近年、人的資本経営の重視により「組織人事コンサルティング」への注目が高まっています。
このコラムでは、企業の人事戦略におけるコンサルタントの役割や仕事内容を明確化し、戦略的支援の実態と必要なスキルについて解説します。これから人事領域で外部支援の活用を検討する企業担当者にとって、実務理解の第一歩となる内容です。
< このコラムでわかる3つのポイント >
1.組織人事コンサルタントの役割と関わる業務領域
2.人事課題の分析から制度設計・定着支援までのコンサルタントの仕事内容
3.コンサルタントに求められるスキルと企業活用の視点
組織・人事コンサルタントとは?
組織人事コンサルタントとは、企業が抱える「人」と「組織」の課題を専門的に分析・診断し、その解決に向けた戦略立案や制度設計、実行支援までを担うプロフェッショナルです。働き方改革や人的資本経営の加速とともに、近年では中堅・中小企業から大企業まで、業種や業態を問わずニーズが高まっています。
この章では、組織人事コンサルタントの定義、役割、そしてなぜ今その存在が必要とされているのかについて、基本的な事項をわかりやすく整理します。
組織人事コンサルの定義と守備範囲
まず、「組織人事コンサルティング」とは何を指すのでしょうか。これは、企業経営の中でも「人材」「組織」「制度」「文化」といった無形資産に関する課題を抽出し、課題解決を支援する一連のプロセス全体を指します。単に制度を設計するだけでなく、実際の運用や人材開発、組織風土の醸成までを含め、広範な領域にまたがる支援が特徴です。このような領域は、経営コンサルティングの一部と見なされることもありますが、人事・組織に特化して深く掘り下げる点で、独立した専門性を持っています。例えば、評価制度や等級制度の設計、タレントマネジメントの導入、リーダーシップ開発の設計、エンゲージメント調査の分析・改善など、極めて実践的なテーマを扱います。
一方、目に見える制度だけでなく、価値観や行動指針、暗黙知の共有といった「組織文化」や「働きがい」への介入も行う点が、他の業務系コンサルタントとの大きな違いです。
なぜ今、組織人事コンサルが注目されているのか?
組織人事コンサルティングが注目される背景には、社会と企業を取り巻く環境の変化があります。代表的な変化には以下のようなものがあります。
1. 人的資本経営への転換
2023年から東証プライム上場企業に義務づけられた人的資本の情報開示は、企業が「人材戦略を経営戦略と連動させて語る」ことを求めています。これまで属人的に設計・運用されていた人事制度や人材育成方針を、データに基づき開示・改善していく必要があります。このような流れの中で、コンサルタントは企業の「人材の見える化」「KPIの設計」「戦略の言語化」を支援します。
2. 雇用・働き方の構造変化
働き方改革、テレワークの普及、副業の解禁といったトレンドが進む中で、「制度が現実に追いついていない」という悩みを抱える企業が増えています。また、若年層を中心に「自己成長」や「働きがい」を重視する価値観が広がっており、従来のメンバーシップ型雇用や年功序列的制度の限界が露呈しています。こうした変化に対応するには、単なる制度変更ではなく、企業文化やマネジメントスタイルの変革が不可欠です。まさにそこに、組織人事コンサルが持つ「チェンジマネジメント」の専門性が活かされます。
3. 多様性とインクルージョンの推進
ダイバーシティや女性活躍推進といったテーマも、もはやCSRの枠を超え、経営の中心課題となりつつあります。人的資本開示でも、女性管理職比率や育休復帰率といった指標の開示が求められており、組織開発的なアプローチと制度設計を両立できる専門家が重宝されています。
支援範囲の広さと企業への貢献
組織人事コンサルティングの支援範囲は、「構想〜設計〜導入〜運用〜定着」までのライフサイクル全体にわたります。具体的には次のような領域が含まれます。
- 組織設計(部門再編・ミッション設計・役割明確化)
- 人事制度の再構築(等級・評価・報酬の見直し)
- タレントマネジメント導入(人材データの活用・配置の最適化)
- サクセッションプラン(次世代リーダー育成)
- エンゲージメント向上支援(サーベイ分析とアクション設計)
- インクルーシブな組織文化構築(心理的安全性の高い風土づくり)
特に最近では、「戦略人事」の考え方を基軸に、人事機能を単なる管理部門から「経営に資する機能」へと変革する支援が主流となっています。これは、組織の生産性や変革力を根本から底上げする本質的な取り組みであり、その実行パートナーとして組織人事コンサルの価値が再評価されています。
コンサルティングファームの多様化
かつては大手外資系ファームが中心でしたが、近年ではベンチャー型コンサルティング会社や元人事部出身者による独立系ファームも増加し、企業ニーズに応じた多様なサービス提供が可能になっています。PwCやアクセンチュアのようなグローバルファームでは、経営戦略と人事改革を連動させた大型プロジェクトが主流となります。
一方、ムービンやコトラで紹介されているような中堅ファームでは、より現場に即した実行支援型のプロジェクトが多く、企業規模や業界特性に応じて適切なパートナー選定が求められます。
組織・人事コンサルタントの具体的な仕事内容

組織人事コンサルタントは、単なる制度設計者ではありません。企業の経営課題を「人」と「組織」の側面から読み解き、現状の可視化、戦略立案、制度改革、運用支援、定着化に至るまでのプロセスを一貫してサポートする存在です。
この章では、実際のプロジェクトの流れに沿って、組織人事コンサルタントがどのような業務を担っているのかを具体的に解説します。
プロジェクト全体の流れ
組織人事コンサルティングの仕事は、一般に次の5つのフェーズに分かれます。それぞれのフェーズで、コンサルタントは企業の状況に応じたアプローチを選び、伴走型で支援を行います。
- 現状把握・課題特定
- 戦略設計・制度構築
- 導入・運用設計
- 定着支援・文化づくり
- 効果測定・改善提案
1. 現状把握・課題特定
最初のステップは、企業が抱えている課題の整理と現状分析です。経営陣へのヒアリング、従業員アンケート、組織構造や人材データの収集などを通じて、可視化されていない構造的な問題を浮き彫りにします。例えば、A社では「評価制度が形骸化している」という課題がありました。しかし実際には、評価者研修の未実施や、評価基準の不明確さが根本原因でした。コンサルタントは、現場の声を拾いながら、定量的データと照らし合わせてボトルネックを明確化します。
2. 戦略設計・制度構築
課題が明らかになった後は、人事戦略と組織戦略の設計に入ります。この段階では、経営戦略との整合性を意識した制度設計が求められます。
具体的には以下のような制度改革が行われます。さらに、タレントマネジメントシステムの導入や、人材ポートフォリオ分析の支援を行うケースも増えています。HRテクノロジーを活用した「戦略人事」は、多くの企業が模索しているテーマのひとつです。
- 等級制度:役割やスキルに応じたフレームの再構築
- 評価制度:成果とプロセスの両面を評価する多軸制度への移行
- 報酬制度:業績連動型やスキルベース型などの報酬体系見直し
- 育成体系:キャリアパスと連動した研修・OJT・1on1制度の設計
3. 導入・運用設計
制度が完成しても、それを現場で「使えるもの」にするための導入設計が重要です。このフェーズでは、社員向け説明資料の作成、FAQの整理、導入スケジュールの設計など、実務運用に向けた支援が中心となります。例えば、あるIT企業では、新制度導入後に「運用ルールがあいまいで現場が混乱した」という問題が発生しました。そこでコンサルタントは、現場マネージャー向けの説明会やマニュアル整備を通じて、制度理解の底上げを支援しました。
また、評価者研修やeラーニング教材の開発など、制度がスムーズに機能するような研修設計も、組織人事コンサルタントの重要な役割です。
4. 定着支援・文化づくり
制度導入後も、それを組織に根付かせる「定着支援」が必要です。この段階では、現場の行動変容を促すためのフォローアップ施策や、社内コミュニケーションの設計がポイントになります。例えば、「行動指針を浸透させたい」というニーズに対しては、社内ポスターやイントラネット、社内報でのストーリー発信など、日常の中に理念を組み込む取り組みを提案します。また、管理職向けの対話型セミナーを通じて、リーダー層の意識改革を図るケースもあります。
心理的安全性や信頼関係を土台とした「自律型組織」づくりを進めるうえで、制度面と同時に風土改革が必要であり、組織人事コンサルはその両輪を支援する立場です。
5. 効果測定と改善提案
最後に行うのが、「制度や戦略の成果をどう検証するか」という観点での効果測定です。人材データやエンゲージメントサーベイ、離職率、昇格率などをKPIとして分析し、経営へのインパクトを可視化します。例えば、制度導入後に社員満足度がどう変化したか、育成プログラムを受けた社員の離職率がどう推移しているかなどを数値化することで、次なる改善策の立案につながります。
また、企業の成長段階に応じて制度や仕組みの見直しを行う「制度のライフサイクルマネジメント」も、コンサルタントの業務のひとつです。制度は導入して終わりではなく、常にアップデートされるべき資産と考えられています。
組織・人事コンサルタントに必要なスキルや知識
組織人事コンサルタントとして活躍するためには、単なる人事知識だけでなく、戦略的視点、現場との共感力、論理的思考、そして継続的な学習姿勢が求められます。
この章では、コンサルタントに必要なスキルや知識を体系的に整理し、なぜそれらが必要なのかについて解説します。企業が外部支援を依頼する際のパートナー選定の視点としても有用な内容です。
人事・組織に関する専門知識
最も基本となるのは、人事および組織に関する実務的・理論的な知識です。コンサルタントは、経営と人材をつなぐ橋渡し役であり、次のような領域への理解が不可欠です。
- 人事制度設計の原則:等級、評価、報酬制度の構造と相互関係
- 組織構造・組織行動論:事業戦略に応じた組織形態の選定(事業部制・マトリクス制等)
- 人材開発・育成施策:キャリアパス設計、研修体系構築、1on1制度導入
- 労務・法務知識:労働基準法、労働契約法、ハラスメント防止などの基本知識
- タレントマネジメント:スキル管理、人材ポートフォリオ分析、サクセッションプラン
さらに、ISO30414や人的資本の情報開示ガイドラインなど、人的資本経営のトレンドに関する知見も強く求められるようになっています。特に、外資系企業や上場企業をクライアントとする場合には、国際的な人事フレームワーク(例:KPI設計、従業員エクスペリエンス設計)に関する理解が評価される傾向があります。
戦略的思考力とロジカルシンキング
人事領域は定性的なテーマが多いため、感覚的な議論に終始しがちです。そこで求められるのが、課題を論理的に整理・構造化できるロジカルシンキングの力です。例えば、「離職率が高い」という課題に対して、単なる待遇改善ではなく、評価制度の公正性、上司との関係性、キャリアパスの明確さといった構造要素に分解し、それぞれに対策を講じる能力が必要です。
また、事業戦略と人事戦略を一貫性のある形で接続するための戦略的思考力も重要です。人事制度が経営の意思決定を支える武器として機能するためには、「何のための制度なのか」という上位概念の明確化が不可欠だからです。このような思考力は、ExcelやPowerPointでのモデル設計や提案書作成など、日々のアウトプットにも直結しています。
コミュニケーション力とファシリテーション能力
組織人事コンサルタントは、多くの関係者とのコミュニケーションを通じて、合意形成を図る役割も担います。ヒアリングにおいては経営陣、部門長、現場社員まで幅広く関わるため、状況に応じた伝え方や傾聴力が求められます。
また、制度設計をするだけでなく、クライアントとともに考え、納得感のあるアウトプットを導く必要があります。特に、セミナーやワークショップ形式で合意形成を行う場面では、ファシリテーション能力が活きてきます。例えば、新しい評価制度の導入において、部門長会議で各部の利害を調整したり、現場マネージャーへの説明会を開催したりと、対話を通じた組織変革が期待される場面は多々あります。このような状況で信頼を得るためには、言葉の使い方だけでなく、相手の背景理解や温度感への配慮が必要です。
データリテラシーと分析スキル
最近では、人的資本の可視化が求められる中で、データを活用した提案が求められています。そのため、HRアナリティクスやBIツールを活用したデータ分析スキルは、もはやコンサルタントにとって必須の能力となりつつあります。以下の様なアウトプットを、経営層に納得感を持って伝えるプレゼンテーション能力も併せて必要です。単なるデータではなく、そこから何が読み取れるのか、どのような施策につなげるべきかを語れる力が問われます。
- エンゲージメントサーベイのクロス集計
- 離職率や昇進率の傾向分析
- スキルマトリクスや人材ポートフォリオの設計
- 評価分布の不均衡分析やバイアスの可視化
継続学習と知的好奇心
人事や組織の課題は、企業や時代によって変化し続けます。かつては年功序列や終身雇用が常識だった日本企業も、今や成果主義、ジョブ型雇用、多様な働き方に対応せざるを得ない状況です。そのような中で、コンサルタント自身も常に学び続ける姿勢が求められます。具体的には以下のような継続学習が推奨されます。知識の蓄積だけでなく、仮説構築や検証を通じた経験知の深化も重要です。特に、新しい技術(例:生成AI、タレントデータベース)の理解と活用に積極的であることは、現場に即した提案力の源になります。
- 実務書や専門書の定期的な読書
- HR系セミナーや学会への参加
- 社内ナレッジ共有会や勉強会の開催
- 組織心理学・行動経済学など隣接領域の学習
まとめ
組織人事コンサルタントは、単に人事制度の設計や研修を行うだけの専門職ではありません。企業の経営課題を「人」と「組織」という切り口から捉え、戦略的に制度や組織体制を再設計し、実行・定着までを伴走する役割を担っています。評価制度やタレントマネジメントの設計から、組織風土の醸成、人的資本の情報開示支援に至るまで、その支援範囲は広範かつ実務的です。
このコラムでは、組織人事コンサルタントの定義や必要性から始まり、実際のプロジェクトの流れ、具体的な仕事内容、そして必要とされるスキルや知識について詳しく解説しました。経営戦略と人事戦略の連動が求められる時代において、社内人材だけでは対応しきれない領域を、外部の専門家と連携することは大きな経営リスクの回避にもつながります。
今後、人的資本経営が本格的に企業価値と評価に影響を与えるなかで、組織人事コンサルタントの存在はますます重要になります。自社の人事課題を冷静に見つめ直し、必要に応じて外部の専門家に相談することは、変化の時代を乗り越えるための賢明な判断といえるでしょう。まずは信頼できるコンサルティングファームの情報を収集し、自社に合った支援スタイルを検討することから始めてみてはいかがでしょうか。
監修者

- 株式会社秀實社 代表取締役
- 2010年、株式会社秀實社を設立。創業時より組織人事コンサルティング事業を手掛け、クライアントの中には、コンサルティング支援を始めて3年後に米国のナスダック市場へ上場を果たした企業もある。2012年「未来の百年企業」を発足し、経済情報誌「未来企業通信」を監修。2013年「次代の日本を担う人財」の育成を目的として、次代人財養成塾One-Willを開講し、産経新聞社と共に3500名の塾生を指導する。現在は、全国の中堅、中小企業の経営課題の解決に従事しているが、課題要因は戦略人事の機能を持ち合わせていないことと判断し、人事部の機能を担うコンサルティングサービスの提供を強化している。「仕事の教科書(KADOKAWA)」他5冊を出版。コンサルティング支援先企業の内18社が、株式公開を果たす。
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