ネットワーク組織とは?従来型との違いや導入のヒント、成功事例についても解説

1 組織戦略・マネジメント

従来の階層的な構造では変化に対応しきれない――

そんな課題を抱える企業が注目するのが「ネットワーク型組織」です。権限の分散や柔軟な連携を可能にするその仕組みとは、一体どのようなものなのでしょうか。

その特徴や成功事例について、ご紹介します。

Contents

ネットワーク型組織とは

~変化対応力とスピードを両立する柔軟な組織形態~

市場の変化が激しく、予測が難しい時代において、従来型の組織形態では限界を感じる企業が増えています。そんな中、注目を集めているのが「ネットワーク型組織」です。これは、ピラミッド型の階層構造に依存せず、プロジェクト単位や目的単位でチームがつながり、流動的かつ柔軟に動ける新しい組織モデルです。

ネットワーク型組織は、「意思決定の分散化」「情報共有のスピード」「主体的な行動」といったキーワードで語られることが多く、特に新しい商品やサービスを生み出すことを重視する企業(=イノベーション志向の企業)や立ち上げ間もない企業(いわゆるスタートアップ)、業界の変化スピードが早い分野(IT、デジタル、広告、コンサルティングなど)での導入が進んでいます。

他の組織形態との違い

ここで、ネットワーク型組織が他の代表的な組織形態とどう違うのかを見てみましょう。

組織形態特徴ネットワーク型との違い
機能別組織営業、開発、人事など、業務の種類(=機能)ごとに部門を分けた構造。
専門性が高まり効率的だが、部門ごとに閉じた動きになりやすく、横の連携が弱くなりがち。
ネットワーク型は、職種や部門をまたいで柔軟にチームを編成できるため、部門間の壁を越えた情報共有や協力がスムーズに行える。
事業部制組織製品やサービスの種類、または地域ごとに分けた事業部が、それぞれ収益責任を持ち、独立採算型で運営される。
自律性が高く意思決定が速いが、全社的な統一感に欠けることも。
ネットワーク型は、事業単位の枠にとらわれず、組織を横断して人や情報がつながる仕組みを持つため、全社レベルでの柔軟な対応とスピードが実現しやすい。
マトリックス組織「機能×製品」など複数の軸でマネジメントする複合型の組織。
柔軟性はあるが、指示系統が複雑になり、意思決定や責任が不明確になるリスクがある。
ネットワーク型は、上下関係よりも対等な関係性を重視し、自律的に動ける環境を整える。
役職に関係なく意見を出し合い、共通の目的に向かって協働できる仕組みが整っている。

ネットワーク型組織では、「上下関係」よりも「横のつながり」が強調されます。プロジェクトや課題ごとに最適なメンバーが自律的に連携し、共通の目的に向かって動くことで、スピード感ある意思決定と変化対応力を生み出します。

機能するための前提条件

ただし、ネットワーク型組織は構造上柔軟である分、組織が「勝手にバラバラになる」リスクもあります。そのため、いくつかの前提条件が不可欠です。

1.共通のビジョン・価値観の共有

明確な理念やミッションがなければ、各チームや個人がバラバラの方向を向いてしまいます。

2.情報共有の仕組みの整備

透明性の高いコミュニケーションツールやルールがないと、連携がうまく機能しません。

3.信頼に基づく関係性

指示命令系統に頼らず、自律的に動くには、互いの専門性と役割を認め合う「信頼関係」が必要です

このような条件がそろうことで、ネットワーク型組織は「一人ひとりが経営者意識を持ち、スピードと柔軟性を兼ね備えたチーム」が無数に連携する理想的な組織像となります。

どんな企業に向いているのか?

  • 新規事業の立ち上げを頻繁に行う企業
  • プロジェクトベースで動くことが多い業種(広告、開発、コンサルなど)
  • 組織の硬直化に課題を抱える成長期の企業
  • 社員の主体性や創造性をもっと引き出したいと考える経営層

こういった企業にとって、ネットワーク型組織は、「人の力を最大化する経営の器」となり得ます。

なぜネットワーク型組織が必要とされているのか

~「正解のない時代」に求められる組織のかたち~

経営者や人事担当者の方の中には、組織運営について次のような課題を抱えている方も多いのではないでしょうか。

  • 指示待ち社員が多く、主体的に動く人材が育たない
  • 部門間の壁が厚く、情報共有や連携がうまくいかない
  • 上層部の意思決定が遅く、現場のスピード感とズレている
  • 社員の離職率が高く、働きがいが感じられていない

これらの課題は、いずれも従来のヒエラルキー型(階層型)組織の限界によって生じているものです。

日本企業が長年大切にしてきたトップダウン型(経営層から現場に向けて一方的に方針や指示を下すスタイル)の指揮命令や、年功序列によるキャリアの道筋は、安定した経営環境では有効でした。しかし、現代のように変化が激しく、将来の「正解」が見えにくい時代においては、柔軟性やスピード、自律性を兼ね備えた組織運営が求められています。

その答えの一つが、「ネットワーク型組織」です。

社会・経済環境の変化が背景にある

まず注目すべきは、経営を取り巻く環境の変化です。テクノロジーの進化、働き方改革、人口減少、価値観の多様化など、企業が対応すべき外部要因は年々増加し、しかもその変化スピードは加速しています。こうした中で求められるのは、「過去の成功体験」ではなく、「新しい答えを創り出す力」です。

ネットワーク型組織は、組織内外の人材や情報、リソース(人・モノ・時間・お金などの経営資源)を柔軟につなぎ合わせることで、変化に即応できる体制を築きやすくなります。固定された部署や役割にとらわれず、「今、必要な人が、必要な場面で連携する」ことが可能になるのです。

働く人の価値観が大きく変わっている

もうひとつの大きな理由は、社員一人ひとりの価値観の変化です。近年の若手社員や中堅層は、「上司の指示をこなすこと」よりも、「自分の意見を活かし、チームと協働して何かを成し遂げること」にやりがいや成長を感じる傾向が強まっています。

ネットワーク型組織では、役職や年次にかかわらず、誰もがプロジェクトや業務に主体的に関わることができます。個々の強みや関心を活かしやすい環境は、エンゲージメント(組織への貢献意欲)や働きがいの向上にもつながります。

「心理的安全性」を担保する仕組みとしても有効

Googleの研究で広く知られるようになった「心理的安全性」という概念も、ネットワーク型組織が注目される背景のひとつです。これは、「自分の意見を自由に発言しても否定されない」「チームにとって安心できる場がある」といった職場環境を指します。

ネットワーク型組織は、上下関係にとらわれず、立場に関係なく自由に意見を交わせる風通しのよい関係性を前提としており、対話や情報共有が活発になります。上司の顔色をうかがうのではなく、目的や課題に集中した「対等な関係性」が生まれやすくなるため、結果的にチームの生産性や創造性が高まりやすくなります。

「人が活きる組織づくり」へのシフト

従来の組織は、指示通りに動ける「機械の部品」のような人材を量産する設計でした。しかし今後は、人材が限られる中で、「一人ひとりの力を最大限に引き出し、組織全体で成果につなげる」設計が求められます。

ネットワーク型組織は、まさにこの考え方に基づいており、人の創意工夫・判断力・経験といった“人間らしい強み”を活かす仕組みとして注目されています。

たとえば、営業・開発・マーケティングの各担当者が部門を越えてリアルタイムに情報交換し、顧客ニーズに即応する…そんな動きが日常的に生まれるのがネットワーク型組織の理想形です。

ネットワーク型組織のメリット

~柔軟性とスピードが、組織の未来を切り拓く~

ここでは、実際にネットワーク型組織を導入した場合に、企業や働く人々にもたらされる具体的なメリットを解説していきます。

1.変化への対応力が高い

最大のメリットは、外部環境の変化に対して柔軟に対応できる点です。

固定化された組織構造では、変化への意思決定や人材の再配置に時間がかかる一方、ネットワーク型組織は目的や課題に応じて人材や情報を再編成しやすいという特長があります。

たとえば、新しいサービスをスピーディに立ち上げる必要がある場合、マーケティング・開発・営業の担当者が即時に横断チームを結成し、必要な判断や行動を迅速に行うことができます。これは、競争の激しい市場において機会を逃さずに価値を生み出す力となります。

2.意思決定のスピードが上がる

ネットワーク型組織では、従来のように「上司にお伺いを立ててから進める」という一連の手続きや段取りが省略される場面が多くなります。上下関係にとらわれない対等なコミュニケーションが前提となっているため、現場での判断が尊重され、現場で完結できる意思決定も増えていきます。

これは、業務のスピードだけでなく、顧客満足度の向上やビジネスチャンスの獲得にもつながります。特に営業やカスタマーサポートなどの現場では、このような「現場主導の柔軟な判断」が企業競争力を左右するケースも少なくありません。

3.社員のエンゲージメントが高まる

ネットワーク型組織では、社員一人ひとりが「組織の歯車」ではなく、意思を持った存在として自律的に行動することが期待されます。

こうした環境は、「自分の仕事が組織や社会にどう貢献しているのか」という手応えを実感しやすく、結果としてエンゲージメント(組織への貢献意欲)や働きがいの向上につながります。

また、プロジェクト単位での関わりが増えることによって、他部署や他職種との交流も活発になり、自分のスキルの幅を広げる機会が得られるのも大きな魅力です。

4.人材の定着と成長を促進できる

従来のトップダウン型の組織では、「上司の評価」がすべてという風潮が残りやすく、若手や中堅層が力を発揮しきれないケースもあります。一方でネットワーク型組織では、自分の得意分野や関心を活かせる機会が増え、挑戦しやすい風土がつくられます。

また、チームでの対話が重視される環境では、上司だけでなく同僚や他部署からのフィードバックも自然に行われるため、育成機会が日常的に埋め込まれる構造になります。

このように、「挑戦・成長・承認」の循環が回ることで、離職率の低下や人材の定着といった面でも効果が期待できます。

5.組織運営の効率が上がる

ネットワーク型組織は、常に人員を固定配置するのではなく、プロジェクトや業務に応じて柔軟に再編成するスタイルが基本です。これにより、不要な管理部門の肥大化を防ぎ、最小のリソースで最大の成果を出すことが可能になります。

また、無駄な会議や報告の手間が省かれることで、管理コストの削減にもつながります。意思決定に関わる関係者が必要最小限で済む点も、業務効率化の大きな要素となります。


このように、ネットワーク型組織には「変化に強い」「人が活きる」「コスト効率が良い」といった、現代の経営課題に直結する多くのメリットがあります。

ネットワーク型組織のデメリット

~柔軟な組織には、曖昧さと混乱もつきまとう~

ここまででは、ネットワーク型組織の数々のメリットをご紹介しました。特に変化対応力の高さや、社員の主体性を引き出す構造は、これからの組織づくりにおいて非常に重要な要素です。

しかし、どんなに優れた組織形態にも、必ず光と影の両面があります。ネットワーク型組織も例外ではありません。柔軟で自律性の高い仕組みだからこそ、うまく運用しなければ逆に「あいまいさ」や「責任の所在不明」「暴走のリスク」を招くこともあります。

以下では、ネットワーク型組織を実際に導入・運用していく上で考慮すべきデメリットや課題を明らかにし、リスクへの備えについて整理していきます。

1.責任の所在があいまいになりやすい

ネットワーク型組織では、役職や階層による明確な上下関係が薄くなる分、「誰が最終的な責任を持つのか」という点が曖昧になりがちです。

たとえば、プロジェクトの進行中にトラブルが発生した場合、関係者が多くて責任が分散していると、「誰が判断すべきか」「誰が最終的に対処するのか」が分からず、対応が後手に回るケースがあります。

従来のように「部長が決める」「課長が最終判断」といった構造がないからこそ、あらかじめ役割分担や決定ルールを明確に設計する必要があります。

2.情報共有に手間がかかる場合がある

ネットワーク型組織は、自由な連携が特徴である一方で、組織全体での情報の一貫性や共有の徹底が難しくなることがあります。

特に、複数のプロジェクトや横断チームが同時並行で動いている場合、情報があちこちに分散し、「誰が何をしているかが見えづらい」状態になることがあります。

このような状況は、意思決定の遅れや、業務の重複、ミスコミュニケーションの原因になります。ネットワーク型組織では、チャットツールや「誰が・いつ・どの仕事を進めているのか」を整理・共有するための仕組み(タスク管理ツール)の導入、定期的な全体共有の場の設計が欠かせません。

3.一定のスキルや意識が求められる

ネットワーク型組織では、上からの指示を待つのではなく、自分で考え、動き、判断する姿勢が求められます。つまり、社員一人ひとりに「主体性」「問題解決力」「コミュニケーション力」があることが前提となります。

しかし現実には、すべての社員が同じレベルでそのスキルを持っているわけではありません。特に指示型マネジメントに慣れてきた社員にとっては、「自由にやっていい」と言われても戸惑うことが少なくありません。

このような場合には、組織としての価値観の共有や、リーダーシップ・チームワークに関する研修・支援体制の整備が重要になります。

4.リーダー不在のまま暴走するリスク

ネットワーク型組織は上下の立場にとらわれず、みんなが対等な関係で動く構造であるため、「リーダーは誰か」が明確でない場合には、意見の対立や意思統一の困難さが表面化することがあります。

特に、方向性に迷いが生じたとき、強く引っ張る存在が不在だとチームがバラバラになってしまうリスクもあります。

したがって、「自由に動ける組織」を支えるには、裏側でチーム全体を“支え導く役割”を担うファシリテーター(対話を促し、意見を整理してチームの合意形成を助ける存在)的な存在や、価値観を体現するリーダーが必要不可欠です。

5.人事制度や評価が設計しにくい

最後に、組織構造が柔軟で変化し続けるネットワーク型組織では、「誰をどう評価するか」という点が難しくなるという課題があります。

たとえば、プロジェクト型で働くメンバーの貢献度をどう測るのか、直属の上司がいない場合、誰が評価者となるのかといった点で、既存の評価制度が合わないケースも出てきます。

このような場合には、360度評価の導入や、プロジェクトごとの成果・行動記録に基づいた評価設計など、従来とは異なる視点で制度の再構築が求められます。


ネットワーク型組織には「土台づくり」が不可欠

ネットワーク型組織は、多くの可能性を持つ一方で、「放任主義」になってしまえば逆効果になります。自由さの裏には、明確な目的の共有、役割設計、ルールづくり、心理的安全性の確保など、土台の整備が不可欠です。

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ネットワーク型組織をつくるには

~“つながり”と“自律”が自然と生まれる組織づくりのポイント~

これまでに解説してきた通り、ネットワーク型組織は、柔軟な連携・スピード感・自律的な行動を可能にする現代的な組織形態です。しかし、「目指したい理想の姿」である一方で、単に上下関係をなくせば自然に成り立つものではありません。

むしろ、明確なルールや信頼関係の土台がなければ、混乱を招く危険性もあるということを、前章でお伝えしました。では実際に、ネットワーク型組織を機能させるには、どのようなポイントに留意すべきなのでしょうか。

本章では、実践的な視点からそのステップを整理していきます。

1.まずは「共通の目的」と「価値観の共有」から

ネットワーク型組織では、命令や上下関係による統制ではなく、目的の共有によって人と人が自然につながることが前提となります。

つまり、最初に取り組むべきは、「なぜこの組織が存在するのか」「私たちはどこを目指すのか」といったビジョン(目指す未来の姿)・ミッション(組織としての存在意義や役割)の明確化と浸透です。

また、メンバー同士が同じ方向を向いて動くためには、行動指針や共通の価値観(例:挑戦を歓迎する、互いに支え合うなど)を日常の中でしっかりと共有し、判断の軸として機能させる必要があります。

これは経営者や管理職の「言葉」で示すだけでなく、「実際の行動」でも体現することが大切です。

2.“つながり”を生む仕組みを設計する

ネットワーク型組織においては、組織図や肩書に頼らず、自然に人と人が協力し合える関係性をつくる仕組みが求められます。

たとえば次のような仕掛けが有効です。

  • 横断プロジェクトの常設化(部署を越えて課題解決に取り組む場の提供)
  • ピアボーナス制度(社員同士が感謝や称賛を送り合う文化を育てる)
  • 社内SNSやチャットツールの活用(リアルタイムでの情報共有・相談)
  • オープンミーティングの導入(誰でも意見を発信できる場をつくる)

こうした取り組みによって、「誰が何をしているか」「誰に相談すればよいか」が見えやすくなり、自然な連携が促進されます

3.自律を支える環境づくり

ネットワーク型組織では、社員一人ひとりの「自律性」が極めて重要になります。ただし、それは「放任」とは異なります。自律的に動くには、安心して挑戦できる土台と、適度なサポートが必要です。

ここで重要なのが、心理的安全性のある職場環境です。意見を言っても否定されない、失敗しても責められない、という雰囲気がなければ、人は本音を出せず、行動も止まってしまいます。

また、適切なフィードバックや成長支援の仕組みを設けることで、自律的に動きながらも、組織として方向性を合わせることができます。

4.評価・報酬制度の再設計

ネットワーク型組織では、従来の「上司が部下を一方的に評価する」仕組みでは機能しにくくなります。プロジェクト型の働き方では、関わる人が流動的であり、貢献度も多面的だからです。

そのため、次のような制度設計が有効です。

  • 360度評価(上司・同僚・部下など多方面からの評価)
  • プロジェクトごとの振り返りと成果記録
  • 評価の透明化・納得感を重視した対話の場

これにより、多様な働き方を正当に評価し、モチベーションの維持にもつなげることができます。

5.最初からすべてを変えようとしない

最後に大切なのは、「段階的に進めること」です。

ネットワーク型組織をつくろうとすると、「組織構造を一気に変える」「制度を全面的に見直す」など、大きな改革を想像されるかもしれません。しかし現実には、小さな実験的な取り組みからスタートする方が、定着しやすく、社員の理解も得られやすいのです。

たとえば、1つの部門やプロジェクトチームでネットワーク型の仕組みを試してみて、うまくいった部分を他部門に横展開していく。そうした「小さく始めて大きく育てる」進め方が現実的です。


組織に合った“ネットワークのかたち”を描く

ネットワーク型組織には明確な正解はありません。企業の規模、業種、文化、メンバー構成によって、最適なかたちは異なります。大切なのは、自社の理念や目指す姿に合った形で、柔軟にネットワーク型の仕組みを取り入れていくことです。

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ネットワーク型組織の導入で成功した事例

~変化対応力と自律性で競争優位を築いた企業たち~

ネットワーク型組織は、変化の激しい時代において「柔軟性」「スピード」「自律的な人材活用」を可能にする組織の形として、多くの先進企業で導入が進んでいます。

ここでは、実際にネットワーク型の考え方を取り入れ、イノベーションや業績向上につなげた企業の事例を紹介しながら、経営や人材マネジメントにおける成功の要因を読み解いていきます。

Google|自律性とイノベーションを支えるカルチャー

Googleはその創業初期から、「フラットな組織構造」「従業員の自律性」を重視してきました。

特に有名なのが「20%ルール」従業員が業務時間の20%を、自分が情熱を持つプロジェクトに自由に使える制度です。この制度からは、GmailやGoogleニュースなど、今やGoogleを代表するサービスが誕生しています。

さらに、Googleは全社でOKR(Objectives and Key Results)を導入し、組織の目標と個人の取り組みを整合させています。目標と進捗が全社員に公開されており、透明性の高い組織運営と、ボトムアップ(下からの提案や行動を重視するやり方)による連携が促進されています。

これはまさに、ネットワーク型組織が持つ「つながり」と「自律」の好循環が生まれている好例と言えるでしょう。

Amazon|小規模チームが生むスピードと責任感

Amazonでは「Two-Pizza Team(ピザ2枚で満腹になる人数)」という考え方のもと、小規模かつ自律的なチームで動く組織構造を採用しています。これは、スピーディな判断と市場変化への対応を重視した、Amazonならではのネットワーク型の組織づくりの工夫です。

たとえば、クラウドサービス「AWS」は、こうした小さなチームが独立して動きながらも、全社の戦略に沿って連携し、市場のニーズに即応する体制で開発が進められてきました。

さらに、Amazonは「ドキュメント文化」でも知られており、会議ではプレゼン資料よりも詳細な文書が使われます。これは、意思決定の過程を誰もが理解できるようにすることで、組織全体の共通認識と一貫性を保つ仕掛けでもあります。

Spotify|“スクワッド”で動くアジャイル組織

音楽配信大手Spotifyでは、「スクワッド(Squad)」と呼ばれる自律型の小チームが製品や機能の開発を担い、複数のスクワッドが「トライブ(Tribe)」として集まる構造を持っています。さらに、専門性ごとに「チャプター」「ギルド」といった横のつながりも併設されており、縦横に柔軟につながるネットワーク型組織モデルが構築されています。

Spotifyのような仕組みは、変化に素早く対応しながら、現場での意思決定を重視するアジャイル組織(柔軟でスピード重視のチーム主導型組織)としても知られており、IT企業を中心に世界中で注目されています。

この仕組みによって、チームはそれぞれがスピード感を持って動きつつも、技術や知識は組織全体で共有・進化していくというサイクルが確立されています。現場主導の創造性と、組織としての一体感を両立した好事例です。

Haier(ハイアール)|ネットワーク型の極致ともいえる自律型経営

中国の大手家電メーカーHaierは、企業内を数千もの「レンタブルユニット(Micro-Enterprises)」に分割し、各ユニットが独立採算制で運営されるという大胆なネットワーク型経営を行っています。各ユニットは、顧客との接点を持ち、自ら市場の変化を捉えて戦略を立てる権限と責任を持つことで、圧倒的なスピードと競争力を実現しています。

Haierのこの仕組みは、「Rendanheyiモデル」とも呼ばれ、世界の経営学者からも注目されています。組織全体が一つの生命体のように動く、極めて進化したネットワーク型組織の実例です。

共通するキーワード:「自律×つながり×目的の共有」

これらの企業に共通するのは、次のようなキーワードです。

自律型チーム運営

個人やチームが意思決定し、自ら成果を出す文化

スピードと変化対応力

小さな単位で柔軟に動くことで、外部環境に即応

イノベーションの創出

自由な挑戦が新たな価値を生む仕組み

高いエンゲージメント

自ら考え、貢献する意識が高まり、離職も減少

目的の共有

「何のために働くか」という共通認識がネットワークを支える土台に


ネットワーク型組織は、一朝一夕に完成するものではありません。しかし、小さな取り組みから始め、社員との信頼を積み重ねながら育てていくことで、組織の進化と持続的成長を可能にする強力な経営基盤となります。

次なる一歩は、自社にとって「つながり」と「自律」が活きる場面を見つけることです。そこから、ネットワーク型組織の可能性が開かれていくでしょう。

「つながり」と「自律」が未来の組織をつくる

これまで、ネットワーク型組織の特徴や必要とされる背景、メリット・デメリット、構築の方法、そして実際に成功を収めた企業事例をご紹介してきました。

本コラムを通じてお伝えしたかったのは、「ネットワーク型組織」とは単なる組織図の書き換えではなく、一人ひとりの力を活かし合う“しくみ”と“文化”をつくる挑戦だということです。

時代が大きく変わる中で、組織はこれまで以上にスピードと柔軟性を求められています。そして同時に、「社員の自律性」「心理的安全性」「目的の共有」など、人間的なつながりや信頼に根ざしたマネジメントが、企業の持続的成長を左右する時代に入っています。

ネットワーク型組織は、その実現手段の一つです。
もちろん、すべての企業がすぐに導入できるわけではありません。ですが、今の組織のどこに“横のつながり”があればもっと良くなるか? どこに“自律的な判断の余地”を持たせればスピードが上がるか?——そう問いかけるだけでも、組織の動き方は少しずつ変わっていきます。

自社のビジョンに立ち返りながら、少しずつネットワーク型の考え方を取り入れていく。その積み重ねが、時代の変化に強く、社員がいきいきと働く組織への第一歩になるはずです。

これからの組織づくりに向けて、本コラムがヒントとなれば幸いです。

監修者

髙𣘺秀幸
髙𣘺秀幸株式会社秀實社 代表取締役
2010年、株式会社秀實社を設立。創業時より組織人事コンサルティング事業を手掛け、クライアントの中には、コンサルティング支援を始めて3年後に米国のナスダック市場へ上場を果たした企業もある。2012年「未来の百年企業」を発足し、経済情報誌「未来企業通信」を監修。2013年「次代の日本を担う人財」の育成を目的として、次代人財養成塾One-Willを開講し、産経新聞社と共に3500名の塾生を指導する。現在は、全国の中堅、中小企業の経営課題の解決に従事しているが、課題要因は戦略人事の機能を持ち合わせていないことと判断し、人事部の機能を担うコンサルティングサービスの提供を強化している。「仕事の教科書(KADOKAWA)」他5冊を出版。コンサルティング支援先企業の内18社が、株式公開を果たす。

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