組織力を高める経営戦略としての自責思考とは?他責思考との違い、人と会社を成長させる考え方と実践方法について解説

5 部下指導・育成

ビジネスの現場では、社員の「思考」が成果や組織文化に直結します。なかでも「自責」と「他責」の違いは、個人の成長やチームの力を左右する重要な要素です。
本コラムでは、その違いと自責思考の必要性を明らかにし、ビジネスにおける成長との関係、そして人事として押さえておきたい教育・支援の視点について解説します。

Contents

自責思考とは何か

―「成長する社員」を育てるための第一歩―

本記事では、社員の成長に欠かせない「自責思考」とは何か、実務での活用を視野に入れながらその特徴と重要性について解説していきます。人材育成や評価制度の見直しにも利用できる内容として、ぜひご活用ください。

企業の持続的成長に不可欠な要素の一つに「社員の自立性」があります。その中核にあるのが自責思考です。これは、問題や成果に対して「自分自身は何をすべきだったか」と内省し、行動の責任を自分に引き寄せて考える思考パターンです。

たとえば、プロジェクトが期待通りに進まなかったとき、「上司の指示が曖昧だった」と外的要因を挙げるのではなく、「自分の確認が足りなかったのでは」「進捗報告の頻度が適切だったか」と自らの行動を起点に考えるのが自責思考の姿勢です。

自責思考がもたらす3つのメリット

成長スピードが加速する

自責思考の社員は、失敗を「学びの機会」として捉え、自ら改善点を見出します。この繰り返しが、スキルアップや業務遂行力の向上に直結します。自らPDCA(計画→実行→振り返り→改善)のサイクルを回せる人材は、上司に依存せず成果を出せる「自走型人材」へと変化していきます。

生産性と業務効率が上がる

自責思考の人は、時間の使い方、優先順位のつけ方など「自分が変えられる部分」に着目して改善を続けます。その結果、限られた時間や人材、予算といった資源(=リソース)の中でもできる限り大きな成果を出す努力ができるようになります。

チームの信頼を得る

他責にせず、誠実に自分の課題と向き合う姿勢は、周囲にも好影響を与えます。責任転嫁をしない人は「信頼できる人」として認識され、職場全体に協力的な空気や心理的安全性が生まれやすくなります。

自責思考は「企業文化」として育てるもの

「うちには自責思考の社員が少ない」と感じる企業もあるかもしれません。ですが、自責思考は才能ではなく後天的に育成可能な姿勢です。日々の上司のフィードバックや1on1面談、評価制度のあり方が、社員の思考パターンに大きく影響を与えます。

特に、自責思考の文化が根づく組織は、変化に強く、再現性のある成果を出しやすい特徴があります。だからこそ、自責思考を「個人の美徳」にとどめず、組織として重視すべき価値観として位置づける必要があるのです。

自責思考な人はどのような人か

―変化に強く、成長し続ける社員の共通点―

社員一人ひとりの「思考の質」は、組織の成果や文化に大きな影響を与えます。なかでも、自責思考を持つ人材は、環境や他者に流されず、常に自分の行動を軸に物事を捉え、改善し続ける力を備えています。
では、自責思考を持つ人には、どのような共通点があるのでしょうか。

1.内面の姿勢に表れる「成長意欲」

自己評価に厳しく、改善志向が強い

自分の行動や成果を客観的に見つめ、「もっと良くできたことはなかったか」を常に考えます。指示待ちではなく、自ら考えて動く社員に共通する姿勢です。

失敗を学びに変え、前を向く

たとえ自分が原因でない場面でも「自分にできることは何か?」と前向きに捉え、建設的な改善策を考える習慣があります。

ミスを認める勇気がある

自責思考の人は、失敗を隠さず、自ら「ここに問題があった」と報告します。さらに再発防止まで提案することもあり、その誠実さは信頼につながります。

長期視点で自らに投資する

短期的な成果に一喜一憂せず、「5年後の自分」に必要な学びを継続します。会社任せにせず、自ら本を読み、情報を集め、キャリアを主体的に築こうとする力があります。

2.行動習慣に表れる「実行力」

自己管理ができ、効率化にも意識が高い

時間やエネルギーなどのリソースを自ら見直し、より良い方法を模索する習慣があります。業務の管理や優先順位のつけ方にも長けており、個人としてもチームとしても生産性を高める存在です。

成功体験を積み重ねる努力を惜しまない

小さな成功を積み重ねながら、自信と実力を育てていきます。与えられた役割にとどまらず、周囲に良い影響を与えることで、自然と次の挑戦へとつなげます。

3.周囲との関わりに表れる「信頼性」

フィードバックを素直に受け止められる

上司や同僚からの意見を防御的にならず受け止め、「どうすればもっと良くなるか」を自ら考えます。この柔軟さが、継続的な成長を支えています。

コミュニケーション力が高い

自分の意見を伝えると同時に、相手の話にもきちんと耳を傾けるバランス感覚を持っています。自分の非を認めることができるため、チーム内でも信頼され、円滑な関係を築きやすいタイプです。

発揮される場面:たとえばプロジェクトの失敗時

納期に間に合わなかった場合、他責思考の人は「他部署の対応が遅い」「情報共有が不十分」と周囲に責任を求めがちです。
一方、自責思考の人は「スケジュール管理や確認に甘さはなかったか」「もっと早くリスクを共有すべきだったのでは」と、自分の行動を振り返り、次回への改善策を考えるのです。

このような姿勢があるからこそ、「どう段取りを見直せば良いか」「誰とどんなコミュニケーションを取るべきか」と、次の行動に具体的につなげられる力が育まれていきます。

自責思考を持つ人材こそ、組織の未来を支える存在

このように、自責思考を持つ人材は「成長」「信頼」「主体性」といった、組織の核となる資質を兼ね備えています。
人材育成の視点からも、こうした思考を持つ人材を見極め、育てることが、組織の持続的成長に直結するのです。

ビジネスにおける自責思考の重要性

―組織の競争力を支える「責任の文化」―

ビジネスの現場において、自責思考は単なる「個人の美徳」ではなく、組織の成長と競争力を左右する重要な資質です。自責思考を持つ社員が多い職場では、問題が発生しても責任を押しつけ合うのではなく、自分にできる改善策を考え、実行に移す姿勢が自然と根づいています。

1.主体的な行動が、業績を押し上げる

自責思考の社員は、課題や失敗に対して「なぜこうなったのか」「次にどうすればよいか」を自ら考えます。他人のせいにせず、主体的に問題解決に向かう姿勢は、上司の手を煩わせずに状況を打開する力につながります。こうした社員が増えると、組織全体の業務推進力が高まり、生産性も向上します。

2.信頼関係を築く行動が、チーム力を強くする

責任を自ら引き受ける姿勢は、周囲からの信頼を生みます。自責思考を持つ人は、自分の役割をしっかり果たすだけでなく、チームの成果に貢献する意識も高いため、他のメンバーとも協調的に働くことができます。このような関係性は、チームの一体感を生み、組織力の底上げにつながります。

3.業務効率と改善力の向上

自責思考の社員は、自分の業務のやり方に常に改善意識を持ち、時間の使い方や手順を見直す習慣があります。その結果、無駄を省き、効率的な働き方を自ら設計できるようになります。こうした小さな改善の積み重ねが、業務の最適化とコスト削減に大きく寄与します。

4.顧客対応力と信頼性の向上

自責思考の人は、顧客からのフィードバックにも真摯に向き合い、自分にできる改善を考えます。クレーム対応やトラブル時にも、言い訳をせずに責任を持って行動する姿勢が、顧客からの信頼を生み出します。このような社員の存在が、企業ブランドや顧客満足度の向上に大きく影響します。

5.自責思考はリーダーの資質にも直結する

責任を自ら引き受け、結果にこだわる姿勢は、次世代リーダーの基礎でもあります。自責思考を持つ社員は、チームメンバーに対しても誠実に接し、周囲を巻き込みながら前進する力を持っています。これは単なる実務能力ではなく、信頼されるリーダーに共通する行動特性です。

6.組織文化を変える力を持つ

自責思考を持つ人材が社内に増えると、「どうすれば改善できるか」を前向きに考える文化が自然と根づいていきます。これにより、新しい発想や価値を生み出す取り組み(=イノベーション)が生まれやすい土壌が整い、変化の多い時代にも柔軟に対応できる企業体質がつくられます。

責任を他人に押しつけるのではなく、一人ひとりが考えて動く企業文化は、持続可能な成長を支える最強の資産になります。


責任を取れる人材こそ、企業の未来をつくる

自責思考を持つ社員は、単に「反省ができる人」ではありません。自ら課題を見つけ、改善し、成果に結びつける行動力を持った存在です。このような人材を見極め、育てることこそが、経営者や人事担当者の重要な役割の一つと言えるでしょう。

自責思考と他責思考の違い

―組織の未来を分ける“思考習慣”とは―

社員の「思考の癖」は、日々の行動やチームの雰囲気、さらには企業全体の成長スピードにまで影響します。その中でも、自責思考と他責思考の違いは、個人の成長力だけでなく、組織の健全性や強さに直結する重要な分岐点です。

自責思考と他責思考の基本的な違い

自責思考と他責思考の違いは、個人の成長力だけでなく、組織の健全性や強さに直結する重要な分岐点です。
下記の一覧は、両者の特徴を整理した参考資料としてもご活用いただけます。

視点自責思考他責思考
責任の所在自分に原因があると考える周囲や環境に原因を求める
行動の動機改善しようという意志弁明・回避が中心
成長の方向性自分を変える・高める他人が変わることを期待する
組織への影響前向きな改善提案が増える信頼低下・対立が起きやすい

現場でどう現れるか?

たとえば、顧客からクレームが寄せられた場面を想像してみてください。

自責思考の社員は、「自分の説明が不十分だったのではないか」「お客様の期待値を正しく把握できていたか」と、自らの対応を振り返ります。そして、「次回からは事前に確認項目を整理しよう」「トーンや表現ももっと分かりやすくしよう」と、自分にできる改善を考え、行動に移そうとします

一方で、他責思考の社員は、「もともと無理な納期だった」「お客様の理解が浅かった」と外部要因に原因を求めがちです。その結果、自分の言動を見直す機会を逃し、同じようなトラブルを繰り返す可能性が高くなります

自責思考は成長の原動力

自責思考を持つ人は、失敗を「次に活かす学び」として捉え、自分の行動・スキル・姿勢を日々更新する習慣があります。だからこそ、問題解決力が磨かれ、周囲からの信頼も得やすくなります。これが、本人のキャリア形成はもちろん、組織の競争力強化にもつながるのです。

一方で、他責思考の人は、現状維持を望みがちで、自分を変える努力に消極的です。これが、組織の変化や成長を阻むブレーキとなることも少なくありません。

チームの空気にも影響する

他責思考は、単なる個人の傾向にとどまりません。誰かがミスを他人のせいにすれば、周囲にも責任転嫁の空気が伝染し、チームの信頼が崩れていきます

一方、自責思考の人が多いチームでは、互いに「自分にできることを考える」文化が根づき、心理的安全性と協力体制が高まりやすくなります。

自責思考がリーダーシップの鍵を握る

真に信頼されるリーダーは、責任を人に押しつけず、自分が引き受ける姿勢を見せられる人です。自責思考を持つリーダーは、ミスの原因を分析し、改善策を明示しながらチームを導きます。この誠実な態度が、チームの士気を高め、一体感を生み出す要因になります。

逆に、他責思考のリーダーは、「部下が悪い」「社内体制が整っていない」と外に矢印を向けることで、部下の信頼を失い、組織の停滞を招くリスクが高くなります。

企業文化にも大きな影響を与える

人事担当者が注目すべきは、思考習慣が企業文化の形成に直結するという点です。自責思考の人材が多くなると、自然と「どうすれば良くなるか」を考える文化が広がり、変化への適応力や創造力が育まれます

一方で、他責思考が蔓延すると、責任回避の風土や挑戦を恐れる空気が企業全体に広がり、停滞を招きかねません。


組織を強くするのは「責任を引き受ける姿勢」

自責思考と他責思考の違いを明確に理解し、どちらを評価・育成していくかを明示することが、経営や人事の大きな責務です。自責思考を持つ社員が増えることで、個人の成長、チームの信頼、そして企業の持続的な成長が実現できるのです。

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自責思考を持つ組織文化の形成方法

―個人の習慣を、組織の風土へと育てるには―

自責思考は、個人の成長を加速させるだけでなく、組織全体の競争力や持続可能性を支える根幹とも言えます。しかし、それを「組織の文化」として根づかせるためには、偶然に任せず、意図的・継続的な仕組みづくりが欠かせません。以下に、自責思考が根づく組織文化を形成するための具体的な取り組みを紹介します。

1.明確なビジョンとミッションの共有

組織としての方向性が明確でなければ、社員一人ひとりが「何に責任を持つべきか」を判断できません。組織のビジョン(=会社が目指す理想の未来)とミッション(=何のために存在するのかという使命)を明確にし、あらゆる階層で浸透させることが、自責思考の第一歩です。自身の業務が組織の目的にどう貢献しているかが理解できれば、自ら考えて動く意識が育ちやすくなります。

2. フィードバック文化の確立

自責思考は「気づき」と「振り返り」によって育まれます。上司からの定期的なフィードバック、同僚との相互フィードバックを通じて、自己を見つめ直す習慣を促す環境を整えましょう。重要なのは、成果だけでなく、そこに至るまでの取り組みの流れや工夫、努力の過程にも目を向けることです。

3.成功体験の共有と称賛

「自ら考えて行動した結果、成果につながった」という成功体験を、組織内で可視化・共有することが、自責思考を加速させます。取り組みの工夫や改善までの流れに光を当てることで、「こうすれば良いのか」という学びと再現性が生まれます。称賛の文化は、責任を持つことへの前向きな印象を育てます。

4.継続的な学習機会の提供

自責思考は、「自分を高めることができる環境」があってこそ発揮されます。研修・読書・eラーニングなど、自己研鑽の機会を日常業務と並行して提供することが求められます。企業としての「学びの支援」は、社員の成長意欲を正しく後押しします。

5.リーダーによる体現(ロールモデル)

いくら制度を整えても、リーダー層が責任逃れをするようでは文化は育ちません。トップやマネージャーが「まず自分から行動を変える」という姿勢を見せることで、社員も自然とそれに倣います。自責思考の文化は、上層から滲み出るものです。

6.開かれたコミュニケーションの仕組み

「安心して意見が言える」「課題を率直に共有できる」環境は、自責思考の土台です。オープンな対話ができる会議設計や、1on1面談の定期実施、同僚同士でお互いの行動や成果についてフィードバックし合う仕組み(=ピアレビュー制度)の導入などによって、相互理解と信頼が生まれます。

7.定期的なモニタリングと評価

自責思考は「評価指標に含まれているかどうか」で定着度が変わります。組織として、行動評価や成長過程へのフィードバックの枠組みを明確にすることで、「何が求められているか」が伝わり、文化として根づきます。また、継続的にその定着度を把握するモニタリングも重要です。


意図的な仕組みが文化を育てる

自責思考を持つ組織文化は、個人任せでは育ちません。ビジョンの共有から仕組み設計、リーダーの振る舞いに至るまで、組織のあらゆる場面に“自分ごと化”を促す工夫を織り込むことが、文化を育てるうえでの重要な要素となります。これにより、社員一人ひとりが責任と誇りを持って行動し、組織全体の成長をけん引する土壌が整うのです。

過度な自責思考がもつ問題点

―“責任感の強さ”が裏目に出る瞬間とは―

自責思考は、社員の成長や組織の健全化に欠かせない思考様式ですが、度を越えた自責はかえって逆効果となることもあります。過度な自責思考は、本人の心の健康や仕事の成果、さらには組織全体にも悪影響を及ぼす可能性があります。経営者・人事担当者としては、「良い自責」と「行き過ぎた自責」を見極め、適切なバランスを支援する姿勢が求められます。

1.精神的ストレスの増加

過度に自分を責める社員は、「すべての責任は自分にある」と感じやすくなり、過剰なプレッシャーや自己否定感に苦しむ傾向があります。プロジェクトの失敗などの際に、外的要因や他者の役割を正しく把握せず、自分の責任ばかりを背負い込んでしまうことで、心の疲弊が積み重なるのです。

2.自己肯定感の低下

「またうまくできなかった」「自分はダメだ」といった思考が習慣化すると、自分の価値や能力への信頼が揺らぎ、自己肯定感が下がります。これはモチベーションの低下や、挑戦を避ける姿勢につながりやすくなり、結果として行動力や創造力にも悪影響を及ぼします。

3.燃え尽き症候群のリスク

責任感が強く、常に全力で仕事に取り組むタイプの社員ほど、無理を重ねた結果、心身の限界を超えてしまうことがあります。休むことに罪悪感を抱き、自己改善の努力を止められず、最終的に燃え尽きてしまうケースは少なくありません。これは中堅社員や管理職層に特に起こりやすい傾向です。

4.生産性の低下と思考停止

自分のミスや足りなさを過剰に意識すると、必要以上に慎重になり、判断が遅れたり、行動が止まったりすることがあります。また、自己批判が強すぎると冷静な分析ができず、改善に向けた具体的な行動に移せなくなる場合もあります。これは本来の自責思考が持つ「改善力」を損なう結果となります。

5.組織全体への悪影響

過度な自責思考が蔓延すると、組織内に「責任を取る=苦しむこと」という印象が定着し、社員が責任ある行動を避けるようになります。失敗を隠す・報告をためらう・本音を言わないといった空気が生まれれば、心理的安全性が損なわれ、組織力も低下してしまいます。


こうしたリスクを防ぐためには、「自責」と「他責」のバランスを意識したマネジメントが必要です。次章では、社員が前向きに責任を持ちながらも、過度なプレッシャーに押しつぶされないための具体的な取り組みをご紹介します。

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自責思考と他責思考のバランスを取るための方法

―健全な責任感が、持続可能な成長を支える―

自責思考は、組織にとって成長のエンジンとなる大切な思考ですが、度が過ぎると個人の心身やチームの働き方に悪影響を及ぼすことがあります。一方で、すべてを環境や他人のせいにする他責思考も、成長を妨げる原因になります。重要なのは、両者のバランスをとるマネジメントです。

本節では、組織全体として自責思考と他責思考のバランスをどう保ち、社員が健全な責任感を持って働ける環境をいかに整えるかを考察します。以下に、そのために取り組むべき実践的な方法を紹介します。

1.現実的で納得感のある目標設定

社員が「自分の役割」を自覚しながらも、過度なプレッシャーに陥らないためには、目標の質と難易度のバランスが重要です。達成困難な目標は過剰な自責につながりやすく、逆に曖昧すぎる目標は責任感を薄れさせます。個人のスキルや業務状況に応じた、具体的で達成可能な目標設定を心がけましょう。

2.休息とリフレッシュの習慣化

常に「もっとやらねば」と思い詰める環境は、心の余白を奪い、燃え尽き症候群のリスクを高めます。組織として、業務にメリハリを持たせる風土づくりや、休暇取得を推奨する制度設計が欠かせません。リーダー自身が率先して休む姿勢を見せることも、健全な働き方の浸透につながります。

3.メンタルヘルスへの継続的なサポート

社員の心の状態に気づく仕組みを持つことは、今の時代の必須条件です。相談しやすい窓口の設置や、専門家との面談機会の提供により、「一人で抱え込まない」組織体制を構築しましょう。精神的に安定した状態でなければ、正しい自己評価も前向きな行動も育ちません。

4.建設的なフィードバック文化の推進

自責思考を健全に機能させるためには、本人が“何をどう改善すればいいか”を理解できる環境が必要です。成果や行動に対するフィードバックは、「良かった点」と「改善点」をセットで伝え、責めるのではなく、前向きな行動を後押しするメッセージとして届けることがポイントです。

5.安心して話せるコミュニケーション環境の整備

過度な自責思考に陥っている社員ほど、「相談してはいけない」「迷惑をかける」という思いにとらわれやすくなります。上司や同僚との日常的な対話機会を設け、悩みや課題を共有しやすい職場の雰囲気を育てましょう。心理的安全性のある職場では、自責も他責も健全な範囲に保ちやすくなります。

6.チームビルディングによる相互理解の促進

互いの強みや特性を理解し合うチームビルディングは、「個人の責任」と「チームの支え合い」のバランス感覚を養う手段です。孤立感を和らげ、適度に頼り合える関係性を築くことで、社員は必要以上に自分を責めることなく、前向きな責任感を発揮しやすくなります。

7.継続的な教育と学びの機会の提供

自己改善に前向きに取り組むには、スキルや知識を高める“材料”が必要です。定期的な研修や学びの機会を提供することで、社員は「変えられる自分」に気づき、自責思考を建設的に活かせるようになります。自信と実力の両面を支える仕組みが、長期的にバランスの取れた思考を育てます。


健全な責任感を育てるには、「仕組み」と「風土」が不可欠

自責思考そのものが悪いのではありません。大切なのは、責任を前向きな行動につなげられる環境を整えることです。そのためには、組織として目標の設計や休息の仕組み、フィードバックの質、教育の継続性など、あらゆる側面に目を向ける必要があります。

社員一人ひとりが安心して責任を引き受けられる環境があってこそ、組織は持続的な成長を築いていくことができます。本節で紹介したような制度・風土の整備は、その第一歩となるでしょう。

自責と思いやり、挑戦と休息。その両立こそが、持続可能な組織づくりを支える基本となる考え方なのです。

部下の自責思考を教育で培わせることはできるか

―リーダーの関わり方が、思考の質を変える―

本節では、リーダーや上司が現場でどのように部下と関わり、自責思考を育てるためにどのような教育的な関わり方や働きかけができるかに焦点を当てます。

自責思考は、持続的な成長を支える重要な思考スタイルですが、これは生まれつきの性質ではなく、日々の関わりや教育によって育てていける力です。
特に部下の育成においては、上司がどのように接し、どのような働きかけを行うかが、社員の「考えて行動する力」に大きな影響を与えます。

以下に、自責思考を育むための具体的な教育の取り組み方法をご紹介します。

1.フィードバックを通じて“内省”を習慣化する

部下に自責思考を育てる第一歩は、フィードバックの質と頻度を高めることです。成果や行動に対して、「何が良かったか」「どこに改善の余地があるか」を具体的に伝えることで、部下は自身を客観視しやすくなります。

たとえば次のようなフィードバックが効果的です。

「このプロジェクトでのあなたのリーダーシップは非常に効果的でした。特に、チームメンバーとの調整が円滑だった点が素晴らしかったです。一方で、スケジュール管理についてはもう一段階、事前の見通しがあるとさらに良かったですね。」

このように肯定と改善をセットで伝えることで、部下は自己評価と行動改善を前向きに捉えるようになります。

2.具体的かつ達成可能な目標設定をサポートする

自責思考は、「どうすればもっと良くできるか」を考える習慣によって強化されます。そこで重要になるのが、達成可能で納得感のある目標設定です。あいまいな目標では行動を振り返る軸が持てず、自責も育ちません。

たとえば、

「次回のプロジェクトでは、進捗管理スキルの向上を目標に、週ごとの作業内容の見直しと報告を行ってみましょう。」

このように具体的で行動に落とし込みやすい目標を設定することで、部下は「何をどう改善するか」を自分ごととして捉えるようになります。

3.成功体験の積み重ねで“自信ある自責”を育てる

自責思考は、後ろ向きな反省ではなく、「よりよくするために考える」ための思考です。したがって、小さな成功体験を積み重ねることが欠かせません。任されたことをやり遂げた経験が、責任を持つことへの前向きな意識につながります。

例としては、プロジェクトの一部を任せてみる、提案を採用して実行させてみるといった主体的に取り組む機会の提供と、その成果の称賛が効果的です。成功体験は自信を育て、「次はもっと良くしたい」という内発的な動機を生み出します。

4.継続的な学習の機会を用意する

自責思考を持つには、「改善するための材料=知識とスキル」が不可欠です。研修・セミナー・eラーニングといった継続的な学習機会を提供することで、部下は成長の道筋を描きやすくなります。

例えば

  • 新任リーダー研修でマネジメント視点を学ぶ
  • ロジカルシンキング研修で問題解決スキルを高める
  • eラーニングで時間と場所を問わず自学できる環境を整備

知識と経験の積み上げは、「失敗しても次に活かせる」という前向きな自責思考を促進します。


自責思考を育む環境づくりが、組織の思考力を変える

自責思考は、“反省”ではなく“前進するための視点”です。リーダーの関わり方ひとつで、部下の思考の質は大きく変わります。適切な目標設定、具体的なフィードバック、成功体験、そして継続的な学びの機会。この4つの要素を揃え、部下が自分の行動を主体的に見つめ、次の行動につなげる習慣を育てましょう。

組織としての仕組みづくりと併せて、現場の一人ひとりの関わり方が、部下の思考や行動に大きな影響を与えることを、日々の育成の中で意識していくことが重要です。

それこそが、個人と組織の成長を両立させる人材育成の本質なのです。

自責思考が、組織と人を育てる土壌となる

本コラムを通じて、「自責思考」というキーワードを軸に、社員個人の成長から組織文化が育っていく過程、さらにはリーダーとしての関わり方まで、多面的にその価値と課題を考察してきました。

自責思考とは、単に「自分を責める」ことではありません。自らの行動を振り返り、どうすればもっと良くできるかを考え、改善につなげていく姿勢です。この思考が身についた人材は、問題解決力に優れ、変化に対応し、自らの力で成長し続けます。まさに、組織の競争力を支える原動力です。

一方で、自責思考は「強く求めれば育つ」というものではなく、適切なフィードバックや目標設定、学習機会の提供、心身のケアといった組織側の支援と仕組みづくりが不可欠です。リーダーや人事担当者には、社員の自責思考を健全に育てる環境整備という重要な役割が求められます。

また、過度な自責は、ストレスや燃え尽き、自己肯定感の低下を招き、逆に組織の成長を阻害するリスクもあります。そのため、自責と他責のバランスを理解し、「責任を持つ」ことが苦しみではなく前向きな行動の出発点となるような文化を育てていくことが必要です。

社員一人ひとりが、自分の仕事や役割に責任を持ち、同時に周囲と支え合いながら前向きに行動できる。そのような環境を整えることが、中小企業が持続的に成長していくための確かな土台になるはずです。

自責思考を「押しつけるもの」ではなく、「育むもの」と捉え、社員と組織がともに成長する関係性を築いていきましょう。

監修者

髙𣘺秀幸
髙𣘺秀幸株式会社秀實社 代表取締役
2010年、株式会社秀實社を設立。創業時より組織人事コンサルティング事業を手掛け、クライアントの中には、コンサルティング支援を始めて3年後に米国のナスダック市場へ上場を果たした企業もある。2012年「未来の百年企業」を発足し、経済情報誌「未来企業通信」を監修。2013年「次代の日本を担う人財」の育成を目的として、次代人財養成塾One-Willを開講し、産経新聞社と共に3500名の塾生を指導する。現在は、全国の中堅、中小企業の経営課題の解決に従事しているが、課題要因は戦略人事の機能を持ち合わせていないことと判断し、人事部の機能を担うコンサルティングサービスの提供を強化している。「仕事の教科書(KADOKAWA)」他5冊を出版。コンサルティング支援先企業の内18社が、株式公開を果たす。

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