OJT教育でトレーナーに向いていない特徴を紹介。成功のためのポイントと効果的なトレーナー育成法を解説します。OJT導入に必見!
OJT(On-the-Job Training)は、企業が従業員に実務を通じてスキルを習得させる効果的な方法ですが、適切なトレーナーがいなければ成功しません。
本記事では、OJTトレーナーに向いていない人の特徴、成功のためのポイント、そして効果的なトレーナーの育成法について詳しく解説します。
Contents
OJTの基礎知識

現場主導で“即戦力”を育てる仕組みを解説!
本章では、企業の現場教育手法として広く使われるOJTについて、その基本的な仕組みと効果について解説します。
OJTとは何か
OJT(On-the-Job Training)は、実際の業務現場を舞台にして、従業員のスキルや知識を育成する教育手法です。日々の業務の中で教え、学ばせることができるため、「即戦力育成」「実践力の底上げ」に効果的とされ、多くの企業が導入しています。
特に中小企業においては、人手や時間、予算といった教育に割ける資源(=教育リソース)が限られている中でも、最大限の成果を引き出せる「現場主導の人材育成」として注目されています。机上の空論ではなく、目の前の顧客・仕事に対応する中で身につけるため、学んだことが即業績に直結するのが最大の特長です。
OJTのルーツと進化
OJTのルーツは、職人が弟子を育てる「徒弟制度」にあります。先輩の背中を見て学ぶ、道具の使い方から仕事の流儀まで体得する。これは、昔も今も変わらぬ実践知の伝承方法です。
しかし現代では、OJTも「教える側の育成」や「トレーニング計画の見える化」など、より戦略的に設計されるようになっています。製造業や営業職にとどまらず、IT・企画・管理部門など、あらゆる職種においてOJTが展開されています。企業の競争力は「現場力」とも言われる今、OJTはその中核を担う育成手段と言えるでしょう。
OJTの目的― 単なる教育ではなく「組織浸透」
OJTの本来の目的は、単に知識やスキルを習得させることだけではありません。組織文化や価値観、業務への姿勢といった「見えにくい力」も併せて伝えていくことに大きな意義があります。
具体的には、次のような目的を持ってOJTは設計・実施されるべきです。
- 業務に必要なスキル・知識の定着
- 現場で使える判断力・対応力の習得
- 職場での信頼関係構築とチームワーク強化
- 企業文化・価値観の体得と行動化
- 中長期的に活躍できる人材基盤の育成
OJTは「現場の延長」で行われるがゆえに、本人の行動変容や定着度が見えやすく、教育効果の測定がしやすいというメリットもあります。人材開発の成果を“目に見える形”で確認できるため、経営視点から見ても投資効果が高い手法といえます。
OJTを取り入れるメリット

「即戦力」「組織力」「コスト効率」の3拍子
本章では、OJTを導入することで得られる代表的な5つのメリットを、具体的な事例も交えながら紹介します。
実務を通じて学ぶOJTは、業種や職種を問わず、多くの企業で「即戦力育成」や「定着率向上」に効果を発揮しています。
1.実践的なスキルの習得
OJTの最大の特長は、座学では得られない“現場対応力”を磨けることです。たとえば営業職であれば、実際の顧客対応を通じて交渉術や提案力を身につけ、ITエンジニアであれば、リアルなプロジェクトでのコーディングやトラブル対応を経験できます。
あるIT企業では、新人エンジニアにOJTを通じて実務課題を与えた結果、1か月後には社内ツールの改修に即戦力として参画できるようになりました。
こうした「業務を通じて学ぶ」という学び方、即戦力育成に直結します。机上で覚えた知識ではなく、「今この現場でどう動くべきか」という判断力や応用力が磨かれるため、学んだ内容をすぐに成果に結びつけやすいのです。
2.組織の一体感向上
OJTは教育手法であると同時に、組織内コミュニケーションの促進装置でもあります。先輩社員(トレーナー)が後輩(トレーニー)をマンツーマンでサポートする中で、信頼関係が築かれ、チーム全体の結束力が高まっていきます。
小売業のある企業では、OJTを通じてベテランと若手が密に関わる機会が増え、店舗間の連携が強化され、売上の安定化にもつながりました。
特に新入社員は、早期に職場の雰囲気や文化を理解しやすくなるため、“早期戦力化”と“定着率向上”の両立が期待できます。加えて、教える側であるトレーナーにとっても、自身の知識を整理し直す機会となり、指導を通じてスキルの再確認や視野の拡大が図れます。
3.即戦力の育成を加速させる
OJTは、「学ぶ→試す→修正する」というサイクルを日常業務の中で自然に回せる仕組みです。そのため、短期間で必要なスキルが身につきやすく、育成スピードが早いという利点があります。
たとえば、製造業であれば、新しい機械の扱い方をOJTで覚えることで、数日で生産に貢献できるようになることもあります。サービス業であれば、現場での接客を繰り返すことで、短期間で顧客満足度を上げられる対応力が養われます。
製造業の中小企業では、OJTによって新入社員が2週間以内に基本工程を習得し、生産ラインへの早期配属が実現しました。
4.コスト効率が高い
OJTは、限られた育成コストで最大の教育効果を上げたい企業にとって理想的な手法です。外部講師の費用や研修施設の手配が不要である上に、教育そのものが実務の中で行われるため、時間もコストも無駄がありません。
たとえば、製造現場でOJTが効果的に行われれば、操作ミスによる不良品が減り、結果として生産効率や品質の向上にもつながります。「教育=投資」であるならば、OJTは回収スピードの早い投資手段といえるでしょう。
サービス業の事例では、OJTを導入したことで外部研修費用を年間200万円削減しつつ、顧客満足度も向上したという報告があります。
5.継続的な学習を促す仕組み
OJTの本質は、一度教えて終わりではなく、定期的なフィードバックと現場改善のサイクルを回し続けることにあります。トレーナーとのやり取りの中で、学習者の理解度や課題が明らかになり、都度軌道修正が可能になります。
あるIT企業では、月1回のOJT振り返りミーティングを設けたことで、学習者の課題意識と改善行動が定着し、業務品質の安定に寄与しました。
特に変化の早い業界――ITやマーケティングなど――では、“継続的に学び続けられる仕組み”が競争力そのものです。OJTはその継続的成長を組織に根づかせるうえで、有効な手段となります。
OJTのトレーナーには向き不向きがある

成功の鍵は「誰が教えるか」
OJTを成功させるには、「誰が教えるか」が極めて重要です。
現場で直接関わるトレーナーの選定は、学習効果や育成スピードに直結します。
この章では、トレーナーに向いている人・向いていない人の違いや、適任者を見極めるためのポイントを紹介します。
トレーナーの“人選”がOJTの成否を左右する
OJTの成果は、「誰が教えるか(=誰がトレーナーを担当するか)」に大きく左右されます。いくら内容が整っていても、担当者が適任でなければ、現場での学びはうまく機能しません。
トレーナーには、単に仕事ができるだけではなく、「相手に分かるように伝える力」や「教える姿勢」が求められます。たとえば、製造業であれば操作手順を安全かつ正確に教える力、サービス業であれば顧客応対の細やかな気配りまで伝えられる力が必要です。
つまり、業務の専門性と伝える力の両方を備えた人材でなければ、効果的なOJTは成り立ちません。
「向いている人」と「向いていない人」の違いとは?
トレーナーにも“向き不向き”があります。それを見極めることが、OJTの質を高める第一歩です。
たとえば以下のような違いがあります。
向いている人 | 向いていない人 |
---|---|
・相手の立場に立って話せる ・根気強く教えられる ・質問を歓迎し、丁寧に対応できる | ・自分のやり方に固執する ・相手の理解度を確認せず一方的に話す ・教えることにストレスを感じやすい |
特に、「自分ではできるが、人に教えるのが苦手な人」は意外と多いものです。トレーナー役に選ぶ前に、“教えることが苦にならないか”という視点で確認しておくことが大切です。
トレーナー選定のチェックポイント
OJTトレーナーに向いているかどうかを見極める際、以下のようなポイントを意識すると判断しやすくなります。
説明力があるか | 専門用語を使わず、誰にでもわかるように伝えられるか。 |
忍耐強いか | 相手が理解するまで、粘り強く付き合えるか。 |
状況判断ができるか | 教えるべきタイミングと任せるべきタイミングを見極められるか。 |
相手に関心を持てるか | 学習者の状況や感情に気を配れるか。 |
モチベーションを高められるか | ただ教えるだけでなく、「やってみよう」と思わせられるか。 |
教えるという行為は、本人の成長にもつながる重要な役割です。OJTの担当者としてふさわしい人材を選び、しっかりと支援していくことが、OJT全体の質を大きく左右します。
OJTトレーナーに向いている人の特徴

教えるだけでなく“育てる”人材とは
本章では、OJTトレーナーとして求められる資質や能力について紹介します。
単に教えるだけでなく、現場で学ぶ人の成長に寄り添いながら導く“指導者”としての役割を果たせる人材に共通する特徴を見ていきましょう。
1.分かりやすく伝える力(コミュニケーション力)
良いトレーナーは、「分かりやすく伝える力」が優れています。たとえば、複雑な業務手順や考え方を、初めての人でも理解できるようにかみ砕いて説明することができる人です。
こうした伝える力がある人は、教える相手からも信頼されやすく、安心して質問や相談ができる関係性を築くことができます。その結果、教わる側の吸収スピードが上がり、現場での成長が加速します。
2.相手のペースに合わせられる(忍耐力)
育成には時間がかかります。OJTでは、教える側が学ぶ側の理解度や性格に応じて、丁寧に根気強く指導できるかどうかが大切なポイントです。
たとえ失敗しても頭ごなしに叱るのではなく、どうすれば改善できるかを一緒に考えられる姿勢が必要です。こうした忍耐力のあるトレーナーは、学ぶ側のやる気と自信を育てます。
3.前向きに引っ張る力(リーダーシップ)
トレーナーは単なる“教える人”ではなく、チームの中で模範となる存在です。自らが率先して動き、目標を示し、周囲を巻き込んで育成に取り組める人は、自然と信頼と尊敬を集めます。
特に、新入社員や若手は「この人のようになりたい」と思える先輩を見て育つため、良い背中を見せるリーダーシップが、OJTの質を左右します
4.柔軟に対応できる力(問題解決力)
OJTの現場では、「教えた通りにうまくいかない」ことが日常的に起こります。そんなときに、相手の理解度や状況に応じて、教え方を変えたり、他の方法を試してみたりできる柔軟さが求められます。
問題解決力のあるトレーナーは、自身の経験だけに頼らず、常に学習者の立場で考えながら導いていきます。その姿勢が、“教わる側の考える力”も育てるのです。
5.前向きな姿勢を保てる(モチベーション維持力)
育成には波があります。思うようにいかない日も、成果が見えづらい日もあります。そんな中でも、前向きな姿勢を崩さずに関わり続けられる人は、学ぶ側に良い影響を与えます。
たとえば、小さな成長を見逃さずに褒める、励ますといった働きかけができる人は、相手のやる気を引き出し、「この人のために頑張ろう」と思わせる空気をつくります。
OJTトレーナーに向いている人には、共通して「相手に合わせて関わる力」や「育てる姿勢」が備わっています。こうした育成のための能力があるかどうかが、トレーナー適性を見極める大きな判断基準となります。優れた指導者とは、知識や経験だけでなく、人を育てる覚悟と関わり方にその本質があります。
しかし一方で、仕事ができる人が必ずしも“教え上手”とは限らないという現実もあります。
次に、OJTトレーナーとして避けたい「向いていない人の特徴」を見ていきましょう。
OJTトレーナーに向いていない人の特徴

「できる人」が必ずしも「教え上手」とは限らない
ここでは、OJTトレーナーに向いていない人の特徴を紹介します。
仕事ができる=教えるのが得意とは限らず、教え方や関わり方に問題があると、学習者の成長を妨げる原因になりかねません。具体的な例をもとに、避けるべきタイプを見ていきましょう。
1.自分のやり方に固執するタイプ
一見すると経験豊富で頼もしく見えるベテラン社員でも、「俺のやり方が正しい」という姿勢が強すぎる人はOJTトレーナーには向いていません。
なぜなら、教える相手の理解度や個性に合わせた柔軟な対応ができず、結果として一方通行の押しつけ型指導になってしまうからです。特に若手社員は、自分の考えを尊重されることで主体性が育ちます。自分本位の教え方は、相手の成長を妨げる原因になります。
2.忙しさを理由に人材育成を後回しにする人
業務量が多く責任ある立場にいる人が、「忙しいから教える暇がない」とOJTを軽視してしまうことがあります。しかしこれは、人材育成を“片手間”にしてしまう典型的なパターンです。
本来、OJTは業務と並行して行うものですが、教える意識が低いと、雑な説明・放任・見守り不足が生じ、教わる側は迷子になってしまいます。時間がない中でも、育成に本気で向き合う姿勢がなければ、OJTの成果は望めません。
3.相手への関心が薄い人
OJTで成果を出すには、トレーニー一人ひとりの状態に目を配り、「何につまずいているか」「どこまで理解できているか」を見極める観察力が不可欠です。
ところが、他人にあまり関心を持たない人や、感情や反応を読み取るのが苦手な人は、適切なタイミングで声をかけたりサポートしたりすることが難しくなります。その結果、トレーニーは「放置されている」と感じ、成長意欲を失ってしまう恐れがあります。
4.失敗に厳しすぎる人
トレーナーの中には、「間違えたらすぐに注意する」「完璧を求める」という姿勢を強く持つ人がいます。もちろん、品質や安全性を重視する現場では厳しさも必要ですが、失敗を許容しない指導は学習意欲を奪います。
特に新入社員や若手は、経験を通じて成長していく段階にあります。“失敗から学ばせる”という考え方ができない人は、OJTの本質を理解していないといえるでしょう。
5.教えることに価値を感じていない人
「教えるのは面倒」「自分の仕事に集中したい」といった意識を持つ人は、そもそもトレーナーに向いていません。こうした人は、教えることを義務として捉え、学習者との関係性も表面的になりがちです。
育成には情熱や責任感が求められます。「この人を一人前にしたい」という想いが持てない人に、教える役割を任せるのは避けるべきです。
以上のように、「指導力の不足」だけでなく、「姿勢」や「関心の持ち方」もOJTトレーナーの適性には大きく関わります。「仕事ができる=教えられる」ではないことを前提に、適材適所でトレーナーを選ぶことが、OJTの成功には欠かせません。
OJTが失敗する原因

現場でよくある5つの落とし穴
どれだけ制度やマニュアルが整っていても、OJTがうまく機能しない場面は多く見られます。
その原因の多くは、現場で見過ごされがちな基本的な落とし穴にあります。
ここでは、OJTが失敗に陥りやすい典型的な5つの要因について解説します。
1.教える人を間違える(トレーナー選定のミス)
OJTがうまくいかない最大の原因の一つは、「教える人を間違えている」ことです。たとえ業務に詳しくても、伝える力や育てる意識が乏しい人をトレーナーにしてしまうと、学習者はつまずいたまま成長できず、OJTは機能不全に陥ります。
本来は、上司が適切なトレーナーを選定・育成する立場にあるべきですが、任命だけで終わってしまうケースも少なくありません。
トレーナー選定では、業務知識・人間性・指導力をバランスよく見極めることが重要です。現場で信頼されていること、後輩育成に前向きであることを必ず確認しましょう。
2.ゴールが見えないまま始めてしまう(目標設定の曖昧さ)
「とりあえず現場で学ばせれば何とかなる」という考え方は、OJT失敗の典型です。何を、いつまでに、どのレベルまで身につけるのか――こうした明確な目標がなければ、学習者は方向性を見失い、ただ“やらされている状態”になります。
OJTは教育である以上、到達点(ゴール)と道筋(プロセス)を明確にする設計が不可欠です。特に新人や若手にとっては、「今どこにいて、何ができれば合格か」を理解することが、モチベーション維持にもつながります。
3.「やりっぱなし」で終わる(フィードバック不足)
現場の忙しさに追われて、教えっぱなし・任せっぱなしになっていませんか?
OJTでは、定期的なフィードバックがなければ、学習者は自分の成長を実感できず、やる気を失ってしまいます。
良いフィードバックとは、「できたことを認める」「改善点を具体的に伝える」この2つがセットです。指導する側が少し立ち止まり、「今どこまでできているか」を一緒に振り返る時間をつくることが、学習効果を高める大きな要因となります。
4.落ち着いて学べる環境がない(学習環境の不備)
OJTは現場で学ぶとはいえ、「ただ放り込んで、後は見て覚えろ」では失敗します。音がうるさい、常に業務に追われて余裕がない、質問しにくい雰囲気――これらが重なると、学習者は委縮してしまい、本来の力を発揮できません。
整えるべきは、物理的な環境だけでなく、心理的な安心感です。たとえば「質問してもいいよ」という文化があるだけで、学習の進み方は大きく変わります。
5.トレーナーの伴走意識が足りない(サポートの不在)
「新人には任せて覚えさせるべきだ」という考え方は一理ありますが、放任とは違います。学習者が困ったときに、「すぐに相談できる・助けてもらえる」状態をつくることが、OJT成功の基本です。
特に、上司自身が育成の現場に関心を持ち、定期的にトレーナーと学習者の双方に声をかけることは、現場全体の育成力を底上げするうえで欠かせません。
トレーナーは、教えるだけでなく、必要なタイミングで手を差し伸べる“伴走者”としての姿勢が求められます。定期的な進捗確認や声かけも、学習者の安心と意欲につながります。
こうした「失敗の芽」は、最初の設計段階で防げるものばかりです。OJTを導入する際は、人選・計画・運用・振り返りのすべてに意図を持つことが、効果を最大化する土台になります。
OJT教育を成功させるために押さえておきたいポイント

育成効果を最大化するための6つの実践策
OJTを導入したものの、思ったような成果が出ない。そんな声の多くは、「教える場」や「仕組み」が整っていないことに起因しています。
この章では、OJTの教育効果を高めるために、現場で押さえておくべき6つの実践的なポイントを紹介します。制度や意欲に頼るだけでなく、日々の育成活動を支える“仕組みづくり”と“意識づけ”が鍵になります。
1.“学びの段階”に合わせたプログラム設計
OJTは、「現場で教えれば自然に育つ」というものではありません。その成否を分けるのは、業務内容と育成段階を見極めて、段階的に学ばせる設計ができているかどうかです。
たとえば、最初の1週間は「観察と基本動作の習得」、次の2週間で「実践と修正」、1か月後には「自走の手前まで到達」など、成長段階ごとの学習テーマとチェックポイントを設定しておくと、トレーナーもトレーニーも進めやすくなります。
2.“見える化”された進捗管理
口頭での指導や評価だけに頼らず、進捗を可視化するシートやツールを導入することで、教える側も学ぶ側も現在地を正確に把握できます。
たとえば、週ごとの習得目標を一覧にした「OJT進捗シート」や、学習状況を記録する「トレーニングログ」などを使えば、指導が曖昧にならず、継続的な改善と調整が可能になります。
3.トレーナーの“教える技術”を高める機会を設ける
どれだけ優秀な社員でも、「教えるスキル」は別物です。OJTを機能させるためには、トレーナー自身が“教え方”を学び続けられる場が必要です。
たとえば、他のトレーナーとの情報交換会、指導に関するミニ研修、評価フィードバックの共有など、指導者に対する定期的なフォローとスキルアップの仕組みがOJTの質を安定させます。
4.OJTの役割を「業務」ではなく「育成」として認識させる
トレーナーが「ついでに教える」「仕事の合間に見る」と考えてしまうと、OJTはただの“手伝い”になってしまいます。
そこで重要なのが、OJTの役割を「人を育てる仕事」として正式に位置づけること。たとえば、評価項目にOJT実施の成果を含めたり、育成に取り組む姿勢を評価の一部としたりすることで、育成への責任意識が生まれます。
5.学習者の“小さな成功体験”を演出する
学ぶ側にとって最も大切なのは、「自分にもできる」「成長している」と感じられる体験です。そのためには、小さな成功体験を意図的につくり、フィードバックで自覚させることが効果的です。
たとえば、簡単な業務を任せて「○○ができるようになったね」と言葉で伝えるだけでも、やる気は大きく変わります。意図的に“成功を演出する”ことが、継続的な学びの土台になります。
6.育成の「目的」と「意味づけ」を伝える
OJTの対象者に対して、「なぜ今これを学ぶのか」「この経験がどう活かされるのか」を説明することも、意外と見落とされがちなポイントです。
ただ業務を与えるだけではなく、学ぶ意義や今後のキャリアとのつながりを伝えることで、学習者はOJTを“作業”ではなく“自己成長の機会”として捉えやすくなります。
このように、OJT成功のためには「仕組み」と「関わる人の意識づけ」の両輪が欠かせません。特に、トレーナーと学習者の双方に対して、組織として継続的なフォロー体制を築くことが重要です。ただ現場に任せるのではなく、会社全体で育成に向き合う姿勢が根づくかどうかが、成果を分ける決定的な要素となります。
関連コンテンツ
OJTのトレーナーはどのように育てるか

現場任せにしない「教える人」の育成戦略
OJTを成功させるには、トレーナー自身の成長が欠かせません。
この章では、“教える人を育てる”ための仕組みや支援のあり方について、具体策を交えて解説します。
1.「教え方を学ぶ場」を意図的につくる
OJTは“現場で学ぶ教育”である一方、トレーナーには“現場で教える教育力”が求められます。
その力は自然に身につくものではありません。だからこそ、教え方を教える研修の設計と導入が不可欠です。
具体的には、次のようなテーマを含む体系的なトレーナー研修が有効です。
- 伝え方・説明力の強化
- フィードバックの技術
- 学習者タイプ別対応法
- ケーススタディやロールプレイング
これらは一度きりで終わらせず、年度ごとにアップデートする仕組みを組み込むことで、トレーナーのスキルを組織全体で育てていく文化が生まれます。
2.トレーナーも評価し、育成する対象とする
教える側が“育成されないまま現場に出される”のは、OJTの盲点になりがちです。
トレーナーも「育てっぱなし」ではなく、定期的な評価とフィードバックを受ける側であるべきです。
評価指標の一例
- 学習者の成長度合い(例:スキル習得の進度)
- トレーナーに対するフィードバック(例:伝え方・関わり方)
- トレーナー自身の振り返り内容
これにより、自身の指導スタイルを客観的に見つめ直す機会が生まれ、育成の質を継続的に高めることができます。
3.トレーナー同士のつながりを支援する
トレーナーはときに孤独になりがちです。特に初めて教える立場に立った社員にとっては、教え方の正解が見えずに不安や迷いを感じることも多いものです。
そのためには、以下のような“支援の場”を定期的に設けることが効果的です。
- トレーナー同士の振り返り会・情報共有会
- 外部の専門講師による少人数での指導・意見交換の場
- 指導上の困りごとを気軽に相談できる窓口の設置
トレーナーが成長し合えるコミュニティを持つことで、継続的な指導力の向上と心理的な支えが得られます。
4.トレーナーのモチベーションを“制度”で支える
トレーナーのやる気と関わり方は、OJTの成果に直結します。そのため、「トレーナーが報われる仕組み」を制度として整えることが重要です。
たとえば、
- トレーナー評価制度(指導成果を定期人事評価に反映)
- 育成実績に応じた報酬・表彰
- トレーナー経験を管理職登用の加点項目とする
このように、“教える人”としての貢献がキャリアや待遇に反映される仕組みをつくることで、自発的かつ継続的な関わりを促すことができます。
トレーナーは、OJTの成否を左右する「もう一人の育成対象」です。
“現場に任せきり”ではなく、組織として「教える人を育てること」を制度化することが、OJT全体の成功を支える柱となります。
OJT成功には周りの協力が必要

育成を“チームの仕事”に変える
OJTの質を決めるのは、トレーナーだけではありません。
周囲の関わりや職場全体の空気が、学習者の成長スピードを大きく左右します。
この章では、チームや組織全体でOJTを支えるために大切な視点と工夫を紹介します。
1.トレーナーだけに任せない“チーム育成”の姿勢
OJTというと「トレーナーが教えるもの」と捉えがちですが、学ぶ側が真に安心して成長するためには、チーム全体で支える意識が欠かせません。
たとえば、以下のようなチームの関わりが学習効果を高めます。
- トレーナー以外の先輩が業務の“補足説明”をする
- 忙しい中でも「困っていない?」と声をかける
- 学習者が失敗しても、責めるより励ます空気がある
こうした“周囲のあたたかさ”があることで、学習者は安心してチャレンジでき、結果的に習得スピードも上がります。
2.経営層・人事部門の「旗振り」が成功の土台に
OJTの取り組みを単なる“現場任せの教育”にせず、経営陣や人事部門が明確に後押ししていることを現場に伝えることが、効果を左右します。
たとえば、
- 経営層が「人材育成は経営課題」と発信する
- トレーナーに対する評価や表彰制度を整える
- 他部門とも協力しやすい体制やガイドラインを作る
このような仕組みとメッセージが整っていることで、現場に「本気で育てよう」という空気が根づいていきます。
3.指導の“共有化”で、育成に一体感を生む
個々のトレーナーが、黙々と教えているだけでは、成果のばらつきや孤立感が生まれがちです。そこで効果的なのが、指導状況やフィードバック内容をチーム内で共有する仕組みです。
具体的には、
- 週1回の簡易ミーティングで進捗と気づきを共有
- 「OJT記録シート」をトレーナー全員で閲覧できるようにする
- 学習者への指導方針や評価基準をそろえる
共有によって、指導の質が平準化され、学習者への対応もブレがなくなります。
4.日常の“声かけ”や“掲示”が、OJTを文化に変える
社内での育成は、特別な仕組みだけで成り立つものではありません。日常のコミュニケーションが、OJTを“自分ごと”として捉える風土づくりに貢献します。
たとえば、
- 社内チャットで「○○さんが○○をできるようになりました」と共有
- 月1回の朝礼で新人の進捗と先輩のサポートを紹介
- 小さな成功を掲示板に“見える化”して称える
このようなポジティブな情報発信は、学習者本人のモチベーションだけでなく、周囲の関心や協力も自然と引き出していきます。
OJTは、トレーナー1人で完結するものではありません。チーム、部署、組織全体で「育てる」文化を根づかせることこそが、OJTの本質的な成功につながります。
関連コンテンツ
OJTを「属人化」から「仕組み」へ

OJTは、新入社員の早期戦力化や、既存社員の実践力向上を支える有効な育成手法です。日々の業務を教材としながらスキルを磨けるため、即効性があり、現場での成果にも直結します。
しかしその効果は、「現場でやらせておけば育つだろう」では決して得られません。
OJTを組織的に成功させるには、以下のような要素を“仕組み”として整えていく必要があります。
適切なトレーナーの選定と育成
教える力を持つ人を見極め、教える技術を育てる仕組みを整えること。
明確な目標と進捗の見える化
学習者自身が「何のために、何を学んでいるのか」を理解できる設計が必要です。
定期的なフィードバックの実施
できている点と改善点を具体的に伝え、成長を促す関わりが欠かせません。
学びやすい環境の整備
安心して質問できる雰囲気や、物理的な学習スペースの工夫も含め、場づくりが重要です。
トレーナーへの継続的な支援と評価
教える人も“育てる対象”。
孤立させず、悩みや困りごとにしっかり寄り添いながら、努力をきちんと認める――そんなサイクルを回すことが大切です。
組織全体で支える風土を築く
チームの協力、経営の後押し、他部署との連携――OJTを会社全体の「育成文化」にすること。
そして何より大切なのは、定期的に効果を振り返り、柔軟に改善していくこと。
OJTは“導入して終わり”の取り組みではなく、“育ち続ける仕組み”として育てていくものです。
従業員の成長が企業の力になる時代。
成果につながるOJTを通じて、組織の競争力と人材力を一段引き上げていきましょう。
監修者

- 株式会社秀實社 代表取締役
- 2010年、株式会社秀實社を設立。創業時より組織人事コンサルティング事業を手掛け、クライアントの中には、コンサルティング支援を始めて3年後に米国のナスダック市場へ上場を果たした企業もある。2012年「未来の百年企業」を発足し、経済情報誌「未来企業通信」を監修。2013年「次代の日本を担う人財」の育成を目的として、次代人財養成塾One-Willを開講し、産経新聞社と共に3500名の塾生を指導する。現在は、全国の中堅、中小企業の経営課題の解決に従事しているが、課題要因は戦略人事の機能を持ち合わせていないことと判断し、人事部の機能を担うコンサルティングサービスの提供を強化している。「仕事の教科書(KADOKAWA)」他5冊を出版。コンサルティング支援先企業の内18社が、株式公開を果たす。
コメント