人材育成と人材開発の違いとは?人材開発を成功させるための7つのポイント

5 部下指導・育成

人材育成や人材開発という言葉は多くの企業で使われていますが、その違いや目的を明確に理解している人は意外と少ないのではないでしょうか。人材を成長させ、組織の競争力を高めるためには、単なる研修の実施だけでなく、育成と開発を適切に使い分ける視点が欠かせません。
本コラムでは、両者の違いを整理したうえで、企業が人材開発を成功させるために押さえるべき7つのポイントや、具体的な施策をわかりやすく解説します。

< このコラムでわかる3つのポイント >
1.人材育成と人材開発の本質的な違いの理解
2.人材開発を成功に導くために企業が取るべき具体的アクション
3.育成と開発を戦略的に使い分けるための判断軸の明確化

 

人材育成とは何か

人材育成とは、社員一人ひとりが組織の目標に向かって適切に行動できるよう、その知識やスキル、マインドを高める取り組みです。企業が継続的に成長していくためには、この「人材育成」の理解と実践が不可欠です。

人材育成の定義と背景

人材育成とは、企業や組織が社員の知識・スキル・価値観を計画的に高めていく活動全般を指します。特に日本企業では、新卒一括採用と長期雇用を前提に、入社後にじっくりと育成していく「ポテンシャル重視」の文化が根強く、職場内教育(OJT)を中心に、階層別研修や業務ローテーションなどが長年行われてきました。

近年では、終身雇用制度の揺らぎ、ジョブ型雇用の広がり、人的資本経営の重要性の高まりといった背景から、単なる業務遂行力の向上にとどまらず、社員一人ひとりのキャリア形成や自律性を促す育成の在り方が求められています。

育成の目的と範囲

企業が人材育成に取り組む目的は、大きく以下の3点に集約されます。これらは、単にスキルを高めるという視点にとどまらず、組織の価値観を共有し、企業文化の中で適切に機能する人材をつくるという側面もあります。

目的内容
業務遂行力の向上日常業務をより効率的・効果的にこなせるようにする。
組織力の強化チームとして成果を出す力や、リーダーシップ・協調性を育む。
将来を担う人材の育成  次世代リーダーや管理職候補の発掘と育成。
人材育成が求められる理由

社会やビジネス環境の変化が激しい現代では、「今あるスキル」だけではなく、「変化に対応できる力」が重視されます。そのため、企業には継続的に社員を育成し続ける体制が求められており、それが競争力の源泉となります。

また、社員側の意識も変化しており、かつてのように会社に任せきりではなく、「学び直し(リスキリング)」や「キャリア自律」に関心を持つ人が増えています。このような背景から、企業には従業員の学習を支援し、成長機会を提供する責任が問われるようになっています。

現場主導のOJTと人事主導のOFF-JTの連携

人材育成の手法には、現場での実務を通じて行うOJTと、研修や外部セミナーなどのOFF-JTがあります。OJTは個々の実務に密着している反面、体系的な知識が得づらいという課題があり、逆にOFF-JTは基礎的な理論や汎用スキルの習得には向いていますが、実務への適用に時間がかかることもあります。

そのため、両者を組み合わせた「統合型育成プラン」が効果的です。具体的には、OFF-JTで理論を学び、その後OJTで実践する流れをつくることで、学びの定着と業務成果の向上が期待できます。

人材育成と人材開発の違い

「人材育成」と「人材開発」は混同されがちですが、両者は目的・主体・手法において明確に異なる概念です。違いを正しく理解することは、自社の人材戦略を最適化する第一歩です。

視点の違い:短期と中長期の目的

人材育成は、主に現場での業務遂行能力を高めることを目的としており、短期的な成果の向上を目指します。新入社員研修、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)、業務マニュアルの習得などが代表的です。一方、人材開発は中長期的な視点に立ち、社員の潜在能力やリーダーシップ、イノベーション力を高め、将来の経営人材を育てることを目的としています。

このように、両者はアプローチする時間軸と成果への期待値が異なり、人材育成は現場レベルでの即戦力強化、人材開発は経営レベルでの組織基盤づくりに寄与します。

主体の違い:教える vs 引き出す

人材育成は、企業が教育主体となり、「何をどのように教えるか」が設計の中心となります。対象者は基本的に受け身であり、会社が求める行動やスキルの習得がゴールです。一方で人材開発は、社員自身が主体となって成長課題を認識し、会社はその挑戦を「支援する」立場に回ります。ここで重要なのは、企業が画一的なプログラムを提供するのではなく、個々の社員に適した学びの機会を創出するという視点です。

比較表:人材育成と人材開発の違い
項目人材育成人材開発
主な目的業務に必要なスキルや知識の習得    中長期的な能力開発・リーダー創出
時間軸短期中長期
主体組織が「教える」本人が「成長する」ことを組織が支援
方法OJT、OFF-JTなどの教育・研修キャリア開発、越境学習、1on1、リスキリング
受講姿勢受け身主体的
成果の測定実務遂行力・業務成果キャリア自律・能力の持続的成長
組織戦略との関係   業務遂行力の底上げ経営課題への対応、変革推進力の醸成
手法の違いとその選定ポイント

人材育成においては、階層別研修や業務マニュアルに基づいたOJTなど、あらかじめ設計されたカリキュラムを集団に対して適用するスタイルが主流です。これにより、効率よく一定水準のスキルを全員に身につけさせることができます。一方、人材開発では個々のニーズやキャリア志向を踏まえ、より柔軟な設計が求められます。コーチング、メンタリング、キャリアカウンセリングなど、個別最適化がキーワードとなります。また、人的資本経営の潮流の中では、越境学習(社外での経験)や異業種交流、リスキリングなどの施策が注目されています。

社員へのメッセージ性の違い

両者は、社員に対して伝える「メッセージ」も異なります。
人材育成は、「あなたにはこの業務を期待しており、それに必要な力を身につけてください」という組織の期待の表明です。一方で人材開発は、「あなたのキャリアをどう描き、どう成長していきたいのか」を問う、個人の可能性への投資です。この違いは、社員のモチベーション形成やエンゲージメントにも大きな影響を与えます。

戦略的人事としての活用法

企業としては、「人材育成」と「人材開発」を二項対立で捉えるのではなく、補完的に設計・運用していくことが重要です。業務に必要なスキルを確実に育成しつつ、将来的なキャリアや役割変化を見据えた能力開発の支援を並行して行うことで、社員の成長と組織の持続的成長の両立が可能になります。

人事部門には、育成と開発を別々の施策として捉えるのではなく、一貫性ある「人材戦略」として構築していく力が求められています。

人材育成のメリットとデメリット

人材育成は多くの企業にとって欠かせない施策ですが、その効果を最大限に引き出すためには、メリットだけでなくデメリットもしっかりと理解し、対応策を講じることが重要です。

人材育成の主なメリット

人材育成の最大のメリットは、社員の業務遂行能力が向上することです。OJTやOFF-JTを通じて必要なスキルや知識を身につけることで、業務の効率化やミスの減少につながります。また、個人の能力が向上することでチーム全体のパフォーマンスも底上げされ、組織力の強化にも寄与します。

さらに、企業が計画的に育成機会を提供することで、社員のエンゲージメント向上や離職防止にもつながります。「この会社は自分の成長を支援してくれる」と感じることで、社員の定着率が上がり、採用・教育にかかるコスト削減にもつながります。

以下のような成果が、多くの企業で報告されています。これらは、適切な人材育成施策が導入され、現場で定着した場合の成果です。

効果カテゴリー具体的成果例
業務効率生産性向上、業務スピードの改善
品質向上顧客対応力の向上、ミスの減少
組織力強化チームワーク向上、管理職候補の育成
人材定着離職率の低下、採用コストの削減
人材育成の主なデメリット

一方で、人材育成にはいくつかのデメリットも存在します。まず挙げられるのが、時間とコストの負担です。研修の設計・実施・フォローには、一定のリソースが必要です。特に中小企業にとっては、専任の教育担当者がいない場合も多く、現場の業務と並行しての対応が課題となります。

また、OJTに頼りすぎると、指導者のスキルや個人差によって教育効果にばらつきが出るリスクもあります。体系だった育成計画がなければ、「教え方が属人的になる」「教える時間が取れない」「本来の業務が遅れる」といった問題が発生します。さらに、社員が受け身の姿勢で育成を受けてしまう場合、学びが定着せず形骸化する恐れもあります。

デメリットに対する対策

こうしたデメリットに対応するためには、以下のような施策が有効です。育成を単なる「作業」ではなく、企業文化や人事戦略と連動させることで、こうした課題を未然に防ぐことができます。

  • 研修設計時に目的と効果測定指標を明確化する
  • OJT担当者の育成もセットで行う(メンター制度等)
  • 育成内容をマニュアル化・標準化し、属人化を防ぐ
  • 自律的に学ぶ風土をつくる(自己啓発支援制度など)

人材開発のメリットとデメリット

人材開発は、企業の中長期的な競争力を高めるうえで不可欠な戦略的取り組みです。一方で、取り組み方によってはコストや成果の不確実性といった課題も抱えています。メリットとデメリットをバランスよく理解することが重要です。

人材開発の主なメリット

人材開発の最大のメリットは、将来的に組織の成長を支える人材を継続的に輩出できることです。変化の激しい現代においては、既存のスキルだけに依存せず、新たな価値を生み出せる人材の育成が不可欠です。

また、人材開発は社員のキャリア自律を促進し、自発的に学び、行動する人材を育てることにつながります。これは、社員のエンゲージメント向上や離職防止にも良い影響を与え、組織全体の柔軟性・対応力を高める結果となります。さらに、リーダー候補の早期発掘と育成にも直結し、事業継続や後継者問題への備えとしても有効です。

以下のような成果が、多くの企業で報告されています。

効果カテゴリー具体的成果例
キャリア自律 社員の主体的な学習と挑戦が促進される
組織変革新しい視点を持った人材が変革をリード
リーダー創出将来のマネジメント人材を社内で育成
競争力強化継続的に学び続ける文化が企業全体に浸透
人材開発の主なデメリット

一方で、人材開発にはいくつかのデメリットも存在します。まず、成果が見えにくく即効性に欠けるという点が課題です。人材開発は中長期の取り組みであり、短期間での成果測定や効果の実感が難しい傾向があります。

また、対象者の意欲や適性に左右されることもデメリットです。開発プログラムを用意しても、受講者の参加意識が低ければ十分な効果が得られません。これは、施策自体の質だけでなく、社員の動機づけや組織風土とも密接に関係します。さらに、制度設計が曖昧な場合、「なぜこの人を選んだのか」「何を目的にしているのか」といった点で現場との温度差が生まれやすく、取り組みが形骸化してしまう恐れもあります。

以下のようなデメリットが、想定されます。

課題カテゴリー想定されるデメリット内容
成果の見えにくさ  投資効果が不明確、短期での成果が測定しづらい
対象者依存社員の受け身姿勢により効果が限定的になる
制度運用の難しさ現場と目的が共有されず、形骸化・納得感の欠如が起きる
デメリットへの対応策

こうしたデメリットに対処するには、以下のようなポイントを押さえることが効果的です。人材開発を成功させるには、制度やプログラムの充実だけでなく、社員と組織が共に成長を目指す文化の醸成が欠かせません。

  • 目的と成果指標を事前に明確に設計する。
  • 社員のキャリア志向や適性を踏まえて対象者を選定する。
  • 業務との連動性を高めた開発計画を設計する。
  • 段階的な成果測定(短期・中長期)を実施する。

人材育成か人材開発どちらを選ぶべきか

人材育成と人材開発は、それぞれに異なる役割と目的を持ちます。では、企業はどのような状況でどちらを選択すべきなのでしょうか。判断のための視点を整理します。

両者は「選ぶ」ものではなく「組み合わせる」もの

まず前提として押さえておきたいのは、人材育成と人材開発は二者択一ではなく、補完し合う関係にあるという点です。現場レベルの即戦力を育てる「人材育成」と、将来を見据えた変革人材を支援する「人材開発」は、それぞれの目的が異なるため、企業が成長するためには両者のバランスをとる必要があります。そのうえで、経営戦略や人材戦略、現場の課題に応じて、今、どちらを重視すべきかを判断する視点が求められます。

判断のための3つの視点

以下の3つの観点から、自社が人材育成と人材開発のどちらに重点を置くべきかを見極めることができます。

視点育成を重視すべきケース開発を重視すべきケース
経営課題業務効率化、品質改善、マニュアル徹底など  新規事業、DX推進、次世代リーダー育成など
社員の状態新人・若手が多く、基本スキルの底上げが必要中堅〜ベテラン層が多く、モチベーションが課題
組織の成熟度   明確な役割分担があり、安定運営を重視柔軟性や変革力が求められる成長フェーズ
成長フェーズに応じた切り分け

企業の成長ステージによっても、注力すべき施策は異なります。創業期〜拡大期にかけては、業務を標準化・効率化するための人材育成が中心となる一方、安定期〜変革期には、ビジョン実現や新たな価値創出を担う人材開発が重要になります。

特に昨今では、事業環境の変化が速く、どの成長段階でも変革人材が求められるため、単純に育成だけに偏るのではなく、開発の視点を組み込むことが求められます。

現場と戦略の接続がカギ

人材施策がうまく機能しない原因の一つは、「現場と人事、経営との間にギャップがあること」です。人事部門が戦略的に設計した人材開発プログラムがあっても、現場が理解しておらず協力が得られなければ定着しません。

そのためには、現場マネージャーとの連携を強化し、育成・開発それぞれの目的と期待値を明確に共有することが不可欠です。また、社員自身に対しても、自分がなぜこの育成・開発に取り組むのかを腹落ちさせるコミュニケーションが必要です。

ハイブリッド型の人材戦略へ

今後は、「育成」と「開発」を切り離すのではなく、両者を一体化したハイブリッド型の人材戦略が求められます。
例えば、業務に必要なスキルをOJTで習得させながら、その過程でキャリアの方向性を対話する1on1を実施し、中長期的な能力開発にもつなげるといった手法です。

このように、社員一人ひとりの業務成果と成長支援を両立させる施策を、個別に最適化して設計する視点が、今後の人材戦略には不可欠です。

効果的な人材育成の具体策

人材育成を形骸化させないためには、対象や目的に応じた適切な手法の選定と、実行・定着までの一貫した仕組みが必要です。ここでは、効果的な人材育成を実現するための具体策を紹介します。

育成の前提:目的の明確化と対象の選定

まず重要なのは、「何のために育成するのか」「誰を育成するのか」という育成の目的と対象の明確化です。例えば、「新人の早期戦力化」「リーダー層のマネジメント力向上」「現場の業務品質改善」など、目的に応じて研修内容・指導方法・評価指標が変わります。

また、対象となる社員のスキルレベルや経験年数、配属部署の特性などを把握したうえで、個別最適な育成プランを設計することが成果につながります。

OJTとOFF-JTのバランス活用

人材育成では、OJT(On-the-Job Training)とOFF-JT(Off-the-Job Training)の組み合わせが効果を高めるカギとなります。両者のバランスが重要であり、「OFF-JTで理論を学び→OJTで実践→振り返りで定着」というサイクルを設けることで、学習効果が飛躍的に高まります。

  • OJT:実際の業務の中で上司や先輩が直接指導する方法で、即効性が高く、現場のリアルなスキルが身につきます。
  • OFF-JT:集合研修やeラーニングなど業務外で学ぶスタイルで、理論や体系的な知識の習得に有効です。
教える側の育成:メンター制度の活用

効果的な育成のためには、教える側の力量も問われます。OJT担当者や先輩社員に対して、メンタリングスキルや指導方法を教える研修を導入することで、育成の質が安定します。

メンター制度の導入は、新人・若手の成長だけでなく、メンター自身の成長にもつながります。指導経験を通じてリーダーシップや伝達力が鍛えられ、組織全体の育成力が底上げされます。

フィードバック文化の醸成

育成が形骸化する原因のひとつが、「学びっぱなし」「教えっぱなし」になっていることです。
そこで有効なのが、定期的なフィードバックの仕組みです。1on1や目標面談を通じて、育成の進捗を確認し、必要に応じて方向修正を行います。

また、フィードバックは単なる評価ではなく、「成長のきっかけ」として活用することが重要です。安心して意見を言い合える心理的安全性のある職場環境も、効果的な育成に欠かせません。

デジタルツールの活用と学びの可視化

eラーニング、LMS(Learning Management System)、動画コンテンツなど、テクノロジーを活用した育成手法も広がっています。これにより、時間や場所に縛られず、個人のペースに合わせた学習が可能になります。

さらに、学習状況やスキルの定着度を「見える化」することで、育成効果の測定や改善にもつながります。人事部門が成長データを可視化し、現場と共有することで、育成施策が組織全体に浸透していきます。

効果的な人材開発の具体策

人材開発は単なる研修や制度ではなく、社員一人ひとりの可能性を引き出す戦略的な仕掛けです。ここでは、企業が人材開発を成功させるために取り入れるべき具体的な手法と実践ポイントを紹介します。

キャリア開発支援の導入

人材開発において最も重要な観点の一つが、社員のキャリア自律を促すことです。企業が用意するキャリア開発支援制度としては、以下のようなものがあります。これらの施策は、単なる制度ではなく、社員が自らの意思でキャリアを切り拓くための「土壌づくり」となります。

  • キャリア面談(1on1):上司と定期的に将来の方向性を話し合い、課題や希望を言語化する。
  • キャリアシートや棚卸しツール:スキル・経験の可視化によって自己理解を深める。
  • 社内公募制度やジョブチャレンジ制度:自ら希望する業務やポジションに応募できる仕組み。
越境学習・社外経験の活用

人材開発においては、社内だけでは得られない異なる視点や価値観との出会いが成長の大きな刺激となります。こうした背景から、以下のような越境型の学習・経験が注目されています。越境学習は、単なる“外の体験”ではなく、自社の仕事への還元を意識した設計と振り返りの仕組みをセットにすることで効果が高まります。

  • 異業種交流研修:他業界の課題やアプローチに触れることで発想を広げる。
  • 社外プロジェクト参加:NPO、自治体、スタートアップなどでの活動を通じて、柔軟性・多様性を学ぶ。
  • 副業・兼業の容認:本業では得られないスキルや人脈を開発につなげる。
内省・対話を支援する仕組み

人材開発では、知識のインプットよりも、「自己理解と内省」が重要視されます。自身の強みや志向性、課題を深く掘り下げることで、開発の方向性が明確になります。具体的には以下のような支援策があります。こうした「内省の仕掛け」は、成長の“燃料”とも言え、開発支援の中核をなす部分です。

  • ラーニングジャーナル:日々の学びや気づきを記録し、振り返りの習慣をつける。
  • 社内コーチング:社内有資格者や上司が、非指示型で対話を行い、気づきを引き出す。
  • ピアレビュー:同僚同士で成長のフィードバックをし合う文化づくり。
成果の可視化とフィードバック体制の整備

人材開発は中長期的な取り組みであるため、成果が見えにくく、投資対効果が不透明になりがちです。これを防ぐために、企業側が「何を持って成功とするか」をあらかじめ定義しておくことが重要です。以下の様な仕組みにより、開発活動が「やりっぱなし」にならず、次の成長ステップへとつなげることができます。

  • 中期目標(3年後の状態)と短期行動(半年間の挑戦)をセットで設定
  • アクションプランの進捗を定期レビュー
  • 本人の成長実感と上司の評価の両面から効果を測定

人材育成・人材開発それぞれ行う前に準備するべきこと

人材育成や人材開発の成功可否は、実施内容そのものよりも、事前準備の質に大きく左右されます。ここでは、施策に着手する前に企業が必ず押さえておくべき準備事項を解説します。

育成・開発の「目的と狙い」を明文化する

人材育成・人材開発のいずれも、**「なぜ今この施策が必要なのか」**を明文化することが出発点です。この目的が曖昧なままでは、施策が形骸化したり、現場の納得感を得られなかったりする原因となります。例えば、「若手社員の早期戦力化を図りたい」「将来の管理職候補を計画的に育てたい」「自律的に学ぶ風土を定着させたい」といった経営課題との接続が明確になっているかを確認する必要があります。

対象者の現状とニーズを把握する

画一的なプログラムでは、多様な社員の成長課題に対応できません。
そのため、施策に入る前に、対象者のスキルレベル・キャリア志向・業務上の課題などを可視化することが大切です。具体的には、以下のような調査・対話が有効です。このような360度的な情報収集が、より効果的なプラン設計につながります。

  • スキルチェックリストによる現状把握
  • キャリア面談を通じた本人の課題意識の抽出
  • 上司・現場からの育成ニーズのヒアリング
育成・開発を支える「職場環境」の整備

いくら優れた施策を導入しても、現場での実践が伴わなければ定着しません。
そのためには、育成・開発を支える職場の風土や制度を整えることが重要です。代表的な整備項目は以下の通りで、これにより育成・開発が一部の取り組みではなく、日常業務の一部として機能するようになります。

項目内容例
時間の確保学習や育成の時間を業務スケジュールに組み込む
支援の仕組みOJT担当者、メンターの配置と育成支援体制
フィードバック文化上司・同僚からの継続的なアドバイスと対話の場
成果の定義と評価の仕組みを設計する

人材施策を実施する前に、「どのような状態をもって成果とするか」を定めておくことが重要です。評価が曖昧だと、育成・開発が「やりっぱなし」で終わってしまいます。例えば、以下のような評価軸を組み合わせることで、成果が見えやすくなります。定量と定性の両側面を押さえた評価設計が、継続的な改善サイクルを生み出します。

  • スキルの定量的向上(テスト結果、資格取得など)
  • 上司・同僚からの行動観察とフィードバック
  • 本人の成長実感・モチベーションの変化

まとめ

人材育成と人材開発は、一見すると同じように使われがちですが、実際にはアプローチや目的、実施主体に大きな違いがあります。人材育成は、主に組織の即戦力や業務遂行力を高めることを目的とし、現場レベルでのOJTや定型研修が中心となります。一方で、人材開発はより中長期的視点から、社員の潜在能力やリーダーシップ、キャリア志向を引き出すことを重視し、計画的・戦略的な支援が求められます。企業が持続的な成長を実現するには、こうした二つの概念を明確に区別し、目的に応じて柔軟に使い分けることが不可欠です。

また、人材開発を成功させるには、事前準備の質が結果を大きく左右します。対象者の選定や育成のゴール設定、職場との連動体制、現場での実践支援など、現場と戦略の橋渡しを意識した設計が鍵を握ります。単なる知識提供型の研修ではなく、実際の行動変容や業績向上につながるかどうかという視点で取り組むことが必要です。

今後、労働人口の減少やスキルの陳腐化が進む中で、企業が競争力を維持・向上させるには、社員一人ひとりの成長を支援する体制の再構築が急務です。今一度、自社の人材育成・開発の取り組みを点検し、「何のために、誰に、どのような支援を提供するのか」という本質的な問いに立ち返ることが、より強い組織をつくる第一歩となるでしょう。

 

 

監修者

髙𣘺秀幸
髙𣘺秀幸株式会社秀實社 代表取締役
2010年、株式会社秀實社を設立。創業時より組織人事コンサルティング事業を手掛け、クライアントの中には、コンサルティング支援を始めて3年後に米国のナスダック市場へ上場を果たした企業もある。2012年「未来の百年企業」を発足し、経済情報誌「未来企業通信」を監修。2013年「次代の日本を担う人財」の育成を目的として、次代人財養成塾One-Willを開講し、産経新聞社と共に3500名の塾生を指導する。現在は、全国の中堅、中小企業の経営課題の解決に従事しているが、課題要因は戦略人事の機能を持ち合わせていないことと判断し、人事部の機能を担うコンサルティングサービスの提供を強化している。「仕事の教科書(KADOKAWA)」他5冊を出版。コンサルティング支援先企業の内18社が、株式公開を果たす。

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