位ルールが曖昧だと、現場は迷い、ストレスを抱えます。
制度として文書化するだけでなく、運用イメージを現場に共有しているかも重要です。
5.評価制度はダブルボス体制に対応しているか?
マトリックス型では、2人の上司のもとで働く社員をどう評価するかが大きな論点です。
共同評価の仕組みがあるか、プロジェクト貢献と職能貢献のバランスをどう評価するかが明確になっているかをチェックしましょう。
「納得感のある評価」が制度への信頼を支えます。
6.管理職に求める役割とスキルは定義されているか?
マトリックス組織における管理職には、「調整」「合意形成」「関係構築」など、従来とは異なるマネジメントスキルが求められます。
役割定義が曖昧なままでは混乱が生じます。
マネージャーに何を期待するのか、そのための支援体制(教育や研修)はあるかを確認しましょう。
7.制度導入後の“サポート体制”は整っているか?
導入は“スタート”であって“ゴール”ではありません。
現場からの不安やつまずきをどう拾い、どのように改善していくか。
定期的な対話の場や相談窓口など、「運用を支える仕組み」が必要不可欠です。
組織の“内側”が整えば、制度は生きる
マトリックス組織の成否を分けるのは、「制度の巧妙さ」ではなく、人と人の関係性や信頼、対話の文化があるかどうかです。
導入前にこれらの観点を丁寧に見直すことで、制度が形だけに終わるのを防ぎ、本当に機能する柔軟な組織づくりが可能になります。
マトリックス組織の今後の課題
〜複雑な時代を乗り越える「運用力」が問われる〜
マトリックス組織は、変化の激しい時代に対応する柔軟な構造として注目されています。
しかしその一方で、「うまく運用できず形骸化してしまった」「混乱が増えた」といった声も少なくありません。
以下では、マトリックス組織の今後の課題と、それにどう向き合っていくかを考えます。
1.「運用力」が組織成果を左右する
マトリックス組織の導入において、最も大きな壁は“運用”にあります。組織図や制度を整えることはできても、それを日々の業務の中で活かし続けるには、管理職の力とそれを支える組織の考え方や習慣づくりが欠かせません。
たとえば、
- 役割があいまいなまま会議が増える
- 上司同士の調整が不十分で、社員が板挟みになる
- 評価が曖昧で、どの行動が評価されるのか分からない
といった状況が続くと、「柔軟な組織」のはずが、むしろ混乱と不満の温床になりかねません。
2.「責任の所在」が不明確になりやすい
マトリックス構造では、一人の社員が複数の上司と関わるため、「誰が最終責任者か」が見えにくくなる傾向があります。
これが進むと、責任回避や指示の押し付け合いが起きることもあります。
特に日本企業では「責任の明確化」よりも「和を重んじる文化」が根強いため、決定が先送りされる・忖度が働くといった問題が顕在化しやすくなります。
対策としては、単に役割分担をはっきりさせるだけでなく、誰がどうやって決めるのか、責任はどこまでなのかをルールとして文書にまとめ、継続的に見直していくことが大切です。
3.管理職の負担と役割の変化
マトリックス型で最も負荷がかかるのは「中間管理職」です。
指示・評価・調整・対話・合意形成…と、従来のマネジメントよりも求められる役割が多く・複雑になります。
そのため、
- 「上司としての役割が曖昧で疲弊している」
- 「プロジェクトと部門の間で板挟みになっている」
- 「自分の成果よりも人間関係の調整に時間を取られている」
といった声が上がりやすくなります。
企業としては、マネジメントの分担(共同責任体制)や教育支援の強化に本格的に取り組む段階に入っています。
4.制度の“定着支援”が不足しやすい
導入当初は意識が高くても、3か月・半年と経つうちに現場での運用が曖昧になっていくケースは非常に多く見られます。
特に、
- 部門によって運用レベルがバラバラ
- 評価基準や連携ルールが独自運用になってしまう
- 新任上司がマトリックス型の意味を理解していない
このような“制度疲労”は、導入後に現場の声を拾い、継続的に支える仕組みが不足していることの表れです。
今後は、「導入したら終わり」ではなく、「育てる組織制度」という考え方が不可欠になります。
5.「文化と制度のズレ」への対応
特に日本の企業文化では、「上下関係」や「所属意識」が強いため、マトリックス型のように「複数の軸を持つゆるやかな組織」は、最初は違和感を持たれやすいのが現実です。
- 指示命令は1本化されている方が安心する
- 所属感が強いため、「他部署との連携」に心理的な壁がある
- 忠誠心=上司への従順と捉えられる風土が残っている
このような文化的要素に配慮せずに構造を変えると、“制度”と“組織風土”の間にズレが生じ、機能不全に陥ります。
だからこそ、導入にあたっては「制度の説明」ではなく「意図と意味の対話」を重ね、徐々に文化を変えていく地道な取り組みが重要です。
マトリックス型は「進化する組織」への第一歩
マトリックス組織は、柔軟な人材活用・部門横断の推進・プロジェクト推進力の強化という面で、今後ますます注目される組織形態です。
ただし、それは「構造を取り入れるだけで成果が出る魔法の仕組み」ではなく、継続的な育成・対話・調整を前提とした“運用型の組織”です。
導入とともに「マネジメントを変える」「組織文化を育てる」ことに取り組むことで、
自社にとって本当に機能する「進化型の組織モデル」へとつながっていくでしょう。
〜マトリックス組織という選択を、現実に活かすために〜
本コラムでは、「マトリックス組織とは何か?」という基本から始まり、導入のメリット・デメリット、他の組織形態との違い、そして実践的な導入方法や注意点まで、段階を追って解説してきました。
マトリックス組織は、単に「柔軟でカッコいい新しい仕組み」ではありません。
それは、市場の変化が激しい今だからこそ求められる、“しなやかで強い組織”をつくるための一つの選択肢です。
ただし、導入したからといって、すぐに効果が現れるわけではありません。
むしろ大切なのは、制度をつくることよりも、それをどう現場で育て、根づかせ、対話と調整を通じて活かしていくかという「運用の姿勢」です。
現場と経営が向き合い、上司同士が支え合い、社員が納得して動ける仕組みへと整えていくには、時間と対話が必要です。
マトリックス組織は、“完成された形”として導入するものではなく、対話と実践を重ねながら、自社らしい姿に育てていくものなのです。
このコラムが、マトリックス型の導入を検討している皆さまにとって、
単なる知識の習得だけでなく、「どこから着手すべきか」「何に気をつけるべきか」といった実務のヒントや勇気のきっかけになれば幸いです。
組織の未来をより良いものにするために、
変化を恐れず、しかし丁寧に、一歩ずつ取り組んでいきましょう。
監修者

- 株式会社秀實社 代表取締役
- 2010年、株式会社秀實社を設立。創業時より組織人事コンサルティング事業を手掛け、クライアントの中には、コンサルティング支援を始めて3年後に米国のナスダック市場へ上場を果たした企業もある。2012年「未来の百年企業」を発足し、経済情報誌「未来企業通信」を監修。2013年「次代の日本を担う人財」の育成を目的として、次代人財養成塾One-Willを開講し、産経新聞社と共に3500名の塾生を指導する。現在は、全国の中堅、中小企業の経営課題の解決に従事しているが、課題要因は戦略人事の機能を持ち合わせていないことと判断し、人事部の機能を担うコンサルティングサービスの提供を強化している。「仕事の教科書(KADOKAWA)」他5冊を出版。コンサルティング支援先企業の内18社が、株式公開を果たす。
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