いま、企業を取り巻く環境は急速に変化しています。持続的な成長のためには、「デジタル化」への取り組みと、それを土台とした「DX(デジタルトランスフォーメーション)」による全社的な変革が欠かせません。
では、デジタル化とDXとは何か?
このコラムでは、その違いと本質について詳しく解説します。
Contents
DXの基礎知識

――企業競争力を高めるために欠かせない『変革』の本質とは
今や「DX(デジタルトランスフォーメーション)」は、企業経営や人材マネジメントにおいて欠かせないキーワードとなりつつあります。
DXとは、単なるIT導入ではなく、デジタル技術を活用して企業のビジネスモデルや日々の仕事の進め方、組織の風土までを根本から見直し、企業価値を高めていく取り組みのことを指します。
この変革の目的は、変化の激しい経営環境に柔軟に対応し、持続的な成長と競争優位を確立することです。技術を使って何かを「便利にする」だけでなく、ビジネスの根本的な在り方そのものを見直す覚悟と行動が求められます。
ここでは、DXの目的と導入ステップについて、具体的な事例を交えてわかりやすく解説します。
1.DXが目指す4つのゴール
1.競争力の強化 ― 市場変化に素早く対応できる企業体質に
ビジネスのスピードが求められる現代では、迅速な判断と行動が競争力に直結します。DXは、リアルタイムデータやクラウド技術を活用し、意思決定の質と速度を高める仕組みをつくります。
事例:リアルタイムデータ分析の活用
リアルタイムのデータ分析を活用することで、市場の動向を素早く予測し、それに応じて柔軟に対応することができます。 たとえば、ネットショップやオンラインストアを展開する企業(いわゆるeコマース企業)では、顧客の購買データをリアルタイムで分析することで、需要の変化に合わせて商品ラインナップや価格設定を即座に見直すことが可能になります。 |
2.顧客体験の向上 ― 顧客に“選ばれ続ける”会社へ
DXでは、顧客の声や行動をデータとして蓄積・分析し、一人ひとりに合ったサービスを提供することが可能になります。
事例:AIチャットボットの導入
AIチャットボットとは、人工知能を活用して、顧客からの質問に自動で応答するシステムです。人の代わりに会話形式で対応するため、電話やメールよりも気軽に使え、問い合わせ対応の効率化に貢献します。 このAIチャットボットを導入することで、24時間体制で顧客対応を行うことができます。 たとえば、保険業界では、顧客が問い合わせをした際に、AIチャットボットが迅速かつ的確に対応し、必要な情報を提供することで、顧客の満足度を大幅に向上させることができました。 |
3.業務効率の向上 ― 社員の力を「本来取り組むべき仕事」へ集中
業務の自動化や作業の流れを見直すことで、慢性的な人手不足の解消や残業時間の削減にもつながります。
事例:製造業におけるIoTセンサーの活用
製造業では、IoTセンサーを用いた設備の予知保全が導入されることで、設備の異常を事前に察知し、生産ラインの停止リスクを抑えることが可能になります。 その結果、メンテナンスも計画的に行えるようになり、業務の効率化やコスト削減にもつながっていきます。 さらに、こうした仕組みが整うことで、社員は本来注力すべき業務や、より創造的な仕事に時間とエネルギーを注げる環境が生まれていくのです。 |
4.新たなビジネスモデルの創出 ― 収益源を再設計する
DXは、収益構造そのものを見直し、新たなビジネスモデルを構築するチャンスでもあります。
その代表例が、従来の「売り切り型」から、定期的な利用料を得る「サブスクリプションモデル」への移行です。月額や年額での提供により、継続的な収益の確保と顧客との長期的な関係構築が可能になります。
事例:サブスクリプションモデルの導入
ソフトウェア業界では、一度きりの買い切りで販売していた従来の方式(ライセンス販売)から、サブスクリプションに移行することで、安定した売上を得ながら、顧客との長期的な関係を築けるようになりました。 実際に多くのソフトウェア企業では、毎月決まった金額が入ってくる仕組みをつくることで、経営の見通しを立てやすくなり、資金繰りの安定にもつながっています。 |
2.DXを成功させる5つのステップ
1.ビジョンの設定 ― 何のためにDXに取り組むのか
DXを成功に導くためには、まず「どのような姿を目指すのか」つまり、企業としての将来像や目的意識を明確にする必要があります。これが「ビジョン」です。
ビジョンは、単なる目標とは異なり、企業が社会にどのような価値を提供し、どのように成長していくかという“方向性”を示す旗印ともいえます。経営者自身が旗振り役となり、このビジョンを全社に共有・浸透させることが欠かせません。
事例:マイクロソフトのビジョン設定
マイクロソフトは、「すべての人とすべての組織がより多くのことを達成できるようにする」というビジョンを掲げ、クラウドコンピューティングとAIの技術を中心に据えた戦略を展開しています。この明確なビジョンのもと、全社的にデジタル変革が推進されました。 |
2.デジタル人材の育成 ― 変革を担う「人」を育てる
どれだけ優れた技術があっても、それをうまく使いこなせる人がいなければ、DXは前に進みません。
そのためには、社内教育や外部研修などを通じて、社員一人ひとりが「デジタル技術を理解し、活用できる力」を身につけることが大切です。こうした基礎的な力を「デジタルリテラシー」と呼びます。
事例:GEのデジタルアカデミー
GE(ゼネラル・エレクトリック)では、社内に「デジタルアカデミー」を設立し、社員に対してデジタルスキルを学ぶための研修を行っています。 これにより、社員のITに対する理解や活用力が高まり、全社的なDXの推進が一気に加速しました。 |
3.適切な技術の導入 ― 小さく始めて、大きく育てる
DXを進めるうえでは、いきなり大規模な投資を行うのではなく、効果が出やすい領域から小さく始め、段階的に広げていくことが成功のポイントです。
事例:ウォルマートの技術導入
世界的な小売企業ウォルマートでは、商品の仕入れから販売に至るまでの一連の流れ(サプライチェーン)の管理をより効率的にするために、情報の改ざんができない安全な記録技術(ブロックチェーン技術)を導入しました。 これにより、「どの商品が、いつ・どこから・どのように運ばれてきたか」をたどることができる仕組み(トレーサビリティ)が強化され、食品の安全性や信頼性が大きく向上しました。 また、在庫の流れを正確に把握できるようになったことで、無駄な在庫を減らし、コスト削減にもつながっています。 |
4.組織文化の変革 ― 「変化を恐れない風土」を作る
DX推進には、社員一人ひとりの意識変革が必要です。成功している企業ほど「まずやってみる」「失敗しても学びに変える」姿勢を重視しています。
事例:アマゾンの文化変革
アマゾンは、「お客様第一主義」と「継続的な改善」を企業文化の中核に据えています。 この文化は、デジタル技術を活用して、これまでにない新しい価値や仕組みを生み出す取り組み(=イノベーション)を後押しし、顧客満足度を高めるための大きな原動力となっています。 |
5.継続的な改善 ― DXは「終わりのない取り組み」
デジタル技術は進化を続けており、導入した時点で満足していては取り残されてしまいます。
そのため、技術の効果を定期的に見直し、改善を重ねていくことが、DXの成功には欠かせません。
こうした継続的な改善こそが、変化の激しい市場環境に対応し、企業の競争力を維持するために極めて重要な取り組みです。
事例:トヨタの継続的改善(カイゼン)
トヨタは、製造現場における一連の作業の流れに対して、「カイゼン」と呼ばれる継続的改善の手法を取り入れています。 この手法は、デジタル技術を活用して仕事の進め方をより効率的にする工夫にも応用されており、生産性の向上や品質の安定に大きく貢献しています。 |
経営者・人事部門が意識すべきポイント
- DXは「システム部門の課題」ではなく、「経営課題」である
- 成果を生み出す原動力は『人』と『文化』
- 人事が担うべき役割は、デジタル人材の育成と変革を促す風土づくり
DX化が推進される背景

現在、DX(デジタルトランスフォーメーション)が急速に広がりを見せている背景には、複数の社会的・経済的要因があります。
以下では、特に企業経営に大きな影響を与えている4つの要因――技術革新の進展、市場競争の激化、顧客ニーズの変化、そしてパンデミックの影響――について、具体的な事例を交えながらわかりやすく解説します。
1.技術革新の急速な進展
近年、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータといったデジタル技術が急速に発展し、企業活動のあらゆる場面で活用されています。これらの技術は、単なる業務効率化にとどまらず、新たな商品やサービスの開発を含めた企業のビジネスモデルそのものを変革する可能性を持っています。
事例:AIの活用による業務効率化
AIは、多くの業務プロセスにおいて自動化と効率化を実現しています。 たとえば、金融業界では、AIを活用した「チャットボット(自動会話プログラム)」が、顧客からの問い合わせに対して即時に応答する仕組みが導入されています。これにより、人手をかけずに24時間体制で対応が可能となり、人件費の削減と迅速なサービス提供を両立しています。 また、AIを活用したリスク管理システムでは、リアルタイムで膨大なデータを分析し、不正取引や詐欺を早期に検知することができ、金融機関の安全性向上にも大きく貢献しています |
事例:IoTによる製造業の革新
IoT技術は、製造業におけるプロセス管理と生産性向上に大きく貢献しています。工場内の機器や設備にセンサーを取り付け、リアルタイムでデータを収集・分析することで、設備の稼働状況を監視し、予防保全を実施することが可能です。これにより、突発的な故障を未然に防ぎ、作業の中断を最小限に抑えることができます。 |
事例:ビッグデータによる市場分析と顧客理解
ビッグデータ技術は、膨大なデータを収集・分析し、そこからビジネスに役立つ気づきやヒントを得るための手段として広く活用されています。 たとえば、小売業(リテール業界)では、顧客の購買履歴や行動データを分析することで、それぞれの顧客に合わせたマーケティング戦略を立てることができます。これにより、顧客満足度が高まり、売上の増加にもつながります。 |
2.市場競争の激化
グローバル化や業界構造の変化により、企業はこれまで以上に激しい競争環境にさらされています。競合他社との差別化を図るためには、デジタル技術を取り入れた柔軟でスピーディーな対応が不可欠です。
事例:アマゾンの競争優位性
アマゾンは、デジタル技術を最大限に活用することで、競争優位性を確立しています。 たとえば、同社の物流システムは高度に自動化されており、商品の在庫管理から配送までを迅速かつ効率的に行うことができます。 さらに、アマゾンは顧客の購買データを分析し、それぞれの顧客の興味や過去の購入履歴に基づいて商品を提案する仕組みを活用することで、顧客満足度を高めています。 |
事例:ネットフリックスの市場拡大戦略
ネットフリックスは、ビッグデータとAIを活用し、ユーザーの視聴履歴や好みに合わせて映画や番組を自動でおすすめする仕組みを導入しています。これにより、ユーザーにとって「観たい作品」が見つかりやすくなり、視聴時間が自然と増加。同社の利用者数や市場での存在感を高めることにつながっています。 また、ネットフリックスは、自社で独自に制作した映画やドラマを多数配信しています。これによって、他の動画配信サービスでは見られない作品を楽しめることが差別化につながり、競争における強みとなっています。 |
3.顧客ニーズの変化
現代の消費者は、かつてないほど高いレベルのサービスや個別対応を求めるようになっています。こうしたニーズに対応するためには、デジタル技術を活用したきめ細やかなサービス提供が求められます。
事例:カスタマーエクスペリエンスの向上
多くの企業が、顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)の向上を目指して、デジタル技術を導入しています。 たとえば、オンライン小売業者は、AIを活用して顧客の行動データを分析し、それぞれの利用者に合わせたショッピング体験を提供しています。 また、金融機関は、モバイルアプリを通じて、利用者の状況やニーズに応じた迅速なサービスを実現し、顧客満足度を高めています。 |
事例:パーソナライゼーションの進化
一人ひとりに合わせたサービス提供(パーソナライゼーション)は、デジタル技術の進化によって、これまで以上に高度で精密な対応が可能となっています。 たとえば、音楽配信サービスでは、ユーザーがこれまでに聴いた曲の履歴をもとに、AIが自動でプレイリストを作成し、その人に合った音楽体験を提供しています。 また、インターネット上のショッピングサイトでは、顧客の閲覧履歴や過去の購入データを分析し、その人の好みに合った商品をおすすめする仕組みが導入されています。こうした取り組みによって、顧客の購買意欲が高まり、売上の向上にもつながっています。 |
4.パンデミックの影響
COVID-19によるパンデミックは、私たちの生活と働き方を大きく変えました。企業においても、リモートワークや非対面のサービス提供が必要とされ、急速にデジタル化への対応が求められました。
事例:リモートワークの普及
パンデミックの影響により、多くの企業がリモートワークを導入しました。それに伴い、ビデオ会議ツールやクラウドサービスの利用も急増しています。 たとえば、ZoomやMicrosoft Teamsといったビデオ会議ツールは、遠隔地にいるチームメンバーとのコミュニケーションを円滑にし、業務の継続を支える重要な手段となりました。 さらに、インターネット上でチームの仕事の進捗を管理できる業務管理ツールや、ファイルを共有・同時に編集できるクラウド型の文書管理サービスも広く活用され、リモートワーク環境での業務効率化が進んでいます。 |
事例:オンラインサービスの拡大
パンデミックにより、オンラインサービスの需要も急増しました。 たとえば、教育分野ではオンライン授業が主流となり、学習管理システム(LMS)やビデオ会議ツールを活用した授業が広がりました。 また、ヘルスケア分野では遠隔医療(テレメディスン)の導入が進み、患者は自宅にいながら医師の診察を受けられるようになりました。 これにより、病院に足を運ばなくても必要な医療を受けられる環境が整い、パンデミック時の医療現場の負担軽減にもつながりました。 |
以上のように、DXが推進される背景には、技術の進化や社会の変化によって生じた強いニーズが存在します。今後も企業が持続的な成長を遂げていくためには、これらの背景を的確に捉え、柔軟かつ迅速にデジタル技術を活用していく姿勢が不可欠です。
デジタル化の基礎知識

急速に進展するビジネス環境の中で、企業経営や人材マネジメントにおいて欠かせないテーマとなっているのが「デジタル化」です。
ここでは、デジタル化とは何か、その目的や役割について、わかりやすく解説します。
デジタル化とは?
デジタル化とは、これまで紙や手作業で行っていた業務や情報管理を、デジタル技術を使って効率化・自動化することを指します。たとえば、紙の請求書をPDFに変えてクラウド上で管理したり、Excelでの勤怠管理をWebシステムに切り替えたりといった取り組みが挙げられます。
このような業務のデジタル化は、「業務効率の向上」や「情報の一元管理」「スピーディな対応力の向上」に直結し、多くの企業で導入が進んでいます。
デジタル化の主な目的
デジタル化には、以下のような明確な目的があります。
業務効率の向上 | 煩雑な手作業や紙ベースの業務をシステム化することで、時間とコストを削減できます。 |
データの有効活用 | デジタルデータとして蓄積された情報を分析することで、より的確な意思決定を支援します。 |
顧客対応の質の向上 | 顧客情報をデジタルで一元管理することで、過去の対応履歴をすぐに確認でき、迅速かつ丁寧な対応が可能になります。 |
情報の共有と連携強化 | 紙ベースでは難しかった情報のリアルタイム共有が可能になり、部門間の連携がスムーズになります。 |
リスク管理とセキュリティ強化 | 紙の書類に比べて、デジタル化されたデータはバックアップやアクセス制限がしやすく、情報漏えいや紛失のリスクを低減できます。 |
このように、デジタル化は業務の「見える化」と「最適化」を実現するための第一歩といえます。
今後、どのような規模・業種の企業においても、デジタル化は避けて通れない課題です。小さな業務の改善から始めることで、現場での効率化や働き方の改善を実感でき、組織全体の生産性向上にもつながっていきます。まずは身近な業務から、着実にデジタル化に取り組むことが、持続可能な成長への第一歩となるのです。
デジタル化とDX化の本質的な違い

近年、「デジタル化」や「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉を、企業の現場でも頻繁に耳にするようになりました。
一見似ているように思えるこれらの言葉ですが、実は意味も目的も大きく異なります。
ここでは、両者の本質的な違いについて、経営者や人事担当者の方々にもわかりやすくご紹介します。
デジタル化とは「業務の効率化」
前節でも述べたように、デジタル化とは、紙や手作業で行っていた業務を、ITツールやシステムを使って効率化・自動化することを指します。これは、業務の一部をより便利で速くする「改善」の取り組みといえます。
目的はあくまで「時間短縮」や「ミス削減」「コスト削減」など、目の前の業務効率を上げることにあります。
DX化とは「企業全体の変革」
一方で、DXとは、デジタル技術を活用して企業のビジネスモデル、働き方、組織文化そのものを根本から変革することを意味します。単なる業務の改善にとどまらず、顧客価値の再定義や、新たな収益モデルの創出など、企業の「あり方」そのものを見直す取り組みです。
DXの目的は、市場の変化に柔軟に対応しながら、競争力を高め、持続可能な企業成長を実現することにあります。
デジタル化は「入口」、DXは「戦略」
デジタル化とDXの違いを一言で表すなら、
デジタル化=現場レベルの「改善」
DX=全社レベルの「変革」
といえます。
デジタル化は、DXを実現するための「土台づくり」であり、すぐに着手できる第一歩です。しかし、それだけでは企業の根本的な課題解決には至りません。
DXを実現するためには、トップが旗を振り、経営戦略にデジタルを組み込み、部門間の壁を越えて全体最適を図る必要があります。つまり、デジタル技術をどう使うかではなく、「何のために使うか」が問われるのがDXなのです。
今後、経営環境の不確実性がさらに高まる中で、「業務の効率化」だけではなく、「変化への対応力」「新たな価値の創造」が問われる時代になります。まずは身近な業務のデジタル化から着手し、最終的には企業の未来を見据えたDXへの道筋を描くことが、持続可能な経営を実現するための重要な一歩となるでしょう。
デジタル化とDX化の相互関係

デジタル化とDX(デジタルトランスフォーメーション)は、しばしば別々の取り組みとして語られることがありますが、実際には密接に関連し、相互に補完し合う関係にあります。企業がDXを実現するためには、まず足元の業務を支える「デジタル化」が不可欠です。
デジタル化はDXの「土台づくり」
企業がデジタル技術を使って紙の業務や手作業を効率化する――これがデジタル化です。この段階で業務が標準化され、データが一元管理されるようになることで、企業全体の業務の見える化・効率化が実現されます。
たとえば、紙の申請書をWebフォームに置き換えたり、営業日報をクラウドシステムに切り替えることで、社内のどこからでも内容を確認でき、データの蓄積・活用が可能になります。こうした取り組みが、DXの前提条件となる「データ基盤」となります
DXはデジタル化の先にある「変革」
デジタル化で得られた業務データや仕組みをもとに、組織の意思決定を変え、顧客への価値提供を変え、ビジネスのやり方そのものを見直す。これがDXです。
たとえば、従来のモノ売りから、データを活用したサブスクリプション型サービスへの移行や、属人的だった営業活動をチームで共有する体制に変えるといった取り組みは、すべて「変革」を伴うDXの一例です。
こうした変化は、「デジタル化された業務の延長線上」にあるため、DXはデジタル化を通じて初めて実現可能になるとも言えます。
両者の好循環をつくることが、今後の経営を支える重要な仕組み
デジタル化で得た効果を活用して、より大胆な取り組み(=DX)に進む。その変革により、さらにデジタル技術への投資や活用が進む――このような相乗効果を生み出すサイクルを構築することが、これからの経営には求められます。
現場でのIT導入が「点」で終わるのではなく、全社的な戦略につなげていくこと。経営層と現場が一体となって、段階的にデジタル活用のレベルを高めていくこと。こうした継続的な取組みこそが、真のDX実現への道となります。
デジタル化とDX化は切り離せるものではなく、「改善」と「変革」が連携して初めて企業の競争力を高める力になります。目先の効率化にとどまらず、その先にある変化を見据えて、戦略的に進めていきましょう。
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違いを理解しておくことのメリット

「デジタル化」と「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の違いを正しく理解することは、経営層や人事部門向けの戦略判断において極めて重要な意味を持ちます。単なる知識の習得にとどまらず、企業全体の方向性と成果を左右する要素となるからです。
1.戦略的な意思決定ができる
デジタル化とDXの違いを把握することで、「いま何に取り組むべきか」「この施策は改善か変革か」といった問いに、明確な軸を持って判断できるようになります。
たとえば、社内の紙業務をデジタル化するのは、業務効率化の一手です。しかし、その先にある「ビジネスモデル自体の見直し」や「顧客体験の再構築」につながるかどうかは、DX視点があるかどうかで変わります。
現場での改善活動と、全社的な変革の取り組みを切り分けて戦略を立てられることで、意思決定の精度が高まります。
2.リソースの最適配分ができる
人材・時間・資金といった企業が持つあらゆる資源(=リソース)は限られています。だからこそ、改善に必要な資源と、変革に必要な資源を分けて考える視点が重要になります。
たとえば、現場でのITツール導入や業務効率化には、現場スタッフの理解や操作研修、適切な導入支援が必要です。一方で、DXの実現には、経営トップの関与や中長期的なビジョン、組織全体を巻き込む体制づくりといった、より広範な資源の投入が求められます。
このように、目的やスケールに応じて必要な資源を適切に配分することで、過不足のない実行計画が立てられ、取り組みの成功率も高まります。
3.企業全体の競争力を高められる
デジタル化によって日々の業務が効率化され、データが蓄積されると、そのデータを活かして次の成長の一手を打つ準備が整います。そこから、DXへとつなげていくことで、顧客に対する新しい価値の提供や、組織そのものの進化が実現します。
このように、デジタル化とDXの違いを理解し、両者を段階的かつ計画的に進めることが、企業の持続的な成長と競争優位性の確立につながるのです。
目の前の業務改善にとどまらず、その先の企業変革を視野に入れて取り組むためにも、経営層や人事部門向けの最初のステップとして、「デジタル化」とDXの違いを正しく理解することが重要です。
この違いへの理解があることで、単なるツール導入に終わらず、経営効果の高い戦略的な取り組みへとつなげていくことができます。
経営に活かす「違い」の理解

本コラムでは、デジタル化とDX(デジタルトランスフォーメーション)の基礎知識から、その違い、相互の関係性、そして理解することのメリットまでを体系的に整理しました。
デジタル化は日々の業務を効率化し、現場の生産性を高めるための土台づくり。DXは、その土台を活かして、ビジネスモデルや組織の構造を根本から見直す、企業全体の変革戦略です。
この違いを正しく理解し、目的に応じて取り組みを使い分けることで、経営判断の質が高まり、限られたリソースも効果的に活用できるようになります。
結果として、企業は変化の激しい時代においても競争力を維持し、持続的な成長を実現することができるでしょう。
まずは、自社の業務や組織のどこに課題があるかを見つめ直すことから始めてください。
「どこを効率化し、どこを変革すべきか」を見極め、段階的に取り組みを進めていくことこそが、これからの経営に求められる重要な姿勢です。
本稿が、皆さまの企業運営における一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。
監修者

- 株式会社秀實社 代表取締役
- 2010年、株式会社秀實社を設立。創業時より組織人事コンサルティング事業を手掛け、クライアントの中には、コンサルティング支援を始めて3年後に米国のナスダック市場へ上場を果たした企業もある。2012年「未来の百年企業」を発足し、経済情報誌「未来企業通信」を監修。2013年「次代の日本を担う人財」の育成を目的として、次代人財養成塾One-Willを開講し、産経新聞社と共に3500名の塾生を指導する。現在は、全国の中堅、中小企業の経営課題の解決に従事しているが、課題要因は戦略人事の機能を持ち合わせていないことと判断し、人事部の機能を担うコンサルティングサービスの提供を強化している。「仕事の教科書(KADOKAWA)」他5冊を出版。コンサルティング支援先企業の内18社が、株式公開を果たす。
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