OJTとOff-JTの違いとは?
その違いを明確にし、それぞれの研修のメリット・デメリット、人材育成にどう役立つのかについて解説!
企業の教育設計に欠かせない基本と活用法を紹介します。
両者の効果的な組み合わせ方を考察し、企業の研修担当者や経営者の皆様にとって、実践的な知識とヒントをお届けします。
Contents
企業の多くで実施されている研修手法とは

人材育成は、企業の持続的成長と競争優位の確立に欠かせない取り組みです。
特に近年では、ビジネス環境の変化が一層激しくなる中、即戦力となる人材を確保することがますます難しくなっています。こうした状況を踏まえ、「採用した人材を育てて戦力化する」体制づくりの重要性が高まっています。採用活動の成果を無駄にしないためにも、入社後の育成の流れをいかに設計するかが大きなポイントとなります。
その中核を担っているのが、OJT(On-the-Job Training)とOff-JT(Off-the-Job Training)という2つの研修手法です。それぞれの持つ意味や目的を理解し、適切に活用することが、育成効果を高める第一歩となります。この両者は、教育の場や手法こそ異なるものの、企業における人材育成の両輪として、多くの場面で活用されています。
OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)とは?
OJTは、実際の業務を通じて人材を育てる方法です。新入社員や異動者などに対して、現場の上司や先輩がマンツーマンで指導を行い、日々の仕事を教材としてスキル・知識の定着を図るのが特徴です。
ただし、属人的な運用になりやすく、「教える側の質」や「育成計画の有無」によって効果が大きく左右されるため、計画的な運用が求められます。
Off-JT(オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)とは?
Off-JTは、職場を離れて行われる座学形式の研修です。外部セミナーやeラーニング、自社内での集合研修などが代表例で、体系的な知識の習得や視野の拡大を目的としています。
一方で、実務との接点が薄い場合、研修内容が「知って終わり」になるリスクもあるため、実務とどう結びつけるかの設計が非常に重要です。
OJTとOff-JTは対立するものではなく、目的に応じて組み合わせて設計することで、効果的な人材育成が可能となります。
OJTとOff-JTの組み合わせが重要な理由
実務と理論の“バランス型”育成
OJTで現場スキルを身につけながら、Off-JTで体系的な理論を補うことで、表面的な“できる”だけでなく、根拠ある“理解してできる”状態に引き上げ、将来的な成長への期待にも応えることができます。
たとえば、営業の会話練習や接客のやり取りを実際に試す場面はOJT、その背景にある商談の流れや顧客心理の理解はOff-JT、といった棲み分けが考えられます。
研修の柔軟性が高まる
新しいプロジェクトに配属される前にOff-JTで必要な知識を学び、その後OJTで実務に取り組むという流れをつくることで、現場に入る前の不安を軽減でき、配属後も早く仕事に慣れることができます。
持続的な学習と成長を支える
定期的なOff-JTで新しい知識を身につけ、OJTで実際に使ってみる――このサイクルを繰り返すことで、学びが一時的なものではなくなり、社員の成長が継続していきます。
OJTとOff-JTは、どちらか一方では不十分です。両者の特性を理解し、戦略的に組み合わせていくことで、現場力と理論力の双方を備えた人材を育成することができます。それは、単なる教育施策にとどまらず、企業全体の競争力を底上げするための“人材投資”として捉えるべきでしょう。
「OJT」の基礎知識

OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)は、職場での実務を通じて社員を育てる、企業内研修の代表的な手法です。特に新人や新入社員、異動者など、業務に慣れていない社員が、実際の仕事の中で必要なスキルを学びながら成長していくスタイルで、多くの日本企業で広く活用されています。
単なる知識の習得ではなく、「現場で使えるスキル」を身につけることを重視しており、即戦力化を目指す企業にとって、コストと効果のバランスが取りやすいというメリットがあります。
OJTの5つの特徴
1.実務を通じた“使える学び”
OJTの最大の特長は、学んだことをすぐに実務に活かせる点です。たとえば販売職であれば、実際の接客業務を行いながら、商品の説明方法や顧客対応のポイントをその場で体得していきます。「学ぶこと」と「やること」が一致するため、スキルが定着しやすいのが特長です。
2.継続的な指導とフィードバック
OJTでは、日々の業務を通じて、上司や先輩が直接指導役となり、都度アドバイスや振り返りを行います。これにより、研修を受ける社員は自分の成長ポイントをリアルタイムで把握できるようになります。フィードバックが具体的かつ前向きであるほど、成長のスピードも早まります。
3.一人ひとりに合わせた柔軟な対応
OJTは画一的な研修ではなく、研修を受ける社員の特性や習熟度に応じて内容や進め方を柔軟に調整できます。たとえば「理解に時間がかかる業務」については重点的に時間を割く、得意分野は自主性を促すといった個別最適化がしやすい点も魅力です。
4.コストを抑えた効果的な育成
OJTは社内の現場で行うため、外部講師を呼んだり、研修施設を用意したりする必要がなく、その分のコストを抑えることができます。さらに、社員は業務に携わりながら研修を受けるため、生産性を保ったまま育成が進むという経済的な利点もあります。限られた育成予算の中でも導入しやすい手法といえます。
5.職場の関係性づくりにも効果あり
OJTを通して指導者と研修者の間に自然と信頼関係が生まれることで、職場全体の雰囲気やチームの一体感にも好影響を与えます。「一緒に働く中で育てる」関係性が、社員の仕事への前向きな姿勢や会社への愛着(=エンゲージメント)、そして定着率の向上にもつながるでしょう。
OJTは、あくまでも“現場で教える文化”が育ってこそ、真価を発揮します。
OJTの基本的教育ステップ

OJTは「現場で教える」からこそ、担当者が感覚頼りではなく、段階的かつ計画的に進めることが大切です。ただ経験を積ませるのではなく、意図を持って教え、確認し、振り返る――この一連の流れがしっかりしていてこそ、OJTは本来の効果を発揮します。
以下に、OJTを効果的に進めるための基本ステップを5つに整理してご紹介します。
1.目標の明確化:ゴールを示すことで“迷い”をなくす
最初に取り組むべきは、「この研修で何を身につけるのか」を明確にすることです。到達すべきスキルや知識を具体的に示し、研修を受ける側にも共有します。
「ゴールが見える」ことで、本人のモチベーションも高まり、学びの質も向上します。
例:3か月後には顧客対応を一人でこなせるようになる など。
2.計画の策定:場当たりではなく“設計された育成”を
目標に沿って、どの業務をどの順番で教えるのか、誰がいつサポートするのかといった育成スケジュールを立てます。評価のタイミングや困ったときに誰がどのように支援するかといったサポートの仕組みもあらかじめ定めておくことで、指導のブレを防げます。
あらかじめ用意したOJT用チェックリストやスケジュールテンプレートをダウンロード形式で配布すれば、全体の運用効率も高まります。
例:
1週目 | 社内ルールと業務の流れの理解 |
2週目 | 先輩同行で業務観察 |
3週目 | 一部業務を任せて実践 |
3.実践と指導:見せて、やらせて、支える
計画に基づき、実際の業務の中で研修を行います。ここで重要なのは、「ただやらせる」のではなく、「教える」ことを目的に関わる姿勢です。
上司や先輩といったOJT担当者が、業務の手順やその意図を言葉にして伝え、研修生からの質問にも丁寧に対応することで、「なぜそうするのか」を理解させることができ、実務スキルの定着につながります。
4.フィードバックと評価:日々のやりとりが“学び”になる
研修中は、都度フィードバックを行いましょう。できたことは具体的に認め、改善点は理由を添えて伝える。これにより、研修生は自分の成長実感を得やすくなり、次のステップへ進む意欲も高まります。
評価は、事前に決めた目標や行動基準に基づいて行うのが効果的です。
5.結果確認とフォローアップ:終わらせず、つなげる
研修の最後には、目標に対しての達成度を確認します。ただ終わらせるのではなく、その後も継続してサポートを続ける姿勢が、定着とさらなる成長につながります。
例としては、月1回の面談や追加トレーニングの機会提供などが効果的です。
OJTは「現場任せ」ではうまくいきません。目標・計画・実践・フィードバック・フォローアップという5つの基本ステップを意識することで、教える側も教えられる側も成果を実感しやすくなります。
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「Off-JT」の基礎知識

OJTと並び、企業の人材育成においてもう一つの重要な手法がOff-JT(Off-the-Job Training)です。日本語では「職場外研修」とも呼ばれ、文字通り日常業務から離れた環境で実施される学習スタイルを指します。
セミナーや集合研修、eラーニング、外部講師による講義、グループワークなど、形式はさまざまですが、共通しているのは実務から一時的に距離を置いて、体系的・集中的に学ぶという点です。
Off-JTの特長とは?
1.理論に強くなる学び
Off-JTでは、特定のテーマをじっくりと掘り下げて学ぶことができるのが特徴です。特に、リーダーシップ、問題解決、対人スキルなど、現場での感覚に頼ることが多い分野について、理論的な背景や構造を整理して理解できる点が強みです。
2.集中して学ぶ時間の確保
業務を離れた環境で行うことで、日常の業務に追われることなく、“学ぶことに集中できる時間”を確保できます。特に、短期間で特定スキルを習得させたいときや、階層別(例:新入社員研修・管理職研修)のようにレベルごとに教育内容を整理する際に有効です。
3.新たな視点を得やすい
Off-JTでは、他部署の社員や外部の受講者と一緒に学ぶ機会もあります。普段とは異なるメンバーとのディスカッションを通じて、自部署では得られない気づきや視点を獲得することができ、固定観念の打破や柔軟な思考の促進にもつながります。
Off-JTの代表的な活用場面
新入社員研修や内定者教育
社会人としての基礎スキルや企業理解などを座学形式で学ぶ際に活用。管理職登用前のリーダーシップ研修
役割の理解、意思決定力、マネジメント理論などを体系的に習得。テーマ別研修(コンプライアンス、DX、ハラスメント防止など)
専門知識や最新動向への対応が求められる分野での学習機会として有効。
Off-JTの注意点
ただし、Off-JTだけでは実務スキルが身につかないという限界もあります。座学で学んだことが現場で活かされなければ、知識が“使えない理論”になってしまうリスクもあります。そのため、OJTと連動させる設計が欠かせません。
たとえば、研修で学んだ内容を現場で実践するワークを取り入れたり、OJTの中でOff-JTの振り返りを行うなど、「学びを定着させる工夫」が求められます。
Off-JTは「学びの質を高める」上で不可欠な手法です。OJTとの違いや役割分担を意識しながら、戦略的に組み合わせることが、育成効果を最大化する鍵となります。
Off-JTのニーズ

Off-JT(職場外研修)は、単なる“座学の場”ではありません。現場だけでは身につけにくい専門知識や、将来的な役割に備えたスキルを計画的に習得する機会であり、社員の自己啓発意欲を刺激し、主体的な学びを後押しする場としても、近年ますますその重要性が高まっています。
最近では、無料のeラーニングや外部公開セミナーなども充実しており、コストを抑えながら導入しやすくなってきている点も注目されています。
特に以下のような場面では、Off-JTの導入が非常に有効です。
1.新しい技術や知識の習得に対応するために
業界の変化やテクノロジーの進化が早い現代において、社員が常に最新の知識を身につけることは、企業の競争力維持に直結します。Off-JTでは、新しいソフトウェアの使い方や、業界で注目されている動きや新しい取り組み、関連するデジタルツールの活用法など、業務の現場では学びづらい内容を体系的に学ぶことができます。
例:ChatGPTなどの生成AIの導入に合わせた業務活用研修/最新マーケティング戦略のセミナー受講
2.管理職・リーダー層の育成に
リーダーとして必要なスキル――部下の育成、チームのまとめ方、戦略的思考、部門間連携の取り方などは、日常の業務だけでは自然に身につくものではありません。Off-JTでは、リーダーシップ研修やマネジメント研修を通じて、理論的な背景と実践的な手法をバランスよく学ぶことが可能です。
例:中堅社員のリーダー登用前研修/新任管理職のチームマネジメント基礎講座
3.業務改善や効率化のスキル向上に
日々の業務の中では後回しになりがちな「改善の視点」も、Off-JTによってあらためて見直すことができます。プロジェクト管理、仕事の手順や進め方の見直し、時間管理、業務可視化ツールの活用方法など、改善活動に役立つスキルを集中して学ぶことができる点も、Off-JTの大きな魅力です。
例:業務改善のためのBPR(Business Process Re-engineering:仕事の流れを根本から見直して改善する)研修/時間管理術や優先順位付けに関する講座
Off-JT導入の意義とは?
Off-JTは、単なる“知識補充”ではなく、変化に対応できる人材を育てる土台となります。特に中堅・中小企業においては、業務が属人化しやすく、「経験だけに頼る育成」では限界が来ることも少なくありません。
だからこそ、OJTでは届きにくい“幅広い知識”や“長期視点で必要なスキル”を、戦略的にOff-JTで補う仕組みをつくることが、今後の組織力向上には欠かせません。
メリットとデメリットで比較するOJTとOff-JTの違い

OJTとOff-JTは、いずれも人材育成において有効な手法ですが、目的や活用シーンによって向き不向きがあります。両者の特徴を正しく理解し、状況に応じた最適な使い分けを行うことが、研修を効果的に機能させるための重要なポイントです。
以下に、それぞれのメリットとデメリットを整理して比較します。
OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)のメリット
実務に直結したスキルが身につく
実際の業務を通じて習得するため、現場で即戦力として活かせるスキルが身につきやすい。
現場での対応力が鍛えられる
マニュアル通りではない実務対応を経験でき、応用力や判断力も同時に磨かれる。
上司・先輩からのリアルタイムなフィードバック
日々のやり取りの中で、具体的かつ実践的なアドバイスが得られ、成長スピードが高まる。
OJTのデメリット
指導者の負担が大きくなりがち
本来の業務に加えて育成も担うため、時間やエネルギーの消耗が大きい。
研修の質が属人的になる
指導者のスキルや教え方に左右されるため、受講者によって習得レベルに差が出やすい。
業務の流れを乱すリスクもある
教育に時間を取られすぎると、本来の業務に支障が出ることもある。
Off-JT(オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)のメリット
専門的・体系的な知識を習得できる
講師や外部機関による研修で、基礎理論や最新の動向を効率的に学べる。
日常業務では得られない“視点”が得られる
他部署・他社との交流やディスカッションを通じて、新しいアイデアや思考法に触れる機会が増える。
集中して学べる環境が整っている
業務から離れることで、学習に専念できる時間と空間が確保される。
Off-JTのデメリット
実務に落とし込みづらいことがある
座学中心の内容が多く、「学んだことをどう活かすか」が不明確なまま終わる可能性も。
コストが高くなることがある
外部講師の費用や受講料、会場費など、予算面での負担が大きくなることがある。
モチベーションの維持が難しい場合も
業務から離れることで緊張感が薄れ、学びが受け身になりやすい。
OJTとOff-JTの違いがひと目でわかる比較一覧表
比較項目 | OJT(On-the-Job Training) | Off-JT(Off-the-Job Training) |
---|---|---|
実施場所 | 現場(職場内) | 職場外(研修室・オンライン等) |
目的 | 実務スキル・即戦力の育成 | 理論知識・視野拡大 |
学習スタイル | 実践中心・都度指導 | 集中講義・体系的学習 |
主なメリット | 現場で即活用/実践的なフィードバック | 理論的な知識習得/新しい視点の獲得 |
主なデメリット | 指導の属人化/業務負担の増加 | 実務への応用が難しい/コスト増 |
適した対象・場面 | 新入社員・日常の業務指導 | 管理職研修・テーマ別スキル習得 |
OJT・Off-JT 導入判断フローチャート
以下のフローで、どちらの研修を優先すべきかを判断できます。
研修の対象者はどの層か? |
├─ 新入社員・若手社員 → OJTを主軸に検討
└─ 中堅社員・管理職候補 → Off-JTも併用を検討
習得させたいのは? |
├─ 実務スキル・業務手順 → OJTが効果的
└─ 理論知識・考え方・視野 → Off-JTが効果的
指導できる人材が現場にいますか? |
├─ はい → OJT運用可能
└─ いいえ → Off-JTの導入も検討
研修にかけられる時間とコストは? |
├─ 比較的限られている → OJT中心で設計
└─ 時間も予算も確保できる → OJT+Off-JTの組み合わせ
活用のポイント
OJT:即戦力化・実践力の習得が目的の場合に有効
Off-JT:体系的な知識習得や長期的な育成に有効
両者をどちらか一方に偏るのではなく、目的や人材の成長段階応じて組み合わせて設計することが、研修効果を最大限に引き出すコツです。
OJTでの教育が失敗する理由

OJT(現場での教育)は非常に有効な育成手法ですが、実施の仕方を誤ると、かえって教育効果を損ねてしまうことがあります。特に中小企業や忙しい現場では、「とりあえず現場に入れて教えれば育つ」という感覚で進められるケースも多く、結果的に成長の遅れやモチベーションの低下を招くことがあります。
以下に、OJTがうまく機能しない主な要因を5つに整理して解説します。
1.指導者のスキル不足
現場の業務には精通していても、「教える力」が十分とは限りません。
適切な伝え方やタイミング、研修生の理解度に応じたサポートができないと、OJTは「見よう見まねの放置型育成」になってしまいます。指導者自身へのトレーナー研修や指導法の共有が欠かせません。
2.計画が不十分
OJTが場当たり的に進められると、研修生は「今日は何を学ぶのか」「次に何をするのか」がわからず、不安や戸惑いが積み重なります。
育成スケジュールや業務内容の順序設計がされていない場合、指導者と研修生の双方にとって負担となり、成果も不安定になります。
3.目標が曖昧
「この研修で、どのレベルに到達すべきか」が明確でないと、研修生のモチベーションが続きません。また、評価も曖昧になり、指導者側も改善点を見出しにくくなります。
目標は、具体的かつ測定可能で設定することが基本です。
たとえば「SMART」と呼ばれる考え方では、目標は以下の5つの要素を満たすことが望ましいとされています。
S(Specific:具体的) | 誰が、何を、どのように達成するかが明確になっている |
M(Measurable:測定可能) | 数値や行動指標で進捗や達成度が確認できる |
A(Achievable:達成可能) | 現実的かつ実行可能な内容である |
R(Relevant:関連性がある) | 組織の目標や本人の役割に合致している |
T(Time-bound:期限がある) | いつまでに達成するのか、期間が明示されている |
このようにSMARTを意識した目標設定により、研修の方向性が明確になり、評価やフィードバックもしやすくなります。
4.フィードバックの不足
OJTでは、研修生が日々の業務の中で試行錯誤しながら学んでいきます。だからこそ、適切なタイミングでのフィードバックが不可欠です。
「良かった点」「改善が必要な点」をその都度伝えることで、成長の実感と安心感を与えることができます。
5.業務との両立が難しい
現場が忙しすぎて、「教育どころではない」という状況では、育成が後回しになりがちです。
OJTは日常業務と並行して進めるからこそ、業務と育成を両立させる設計(例:指導に使う時間の確保、研修時間の明確化)が必要です。
解決の第一歩は「教える文化」の整備から
OJTが失敗する背景には、仕組みよりも風土や習慣の未整備が関係していることも少なくありません。
育成を現場任せにせず、「教えることも仕事の一部である」という共通認識を組織全体で持つことが、OJTを成功させる第一歩です。
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OJTが成功するためのポイント

OJT(On-the-Job Training)は、計画的に運用すれば非常に高い効果を発揮する育成手法です。しかし、ただ「現場で教える」だけでは成果につながりません。
OJTを成功させるには、以下の5つのポイントを意識した設計と運用が欠かせません。
1.明確な目標設定 ― ゴールが見えるからこそ、学びが進む
OJTのスタート地点は「どこを目指すのか」の明確化です。
研修生が到達すべきスキルや行動レベルを、具体的かつ測定可能な形(SMARTなど)で設定し、本人と共有することが重要です。目標があることで、研修生の意欲が高まり、指導者も成果を評価しやすくなります。
2.適切な指導者の選定 ― 「できる人」より「教えられる人」
現場のスキルが高いだけでは、良い指導者とは限りません。
コミュニケーション力や育成意欲がある人材を指導担当に選定し、必要に応じて“教える力”を育てるトレーニングも行うことが求められます。OJTの成果は、指導者の質に大きく左右されます。
3.継続的なフィードバック ― 振り返りが、定着を生む
OJTの中で欠かせないのが、こまめなフィードバックです。
「できた点」「改善点」をその場で伝えることで、研修生は自分の成長を実感しやすくなります。フィードバックは具体的・前向きな表現を意識し、「次はどうすればよいか」が明確になるように伝えるのが効果的です。
4.柔軟な研修計画 ― 現場の変化に合わせて調整を
研修計画は、詳細に設計した上で、実際の現場の状況や研修生の習熟度に応じて柔軟に調整することが大切です。
「計画を守ること」が目的になってしまうと、現場の実情に合わない育成になってしまいます。定期的に見直しを行い、必要に応じて更新していきましょう。
5.サポート体制の整備 ― 「一人で悩ませない」仕組みを
OJTは、配属先の上司や先輩だけでなく、組織全体で研修生を支える仕組みがあってこそ機能します。
たとえば、先輩社員が指導役となって継続的にサポートする「メンター制度」や、人事部による定期的な面談や相談の場の設置など、研修生が安心して相談できる環境づくりが、離職リスクの低減や学習定着に効果を発揮します。
OJTを「現場任せ」にしないことが成功の決め手
OJTは、ただ現場に放り込んで「見て覚える」ものではありません。指導者・計画・仕組み・支援体制の4つがそろってこそ、継続的な人材育成の仕組みとして機能します。
教える側の意識と組織全体の支援体制があれば、OJTは最も実践的で強力な育成手法となります。
OJTとOff-JTを上手く組み合わせるには

OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)とOff-JT(オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)は、それぞれ異なる特徴と利点を持つ研修方法です。
OJTは実際の業務を通じてスキルや知識を習得するものであり、即戦力としてのスキルを養成するのに適しています。一方、Off-JTは実務から離れた場所で行われる研修であり、理論的な知識や専門的なスキルを集中的に学ぶのに適しています。
これら二つの研修方法を上手く組み合わせ、一貫した人材育成システムとして設計することで、より総合的で効果的な人材育成が可能になります。
以下では、OJTとOff-JTを効果的に組み合わせるためのポイントと具体的な事例を詳しく解説します。
1.実務と理論のバランスを取る
OJTとOff-JTを効果的に組み合わせるうえで大切なのは、「実務」と「理論」のバランスを取ることです。
OJTでは実務に即したスキルを現場で習得し、Off-JTではその背景にある理論や知識を体系的に学ぶことで、理解と応用力が深まります。
事例: ソフトウェア開発会社の研修プログラム
あるソフトウェア開発会社では、新入社員向けにOJTとOff-JTを組み合わせた研修プログラムを導入しています。 まず入社直後の数週間は、Off-JTを通じてソフトウェア開発の基礎知識や最新の技術動向を学習。 講義形式のセミナーやオンライン教材の利用により、プログラミングの理論やデザインパターンなどをじっくりと学びます。 その後、OJTに移行し、実際のプロジェクトに配属。現場での実務経験を通じて、Off-JTで得た知識を実際の業務に応用しながらスキルを定着させていきます。 このように、Off-JTでの「理論」とOJTでの「実践」をうまく組み合わせることで、新入社員は短期間で即戦力として活躍できるようになります。 |
2.継続的な学習機会の提供
OJTとOff-JTを効果的に組み合わせるには、「一度学んで終わり」にしない継続的な学習の仕組みが欠かせません。
従業員が身につけた知識やスキルを定期的に見直し、新しい情報を取り入れ続けることで、常に現場の変化に対応できる力を維持できます。
事例: ヘルスケア業界の継続教育プログラム
医療技術の進歩が著しいヘルスケア業界では、従業員が最新の知識を常に学び続けることが求められます。 ある医療機関では、看護師や臨床技師を対象に、定期的なOff-JTを実施。たとえば、毎年開催される専門ワークショップや学会に参加し、新しい治療法や医療機器の活用法など、現場では得づらい専門知識を学ぶ機会を設けています。 学んだ内容は、OJTの場である臨床現場にすぐに活かされます。実際の業務の中で、新たに得た知識を実践し、上司や先輩からフィードバックを受けることで、スキルが確実に定着していきます。 このように、Off-JTで学び、OJTで実践・定着させるという継続的な学習サイクルを設けることで、医療従事者は常に最新の知識を備え、質の高い医療サービスを安定的に提供できる体制が整っています。 |
3.相互フィードバックの強化
OJTとOff-JTを組み合わせることで、研修の成果に対する「相互のフィードバック」を充実させることができます。
OJTで実践した内容を、Off-JTで学んだ理論に照らして振り返ることで、改善点が明確になり、学びの質が一段と高まります。
事例: 製造業の品質管理研修
製造業では、品質管理の強化を目的に、OJTとOff-JTを連動させた研修プログラムを導入している企業が増えています。 まず、Off-JTでは品質管理に関する理論や手法を学習。統計的品質管理(SQC)や総合品質管理(TQM)などの専門知識を座学や研修資料を通じて体系的に習得します。 次に、OJTで実際の製造ラインに入り、学んだ手法を現場で実践。日々の業務の中で、上司や先輩から具体的なフィードバックを受けながら、実務に即したスキルを身につけていきます。 さらに、定期的にOff-JTを挟み、OJTでの経験を振り返る機会を設けることで、現場での気づきや課題を理論的に再確認し、改善策を考える習慣が根づいていきます。 このように、理論と実践を行き来しながら、相互に補完・強化する仕組みをつくることで、品質管理に関する知識と行動力の両立が図れ、現場で成果につながる実践的な研修となっています。 |
4.適切なタイミングでの研修実施
OJTとOff-JTを効果的に機能させるには、「いつ実施するか」というタイミングの設計が極めて重要です。
必要な知識やスキルを、必要な場面・時期に提供することで、学習内容が実務に直結し、従業員の成長スピードが高まります。
事例: 販売業の新製品導入研修
ある販売業の企業では、新製品の導入にあわせて、OJTとOff-JTを組み合わせた研修プログラムを実施しています。 まず、製品の発売前にOff-JTを行い、新商品の特長や販売戦略を事前に学習します。具体的には、製品の仕様や機能、競合製品との比較、ターゲット市場の分析などについて、セミナーやオンラインコースを活用して必要な知識を学びます。 次に、実際の店舗にてOJTを実施。現場での接客や販売業務の中で、Off-JTで得た知識を実践に活かしながら、上司のフィードバックを受けてスキルを磨いていきます。 さらに、発売後も定期的にOff-JTを行い、販売実績や顧客の反応をもとに内容を振り返ります。そのうえで、販売戦略の見直しや必要な知識の追加提供を行うなど、柔軟な対応を図っています。 このように、新製品導入の流れに沿ってOJTとOff-JTを適切なタイミングで組み合わせることで、理論と実践がかみ合い、現場で即戦力となるスキルの習得につながっています。 |
5.研修成果の評価とフィードバック
OJTとOff-JTを効果的に機能させるには、研修成果を定期的に評価し、フィードバックを行う仕組みが欠かせません。
評価はあいまいな印象ではなく、具体的な指標や基準に基づいて行うことで、研修生の成長や習得度合いを明確に把握することができます。
こうした可視化と振り返りを繰り返すことで、研修の効果を最大限に引き出せます。
事例: 金融業のリスク管理研修
ある金融業の企業では、リスク管理に関するスキルを強化するため、OJTとOff-JTを組み合わせた研修プログラムを導入しています。 まずOff-JTでは、リスク評価の考え方やリスク軽減策、コンプライアンス(法令遵守)の基本など、リスク管理の理論や手法を体系的に学習します。 その後、OJTに移行し、実際のリスク管理業務に携わりながら、上司から実務に即したフィードバックを受け、学んだ知識を現場でどう活かすかを身につけていきます。 さらに、定期的にリスク評価の実績やコンプライアンス遵守状況をチェックし、習得状況を客観的に把握。課題が見つかれば、Off-JTで改めて理論を振り返り、OJTでの取り組みを必要に応じて調整します。 このように、評価→実践→振り返り→調整のサイクルを回すことで、研修の質が高まり、リスク管理に必要な知識と判断力が着実に定着していきます。 |
6.個別ニーズに応じたカスタマイズ
OJTとOff-JTを組み合わせた研修は、一律の内容を提供するだけでは効果が十分に発揮されません。
従業員一人ひとりのスキルレベルや成長段階、学び方の特性に合わせて柔軟にプログラムを設計することで、より深い理解と定着を促すことができます。
この「個別対応型」の設計こそが、実践的な人材育成を成功させる大きなポイントです。
事例: ITコンサルティング会社の個別研修プログラム
あるITコンサルティング会社では、従業員のスキルや将来的な役割、キャリアの方向性を踏まえて、個々に最適な研修プログラムを提供しています。 たとえば、経験豊富なコンサルタントには、プロジェクトマネジメント力をさらに高めるためのOff-JTを実施。 この研修では、プロジェクト管理の最新手法や、実際の成功事例に基づく効果的な進め方を体系的に学びます。 その後はOJTに移行し、実際の案件に参画。現場で新しい知識を活用しながら業務を遂行し、プロジェクトの成果も評価対象として扱われます。 一方で、若手コンサルタントには、基礎的なコンサルティングスキルを身につけることを目的に、OJTを中心としたプログラムを実施。実務経験を重ねながら、必要に応じてOff-JTで知識面の補強も行い、キャリア形成を意識した段階的なスキルアップを支援しています。 一人ひとりの状況やキャリアの目標に合わせて研修内容を調整することで、個々の成長を着実に後押しし、結果として企業全体の競争力向上にもつながっています。 |
7.研修プログラムの継続的改善
OJTとOff-JTを組み合わせた研修は、一度つくって終わりではありません。
研修効果を定期的に振り返り、必要に応じて内容を見直していく「改善の仕組み」こそが、育成の質を高めるうえで中心的な役割を果たします。
現場の変化や受講者の反応をもとに柔軟に更新することで、常に最適な研修を提供できます。
事例: 小売業のカスタマーサービス研修
ある小売業の企業では、接客品質の向上を目的に、OJTとOff-JTを組み合わせたカスタマーサービス研修を実施しています。 まず、Off-JTを通じて、顧客対応の基本や接客マナー、顧客満足度を高めるための考え方など、サービスの土台となる知識を学びます。 この段階では、最新の顧客ニーズや市場動向についても取り上げ、変化に対応できる接客力を養います。 その後、実際の店舗でOJTを実施。顧客とのやり取りを実践しながら、上司や同僚から日々フィードバックを受けることで、学んだスキルを確実に定着させていきます。 加えて、定期的に研修の成果を評価し、顧客満足度調査やお客様からの声をもとに研修内容を見直します。 たとえば、「対応に関する要望が多い」といった声があれば、次回のOff-JTでそのテーマを重点的に扱うなど、内容を柔軟に調整しています。 このように、学ぶ→実践する→振り返る→見直すというサイクルを通じて、従業員の接客スキルが日々磨かれ、組織全体のサービス品質の底上げにもつながっています。現場の声を取り入れながら柔軟に改善を重ねることで、より実践的で現場に根付いた研修へと進化しています。 |
OJTとOff-JTの“往復設計”が学びを深める
OJTとOff-JTは、別々に使うのではなく、相互に連携させた育成システムとして設計・運用することで最大限の効果を発揮します。
実務で学び、理論で振り返り、再び実践で活かす――この往復が、社員の成長と組織力の向上を後押しします。
OJTとOff-JTの融合が人材育成を変える

OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)とOff-JT(オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)は、それぞれ異なる特徴と役割を持つ研修手法です。OJTは現場での実践を通じて即戦力を育てるのに適しており、Off-JTは業務から離れた環境で理論や専門知識を体系的に習得する場として機能します。
いずれか一方に頼るのではなく、両者の強みを活かし、欠点を補い合う設計が、これからの人材育成には欠かせません。たとえば、OJTで実務経験を積みながら、Off-JTでその背景にある理論やフレームワークを学ぶことで、知識と行動の両面から理解が深まり、実務への応用力も高まります。
また、効果的な育成には「適切なタイミングでの研修実施」と「継続的な学習機会の提供」が重要です。社員一人ひとりのスキルレベルや成長段階に応じて柔軟に対応することが、組織全体の底上げにつながります。
人材育成は、単なる研修実施ではなく、戦略的な組み合わせと継続的な改善によって初めて成果につながる取り組みです。自社に合った形で、OJTとOff-JTの活用方法を今一度見直し、未来を担う人材を育てる基盤を築いていきましょう。
監修者

- 株式会社秀實社 代表取締役
- 2010年、株式会社秀實社を設立。創業時より組織人事コンサルティング事業を手掛け、クライアントの中には、コンサルティング支援を始めて3年後に米国のナスダック市場へ上場を果たした企業もある。2012年「未来の百年企業」を発足し、経済情報誌「未来企業通信」を監修。2013年「次代の日本を担う人財」の育成を目的として、次代人財養成塾One-Willを開講し、産経新聞社と共に3500名の塾生を指導する。現在は、全国の中堅、中小企業の経営課題の解決に従事しているが、課題要因は戦略人事の機能を持ち合わせていないことと判断し、人事部の機能を担うコンサルティングサービスの提供を強化している。「仕事の教科書(KADOKAWA)」他5冊を出版。コンサルティング支援先企業の内18社が、株式公開を果たす。
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