2024年の人事トレンドワード解説!企業が押さえるべき人材戦略とは?

2 人事評価制度

2024年、企業の成長を支える人事戦略が大きく変化しています。リスキリング をはじめ、人材の確保や賃上げ、AIの活用など、企業が対応すべき課題は多岐にわたります。

本コラムでは、2024年の人事トレンド を分析し、変化に適応するための具体的なポイントを解説します。

Contents

2023年のトレンドを振り返る

2023年は、人事に関する多くのニュースが話題となり、企業経営や人事戦略に大きな影響を与える変化が相次いだ1年でした。新型コロナウイルスの影響が薄れたことで、企業はコロナ禍で定着した新しい働き方に対応する段階から、競争力を高める取り組みへと移行しました。人事関連のイベントやカンファレンスも活発に開催され、最新のトレンドに関する情報共有が進みました。

ここでは、2023年の主なトレンドを振り返ります。

1.「人的資本経営」の本格化

2023年は、人的資本経営が本格的に広がった年でした。これは、企業の競争力を高めるために、人材を「コスト」ではなく「資本」として捉え、戦略的に育成・活用する考え方です。日本でも、「人的資本情報の開示」が一部の上場企業に義務付けられたことで、経営戦略と人材戦略の統合が求められるようになりました。

多くの企業が、従業員のスキル可視化、リーダー育成プログラムの強化、エンゲージメント向上施策の導入などに取り組み、人的資本経営を推進しました。特に、グローバル市場で戦える人材の育成や、データを活用した人事施策の高度化が進みました。

2.「エンゲージメント向上」への投資拡大

2023年は、エンゲージメント向上が人事施策の中心に据えられました。経済産業省が「エンゲージメントの向上が企業の生産性を高める」と指摘したこともあり、企業は従業員のモチベーション向上に本格的に取り組み始めました。

特に、ピープルアナリティクス(従業員のデータを分析し、採用・配置・育成・エンゲージメント向上などの意思決定を最適化する手法)を活用した組織診断、パルスサーベイ(従業員の意識や満足度を定期的かつ短い間隔で測定する調査)の導入、心理的安全性の確保といった施策が広がり、離職率の低減や生産性向上につながる事例が増えました。

これまで従業員満足度調査を年1回実施していた企業も、リアルタイムで従業員の声を把握する仕組みを導入するなど、データに基づいた人事戦略を推進しました。

3.「タレントマネジメント」強化の動き

人材不足が深刻化する中、企業はタレントマネジメントを強化しました。これまでの「一律的な評価・配置」から、個々の能力や適性を可視化し、適材適所の配置を行うことが重要視されるようになりました。

特に注目されたのが、スキルマップやキャリアの道筋の明確化、適性検査の高度化です。人事データを活用し、従業員一人ひとりの強みを把握することで、適切な配置や成長機会の提供が可能になりました。さらに、高い成果を上げる人材を特定し、戦略的に育成するための仕組みが整備されつつあります。

4.「ハイブリッドワーク」の定着とオフィスの変革

ハイブリッドワーク(オフィスとリモートワークの併用)が定着しました。しかし、完全リモートを維持する企業は減少し、多くの企業が「オフィス回帰」を進める一方で、オフィスの在り方を再考する動きが広がりました。

特に、社員同士の協力や連携を促進するオフィス設計、フレックスタイム制の導入、リモートワーク手当の整備などが進められました。社員同士の偶発的な交流を生む「イノベーション型オフィス」への関心も高まりました。具体的には、オープンスペースの設置、フリーアドレスの導入、部門を超えた交流が生まれるラウンジや共創スペースの活用が進んでいます。

今後も、リモートワークとオフィス勤務の最適なバランスを模索する動きが続くと予想されます。

5.「副業・兼業」の拡大と制度整備

2023年は、副業・兼業を許容する企業がさらに増加しました。政府が「働き方改革」の一環として副業・兼業を推奨したことも影響し、企業は「社内副業(現在の所属部署とは異なる業務に、同じ企業内で取り組む制度)」「プロジェクト型副業(期間限定のプロジェクトに参加し、本業とは異なる分野でスキルを活かす働き方)」など、多様な働き方を取り入れました。

特に、大企業を中心に「従業員の市場価値を高めるための副業推奨」という考え方が広まり、社内外でスキルを磨く機会を提供する企業が増えました。一方で、副業による労働時間管理や情報漏洩リスクといった課題も浮上し、ルール整備の重要性が再認識されました。

6.「健康経営」への意識の高まり

従業員の心身の健康が企業の生産性に直結するという認識が広がり、「健康経営」に力を入れる企業が増えました。特に、メンタルヘルス対策が強化され、ストレスチェックの活用、ウェルビーイング施策の導入が進みました。

また、健康データを活用した予防医療の推進、運動促進プログラム、ワークライフバランス支援など、従業員の健康を企業がサポートする動きが強まりました。これにより、生産性向上だけでなく、離職率の低減や採用力の強化にもつながる事例が増えています。


2023年は、このようなテーマが企業の人事戦略の中心にありました。2024年は、これらの動きをさらに発展させ、企業がどのように実行に移すかが問われる年になります。研修やイベントを活用しながら、社員のスキル向上や組織の活性化を進めることが求められました。

関連コンテンツ

関連コンテンツ

2024年の人事トレンドワード①リスキリング

「リスキリング(Reskilling)」は、2024年を通じて引き続き重要なテーマとなりました。リスキリングとは、従業員が新たなスキルを習得し、企業内での役割を変えながら活躍し続けるための学び直しを指します。デジタル技術の進化やビジネス環境の変化が進む中で、企業が従業員のスキル開発を積極的に支援する動きが本格化しました。

1.なぜ2024年にリスキリングが加速したのか?

リスキリングが企業の経営戦略において重要視される背景には、急速なDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展人手不足の深刻化労働市場の変化が挙げられます。

DXの進展とスキルギャップの拡大

2024年は、AI・データ分析・プログラミングなどのデジタルスキルが必須スキルとなる流れが加速しました。しかし、企業が求めるスキルと従業員が持つスキルの間にギャップが生じ、これを埋めるためのリスキリング施策が不可欠になりました。

人手不足と既存人材の有効活用

少子高齢化が進む日本では、企業の採用活動が厳しくなる一方で、既存の従業員を育成し、戦力化する流れが強まりました。 特に、製造業や小売業・サービス業では、デジタルツールの活用や業務効率化が求められ、それに伴う学び直しの機会が増えました。

終身雇用の崩壊とキャリア自律の必要性

2024年には、企業が「従業員のキャリア自律を支援すること」を人事施策の柱として掲げる動きが増えました。終身雇用の崩壊が進み、企業が従業員の成長を後押しすることで、リテンション(定着率)向上につなげる意識が強まりました。

2.2024年のリスキリング施策の具体的な動向

2024年を通じて、多くの企業が以下のような取り組みを進めました。

政府の支援を活用したリスキリング強化

政府は「リスキリング支援策」として、5年間で1兆円規模の投資を計画しており、企業もこれを活用して従業員のスキル開発に力を入れました。「職業訓練給付金の拡充」など、個人が学び直しをしやすい制度も活用されました。

企業内リスキリングの促進

2024年は、特にジョブ型雇用の導入と合わせて、企業内でのリスキリングの機会を拡充する企業が増えました。

ジョブ型雇用とは、「職務(ジョブ)」を基準に採用・配置・評価を行う雇用形態であり、従来の「メンバーシップ型雇用」(職務を限定せず、会社の指示に応じて柔軟に働く雇用形態)とは異なります。この制度では、専門スキルを持つ人材が求められるため、従業員が新たなスキルを習得し、自らの市場価値を高めることが重要視されます。

企業はリスキリングの一環として、社内研修や外部セミナーを積極的に活用し、従業員のスキルアップを支援しました。その結果、以下のような研修プログラムが注目されました。

  • デジタルスキル研修(AI、データサイエンス、クラウド活用)
  • リーダーシップ研修(次世代管理職の育成)
  • キャリアチェンジ支援(異動・配置転換に伴う学び直し)

「社内副業」や「越境学習」の導入

リスキリングの効果を高めるため、企業内で「社内副業」を推進する動きが活発になりました。これは、従業員が異なるプロジェクトに参加することで、新しいスキルを実践的に習得できる仕組みです。また、新興企業や他業種との連携による「越境学習」も注目され、より広い視野を持つ人材育成が進められました。

生成AIを活用したリスキリング

2024年には、生成AI(Generative AI)の活用が拡大し、個別最適化された学習が可能になりました。AIが従業員ごとに適した学習プログラムを提示し、習得状況をデータ化することで、効率的なリスキリングが実現しました。

3.経営者・人事担当者が取り組むべきポイント

2024年に企業の競争力を高めるため、経営者や人事担当者がリスキリング施策を強化する動きが目立ちました。特に重要だったポイントを整理します。

スキルギャップの可視化

まず、自社の従業員が持つスキルと、今後求められるスキルを比較し、ギャップを明確にすることが重要視されました。スキルマップやデータを活用し、必要な学習内容を整理する企業が増加しました。

学習機会を日常業務に組み込む

研修だけでなく、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)や社内副業を活用し、業務の中で新たなスキルを習得する機会を増やす動きが進みました。

OJTとは、実際の業務を通じて上司や先輩から指導を受けながらスキルを習得するトレーニング手法のことです。座学研修とは異なり、実務の中で学ぶため、より実践的なスキルが身につきやすいという特徴があります。特に、新しいデジタルツールの習得や業務の進め方を見直し、効率を高める取り組みにOJTを活用する企業が増えました。

また、社員が自主的に学べるeラーニングの導入や、外部セミナーへの参加を奨励する企業も増えました。

スキル評価と人事制度の連携

リスキリングの効果を高めるため、企業は新たに習得したスキルを正しく評価し、昇進や異動、報酬へ反映する仕組み を整えました。これにより、スキル向上がキャリアアップにつながる環境を整え、社員の学習意欲を高めることに成功した企業が多く見られます。さらに、人事評価制度と連携することで、企業の成長と個人の成長を両立させる流れ が生まれています。


2024年の人事戦略において、「リスキリング」は企業の成長と従業員のキャリア形成の両方にとって不可欠なテーマでした。DXの進展や人手不足への対応として、企業は従業員の学び直しを支援し、「成長する組織」をつくることが求められました。

単なる研修の実施ではなく、日常業務と連携したスキル開発を推進することが成功の重要なポイントとなりました。今後も、テクノロジーを活用したリスキリングの進化が期待されます。

2024年の人事トレンドワード②賃上げ

2024年は「賃上げ」が引き続き注目される1年となりました。物価高や人手不足が続く中、企業は従業員の生活を支え、採用競争力を高めるために給与の引き上げを迫られました。政府の賃上げ促進策や労働市場の変化も相まって、多くの企業が報酬制度の見直しを行い、従業員の処遇改善に取り組む動きが強まりました。

1.2024年の賃上げトレンドの背景

物価高騰と実質賃金の低下

2023年から続く物価高の影響で、生活コストが増大し、多くの労働者が「賃上げがなければ生活が厳しい」と感じる状況が生まれました。実質賃金(物価の変動を考慮した賃金水準)は長期的に減少傾向にあり、企業は従業員の購買力を維持するために給与の引き上げを余儀なくされました。

政府の賃上げ促進策

日本政府は「賃上げ税制」を強化し、一定の賃上げを行った企業に対して法人税の優遇措置を拡充しました。これにより、多くの企業が賃上げを実施しやすい環境が整いました。また、「最低賃金の引き上げ」も継続的に行われ、都道府県ごとに最低時給が大幅に上昇しました。

人手不足による採用競争の激化

特に中小企業では、人手不足が深刻化し、給与を上げなければ人材が確保できないという状況が加速しました。大手企業が賃上げを進める中で、同業他社や競合企業との給与格差を埋めるために、中小企業も賃金水準を引き上げざるを得なくなりました。

2.企業の賃上げ対応策

基本給の引き上げ

多くの企業が従業員の処遇改善のために、基本給の引き上げを行いました。特に、新卒採用市場では「初任給の引き上げ」が目立ち、従来よりも高い給与水準での採用が一般的になりました。これにより、企業間の競争が一層激しくなりました。

賞与(ボーナス)の増額

一部の企業では、賃上げが難しい場合にボーナスを増額することで対応しました。これは、企業の業績に応じて変動させやすく、コストコントロールがしやすいというメリットがあります。ただし、固定給の引き上げと比べると、従業員の満足度向上には限界があるため、賞与だけでなく基本給の見直しを行う企業も増えました。

成果主義の強化

2024年には、「ジョブ型雇用」や「スキルベースの評価制度」を導入する企業が増えました。賃上げを一律に行うのではなく、成果やスキル向上に応じて給与を引き上げる動きが強まりました。特に、デジタルスキルやAI関連スキルを持つ人材は高く評価され、高給を得るケースが増加しました。

福利厚生の充実

給与だけでなく、企業は福利厚生の強化を進め、従業員の実質的な負担を軽減する取り組みを行いました。たとえば、「住宅手当の拡充」「交通費補助の増額」「社員食堂の補助」などが挙げられます。これにより、給与の上昇だけでなく、総合的な生活支援を行う企業が増えました。

3.賃上げの課題と今後の展望

中小企業の対応の難しさ

賃上げは大企業中心に進んだものの、中小企業では依然として厳しい状況が続きました。特に、資金力に余裕のない企業は、人件費の増加による利益圧迫が懸念され、賃上げが難航するケースも多く見られました。そのため、価格転嫁(製品・サービスの値上げ)や業務効率化を通じて、賃上げの原資を確保する動きが求められました。

賃上げと生産性向上のバランス

単純に賃上げを行うだけでは、企業の競争力は維持できません。そのため、業務のDX化やAI・RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入による生産性向上が並行して進められました。

RPAとは、定型的な業務をソフトウェアのロボットが自動化する技術であり、特にバックオフィス業務(経理処理、データ入力、帳票作成など)での活用が進んでいます。これにより、人手不足を補いつつ、業務効率を向上させることが可能になりました。

企業は、賃上げに見合う労働生産性の向上をどのように実現するかが、今後の大きな課題となります。

賃上げとエンゲージメント向上

給与が上がることは、従業員のモチベーション向上につながりますが、必ずしも離職防止やエンゲージメント向上には直結しません。 そのため、キャリア開発支援やワークライフバランスの整備、心理的安全性の確保など、企業文化の改善も求められました。


2024年の賃上げは、物価高、人手不足、政府の政策など複数の要因が絡み合う中で、企業が避けて通れない課題となりました。特に、基本給の引き上げや賞与の増額、成果主義の強化など、多様な方法で対応が進められました。一方で、賃上げの負担を補うために、生産性向上や業務効率化の取り組みも不可欠となり、企業はバランスの取れた人事戦略を求められました。

今後も、持続的な賃上げを実現するための施策が企業経営の重要なテーマとなるでしょう。

2024年の人事トレンドワード③2024年問題

「2024年問題」とは、働き方改革関連法による時間外労働の上限規制が、建設業・自動車運送業・医療業界などに適用されることで生じる労働力不足や業務効率の課題を指します。特に、トラックドライバー・建設作業員・医師の労働環境の変化が大きな影響を及ぼし、企業経営や人事戦略において重要な課題となりました。

1.2024年問題とは?背景を整理

時間外労働の上限規制の適用

2019年に施行された「働き方改革関連法」では、時間外労働の上限が月45時間・年360時間(原則)」と定められました。ただし、建設業・自動車運送業・医療業界には、適用猶予が設けられていました。2024年4月1日からは、この適用猶予が終了し、上限規制が適用されます。

労働力不足の加速

もともと人手不足が深刻だった運送業や建設業では、長時間労働が常態化していたため、上限規制によって人手が足りなくなる懸念が広がりました。特に、物流業界では「トラックドライバー不足」による輸送力の低下(物流の2024年問題)が深刻な問題となりました。

業界ごとの影響

2024年問題は、特に以下の業界で大きな影響を与えました。

1.物流業界(トラックドライバー不足)

2024年4月から年間960時間の時間外労働の上限が設定され、長距離輸送の回数が減少。これにより、「物流コストの増加」や「配送の遅れ」が発生し、企業の仕入れや生産、販売の流れにも影響が及ぶ。「モノが届かない時代」が現実味を帯び、企業は配送方法の見直しを迫られる。

2.建設業界(工期の遅延・コスト増)

建設業界では、これまでの長時間労働に依存していたため、人手不足による工期の遅れや建設コストの増加が懸念された。2025年の大阪・関西万博やインフラ整備など、大規模プロジェクトの進行にも影響が出る可能性が高まった。

3.医療業界(医師の働き方改革)

医師の労働環境改善のため、年間時間外労働の上限が「年960時間(一般)」と設定される。一部の特例病院では最大1860時間まで可能だが、それでも過重労働の是正が求められる。地域医療の提供体制の見直しが急務となり、医療機関の働き方改革が本格化。

2.企業の対応策:2024年問題にどう向き合うか?

1.業務効率化と生産性向上

2024年問題を乗り越えるために、企業は労働時間の削減と生産性向上の両立を求められました。特に、デジタル技術の活用や業務の流れの見直しが不可欠となりました。

DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進

  • AIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用し、事務作業の自動化を進める。
  • 物流業界では「動態管理システム」「配送ルート最適化AI」などの導入が進む。

業務分担と外部委託

  • 一部業務を外部委託(BPO)し、負担を分散する。
  • 一人の社員に業務が集中しないよう、業務を標準化・マニュアル化する。

2.労働力確保と人材定着策

時間外労働の上限規制により、人手不足に対応するための新たな雇用戦略が必要になりました。

賃上げと待遇改善

  • 労働条件の改善(給与引き上げ・休暇制度の整備)を進めることで、人材流出を防ぐ。
  • 特に、建設業・物流業界では新たな人材確保のための「若手採用」「外国人労働者の活用」が進んだ。

労働時間の柔軟化

  • 短時間勤務制度やフレックスタイム制を導入し、多様な働き方を認める。
  • 週休3日制やシフト勤務の工夫により、労働時間の分散を図る。

3.物流業界における「ホワイト物流」推進

物流業界では、ドライバーの負担を減らすために、「ホワイト物流」と呼ばれる施策が推進されました。

荷待ち・荷役作業の効率化

  • トラックの待機時間を削減するため、発着時間を明確化。
  • パレット輸送(貨物をまとめてパレットに載せ、一括で積み降ろしを行う輸送方法)の導入や共同配送(複数の企業が協力して同じトラックで商品を配送する仕組み)の促進により、積み下ろし作業の負担軽減。

モーダルシフトの推進

(トラック輸送から鉄道や船舶を活用した輸送に切り替えることで、物流の効率化や環境負荷の軽減を図る取り組み)

  • 自動運転技術やドローン配送の実証実験も進行。

3.2024年問題の今後の展望

2024年問題の本格化により、企業は「長時間労働に依存しない業務体制の構築」を急がなければなりません。
特に、DXや自動化技術の活用、人材確保のための待遇改善が求められます。今後、以下のような動きが加速すると予想されます。

  • 企業間の共同輸送や物流の再編
  • 建設業界の「週休2日制」の普及
  • 医療DXによる業務負担軽減(電子カルテ活用・オンライン診療の普及)

企業にとって、2024年問題への対応は「人材不足を乗り越える経営戦略」となります。単なる規制対応にとどまらず、「生産性向上」「新しい働き方の創出」を進めることが、今後の企業成長を左右する重要な要素となります。


2024年問題は、単なる労働時間の規制ではなく、日本全体の働き方や業界構造の変革を促す大きな転換点となりました。特に、物流・建設・医療業界において、人手不足と業務効率化のバランスをどう取るかが、企業経営の重要課題となりました。

今後は、DX・自動化・人材確保の三位一体での対応が不可欠となり、企業の対応力が問われる時代に突入しています。

2024年の人事トレンドワード④労働条件明示のルール改正

2024年4月から、労働基準法に基づく労働条件明示のルール改正が施行されました。これにより、雇用契約時の労働条件の明示方法が厳格化され、企業はより透明性の高い労務管理を求められるようになりました。
特に、有期雇用契約における契約更新の基準の明示義務化業務内容・勤務地の明示強化がポイントとなり、企業の人事・労務担当者にとって対応が欠かせない課題となりました。

1.労働条件明示のルール改正とは?

これまで、日本の労働基準法では、企業が労働者と雇用契約を結ぶ際に、労働条件を明示することが義務付けられていました。
しかし、実際の運用では、契約更新の判断基準が不透明だったり、雇用後に業務内容や勤務地が大きく変更されるケースがあり、労働者にとって不利益となる問題が発生していました。

そこで2024年4月の改正では、以下の3つの変更点が盛り込まれ、企業の労働条件の説明責任が強化されました。

契約更新の判断基準の明示義務化

有期雇用契約の場合、「契約が更新される可能性があるかどうか」「更新の基準」を明示することが義務化されました。
これにより、契約満了時に突然雇い止めされるリスクを減らし、労働者にとってより安定した雇用環境を確保することが目的とされています。

業務内容・勤務地・職務の変更範囲の明示

企業が従業員を採用する際に、「どのような業務を担当するのか」「勤務地はどこか」「職務内容の変更があるか」といった点を具体的に示すことが求められました。
これは、ジョブ型雇用の拡大や、リモートワークの普及に伴い、業務内容や勤務地の変更が発生しやすくなったことが背景にあります。
明確な労働条件を提示することで、従業員が納得した上で入社できる環境を整える狙いがあります。

無期転換ルールの適用範囲の明示

有期契約労働者が「無期転換ルール(5年を超えて契約を更新した場合、労働者の申し出によって無期雇用に転換できる制度)」の対象となる場合、その適用範囲を明示することも求められました。
これにより、企業側が有期契約労働者に対して、長期的なキャリア形成の可能性を伝える義務が明確化されました。

2.企業の対応策:何を準備すべきか?

今回の改正により、企業の人事・労務部門には、以下のような対応が求められました。

1.雇用契約書・労働条件通知書の見直し

まず、企業は現在使用している雇用契約書や労働条件通知書の書式を見直し、契約更新の基準や業務内容・勤務地の範囲を明記する必要があります。
特に、以下のポイントに注意する必要があります。

契約更新の基準を明確に記載

例:「契約更新の判断基準は、勤務成績、業務量、会社の経営状況による」

業務内容の具体的な記載

例:「入社時の職務内容は○○であり、変更の可能性がある場合は、どのような業務に従事する可能性があるか明示」

勤務地の範囲の明示

例:「配属先は本社または○○支店、または同社の事業所間で異動の可能性あり」

2.社内規程や就業規則の整備

労働条件の明示ルールが強化されたことで、企業は就業規則や社内の人事制度を見直し、変更が必要かどうかを確認することが重要です。
特に、有期雇用契約の労働者が多い企業では、契約更新の判断基準や無期転換ルールの適用について、従業員に対して明確に説明できる仕組みを整える必要があります。

3.採用時の説明強化

今回の改正により、採用担当者や人事部門は、求職者に対して労働条件をより明確に説明する責任を負うことになりました。
そのため、面接時に業務内容や勤務地の変更の可能性を具体的に伝えるなど、求職者が納得できる形で情報を提供することが求められます。

4.労働者への周知と社内研修の実施

新ルールに関する情報は、労働者にも適切に周知する必要があります。
そのため、人事担当者向けの社内研修を実施し、労働条件の明示方法や新たなルールのポイントを共有することが重要になります。

3.今後の展望:労働条件の透明化と企業の人材戦略

2024年の労働条件明示ルール改正により、労働者の権利がより明確に保護される環境が整備されました。
企業側にとっては、曖昧な労働条件の提示がリスクとなるため、透明性の高い労務管理が求められる時代となりました。

今後の動向として、以下の点が注目されます。

  • ジョブ型雇用の広がりとともに、職務範囲の明確化が進む
  • 求職者が「契約更新の基準」や「職務変更の可能性」を重視する傾向が強まる
  • 採用時の説明が不十分な場合、入社後のトラブルが増加するリスクがある
  • 違反した企業は、労働基準監督署の指導対象となる可能性が高まる

このような流れを受けて、企業は単に法改正に対応するだけでなく、「労働条件の明示を強化することで、求職者や従業員との信頼関係を築く」ことが、採用競争力の向上やエンゲージメント強化につながると考えられます。


2024年の労働条件明示ルールの改正は、単なる法律の変更ではなく、企業の人事戦略にも大きな影響を与えるものとなりました。
特に、有期契約労働者の契約更新基準の明示や、職務範囲・勤務地の明確化は、今後の雇用契約の在り方を変える転換点となるでしょう。

企業は、契約書の見直し・社内制度の整備・求職者への説明強化を進めることで、リスクを回避し、より良い労働環境を提供することが求められます。

2024年の人事トレンドワード⑤社会保険の適用拡大

2024年、人事担当者や経営者にとって無視できないテーマの一つが「社会保険の適用拡大」です。社会保険の適用範囲が広がることで、企業の負担が増える一方で、従業員の福利厚生の充実や雇用の安定化が期待されています。

1.2024年の社会保険適用拡大とは?

社会保険の適用拡大とは、主に厚生年金や健康保険の加入対象となる従業員の範囲が広がることを指します。2022年10月に従業員101人以上の企業を対象に適用拡大が行われましたが、2024年10月からは 「従業員51人以上」の企業 にまで適用されることになります。

これにより、パート・アルバイトを含む短時間労働者でも一定の条件を満たせば社会保険へ加入する必要が出てきます。具体的な条件は以下の通りです。

  • 週の所定労働時間が 20時間以上
  • 月額賃金が 88,000円以上
  • 2カ月を超える雇用見込み
  • 学生ではない

これまで適用されていなかった企業でも、多くの従業員が新たに社会保険の対象となるため、経営側の対応が求められます。

2.企業にとっての影響

社会保険の適用拡大により、企業にとっては 「コスト増」 が避けられません。企業は、加入対象となる従業員の保険料の 半額を負担 することになるため、特に人件費のコントロールがシビアな中堅・中小企業では影響が大きいでしょう。

1.人件費の増加

社会保険料の負担が増えることで、企業の人件費は上昇します。たとえば、従業員が増えれば、それに比例して企業負担の保険料も増えるため、経営計画の見直しが必要になります。

2.雇用形態の見直し

一部の企業では、社会保険の適用を避けるために、従業員の労働時間を調整するケースも考えられます。しかし、過度な労働時間制限は、従業員のモチベーション低下や人材流出を招く可能性があるため、慎重な判断が必要です。

3.採用・定着率への影響

社会保険が適用されることで、パートやアルバイト従業員の福利厚生が充実し、 「働きやすい職場」 という評価を得やすくなります。結果として、優秀な人材の確保・定着につながる可能性もあります。

3.実務対応のポイント

企業がスムーズに社会保険の適用拡大へ対応するためには、以下の点に注意が必要です。

1.労働時間の管理

従業員が週20時間以上働いているかどうかを正確に把握することが重要です。勤怠管理システムを活用し、時間外労働を含めた総労働時間を適切に管理しましょう。

2.給与計算システムの調整

給与計算システムが新しい社会保険の適用範囲に対応しているかを確認し、必要に応じてシステムの見直しや改修を行いましょう。

3.従業員への説明・対応

従業員が社会保険加入のメリット(将来的な年金受給額の増加、健康保険の手厚い保障など)を理解できるよう、説明会や個別相談を実施するのも効果的です。

4.経営計画の見直し

社会保険の適用拡大による人件費増加を考慮し、利益率の確保や業務効率の向上策を検討しましょう。たとえば、業務のDX(デジタル・トランスフォーメーション)化や生産性向上施策を取り入れるのも一案です。

4.企業にとってのチャンスとリスク

社会保険の適用拡大は、企業にとって 「コスト増」 というリスクがある一方で、 「従業員満足度の向上」「人材確保の強化」 というメリットもあります。

1.チャンス

  • 福利厚生が充実することで 求職者に選ばれる企業 になれる
  • 定着率向上により 採用コスト削減 につながる
  • 社会保険適用を契機に 労働環境の改善 が進む

2.リスク

  • 人件費の増加により 利益圧迫の可能性
  • 適用対象の把握ミスによる 労務リスクの発生
  • 労働時間調整が過剰になり 現場の負担増 になる可能性

この制度改正を、 単なるコスト増ではなく、組織の成長につなげる機会と捉え、前向きな対応をすることが重要 です。


2024年の社会保険適用拡大は、企業の人事戦略に大きな影響を与えるテーマです。特に、従業員51人以上の企業にとっては、新たに適用される従業員の管理が必要になります。

企業に求められるのは、 コスト管理と従業員の働きやすさのバランスをとること です。適用拡大を機に、福利厚生の充実をアピールし、魅力的な職場づくりを進めることで、企業の成長にもつなげることができます。

経営者や人事担当者の皆様は、この制度変更を ピンチではなくチャンス と捉え、積極的な対応を進めていきましょう。

2024年の人事トレンドワード⑥ダイバーシティ

近年、多様性を重視する企業経営の重要性が高まっており、2024年も「ダイバーシティ(多様性)」が人事トレンドの中心に位置づけられます。ダイバーシティ推進は、単なる企業の社会的責任(CSR)の一環ではなく、企業の成長戦略として不可欠な要素となっています。

では、2024年におけるダイバーシティの最新動向と企業が取るべき対応について考えていきましょう。

1.ダイバーシティが求められる背景

ダイバーシティ推進が注目される背景には、以下のような要因があります。

1.労働力不足の深刻化

日本の労働人口は年々減少しており、企業は 「多様な人材の活用」 によって働き手の確保を進める必要があります。特に 女性、高齢者、外国人、障害者、LGBTQ+の方々 など、従来の枠にとらわれない人材の採用・活用が企業の持続可能な成長に直結します。

2.働き方の多様化

リモートワークやフレックスタイム制度、副業解禁など、柔軟な働き方が広がる中で、企業は 個々の事情に対応できる環境づくり を進めることが求められます。これにより、育児・介護との両立や、地方在住者の雇用促進などが可能になります。

3.ESG経営と人的資本開示の流れ

環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)に配慮した ESG経営 の一環として、企業の人的資本に関する情報開示が進んでいます。投資家や消費者も、多様性を推進する企業を評価する傾向が強まっており、ダイバーシティ推進は企業のブランド価値向上にもつながります。

2.2024年に注目すべきダイバーシティのトレンド

2024年、人事部門が注目すべきダイバーシティ関連のテーマを以下に整理しました。

1.女性活躍推進のさらなる強化

政府は 「女性活躍推進法」 を改正し、企業の女性管理職比率向上を求める動きを強めています。2024年4月には、 常時労働者が301人以上の企業に対して、女性活躍に関する情報開示が義務化 されました。これにより、企業は女性管理職比率や採用状況について積極的に公表する必要があり、女性のキャリア支援策がますます重要になります。

2.外国人労働者の受け入れ拡大

2024年に 「特定技能2号」 の対象拡大が実施され、外国人労働者の受け入れがこれまで以上に進みました。これを受け、企業は 外国人材が働きやすい環境を整え、言語や文化の壁を乗り越える支援体制を強化すること が引き続き求められています。

3.障害者雇用の強化

2024年4月から 障害者の法定雇用率が引き上げ られ、企業の障害者雇用義務が強化されました。(詳細は別のトレンドワード「障害者法定雇用率」で解説)。企業は、障害者が 実際に活躍できる職場環境づくり に取り組むことが重要です。

4.LGBTQ+への対応強化

ダイバーシティの一環として、LGBTQ+の方々への対応も求められています。企業は 社内規定の見直しや相談窓口の設置 など、多様な価値観を尊重する取り組みを進めることで、心理的安全性の高い職場づくりを目指す必要があります。

3.ダイバーシティ推進の実務対応

ダイバーシティを推進するには、単なるポリシー策定だけでなく、 実際に職場で機能する仕組みづくり が重要です。

1.経営層の明確な方針と責任ある取り組み

ダイバーシティ推進には、経営陣の明確な方針とリーダーシップ が不可欠です。企業のトップが多様性の重要性を理解し、「ダイバーシティ経営」を積極的に推進する姿勢を示すことで、社内への浸透が進みます。

2.ダイバーシティ推進チームの設置

ダイバーシティを推進するために、 専門のチームや担当者を設置 し、具体的な施策を計画・実行することが有効です。人事部だけでなく、現場の管理職を巻き込むことで、より実践的な取り組みが可能になります。

3.教育・研修の実施

無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)をなくすため、 管理職や従業員向けのダイバーシティ研修を実施 する企業が増えています。多様な価値観を受け入れる企業文化を育てることが、人材の定着や活躍促進につながります。

4.人事制度の見直し

ダイバーシティを推進するためには、 評価制度や昇進基準の透明性を高めること が重要です。たとえば、性別や国籍に関わらず公平な評価が行われる仕組みを整えることで、多様な人材が活躍しやすくなります。

4.ダイバーシティ推進がもたらす企業のメリット

ダイバーシティの推進は、単なる義務ではなく、企業にとっても大きなメリットをもたらします。

  • 多様な人材が集まることで生まれる新しい発想や革新
  • 労働力不足の解消
  • 社員のエンゲージメント向上
  • 企業ブランドの向上
  • グローバル市場での競争力強化

2024年の人事トレンドとして、ダイバーシティ推進は 企業の成長戦略と密接に関わるテーマ となっています。単なる「多様性の確保」ではなく、 多様な人材が能力を最大限に発揮できる環境づくりが求められる 時代です。

経営者や人事担当者の皆様は、 「ダイバーシティ推進=企業の競争力向上」 という視点を持ち、自社の実態に合わせた施策を進めていくことが重要です。この機会に、自社のダイバーシティ施策を見直し、より良い職場環境づくりを目指していきましょう。

2024年の人事トレンドワード⑦裁量労働制

2024年、人事労務の現場で注目されるテーマのひとつが 「裁量労働制」 です。裁量労働制は、労働時間ではなく 成果 に基づいて働くスタイルを促進する制度であり、企業の生産性向上や働き方の多様化に寄与すると期待されています。

しかし、一方で 長時間労働や労働時間管理の不透明さ に関する課題も指摘されており、企業は慎重な運用が求められます。

1.裁量労働制とは?

裁量労働制とは、 実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定めた時間を働いたものとみなす制度 です。これは、時間単位の労働ではなく、 成果や業務の進め方を重視する働き方 を推進するための仕組みとして導入されています。

裁量労働制には 「専門業務型裁量労働制」「企画業務型裁量労働制」 の2種類があります。

1.専門業務型裁量労働制

特定の 専門性の高い業務 に従事する労働者が対象です。たとえば、以下のような職種が該当します。

  • 研究開発職
  • デザイナー
  • システムエンジニア
  • 記者・編集者
  • コンサルタント

これらの職種では、働く時間や場所に関係なく成果が求められるため、労働時間ではなく 業務の成果 に基づいた働き方が推奨されます。

2.企画業務型裁量労働制

企業の 経営戦略や事業企画に関わる業務 を担当する労働者が対象となります。具体的には、以下のような職種です。

  • 経営企画
  • 事業開発
  • マーケティング戦略
  • 企業ブランディング

この制度は、経営や事業戦略に関する業務が 時間ではなく成果によって評価されるべき との考え方に基づいています。

2.2024年における裁量労働制の最新動向

2024年には、裁量労働制の適用範囲の拡大が議論されており、政府は 企業の働き方改革の一環として、裁量労働制の運用改善 を進めています。特に、以下の3つのポイントが注目されています。

1.適用職種の拡大

現在、裁量労働制の対象職種は限られていますが、 より幅広い職種での適用が検討 されています。特に、デジタル技術の発展により、リモートワークが普及する中で、 ITエンジニアやクリエイティブ職 への適用拡大が議論されています。

2.長時間労働防止策の強化

裁量労働制は、業務の進め方を個人に委ねる制度ですが、その一方で 長時間労働が常態化するリスク があります。そのため、政府は以下のような対策を進めています。

  • 健康管理の強化(定期的な面談・ストレスチェック)
  • 勤務間インターバル制度の導入(終業後一定時間の休息確保)
  • 過労死ラインを超える労働を防ぐガイドラインの策定

3.裁量労働制の適正な運用の義務化

企業が裁量労働制を導入する際は、 労使協定の締結や適用職種の明確化 が求められます。また、2024年以降、労働基準監督署のチェックが強化 される可能性があるため、適正な運用がより重要になります。

3.企業が取るべき対応

裁量労働制を適切に導入・運用するためには、以下の点に注意が必要です。

1.裁量労働制の適用範囲を明確にする

裁量労働制が適用される職種を明確にし、 対象外の業務を裁量労働制の範囲に含めないようにする ことが重要です。誤った運用を行うと、労務トラブルにつながる可能性があります。

2.労働時間の実態を把握する

裁量労働制のもとでも、企業は 労働時間の管理責任を負っています。そのため、社員の勤務時間や業務負担を把握し、長時間労働を防ぐ仕組みを導入 しましょう。たとえば、以下のような対策が有効です。

  • 業務報告の仕組みを導入する(作業管理ツールの活用)
  • 定期的な面談を実施する(業務負担の確認)
  • 労働時間の上限を設定し、超過した場合の対応を明確化する

3.成果評価制度の見直し

裁量労働制の導入により、労働時間ではなく成果に基づく評価が求められます。そのため、以下のような評価基準を明確にすることが必要です。

  • 成果指標(KPI)の設定
  • 業務の進め方の評価
  • 360度評価など、多面的な評価手法の導入

4.裁量労働制のメリットとデメリット

裁量労働制は、適切に運用すれば 働き方改革の一環として大きなメリット をもたらします。しかし、誤った運用を行うと 労務トラブルにつながる可能性 もあります。

1.メリット

  • 柔軟な働き方が可能(リモートワークとの親和性が高い)
  • 業務の効率化が進む(成果に基づく働き方が促進される)
  • 優秀な人材の確保・定着につながる(成果重視の評価制度を導入しやすい)

2.デメリット

  • 長時間労働のリスク(適切な管理を怠ると過労が発生)
  • 成果評価が難しい(評価基準の不明確さが問題になる)
  • 労働トラブルの可能性(不適切な運用による訴訟リスク)

2024年の裁量労働制は、適用範囲の拡大や運用の厳格化 など、企業にとって重要なテーマです。適切な導入・運用を行うことで、従業員の働きやすさと企業の生産性向上を両立させることが可能 になります。

経営者や人事担当者の皆様は、裁量労働制の最新動向を把握し、自社に合った運用を進めることが求められます。適正な制度設計を行い、働き方の多様化に対応していきましょう。

2024年の人事トレンドワード⑧生成AIの台頭

2024年、人事領域において 「生成AI(Generative AI)」 の活用が急速に進んでいます。ChatGPTをはじめとするAI技術の進化により、採用活動や教育研修、社内コミュニケーション、業務効率化など さまざまな人事業務に変革 が起きています。

企業の経営者や人事担当者は、この技術をどのように活用し、どのような課題に向き合うべきなのでしょうか。

1.生成AIとは?

生成AIとは、膨大なデータを学習し、新しい文章・画像・音声などを自動生成するAI技術 のことを指します。代表的なツールとしては以下のようなものがあります。

  • ChatGPT(文章生成)
  • DALL·E(画像生成)
  • Bard(Googleの対話型AI)
  • Claude(Anthropic社のAI)

これらのAIを活用することで、企業の業務効率化や生産性向上が期待されています。

2.生成AIの活用が進む人事業務

2024年、特に以下の人事業務で生成AIの活用が広がっています。

1.採用活動の効率化

● 求人広告・スカウトメールの作成

生成AIを活用すれば、求職者に合わせた求人広告やスカウトメールの文章を自動作成 でき、採用担当者の業務負担を軽減できます。

● 面接質問の自動作成

候補者の履歴書や職務経歴書の内容をもとに、適切な面接質問を生成する ことで、より効果的な選考が可能になります。

● 適性検査・エントリーシートの分析

AIが応募者のエントリーシートを分析し、企業文化や求めるスキルに適合するかを評価 することも可能です。

2.社員教育・研修の支援

● eラーニングの教材作成

AIを活用すれば、社員のスキルレベルに応じたカリキュラムや学習コンテンツを自動作成できます。個々のニーズに合わせた学習プログラムの提供 も容易になります。

● 社員からの質問対応

AIチャットボットを活用すれば、社員からの人事・労務に関する質問に24時間対応 でき、問い合わせ対応の手間を減らせます。

3.人事評価・フィードバック

AIが日報や評価シートの内容を分析し、客観的なフィードバックを作成する ことで、より公平な評価が可能になります。また、上司の主観に頼らず、データをもとにした評価制度の構築も期待されています。

4.社内コミュニケーションの改善

● 社員の意見・要望の分析

AIが社内アンケートやチャットの内容を分析し、従業員の満足度や課題を可視化 することで、エンゲージメント向上につなげられます。

● 会議の議事録作成

会議の内容をAIがリアルタイムで文字起こしし、要点を整理した議事録を自動作成 することも可能です。

3.生成AI活用の課題

生成AIの活用には多くのメリットがありますが、導入にあたっては以下のような課題にも注意が必要です。

1.情報の正確性と信頼性

生成AIは膨大なデータをもとに文章を生成しますが、必ずしもすべての情報が正確とは限りません。特に人事関連の法令や社内ルールに関わる情報については、最終的な確認は人間が行う必要があります。

2.データのセキュリティ

社内の機密情報や個人情報をAIに入力する際は、情報漏えいのリスク に注意が必要です。たとえば、社外のクラウド型AIツールに社員情報を入力すると、意図せず機密情報が外部に流出する恐れがあります。

3.人間の判断とのバランス

AIの判断だけに依存するのではなく、最終的な意思決定は人間が行う ことが重要です。特に採用や人事評価の場面では、AIの分析結果を参考にしつつ、対面での評価も重視すること が求められます。

4.企業が取るべき対応策

生成AIを人事業務に活用するにあたり、以下のような対策を講じることが重要です。

1.AI活用のルールを策定する

企業ごとに、AIをどの業務に活用するか、どこまで人の判断を加えるべきか についてルールを策定することが必要です。特に、機密情報の取り扱いについては明確なガイドラインを定めるべきでしょう。

2.人事担当者向けのAI研修を実施する

AIを適切に活用するためには、人事担当者がAIの仕組みを理解し、適切に使いこなせるスキルを身につけること が求められます。生成AIの特性や注意点を学ぶ研修を実施することで、社内でのAI活用がスムーズに進みます。

3.AIと人間の役割分担を明確にする

AIが得意な業務(データ分析・自動生成)と、人間が必要な業務(最終判断・創造的な仕事)を明確に区別し、適材適所でAIを活用する戦略 を立てることが重要です。


2024年、生成AIは人事業務において 業務効率化・採用支援・教育研修の高度化 など、多くの可能性をもたらします。しかし、一方で 情報の正確性・セキュリティ・人間の判断とのバランス という課題もあるため、適切な活用が求められます。

「AIに任せるべき業務」と「人間が判断すべき業務」を明確に区別し、効果的な運用を行うことが重要 です。生成AIを上手に活用し、企業の生産性向上や人材マネジメントの強化につなげていきましょう。

2024年の人事トレンドワード⑨障害者法定雇用率

2024年、人事担当者や経営者が対応すべき重要なテーマの一つが 「障害者法定雇用率の引き上げ」 でした。企業には、障害のある方々が働きやすい環境を整えることが求められており、採用や職場環境の改善に向けた具体的な施策が必要になります。

1.障害者法定雇用率とは?

障害者法定雇用率とは、企業が雇用すべき障害者の割合を定めたもので、障害者雇用促進法 に基づき設定されています。企業は、この基準を満たすために障害者の雇用を進める必要があります。

現在、企業の規模ごとに以下の基準が定められています。

企業規模2023年の法定雇用率2024年4月以降の法定雇用率
民間企業2.3%2.5%
国・地方公共団体2.6%2.7%
教育委員会2.5%2.6%

さらに、2026年には2.7%へ引き上げ られることが決まっており、今後さらに高い水準の雇用が求められます。

2.企業に求められる対応

1.法定雇用率の遵守

法定雇用率を満たしていない企業には、以下の対応が求められます。

  • 新たな障害者雇用の促進
  • 職場環境の整備(バリアフリー化、合理的配慮の提供)
  • 既存従業員の雇用維持

また、法定雇用率を達成していない企業(常時雇用者が100人以上)は、納付金(1人あたり月5万円) を支払う義務があります。そのため、積極的な採用と適切な職場環境の整備が重要になります。

2.障害者が働きやすい環境づくり

障害者雇用を進める上で、「働きやすい環境の整備」 が不可欠です。具体的には、以下のような対策が求められます。

  • 物理的なバリアフリー化(エレベーター設置、段差解消、障害者用トイレの整備)
  • ICT(情報通信技術)の活用(リモートワークの導入、音声入力システムの活用)
  • 合理的配慮の提供(業務内容の調整、就業時間の柔軟な設定)

障害の特性に合わせた配慮を行うことで、長期的な雇用につながります。

3.障害者雇用の支援制度を活用する

企業の負担を軽減するため、国や自治体は 障害者雇用促進のための助成金制度 を用意しています。たとえば、以下のような支援策があります。

特定求職者雇用開発助成金

障害者を雇用した企業に対し、一定期間の助成金を支給

障害者雇用安定助成金

障害者の定着支援のための設備投資や職場適応訓練を行う企業への支援

ジョブコーチ支援制度

障害者の職場適応を支援する専門家(ジョブコーチ)の派遣

これらの制度を活用することで、スムーズな雇用支援が可能になります。

3.障害者雇用の成功事例

実際に、障害者雇用に積極的に取り組んでいる企業の事例を紹介します。

1. IT企業A社:テレワークを活用した雇用モデル

A社では、在宅勤務が可能な業務を切り出し、障害者向けにテレワーク採用 を実施しました。これにより、通勤が難しい障害者の採用が進み、企業の生産性も向上しました。

2.製造業B社:業務分解による適材適所の実現

B社では、工場の業務を細分化し、障害のある方が無理なく働ける作業を設定 しました。これにより、障害者の定着率が向上し、人手不足の解消にもつながりました。

3.小売業C社:障害者向け研修プログラムの実施

C社は、障害者向けの職業訓練プログラムを独自に設計し、接客業務や商品管理を学ぶ機会を提供しました。その結果、雇用率が向上し、顧客からの評価も高まりました。

4.障害者雇用のメリット

障害者雇用を促進することは、単なる法令遵守にとどまらず、企業にとって多くのメリットをもたらします。

1.企業の社会的評価の向上

障害者雇用を積極的に進める企業は、CSR(企業の社会的責任)を果たしている企業として評価 され、ブランドイメージが向上します。

2.多様な人材の活用

障害のある方々が持つ強みを活かすことで、新たな視点やアイデアが生まれ、職場の活性化につながる ことが期待されます。

3.労働力不足の解消

日本では少子高齢化により労働力が不足しています。障害者の雇用を促進することで、安定した人材確保が可能 になります。


2024年、障害者法定雇用率の引き上げにより、企業にはより積極的な障害者雇用の推進 が求められます。雇用率を満たすためには、単なる採用だけでなく、職場環境の整備や支援制度の活用、働きやすい仕組みづくり も重要です。

経営者や人事担当者は、この変化を 「義務」ではなく「企業の成長につながる機会」 と捉え、戦略的に取り組むことが求められます。障害者が活躍できる企業文化を構築し、多様な人材が共に働ける職場づくりを目指しましょう。

変化の時代に対応する人事の役割

2024年の人事トレンドを振り返ると、リスキリング、賃上げ、働き方の変革、AIの活用、ダイバーシティ推進 など、企業の経営や人事戦略に大きな影響を与える変化が数多く見られました。特に、法改正や労働環境の変化に対応しながら、いかに企業が持続的な成長を遂げるか が、今後の重要な課題となります。

このような変化の中で、経営者や人事担当者には 「柔軟な対応力」と「先を見据えた戦略的な意思決定」 が求められます。単なる制度変更への対応にとどまらず、人材の可能性を最大限に引き出し、企業全体の成長につなげる視点 が不可欠です。

また、AIやデジタル技術の進化によって、人事業務そのものの在り方も変わりつつあります。業務の効率化だけでなく、人と組織の関係を再構築し、より働きがいのある職場を作ることが、人事部門の新たな役割となるでしょう。

今後も、企業と従業員がともに成長できる環境を整え、変化に適応し続けることが、人事の使命であり、組織の未来を左右する鍵となります。本コラムが、これからの人事戦略を考えるうえでの一助となれば幸いです。

監修者

髙𣘺秀幸
髙𣘺秀幸株式会社秀實社 代表取締役
2010年、株式会社秀實社を設立。創業時より組織人事コンサルティング事業を手掛け、クライアントの中には、コンサルティング支援を始めて3年後に米国のナスダック市場へ上場を果たした企業もある。2012年「未来の百年企業」を発足し、経済情報誌「未来企業通信」を監修。2013年「次代の日本を担う人財」の育成を目的として、次代人財養成塾One-Willを開講し、産経新聞社と共に3500名の塾生を指導する。現在は、全国の中堅、中小企業の経営課題の解決に従事しているが、課題要因は戦略人事の機能を持ち合わせていないことと判断し、人事部の機能を担うコンサルティングサービスの提供を強化している。「仕事の教科書(KADOKAWA)」他5冊を出版。コンサルティング支援先企業の内18社が、株式公開を果たす。

関連記事

特集記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

TOP