組織の成果は、単に個人の努力や制度設計だけで生まれるものではありません。では、持続的に成果を生み出す組織とは、どのような仕組みを持っているのでしょうか。
その答えの一つが「成功循環モデル」です。関係の質を起点にグッドサイクルを育てるこのモデルは、組織がバッドサイクルに陥る構造にも光を当ててくれます。
Contents
組織の「成功循環モデル」とは

成果ばかりを追い求めても、うまくいかない?
企業経営において「成果を出すこと」は、言うまでもなく重要です。売上や利益、業績目標の達成は、どの組織にとっても最優先事項でしょう。しかし現場では、「とにかく結果を出せ」「数字を追え」といったプレッシャーが強まるあまり、思うように成果が上がらず、社員のモチベーションが低下してしまうというケースも少なくありません。
本記事では、こうした組織の悩みに一石を投じる考え方として注目されている「成功循環モデル」について解説します。これは、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でシステム思考を研究し、組織開発の実践にも長年携わってきたダニエル・キム氏が提唱したフレームワークです。
このモデルは、組織が成果を出すためには、単に行動や結果を追うだけでは不十分であり、人と人との「関係の質」を出発点とした“良い循環”こそが、持続的な成果につながるということを示しています。関係の質が高まれば、思考が前向きになり、行動の質が上がり、結果として良い成果が生まれる。このシンプルながら本質的な循環の考え方は、現代の組織においてますます重要性を増しています。
成果を生み出す“4つの質”
成功循環モデルでは、良い成果を出すために組織がたどる道筋を、4つの要素で説明しています。
1.関係の質
2.思考の質
3.行動の質
4.結果の質(成果)
この順序がポイントです。多くの組織では「成果(結果の質)」からスタートしてしまいがちですが、成功循環モデルでは、出発点は「関係の質」であるべきだとしています。
つまり、「良い人間関係があるからこそ、良い思考が生まれ、それが良い行動につながり、結果として良い成果が出る」という、前向きな“グッドサイクル”を描いているのです。
なぜ「関係の質」から始めるのか?
人と人との関係に信頼、安心、尊重があれば、社員は自分の意見を安心して発言できるようになります。その結果、前向きで建設的な議論が生まれ、創造的なアイデアが出やすくなります。
良いアイデアがあれば、チャレンジ精神や自発性のある行動が生まれ、最終的には成果につながります。
このように、「成果」は“結果”であり、“スタート地点”ではないのです。
間違った循環が生む「悪循環」
一方で、関係の質が低いまま、「とにかく成果を出せ」と求められた場合、どうなるでしょうか?
- 人間関係がぎくしゃくして、信頼や安心感がなくなる
- 思考が防衛的・批判的になり、ネガティブな空気が生まれる
- 行動は受け身・形式的になり、挑戦がなくなる
- 結果として、成果が出ない
このような「負の循環(バッドサイクル)」が回り始めてしまうと、組織全体のパフォーマンスは大きく低下してしまいます。
「仲が良い」だけではない、“本当の関係の質”
ここで注意すべきは、「関係の質」とは「仲が良い」ことではないという点です。
成功循環モデルでいう関係の質とは、相手を信頼し、尊重し、心理的に安心できる関係性のこと。必要な場面では率直な意見を交わし、時には建設的な衝突も許容されるような関係です。
いわゆる「なあなあ」の関係とは異なり、成果を出すための真剣なコミュニケーションが存在する状態が理想です。
組織に必要なのは“土台の強化”
急速な社会の変化や、過去のやり方が通用しづらくなる現代において、成果だけを追っても限界があります。変化に対応し、柔軟に行動できる組織になるためには、まずは人と人との関係性という“土台”を強化することが不可欠です。
この「関係の質」こそが、組織の力を引き出し、持続的な成果を生み出す起点になるという考え方。それが「成功循環モデル」の本質です。
注目されるようになった背景

目標管理や成果主義が行き詰まり始めた
「成功循環モデル」が注目されるようになった背景には、これまで多くの企業が取り組んできた「成果主義」や「目標管理制度(MBO)」の限界が見え始めたことがあります。1990年代以降、経営効率や成果重視の風潮が広がり、多くの組織が数値目標を重視したマネジメントの方向に変わっていきました。
しかし、目標達成がプレッシャーとして働きすぎたり、評価のために成果を操作しようとする行動が見られたりと、本来の意図とは異なる形で制度が形骸化してしまった例も少なくありません。
現場では「数字だけを追うようになった」「誰のための仕事かわからなくなった」という声も聞かれるようになり、働く人のモチベーションや職場の一体感が失われつつある状況が多くの企業で見られるようになりました。
「心理的安全性」への関心が高まった
そうした中で、組織にとって本当に大切なものは何かを問い直す動きが始まりました。そのひとつが、Google社が2010年代に行った「生産性の高いチームに共通する要素」の研究です。その結果、最も重要な要因として浮かび上がったのが「心理的安全性」でした。
心理的安全性とは、チームの中で自分の意見を自由に話せる、間違っても非難されない、といった「人間関係の安心感」のことです。この考え方が広がったことで、多くの組織が「良い成果を生むには、良い人間関係が必要である」という視点に立ち返るようになりました。
成功循環モデルが示す「関係の質を起点にする」という考え方は、この心理的安全性の重要性とも重なり、非常に実用的な考え方として再評価されていったのです。
現場の知恵や連携が成果の鍵になる時代へ
また、社会の変化のスピードが増し、答えのない課題に向き合う場面が増える中で、「上からの指示通りに動く」だけの組織運営では立ち行かなくなってきました。複雑な課題を解決するには、現場で働く人たちが自ら考え、連携し、柔軟に動く力が求められます。
そのためには、職場の中に「信頼」や「対話」があり、社員が自由に意見を出し合える関係性が不可欠です。こうした背景から、成果を生み出すにはまず「関係の質」を高めることが重要だという考え方に、多くの企業が共感を示すようになりました。
働き方の多様化が求める“つながりの質”
さらに、働き方改革やリモートワークの普及により、以前のように常に同じ場所で顔を合わせて働くというスタイルは少なくなりました。画面越しのコミュニケーションや、非対面でのやり取りが当たり前になる中で、“目に見えない信頼関係”の重要性が一層高まっています。
職場において「なんとなく空気を読んで察する」といったコミュニケーションは通じにくくなり、言葉にして伝え合う関係性が求められるようになりました。こうした変化もまた、「関係の質」や「対話の質」に注目が集まるきっかけとなっています。
人と組織の持続的な成長を支える視点として
短期的な成果を追うだけではなく、長期的に人と組織が成長し続けるためには、社員が安心して働ける土台が必要です。
モチベーションや創造性、チームワークといった“目に見えない力”が、実は成果の根本にある。
そうした視点に立ち返ったとき、「成功循環モデル」が提示する「関係の質 → 思考の質 → 行動の質 → 成果」という流れは、非常に納得感のあるフレームワークとして、多くの組織に取り入れられるようになってきました。
成功循環モデルが注目されるようになった背景には、「成果」だけに目を向けていたマネジメントから、「人と人のつながり」や「信頼関係」といった“見えない価値”を大切にする考え方へと変わってきたことがあります。そしてこの変化こそが、これからの組織が持続的に成長していくために欠かせない要素となっています。
成功循環モデルを活用するメリット

数字だけでは測れない組織の“土台”を整える
成功循環モデルの最大の特徴は、「成果」ではなく「関係の質」を起点に、ビジネス現場や会社の組織状態を見直す点にあります。
これまで多くの企業は、売上やKPI(重要業績評価指標)などの“見える数字”に重きを置いてきました。もちろん、数字を無視することはできませんが、数字の裏側にある「人と人とのつながり」や「チームの雰囲気」といった“見えない価値”に目を向けることができるのが、このモデルの強みです。
関係の質が整うことで、職場に信頼や協力が生まれ、それが自然と成果につながっていく。さらに、良好な社内の関係性は、顧客対応やサービスの質にも良い影響を及ぼします。このように、表面的な対処ではなく、組織の“土台”を育てていけるのが成功循環モデルの持つ大きなメリットです。
離職防止と定着率向上に効果がある
近年、どの業界でも「人が定着しない」「若手がすぐ辞めてしまう」といった悩みが多く聞かれます。その背景には、成果だけを求められたり、自分の意見を言えない雰囲気だったり、職場に心理的な安心感がないという問題が潜んでいます。
成功循環モデルでは、まず「関係の質」――つまり、信頼関係や安心して話せる環境づくりに焦点を当てます。これは、心理的安全性を高めることと直結しています。
信頼関係があり、互いに尊重されていると感じられる職場では、社員は「ここで働きたい」と思えるようになります。結果として、離職率の低下や定着率の向上といった、人材面での安定化が期待でき、会社全体の基盤強化にもつながります。
自発的な思考と行動を引き出せる
組織が成果を出すうえで欠かせないのが、社員一人ひとりの「自発性」です。上司から言われたことをやるだけでなく、自分で考えて動ける人が増えれば、組織の力は自然と高まっていきます。
成功循環モデルでは、信頼関係が土台にあることで「こんなアイデアがある」「こうしたらもっと良くなるのでは?」という前向きな思考が生まれやすくなります。その思考が具体的な行動につながり、行動の積み重ねが結果を生む。この一連の流れを促すことで、社員の“やらされ感”ではなく、“自分ごと化”された行動が増えていきます。
チームの一体感や協働が生まれやすくなる
関係の質が高まることで、もう一つ大きな効果が生まれます。それが「チームの一体感」です。
バラバラに動く個人ではなく、同じ方向を向いたチームが生まれれば、課題に対して連携して取り組めるようになります。また、失敗しても責められるのではなく、学びの機会として前向きに捉えられるチーム文化が育ちます。
このような職場では、自然とコミュニケーションも活発になり、情報共有や助け合いが当たり前になります。これは、長期的に見て組織の力を底上げする非常に大きなメリットです。
短期的な成果ではなく、ビジネスの持続的成長を目指せる
数値目標の達成はもちろん大切ですが、それだけを追い続けると、組織はやがて疲弊してしまいます。重要なのは、「成果が出る状態をいかに安定してつくるか」という視点です。
成功循環モデルは、関係の質を整えることによって、組織の“コンディション”を良くしていきます。このコンディションが良好であれば、変化にも柔軟に対応でき、多少の失敗にも耐えられる強さが備わります。
つまり、短期的な成果よりも、持続的な成果を生み出せる組織づくりができる――これこそが、成功循環モデルの最大のメリットといえるでしょう。
このように、成功循環モデルは単なる理論ではなく、日々のビジネス活動や会社の組織運営に深く役立つ“土台づくりの考え方”です。人と人とのつながりに着目することで、組織のエネルギーは内側から自然と高まり、成果はもちろん、サービスの質や顧客満足度の向上にもつながっていきます。
成功循環モデルにおけるグッドサイクル
はじまりは「関係の質」から
成功循環モデルの核心は、「良い成果を出すには、まず人と人との関係性を整えることが重要だ」という考え方です。このモデルでは、関係の質 → 思考の質 → 行動の質 → 結果の質(成果)という順番で、組織のパフォーマンスが高まっていくとされています。
この流れがスムーズに機能している状態を、「グッドサイクル(良い循環)」と呼びます。言い換えれば、関係の質が良ければ、自然と良い結果が生まれる――ということです。では、実際にこのサイクルがうまく回っている職場とは、どのような様子なのでしょうか?
信頼があるから、思考が前向きになる
たとえば、ある会議の場面を想像してみてください。参加者同士に信頼関係があり、「どんな意見でも歓迎される」という安心感がある場では、活発な意見交換が行われやすくなります。
このような環境では、「否定されたらどうしよう」「こんなこと言っていいのかな」という不安が少なくなり、自由で創造的な発想が生まれやすくなります。
つまり、関係の質が高いからこそ、思考の質――すなわち、発想や問題解決に向かう姿勢が前向きになるのです。
前向きな思考が、行動を変える
前向きな思考は、自然と行動にも影響を与えます。「やってみよう」「任せてほしい」「この課題に取り組んでみたい」というように、社員の行動が自発的で、積極的になります。
また、チームとしての一体感があると、互いの得意分野を活かした分担やサポートもしやすくなります。個々の力を引き出し合える組織は、行動のスピードも質も高く、柔軟な対応が可能です。
このような行動の質の高さが、次第に成果につながっていきます。
小さな成功がさらなる信頼を生む
良い成果が出れば、「やればできる」という実感が生まれます。すると、チーム内に「このメンバーならまた成果を出せる」という信頼感が芽生えます。
この信頼感が、さらに関係の質を高めることになります。まさに、ポジティブな循環が回り続ける状態です。
このようなグッドサイクルが回っている組織は、何かトラブルが起きたときでも、互いに責任を押しつけ合うことなく、協力して乗り越える力を持っています。
実際の企業事例:グッドサイクルの好循環
たとえばある中小の製造業では、社員同士の関係性改善に取り組んだことで、明らかに職場の空気が変わりました。きっかけは、毎朝の5分間の雑談タイムを導入したこと。
最初は些細な取り組みでしたが、話す機会が増えることで互いの人柄を知り、「この人のために頑張ろう」という思いが自然と生まれるようになりました。そこから意見が出やすくなり、改善提案が増え、実際に生産効率が向上するという成果が出たのです。
この事例は、関係性の質を高めることが、実際に成果へとつながっていくことを証明しています。
「人」が動くからこそ、組織が動く
どれほど立派な制度や戦略を立てても、動かすのは「人」です。そしてその人が動くかどうかは、周囲との関係性や、職場の雰囲気によって大きく左右されます。
グッドサイクルは、言い換えれば「人のエネルギーが前向きに流れる状態」だといえます。信頼→思考→行動→成果という流れがうまく回れば、組織全体が自律的に成長していくようになります。
成功循環モデルのグッドサイクルは、特別なスキルや仕組みが必要なわけではありません。大切なのは、「関係性」という基本に目を向けること。そして、日常の小さなコミュニケーションの中で、信頼や安心感を築いていくことです。
成功循環モデルにおけるバッドサイクル
成果を求めすぎると、組織はなぜ疲弊するのか
成功循環モデルの本質は、「関係の質」から始まる良い循環を回すことにあります。ところが、多くの組織では、依然として「成果(結果の質)」ばかりに注目し、そこから逆算してマネジメントしようとする傾向があります。
「もっと数字を上げろ」「結果が出ていないのは努力が足りないからだ」といった言葉が飛び交う職場では、自然とプレッシャーが高まり、関係性がぎすぎすしていきます。
そのような状態が続くと、組織は知らず知らずのうちに「バッドサイクル(悪循環)」に陥ってしまうのです。
関係の質が低下すると、思考が閉じていく
バッドサイクルが始まるきっかけは、「関係の質」が損なわれることにあります。たとえば、上司と部下の関係に信頼がない。チームの中に遠慮や対立がある。そんな状況では、心理的な安心感がなくなり、人は「自分を守る」ことに意識が向きやすくなります。
結果として、思考の質が低下します。「どうせ言っても無駄だ」「失敗したら責められるかもしれない」という思いから、前向きなアイデアが出なくなり、発想が保守的・防衛的になってしまうのです。
思考の低下は、行動の受け身化を招く
思考が後ろ向きになると、行動にも影響が出ます。たとえば、「とりあえず言われたことだけやっておこう」「目立たないようにやり過ごそう」といった、受け身で消極的な行動が増えていきます。
このような行動では、当然ながら大きな成果にはつながりません。挑戦がなくなり、変化にも対応しづらくなり、組織は停滞感に包まれていきます。
成果が出ないことで、さらに関係が悪化する
成果が出なければ、マネジメント側はますます焦りを強めます。「なぜ結果が出ないのか」と追及する姿勢が強まると、現場との信頼関係はさらに悪化します。
このように、成果を出すために厳しく管理したつもりが、かえって関係の質を損ない、結果的にさらに成果が出なくなる――という悪循環が回り始めてしまうのです。
バッドサイクルが続くと、組織には何が起きるのか
バッドサイクルが慢性化すると、組織にはいくつかの深刻な影響が出始めます。
- 社員のモチベーションが下がる
- 職場の雰囲気が重くなる
- 離職率が上がる
- 問題があっても共有されない
- 改善提案や創造的なアイデアが出てこない
こうした状態が続くと、いくら立派な戦略や仕組みがあっても、実行に移す力が弱まり、組織としての成長が止まってしまいます。特に中堅・中小企業では、人数が少ない分、一人ひとりのエネルギーが組織全体に与える影響が大きいため、バッドサイクルのリスクはより深刻です。
無理に成果を追うよりも、「循環」を見直す
大切なのは、成果を上げようと無理を重ねることではなく、今の循環がどのように回っているかを冷静に見直すことです。
「成果が出ないのはなぜか?」と問うとき、「努力が足りない」「行動が甘い」と短絡的に判断してしまうことがありますが、本当の原因は「関係の質」にあることが多いのです。
信頼や対話が失われていないか。安心して意見を言える雰囲気があるか。関係の質が改善されれば、思考も行動も自然と変わっていきます。
成功循環モデルは、成果そのものを見るのではなく、「成果を生み出す土台」が整っているかを見つめ直す視点を与えてくれます。
「関係の質を高める」ことに対しての誤解
「関係の質を高める」とはどういうことか?
成功循環モデルの出発点であり、最も重要な要素とされる「関係の質」。この言葉は一見するとわかりやすいようで、実際にはさまざまな誤解を招きやすい概念でもあります。
よくあるのが、「関係の質が高い=仲が良い」「お互いを否定せず、和気あいあいとしている状態」と捉えてしまうことです。しかし、本当に組織の成果につながる“関係の質”とは、ただの仲良し関係や衝突のない穏やかな関係ではありません。
むしろ、表面的な調和ばかりを優先してしまうことで、組織としての前進が止まってしまうこともあるのです。
誤解①「対立や衝突がない状態が良い関係」
「関係の質を高める」と聞いて、「対立が起きないように配慮する」「負の感情を出さないように我慢する」と考える方も少なくありません。たしかに、争いが絶えない職場よりも、穏やかでストレスの少ない職場のほうが良いように思えるかもしれません。
しかし、ここには大きな落とし穴があります。
職場における人間関係とは、意見の違いがあって当然のものです。問題解決や新しい挑戦に取り組むときには、考え方の違いや方向性の食い違いが生まれるのが自然な流れです。
そのときに「波風を立てたくないから」と対立を避け、黙ってしまうような関係は、実は関係の質が“高い”とは言えないのです。
誤解②「寛容でいれば関係性は良くなる」
もう一つのよくある誤解は、「関係性を良くするには、相手のすべてを受け入れる“寛容さ”が必要だ」というものです。確かに、ある程度の柔軟さや受容的な姿勢は大切です。しかし、何でもかんでも受け入れてしまう関係は、“信頼し合える関係”とは異なります。
本当に関係の質が高い職場では、お互いに遠慮せずに意見を伝え合い、ときには言いにくいことも率直に伝えることができます。
それは「相手が間違っているから指摘する」という上下の関係ではなく、「もっと良くするために、本音で話し合いたい」という建設的な対話です。
つまり、衝突や摩擦を避けるのではなく、それを乗り越えられる土壌があることこそが“関係の質が高い状態”なのです。
心理的安全性との本当の意味での関係
ここで思い出したいのが、「心理的安全性」という言葉です。これは、「間違っても非難されない」「自分の考えを安心して話せる」という状態を指します。
心理的安全性は、単なる“優しさ”ではありません。本音を出し合っても、関係が壊れないという信頼があるからこそ、率直な議論ができるのです。つまり、感情を抑え込んだり、相手に合わせることで得られる静かな関係ではなく、時にぶつかりながらも、互いに高め合える関係が理想です。
本当に成果につながる関係とは?
関係の質が高まった組織では、以下のような状態が見られます。
- 違う意見があっても、対等に議論ができる
- 指摘やフィードバックが「個人攻撃」ではなく「建設的」として受け取られる
- 失敗しても、個人を責めるのではなく、チームで改善に向かう
- 普段から安心して声を上げられる空気がある
このような関係性があると、社員一人ひとりの力が最大限に発揮されます。関係の質が高いというのは、「誰もが居心地よく過ごせる」状態というよりも、「誰もが力を発揮しやすい環境がある」という意味なのです。
積極的な“対話”が関係性を深める
結局のところ、「関係の質を高める」とは、お互いの違いを理解し、違いを越えて力を合わせる力を育むことに他なりません。
そのためには、衝突や意見の違いを避けるのではなく、むしろそれを乗り越えるための対話が不可欠です。表面上の調和に満足するのではなく、本音を言い合い、ぶつかり合い、そこから新しい価値を生み出すこと――それこそが、関係の質を本当に高めるということなのです。
成功循環モデルを改善させるためには
現状の“循環”を見える化することから始める
成功循環モデルを実際に職場で活用しようとする際、最初に取り組むべきは、「今、自分たちの組織はどんな循環にあるのか?」を見える形にすることです。
これは特別な診断ツールや外部コンサルタントを入れなければできないことではありません。大切なのは、「関係の質」「思考の質」「行動の質」「結果の質」の4つを順番に振り返り、どこで流れが滞っているのかをチームで共有することです。
たとえば、こんな問いを使って簡単な棚卸しができます。
- 私たちは、互いに信頼し合えているか?(関係の質)
- 意見やアイデアを安心して出し合えているか?(思考の質)
- 自分たちの行動は目的に沿って前向きか?(行動の質)
- 成果や結果には納得感があるか?(結果の質)
このように、今の状態を可視化し、共通の言語で語ることが、改善への第一歩です。
“関係の質”を高める具体的な取り組み
関係の質を高めるというと抽象的に聞こえますが、実際は日々のコミュニケーションの中にヒントがあります。たとえば、以下のような取り組みが効果的です。
1.日常的な「感謝」の言葉を増やす
「ありがとう」「助かったよ」という何気ない一言が、信頼関係の土台になります。
2.対話の時間を意識的に設ける
業務連絡だけでなく、お互いの考えや感じていることを共有する時間を持つことが大切です。
3.1on1(個別面談)の質を上げる
一方的な指導ではなく、双方向で本音が言えるような面談の時間を設けると、関係が深まります。
4.感情の共有を恐れない
嬉しい、悔しい、不安だ――こうした感情を言葉にして伝え合える関係性は、心理的安全性を高めます。
これらはすぐに始められる取り組みであり、小さな積み重ねが大きな信頼につながっていきます。
組織の循環をつくるリーダーの姿勢とリーダーシップ
成功循環モデルを組織の中で機能させるうえで、最も重要なのは、リーダーシップのあり方や、その発揮の仕方です。というのも、関係の質は上司と部下の間にこそ最も影響力があるからです。
リーダーが、
- 話を聞く姿勢を持つ
- 感情を否定せず受け止める
- 自分自身の弱さも見せられる
- ミスや意見の違いを責めず、対話につなげる
といった姿勢を持つことで、職場全体に安心感と信頼が広がります。
つまり、「関係の質の起点は、リーダー自身の行動や発信、そして日々のリーダーシップの在り方にある」と言っても過言ではありません。
小さな変化が、組織の循環を変えていく
成功循環モデルは、大掛かりな制度改革を必要としません。むしろ、日々の対話や態度、ちょっとした関わり方の変化が、チームの空気を変え、やがて成果につながっていくのです。
たとえば、「最近、部下に感謝を伝えていなかった」と気づき、意識的に声をかける。あるいは、「意見が出ない会議は、自分の反応が原因だったかもしれない」と振り返って、反応の仕方を変えてみる。
そうした小さな実践が、少しずつ循環をよい方向に動かしていきます。
組織に合った「循環の育て方」を見つける
最後に大切なのは、成功循環モデルに“正解の形”はないということです。業種や規模、文化によって、関係性の築き方や、成果の意味合いも変わってきます。
だからこそ、「私たちの組織では、どう循環を育てていくのか?」という問いを持ち続け、継続的に対話し、共に育てていくことが重要です。
成功循環モデルは、単なる理論ではなく、組織の“今”を見つめ直し、“これから”を築いていくためのレンズです。成果だけを追い求める時代から、人と人とのつながりを大切にしながら、持続的な成果を生み出す組織へ。
その第一歩は、「関係の質を見直すこと」から始まります。
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〜「人のつながり」が成果を生む時代へ〜
本コラムを通してご紹介してきた「成功循環モデル」は、今まさに多くの組織にとって必要とされている視点です。
成果を出すことは、どの企業にとっても大切な命題です。しかし、その成果を生み出す“源”が何かを見失ってしまうと、組織はやがて疲弊し、力を発揮できなくなります。
関係の質を起点とするこのモデルは、決して「優しくあれ」「衝突を避けよ」と言っているのではありません。むしろ、信頼し合うからこそ、時にぶつかり、議論し、違いを乗り越えていける――そんな組織の強さを育む考え方です。
成果は、思考と行動の結果であり、その根本には「人と人とのつながり」があります。職場の一人ひとりが、自分の言葉で話し、自分の意志で動き、それを支え合える関係性があれば、組織は自然と前に進んでいきます。
大きな改革をしなくても構いません。まずは、足元の「関係性」から。
今日の会話の一言、部下へのまなざし、同僚との対話――そうした小さな実践が、やがて大きな循環を生み出していきます。
このコラムが、みなさまの職場での取り組みにとって、少しでもヒントやきっかけとなれば幸いです。
「成果は人の力から生まれる」――その当たり前を、今あらためて、私たちの現場に根づかせていきましょう。
監修者

- 株式会社秀實社 代表取締役
- 2010年、株式会社秀實社を設立。創業時より組織人事コンサルティング事業を手掛け、クライアントの中には、コンサルティング支援を始めて3年後に米国のナスダック市場へ上場を果たした企業もある。2012年「未来の百年企業」を発足し、経済情報誌「未来企業通信」を監修。2013年「次代の日本を担う人財」の育成を目的として、次代人財養成塾One-Willを開講し、産経新聞社と共に3500名の塾生を指導する。現在は、全国の中堅、中小企業の経営課題の解決に従事しているが、課題要因は戦略人事の機能を持ち合わせていないことと判断し、人事部の機能を担うコンサルティングサービスの提供を強化している。「仕事の教科書(KADOKAWA)」他5冊を出版。コンサルティング支援先企業の内18社が、株式公開を果たす。
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