ガバナンスは、企業が健全な経営を実現し、持続的な成長を支える重要な管理基盤です。特に「コーポレートガバナンス」の強化は、透明性を高め、適切な統制を行うことで、リスク軽減と信頼構築に寄与します。本コラムでは、ガバナンスの意味や役割を解説し、企業が取り組むべき管理体制の強化方法を詳しくご紹介します。
ガバナンスとは

ガバナンスとは、組織や企業が持続可能な発展を遂げるために、その方向性や活動を統制し、目的達成を図る仕組みや考え方を指します。この言葉は、日本語で『統治』『支配』『管理』と訳されることが多く、経営の分野では『企業統治』として広く用いられています。
特に企業におけるガバナンスは、「コーポレートガバナンス」と呼ばれます。これは、経営者の意思決定を監視し、企業が株主、従業員、顧客など多様なステークホルダーの信頼を得ながら適切に運営される仕組みを意味します。
近年、企業活動の複雑化や社会的課題の多様化に伴い、これらステークホルダー間の利益調整がますます求められるようになり、ガバナンス、特に「コーポレートガバナンス」の重要性が一層注目されています。
ガバナンスの基本的な目的
ガバナンスの主な目的は、組織の効率性や透明性を確保し、信頼を築くことにあります。特に企業では、「コーポレートガバナンス」の視点から、取締役会を中心とした方向性の設定、業務執行の監視、リスク管理が重要とされます。この仕組みを強化することで、企業は透明性の高い経営を実現し、ステークホルダーの期待に応えることができます。
1.方向性の設定
組織が進むべき方向性を明確にし、その目標を達成するための戦略を策定します。経営トップや取締役会がこれを主導し、組織全体に浸透させることが求められます。
2.業務執行の監視
設定した目標や方針が現場で適切に実行されているかを監視します。この監視機能がないと、目標から逸脱した行動が見過ごされ、組織の信頼性を損なうリスクが生じます。
3.リスク管理
ガバナンスには、外部環境や組織内部の仕組みや働き方の変化に伴って生じるリスクを見極め、それに対応する力を高める役割もあります。これにより、予期せぬ問題が発生した場合でも、速やかに対応できる体制を整えることができます。
ガバナンスの対象
ガバナンスは、企業だけでなく、行政機関、教育機関、医療機関、NPO、地域コミュニティなど、あらゆる組織に適用されます。それぞれの組織の性質によって含まれる要素は異なる場合がありますが、共通して重要なのは、リーダーシップの発揮と透明性の確保です。
特に企業におけるガバナンス、つまり「コーポレートガバナンス」では、株主や投資家に対する責任を果たし、持続可能な成長を実現することが重要視されます。このため、企業はガバナンスの仕組みを強化し、透明性の高い経営を目指す必要があります。
ガバナンスが必要とされる背景
ガバナンスという概念は、1990年代以降、特に企業の経営において強調されるようになりました。その背景には、いくつかの要因があります。
1.企業不祥事の発生
世界的な経済活動の中で、経営者や従業員による不正行為が原因となる企業の不祥事が増加しています。これらの事例は、多くの場合、組織内の仕組みやルールを守るための管理体制が十分に整備されていないことが要因とされています。このような背景から、ガバナンスの重要性が改めて認識されるようになりました。
特に近年では、企業不祥事の増加を受けて「コーポレートガバナンス」が注目されています。「コーポレートガバナンス」は、不祥事の防止にとどまらず、経営の透明性や公正性を確保する仕組みとして機能し、企業の信頼性を支える重要な役割を果たします。
2.株主や投資家からの期待
株主や投資家にとって、企業が持続可能な成長を遂げるために適切に管理されていることは非常に重要です。特に上場企業では、企業価値を向上させるために「コーポレートガバナンス」の強化が不可欠とされています。
「コーポレートガバナンス」は、透明性の高い意思決定と責任ある経営を実現するための基盤となり、株主や投資家からの信頼を得るために欠かせない仕組みです。
3.多様化する社会的課題
近年では、ガバナンスが環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)を統合的に考慮するESG経営とも密接に結びついています。組織が環境負荷を軽減し、多様性を尊重する姿勢を示すことが、社会からの信頼を得るための重要な条件となっています。
ESG経営においても、「コーポレートガバナンス」は重要な位置を占めています。環境(E)や社会(S)への配慮とともに、ガバナンス(G)を統合的に考えることで、企業価値を高めることが可能となります。
ガバナンスの具体的な構成要素
企業における「コーポレートガバナンス」は、多くの場合、以下の構成要素から成り立っています。
1.取締役会
取締役会は、経営の方向性を定める最高意思決定機関であり、「コーポレートガバナンス」における中核的な役割を果たします。この機関は、経営方針の決定に加えて、独立した監視機能を持つことで、客観的かつ公正な意思決定を実現し、経営の透明性を確保します。
2.監査機能
「コーポレートガバナンス」に基づき、内部監査や監査役会が業務執行を監視します。この取り組みは、企業が持続可能な成長を遂げるための不可欠な基盤です。
3.リスクマネジメント体制
リスクを事前に特定し、対応策を講じるための専門部署や委員会を設置します。これにより、外部環境の変化に迅速に適応できる体制を構築します。
4.倫理基準の策定
組織全体で守るべき行動規範を策定し、全従業員に共有します。これにより、不正行為や倫理的に問題のある行動を防止します。
ガバナンスの進化
ガバナンスは、単なる不祥事防止の手段にとどまりません。現代では、戦略的な経営を支える重要な柱として位置付けられています。経営者は、ガバナンスを活用して組織全体の方向性を統一し、競争力を高めることが求められています。
特に、企業経営における「コーポレートガバナンス」は、戦略的な意思決定を支える仕組みとして、経営トップが積極的に活用すべき要素です。グローバル化やデジタル化が進む現代において、透明性のある経営と企業価値の向上を実現するための欠かせない基盤となっています。
ガバナンスは、組織が持続可能な発展を遂げるために不可欠な基盤です。ガバナンスは単なる管理や統制に留まらず、組織全体の成長と信頼構築を支える重要な要素でもあります。
特に現代のビジネス環境においては、急速な変化や多様なリスクに対応するため、より柔軟で効果的なガバナンスの導入が求められています。組織の方向性を統一し、効率的かつ透明性のある運営を実現するために、ガバナンスの強化を進めていきましょう。
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ガバナンスの必要性

ガバナンスの必要性を理解するためには、組織や企業が直面するリスクや課題、そしてそれらを乗り越えるために求められる管理体制の役割を考えることが重要です。
ガバナンスは、単なるルールの遵守にとどまらず、組織の持続可能な成長と社会的信頼の獲得を支える基盤として機能します。その必要性を具体的な観点から解説していきます。
1.組織運営の効率化と方向性の統一
ガバナンスは、組織が目指すべき目標や方向性を明確にし、それを実現するための枠組みを提供します。企業には経営戦略や業務目標が存在しますが、これらが現場で正しく理解されていなければ、部門ごとに異なる方向に進んでしまうことがあります。
ガバナンスを適切に機能させることで、組織全体で共通の方向性を持ち、業務の無駄や重複を削減できます。このことにより、効率的で一貫性のある運営が可能となるというメリットがあります。また、リソース(人材、資金、時間などの経営資源)を最大限に活用することができ、組織全体の生産性が向上します。
2.リスクの特定と未然防止
現代のビジネス環境は、急速な変化とともに多様なリスクが存在します。市場の変動、技術革新、法律の改正、社会的価値観の変化など、リスクの種類は多岐にわたります。
ガバナンスの重要な役割の一つは、これらのリスクを早期に特定し、被害が発生する前に対処する仕組みを整えることです。たとえば、法令違反のリスクに対しては、法律やルールを守るための体制を整備し、市場変動への対応策として柔軟な意思決定の仕組みを導入します。このような体制があることで、危機に直面した際の損失を最小限に抑えることができます。
3.ステークホルダーの信頼確保
企業は顧客、従業員、株主、地域社会など、多様なステークホルダー(利害関係者)と関わっています。これらのステークホルダーにとって、組織が信頼できる運営をしているかどうかは非常に重要です。ガバナンスを強化することで、透明性の高い意思決定や公正な運営が実現し、ステークホルダーからの信頼を得られます。
たとえば、株主は投資先の企業が適切な経営を行い、将来的な収益を確保することを期待しています。また、従業員は公正な評価や職場環境が整っていることを求めています。ガバナンスがしっかりしていれば、これらの期待に応えることができ、組織全体の安定性が向上します。
4.企業価値の向上
適切なガバナンスは、企業の長期的な成長を支え、価値を向上させます。特に上場企業では、投資家が企業を評価する際にガバナンスの水準が重要な指標となります。日本でも「コーポレートガバナンス・コード」が策定され、企業が透明性や公正性を高める努力をすることが求められています。
また、前章でも触れましたが、近年では環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3要素を考慮するESG投資が注目されています。ガバナンスが適切に機能している企業は、環境や社会への配慮が行き届いていると判断され、投資家や顧客から高い評価を受ける可能性が高まります。
5.不祥事や問題発生時の対応力向上
ガバナンスがしっかりしていない組織では、不祥事や問題が発生した際に迅速な対応が難しくなります。不正行為やコンプライアンス違反が表面化した場合、対応が遅れることで企業イメージが大きく損なわれる可能性があります。
一方で、ガバナンスが機能している組織では、問題発生時に役割分担や対応方針が明確化されているため、迅速かつ適切な対応が可能です。これにより、社会からの信頼を大きく失うことなく、問題を乗り越えることができます。
6.社会的責任の遂行
現代の企業は、単に利益を追求するだけでなく、社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)を果たすことが求められています。たとえば、環境への配慮や地域社会への貢献など、企業活動を通じて社会全体に良い影響を与える取り組みが必要です。
ガバナンスは、これらの社会的責任を遂行するための基盤を提供します。具体的には、経営方針に持続可能性を組み込み、事業活動が環境や社会に与える影響をモニタリングする仕組みを整えることが求められます。
このように、あらゆる面でガバナンスは重要な役割を果たします。ガバナンスは、組織が持続的に成長し、社会的信頼を獲得し続けるために欠かせないものです。
ガバナンスとコンプライアンス・内部統制との違い

組織を運営する上で重要な要素である「ガバナンス」「コンプライアンス」「内部統制」は、それぞれ異なる役割を持ちながらも、相互に関連しています。これらの違いを理解することは、組織が健全に機能するために不可欠です。本記事では、これらの用語の違いとそれぞれの関係性について詳しく解説します。
コンプライアンスとは?
コンプライアンスとは「法令遵守」と訳されることが多く、企業活動において法律や規則を守ることを指します。しかし、コンプライアンスの範囲は単に法令を守ることに留まりません。企業倫理や社会的責任を果たすことも含まれます。
たとえば、コンプライアンスには以下のような具体例があります。
- 労働基準法に基づいた適切な労働条件の設定
- 顧客情報の適切な管理と保護
- 環境への配慮を意識した事業運営
コンプライアンスの基本的な目的は、法令や社会的な規範に違反しないようにすることで、組織の信頼を守ることです。
内部統制とは?
内部統制とは、組織が目指す目的を達成するために作られた「具体的な管理の仕組みや手順」を指します。これにより、業務が効率的かつ効果的に進められるようにするだけでなく、法令違反や不正行為を防ぎ、財務報告の正確性と信頼性を確保する役割を果たします。
内部統制の例として、次のような具体的な仕組みがあります。
- 役割分担の明確化(1人がすべての作業や手順を担当しない)
- 定期的な業務監査の実施
- 取引記録や財務報告の適正性を確認するチェック体制
これにより、組織内の業務が適切に進められるようになり、リスクをしっかりと管理できるようになります。
ガバナンス・コンプライアンス・内部統制の違い
それぞれの違いを分かりやすく整理すると、以下のようになります。
項目 | ガバナンス | コンプライアンス | 内部統制 |
---|---|---|---|
目的 | 組織全体の方向性や統治を確立・監督する | 法律や規範の遵守を確保する | 業務の適正性や効率性を確保する |
対象 | 経営全体の枠組み | 法令、規則、社会的倫理 | 業務手順や運営体制 |
主な担い手 | 取締役会や経営層 | 組織全体 | 部署や部門内の管理者・責任者 |
具体的な内容 | リーダーシップ、リスク管理、透明性の確保 | 労働法、個人情報保護、環境保護 | 不正防止、財務報告の信頼性向上 |
相互の関連性
ガバナンス、コンプライアンス、内部統制は独立した概念ですが、それぞれが補完し合う関係にあります。
1.ガバナンスが基盤を形成
ガバナンスは、コンプライアンスや内部統制を適切に運用するための「方針」や「枠組み」を設定します。たとえば、企業の取締役会が「リスク管理を強化する」といった方針を決定すれば、その方針に基づき内部統制が設計され、コンプライアンスが具体的な行動指針として展開されます。
2.コンプライアンスが行動を規定
コンプライアンスは、ガバナンスの方針を具体的な行動レベルに落とし込みます。ガバナンスが透明性を強調する場合、コンプライアンスではたとえば「情報公開ポリシー」を定めるなどして行動を規定します。
3.内部統制が実務を支援
内部統制は、コンプライアンスを実行するための具体的な仕組みや管理方法を提供します。たとえば、従業員の不正を防ぐための監査システムや、不正なデータ改ざんを防ぐITセキュリティの導入などが該当します。
ガバナンス、コンプライアンス、内部統制は、いずれも組織運営に欠かせない重要な要素ですが、それぞれの役割や目的は異なります。ガバナンスが「方向性や統治」を示し、コンプライアンスが「法令や規範の遵守」を確保し、内部統制が「具体的な実務管理」を担うことで、組織は健全で持続可能な運営を実現できます。
この3つの要素をバランスよく実行し、相互に補完させることが、組織運営の成功につながります。組織全体を広い視点で見渡し、それぞれの役割を理解して、適切に機能させることが求められるでしょう。
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機能していないとどうなるのか

企業や組織において、ガバナンス(統治)の役割は、全体の方向性を明確にし、利害関係者の利益を守り、組織運営を適正に保つことです。しかし、もしガバナンスが十分に機能していない場合、組織にはさまざまな深刻な問題が生じる可能性があります。ここでは、ガバナンスが機能しない場合に起こり得るリスクや影響を具体的に解説します。
1.組織全体の不透明化
ガバナンスが機能していないと、組織の意思決定の流れが曖昧になり、方向性が不明確になります。その結果、以下のような問題が発生します。
経営目標が曖昧になる
目指すべきゴールが共有されていないため、各部門や社員がバラバラの方向に進み、効率的な運営が難しくなります。
意思決定の遅延
明確なルールや責任範囲が定められていないと、誰が最終的な判断を下すのかが不明瞭になり、意思決定が遅れる原因となります。
責任の所在が不明
トラブルが発生した場合に「誰が責任を負うのか」が不明瞭になり、問題解決が後回しにされることがあります。このような状況は、組織全体の信用を失う結果につながりかねません。
2.コンプライアンス違反のリスク増加
ガバナンスが弱い組織では、法令や規則に対する意識が低くなり、コンプライアンス違反が発生しやすくなります。具体例として以下が挙げられます。
不正行為や不祥事の発生
監視体制が不十分であるため、従業員による不正行為や経営陣の不適切な判断が放置されやすくなります。
法令違反による罰則
コンプライアンスが軽視されることで、法令違反が発覚し、罰金や業務停止命令を受ける可能性があります。これにより、企業の信頼が大きく損なわれます。
取引先や顧客との関係悪化
取引先や顧客は、コンプライアンスを軽視する企業と取引を続けることにリスクを感じ、関係を解消するケースもあります。
3.組織の崩壊につながる可能性
ガバナンスが機能しない場合、組織全体が混乱し、最悪の場合には崩壊する危険性があります。その主な要因は以下の通りです。
内部対立の激化
組織内での目標や方針が不明確であると、部門間の対立や責任の押し付け合いが発生しやすくなります。
従業員の士気低下
不透明な方針や不適切な経営判断が繰り返されると、従業員の信頼が失われ、働く意欲が低下します。これが離職率の増加や組織力の低下につながります。
外部からの信頼の喪失
ガバナンスが不十分であると、投資家や取引先、顧客からの信頼が失われ、資金調達や取引関係が困難になることがあります。
4.グローバル化への対応の遅れ
ガバナンスが機能していない場合、グローバル化に必要な対応が遅れ、国際競争力を失うリスクがあります。近年、多くの企業が海外市場に進出し、国際的な規制やルールに適応する必要がありますが、ガバナンスが不十分な組織では以下のような問題が生じます。
国際規制への対応力不足
海外市場で事業を展開する場合、各国の法令や規制に適応する必要がありますが、ガバナンスが弱いとこれらに対応する体制が整わず、法令違反や事業停止のリスクが高まります。
グローバルな意思決定の遅延
海外拠点や現地法人との連携がスムーズに進まず、意思決定が遅れることで市場機会を逃す可能性があります。
多様性を活かせない組織文化
グローバル展開では、多様な文化や価値観を持つ人材との協働が重要ですが、ガバナンスが機能していない組織では多様性の受け入れが進まず、人材流出や社内摩擦が発生する可能性があります。
競争力の低下
グローバル市場で競争するためには、迅速な意思決定や柔軟な経営が求められます。ガバナンスが不十分だとこれに応えられず、国際的な競争力を失います。
5.具体例 ガバナンスが機能しない場合の事例
実際にガバナンスが機能していないことで大きな問題を抱えた企業の例をいくつか挙げます。
大手企業の不正会計事件
某大手企業では、経営陣がガバナンスを軽視し、収益を偽装して株価を維持しようとした結果、大規模な不祥事が発覚しました。この事件では、監査体制の不備や取締役会の機能不全が指摘され、企業の存続が危ぶまれる状況に陥りました。
中小企業の経営破綻
地方の中小企業では、経営者がガバナンスを無視して個人的な利益を優先した結果、資金が枯渇し、事業が立ち行かなくなりました。このケースでは、適切な意思決定やリスク管理が行われていなかったことが破綻の主な原因でした。
6.ガバナンスが機能しない理由
ガバナンスが機能しない背景には、次のような要因があります。
経営陣のリーダーシップ不足
ガバナンスの中心を担う経営陣がリーダーシップを発揮しないと、組織全体に混乱が広がります。
監査機能や内部統制の不備
監視やチェック体制が整備されていないと、不正行為やミスが見逃される可能性が高まります。
透明性の欠如
情報が開示されず、利害関係者が組織の状況を正確に把握できない状態が続くと、信頼が損なわれます。
ガバナンスが十分に機能しない場合、組織全体の方向性が失われ、不透明な運営や法令違反、不正行為が発生するリスクが高まります。さらに、グローバル化への対応が遅れ、競争力を失うこともあります。
これらの問題を防ぐためには、透明性の高い運営と経営陣の強いリーダーシップ、そして適切な監査や内部統制の仕組みが欠かせません。ガバナンスの重要性を認識し、その強化に取り組むことが、組織の持続的な成長と成功を支える鍵となります。
強化の方法

企業や組織が持続的に成長し、信頼性の高い運営を行うためには、ガバナンスを適切に強化することが不可欠です。ガバナンスは単なるルールや仕組みではなく、組織全体の方向性や透明性を支える基盤です。
ここでは、ガバナンスを強化する具体的な方法を、段階的かつ実践的に紹介します。
1.明確なガバナンスの方針を設定する
ガバナンス強化の第一歩は、組織の方向性や価値観を明確に示すことです。
経営ビジョンとミッションの共有
経営層は、組織が目指すべき目標や価値観を明確にし、それを全従業員と共有する必要があります。これにより、全員が同じ方向を目指して動く土台が作られます。
ガバナンスの目的を明確化
ガバナンスを通じて何を実現したいのか(例:透明性の確保、リスク管理の強化、利害関係者への信頼構築)を明確にし、その重要性を全組織に伝えます。
2.組織構造を見直し、役割と責任を明確にする
ガバナンスを強化するためには、経営陣や各部門の役割分担と責任範囲を明確にすることが重要です。特に、社外取締役を積極的に活用することで、取締役会の客観性や透明性を高めることができます。社外取締役は経営陣と一定の距離を保ちながら、独立した視点で意思決定を監視し、組織の信頼性向上に寄与します。
取締役会の機能強化
取締役会は、経営戦略の策定や重要な意思決定を行う場として、組織運営の中核を担います。そのため、独立した取締役を増やし、客観性や透明性を確保することが推奨されます。
管理職のリーダーシップ育成
管理職が責任を持ち、部門ごとの目標を適切に達成できるよう、リーダーシップ研修や継続的なサポートを行います。
内部監査機能の強化
内部監査部門を独立させ、組織内での不正や非効率的な運用を早期に発見し是正する体制を整えます。
3.コンプライアンスと内部統制を強化する
ガバナンスの実現には、コンプライアンスと内部統制の強化が欠かせません。
コンプライアンス教育の実施
法令遵守や企業倫理に関する教育を定期的に実施し、全従業員の意識を高めます。特に、新入社員や管理職向けに具体的なケーススタディを用いた研修を行うと効果的です。
内部統制の仕組み構築
業務手順の見直しや改善を行い、不正行為やミスが起きにくい環境を作ります。たとえば、役割分担を明確にし、1人がすべての業務を担当しないようにする「牽制の仕組み」を導入します。
監査体制の定期的な評価
内部監査だけでなく、外部監査も積極的に取り入れることで、透明性と信頼性を高めます。
4.情報の透明性を確保する
透明性の確保は、ガバナンス強化の核心となります。利害関係者が必要な情報をタイムリーかつ正確に得られる仕組みを構築しましょう。
情報公開のルール化
経営状況や意思決定に関する重要な情報を適切に公開するルールを設けます。たとえば、財務情報や環境への取り組みに関する報告書の定期発行が挙げられます。
ITツールの活用
ITツールを活用して、社内外のコミュニケーションを効率化します。たとえば、データ管理システムやオンライン会議ツールを導入することで、透明性が向上します。
5.リスク管理の体制を整える
ガバナンスを強化するには、リスク管理を組織の重要な課題として取り組む必要があります。
リスク評価の実施
業務や事業の中でどのようなリスクが存在するかを明確にし、それを事前に評価します。リスクマトリクスを用いて、リスクの発生確率と影響度を可視化すると効果的です。
リスクマトリクスとは、リスクを「発生確率」と「影響度」の2軸で分類し、リスクの重大性を可視化するためのツールです。この方法により、優先的に対処すべきリスクが一目でわかるようになります。
リスク対応計画の策定
発生が予想されるリスクに対して、事前に対応策を計画し、全従業員に共有します。緊急事態に備えたシミュレーション訓練も有効です。
6.ガバナンス文化を築き上げる
最終的には、ガバナンスが組織の文化として定着することが理想です。
トップの模範的行動
経営層が率先してガバナンスの重要性を示し、自ら模範となる行動を取ることで、組織全体にその価値観が浸透します。
全従業員の意識向上
ガバナンスは経営陣だけでなく、全従業員が関与すべきものです。定期的な研修やミーティングを通じて、全員がガバナンスの重要性を理解し、自分の役割を認識できるようにします。
ガバナンスを強化するためには、これらの取り組みが不可欠です。段階的かつ計画的に進めることで、透明性と信頼性を備えた健全で持続可能な組織運営が実現します。ガバナンスは経営陣だけの責任ではなく、全従業員が一丸となって取り組むべき課題です。共にガバナンスを深化させ、組織の持続的な成長と成功を目指しましょう。
ガバナンスはどの部署が管理するか

ガバナンスの重要性が広く認識される中で、「誰がガバナンスを管理するべきか」という疑問は多くの会社で議論されます。ガバナンスは単なるルールや手続きの設定ではなく、組織全体を包括する管理システムです。そのため、特定の部署に完全に任せるのではなく、関係部署が連携して管理することが重要です。
ここでは、ガバナンスの管理に関わる主な部署とその役割について解説します。
1.ガバナンス管理の中心となる部署
ガバナンスの管理は、会社の規模や業種によって異なりますが、多くの場合、経営企画部や法務部、内部監査部が中心的な役割を担います。
1.経営企画部
経営企画部は、多くの企業においてガバナンスの管理を主導する部署として機能します。この部署は、経営戦略の立案や組織全体の方向性の設定を担当するため、ガバナンス体制の設計と推進において重要な役割を果たします。具体的には、以下のような業務を担います。
- ガバナンス方針の策定
- 経営層への提言
- 各部門との連携による体制構築
2.法務部
ガバナンスはコンプライアンスと密接に関連しており、法務部がその管理を補完することが一般的です。法令遵守の観点からガバナンス体制を監視し、以下のような業務を担います。
- 社内規程の整備
- 法律や規制の遵守状況の確認
- リスク発生時の対応策の立案と実施
3.内部監査部
内部監査部は、ガバナンスが適切に機能しているかを第三者的な視点で評価する役割を担います。この部署は、組織全体の透明性と信頼性を確保するために欠かせません。具体的には以下のような業務を行います。
- ガバナンス体制の運用状況のチェック
- 内部統制の流れの監視
- 問題が発見された場合の是正提案
2.ガバナンス管理に関わるその他の部署
1.総務部
総務部は、企業運営全般をサポートする部署であり、ガバナンス体制の基盤を支える役割を果たします。特に、取締役会や株主総会の運営に関与し、組織の透明性を確保します。
- 取締役会資料の準備と管理
- 株主とのコミュニケーション促進
- 社内外のガバナンス関連情報の整理と発信
2.人事部
ガバナンス体制の一環として、適切な人事政策を実施することも重要です。人事部は、ガバナンス文化を育て上げ、従業員全体にその意識を浸透させる役割を担います。
- コンプライアンス教育の実施
- 従業員行動規範の策定と運用
- 問題発生時の適切な処理とその後の対応
3.リスク管理部
ガバナンスの中核要素であるリスク管理を専門に扱う部署が、リスク管理部です。この部署は、リスクの特定・評価・管理を通じて、ガバナンスの実効性を高めます。
- リスク評価の実施
- リスク対応計画の策定
- 緊急時対応のシミュレーションと改善
3.部署間連携の重要性
ガバナンスは、単一の部署だけで管理するには範囲が広すぎるため、各部署が役割を分担し、会社全体で連携を深めることが必要です。具体的な連携方法として以下が挙げられます。
横断的なガバナンス委員会の設置
経営層を含む代表者で構成された委員会を設置し、全社的なガバナンス推進を図ります。
情報共有の仕組みの活用
ITツールを活用して各部署間で情報を共有し、迅速な意思決定をサポートします。
定期的なガバナンス評価
各部署の活動状況を定期的に評価し、問題点を早期に発見・改善します。
4.ガバナンス管理体制を構築する際の注意点
ガバナンスの管理体制を整備する際には、会社の規模や業界特性に応じた柔軟な設計が求められます。また、経営層の明確な意思表明と全従業員の意識向上が不可欠です。
経営層の意思表明
ガバナンスの重要性は、経営層が示す明確な姿勢によって組織全体に浸透します。
全従業員の意識向上
ガバナンスは一部の管理者だけでなく、全従業員が理解し、実践することが求められます。
柔軟性の確保
業界や企業規模に応じた柔軟な体制設計が必要です。
ガバナンスの管理は特定の部署が単独で担うものではなく、経営企画部や法務部、内部監査部を中心に、総務部、人事部、リスク管理部が連携して進める必要があります。各部署が自らの役割を果たしつつ、連携して全社的な取り組みを進めることで、ガバナンス体制の実効性が高まります。
最終的には、経営層から従業員に至るまで、全組織が一体となって取り組むことが、持続可能な成長と透明性の確保につながるのです。
まとめ
ガバナンスは、組織が持続的に成長し、信頼性を確保しながら社会的責任を果たすために欠かせない基盤です。「ガバナンスとは何か」という基本的な理解から、その必要性、コンプライアンスや内部統制との違い、機能不全がもたらすリスク、さらに強化の具体的な方法や管理する部署の役割まで、さまざまな側面を見てきました。
効果的なガバナンスを実現するためには、全体像を捉えた上で、各部署や関係者が連携し、一体となって取り組むことが重要です。単なる規則や手続きの整備にとどまらず、組織全体に浸透する文化として根付かせることが求められます。そのためには、経営層の明確な意思表明をはじめ、従業員全員がガバナンスの意義を理解し、自らの役割を果たすことが鍵となります。
健全で透明性のあるガバナンス体制は、リスクを軽減し、組織の競争力を高めると同時に、外部からの信頼を築きます。これを実現するためには、企業がその規模や業界に応じた柔軟かつ実効性の高いガバナンス体制を構築し、継続的に改善を重ねていくことが不可欠です。
最後に、ガバナンスの強化は「終わりのない取り組み」であることを忘れてはなりません。変化の激しい現代社会において、時代に即したガバナンス体制を追求し続ける姿勢こそが、組織の持続的な成長と成功を支える最大の力となるでしょう。
監修者

- 株式会社秀實社 代表取締役
- 2010年、株式会社秀實社を設立。創業時より組織人事コンサルティング事業を手掛け、クライアントの中には、コンサルティング支援を始めて3年後に米国のナスダック市場へ上場を果たした企業もある。2012年「未来の百年企業」を発足し、経済情報誌「未来企業通信」を監修。2013年「次代の日本を担う人財」の育成を目的として、次代人財養成塾One-Willを開講し、産経新聞社と共に3500名の塾生を指導する。現在は、全国の中堅、中小企業の経営課題の解決に従事しているが、課題要因は戦略人事の機能を持ち合わせていないことと判断し、人事部の機能を担うコンサルティングサービスの提供を強化している。「仕事の教科書(KADOKAWA)」他5冊を出版。コンサルティング支援先企業の内18社が、株式公開を果たす。
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