社員のやる気や働きがいが組織全体の生産性を大きく左右する今、モチベーションの維持・向上は経営課題の一つです。本コラムでは、モチベーション研修とは何か、なぜ今必要とされているのか、そして研修を通じてどの様な変化が期待できるのかを具体的に解説します。自社に最適な研修設計のヒントを得たい方は必読です。
< このコラムでわかる3つのポイント >
1.モチベーション研修が注目される背景と導入の意義
2.モチベーション研修によるやる気や主体性が高まる具体的な効果
3.研修を成功に導くための設計・実施・フォローの重要ポイント
Contents
モチベーションを上げるためには?
多くの経営者・人事担当者が抱える共通の課題に「社員のモチベーションが上がらない」という悩みがあります。給与や福利厚生を整えても、意欲が湧かない、行動に変化が見られないという声は少なくありません。では、社員のやる気を引き出し、持続的に高めるにはどの様な取り組みが必要なのでしょうか。
本章では、組織として意識すべき具体的な視点と方法を段階的に解説します。
組織全体に影響を及ぼす「やる気」の力
社員のモチベーションは、業務の成果、チームの雰囲気、さらには会社全体の業績にまで直結します。特に中小企業では、1人の生産性が組織全体の結果を大きく左右します。モチベーションが高い社員は、受け身ではなく主体的に動き、問題解決にも積極的です。逆に、意欲が低い社員が増えると、組織全体に停滞感が広がりやすくなります。
目的の明確化が第一歩
モチベーション向上の第一歩は「仕事の意味づけ」です。社員が「自分の仕事が誰の役に立っているのか」「なぜこの業務を行うのか」を理解することで、仕事への納得感が生まれます。
例えば、営業職であれば「数字を追う」だけでなく、「お客様の課題を解決し、信頼関係を構築する」ことに意義を見出せるかどうかが鍵です。経営者や上司は、ビジョンや戦略と現場業務を結び付ける橋渡し役を果たさなければなりません。
適切な目標設定で成長実感を生む
人は目標に向かって進む過程で達成感を得ることで、自らの成長を実感し、さらなる意欲につながります。逆に、目標が不明確だったり、高すぎたり低すぎたりすると、やる気が空回りする原因になります。また、目標設定には管理職の関与が不可欠です。社員の能力や状況に応じた目標を一緒に設計することで、納得感を生み、日々の行動が「自分ゴト化」されやすくなります。
モチベーションを高める目標は、以下の様な要素を含む必要があります。
- 達成可能である(現実的である)
- 数値で測れる(評価ができる)
- 自分でコントロールできる(行動と成果が結びつく)
裁量のある仕事で自主性を引き出す
社員が「自分で決める」「自分で動く」経験を持つことは、モチベーション維持に効果的です。業務に対して裁量を持たせることは、自己効力感(=自分の行動が成果に影響を与えるという感覚)を育みます。
例えば、プロジェクトの一部を任せる、提案制度を導入する、勤務時間や進め方の柔軟性を認めるといった方法が考えられます。ただし、裁量を与えるには信頼関係と明確なルール設定も必要です。
人間関係の質がモチベーションに影響
どれだけ仕事内容や報酬が良くても、職場の人間関係が悪ければ、社員は長く働く意欲を持ち続けられません。心理的安全性(=失敗しても責められない、自由に意見を言える環境)が確保されている職場では、社員の意欲も創造性も自然と高まります。
職場の信頼関係は、日常のコミュニケーションの質で築かれます。上司のフィードバック、感謝の言葉、雑談などが、社員の承認欲求や所属意識を満たす大切な要素です。
社員のモチベーションが下がっているかどうかの判断基準

社員のモチベーションが低下すると、やがて業績や離職率といった「結果」として現れます。しかし、それを待っていては遅すぎます。大切なのは、日々の小さな変化にいち早く気づき、早期に対応することです。
ここでは、社員のモチベーション低下を見極めるための代表的な判断基準と観察ポイントをご紹介します。
行動の変化を観察する
もっとも分かりやすい兆候は、日常的な「行動の変化」です。例えば、以下の様な状況が頻繁に見られるようになった場合、モチベーションが低下している可能性があります。この様な行動の変化は、本人の中で「どうせ何をやっても評価されない」「頑張る意味が見いだせない」といった心理が背景にあることが少なくありません。
- 出勤時間ギリギリ、あるいは遅刻・欠勤が増える
- 会議中に発言しなくなる、意見を求めても反応が薄い
- 業務報告や提出物の質が落ち、期限も守られない
- 業務中にぼんやりしている、スマホを頻繁に見ている
- 残業が極端に減る(自主的に取り組む姿勢が減少)
成果や業務態度の低下に注目する
目に見える業務パフォーマンスの低下も、重要な指標です。
特に注意すべき点は以下の通りです。この様な態度の変化は、社員が内心「もう頑張る必要はない」「どうせ報われない」と感じている可能性が高いです。目標と行動が乖離している場合も、根底にはモチベーションの低下が潜んでいることがあります。
- ミスや漏れが増える。
- クレームや顧客対応の質が落ちる。
- 納期が守られなくなる。
- 新しい業務や改善提案に対して拒否的になる。
メンタル面のサインを見逃さない
行動や成果だけでなく、精神面のサインも重要な判断材料です。例えば、以下の様な様子が見られることがあります。これらは、表面上は仕事をこなしていても、心が離れている「サイレント・リタイア」の予兆かもしれません。特に中堅社員やベテラン層で見逃されやすいので注意が必要です。
- 表情が常に暗い・笑顔がなくなる。
- ため息や独り言が増える。
- 会話を避ける・雑談に参加しない。
- 昼休みに1人で過ごすことが多くなる。
1on1やアンケートでの定量把握
モチベーションは目に見えないものだからこそ、定期的に数値で可視化する仕組みが不可欠です。代表的な方法としては以下が挙げられます。これらの取り組みによって、社員がどの様な点に不満を感じているのか、どの部門で課題が多いのかを客観的に把握することが可能になります。
- 1on1ミーティングによる内省の促進と関係構築
- 社員満足度調査(ESサーベイ)やエンゲージメントスコア
- 月次・四半期ごとのパルスサーベイで変化を定点観測
「低下した理由」を深掘りする姿勢を持つ
モチベーションの低下に気づいたあとは、その原因の深掘りが重要です。なぜなら、表面的な対応だけでは根本的な改善につながらないからです。考えられる要因は以下のように多岐にわたります。これらの背景を理解するには、普段から上司や人事担当者が「話を聞く文化」を育てておく必要があります。信頼関係がないと、本音を引き出すことはできません。
- 上司との関係性の悪化
- 評価制度への不信感
- 仕事量・負荷のアンバランス
- キャリアの将来性への不安
- 周囲との比較による自己否定感
社員のモチベーションが下がってしまう要因
社員のモチベーションは、外的要因と内的要因の複合的な影響を受けて低下していきます。特定の要因が引き金となって一気に意欲を失うケースもあれば、慢性的な不満が蓄積し、気づかぬうちにやる気が落ちていくケースもあります。本章では、組織として把握しておくべき代表的なモチベーション低下の要因を5つに分類して解説します。
① 評価制度や報酬への不満
社員は、自身の成果や努力が正当に評価されていないと感じたとき、著しくやる気を失います。特に、評価基準が曖昧だったり、上司によって運用がぶれていたりすると、「頑張っても報われない」という感覚が広がります。
報酬制度についても同様です。成果に応じた昇給・昇格がない、年功序列的な配分が続く、といったケースでは、挑戦する意欲そのものが削がれてしまいます。社員のモチベーション維持には、「納得感のある評価」が欠かせません。
② 管理職・上司との信頼関係の欠如
直属の上司との関係は、モチベーションに最も強く影響を与える要因のひとつです。パワハラや放任型のマネジメント、不公平な扱いなどが見られる職場では、部下の精神的ストレスが蓄積しやすく、やる気の喪失にも直結します。
「上司に相談しても無駄」「見てくれていない」と感じた時点で、社員は自己防衛的に仕事への関心を失い始めます。信頼関係が築かれていないと、1on1や面談も形骸化し、表面的な対話に終わってしまうことが少なくありません。
③ 成長実感の欠如・キャリア不安
人は「前に進んでいる」と感じられるときに、自然とやる気が湧いてくるものです。したがって、同じ業務の繰り返しや、単調で変化のない仕事環境が続くと、社員の中に停滞感が広がります。
また、将来のキャリアパスが不明瞭であることもモチベーション低下の大きな要因です。「この会社にいても成長できない」「自分は何を目指せばいいのか分からない」といった思いが積み重なると、やがて転職意向へとつながっていきます。
④ 業務過多・役割不明確・時間に追われる状態
業務量が過剰で、常に納期やタスクに追われている状況も、やる気を削ぐ原因になります。過労や睡眠不足が続けば、心身ともに疲弊し、パフォーマンスも下がります。さらに、「自分の役割が何か分からない」「やっている仕事が誰の役に立っているのか見えない」といった状態も、意欲の低下を招く要因です。
業務内容の見直し、タスクの可視化、役割の明確化といった取り組みが、社員の働きやすさとモチベーションを両立させる鍵となります。
⑤ 組織風土・人間関係のストレス
閉鎖的な職場、無関心な上司、対話のない環境など、組織風土そのものが原因でモチベーションが低下するケースもあります。この様な環境では、社員は本音を出せず、無難に過ごすことを優先するようになります。結果として、創造性や挑戦意欲が失われていきます。
具体的には、以下の様な状況が挙げられます。
- 発言が歓迎されない文化(沈黙が美徳とされる)
- 他部署との壁が厚く、孤立感を感じる
- 同僚同士の競争が過剰で、協力が生まれにくい
- 成果より「空気を読む」ことが評価される風土
モチベーション研修の重要性

社員のモチベーションは、個人の成果にとどまらず、組織の活力・生産性・定着率にまで影響を及ぼします。業績を高めたい、職場の雰囲気を改善したい、離職を防ぎたい—そのすべてに共通して必要なのが、「社員のやる気を引き出す力」です。モチベーション研修は、それを体系的・実践的に学び、現場に定着させるための重要な手段となります。
なぜ今、モチベーション研修が求められているのか
かつては「気合い」や「根性」といった精神論で乗り切る時代もありましたが、現代の働き方ではそれは通用しません。リモートワークや副業の普及、働き方の多様化により、社員のモチベーションを高める難易度は一段と上がっています。さらに、若手社員の価値観の変化も大きな要因です。昭和・平成初期の世代と異なり、Z世代は「意味のある仕事」「成長実感」「心理的安全性」を重視する傾向があり、従来型の管理手法ではやる気を引き出すことが困難になっています。
この様な背景から、組織として「モチベーション向上」に本格的に取り組む必要が出てきたのです。モチベーション研修は、そうした課題に対応するための手段として、年々導入が進んでいます。
研修がもたらす3つの変化
モチベーション研修を実施することで、組織や個人に以下の様な変化が期待できます。
1. 「やらされ感」から「自発性」への転換
研修では、モチベーションの基本的な理論に加え、「自分の価値観と仕事のつながり」や「目的の再定義」を行うことで、自分自身の中にある動機づけを見つめ直します。その結果、「やらされている」から「自ら進んでやる」へと意識が変化していきます。
2. 管理職の意識改革と指導力向上
モチベーションは一方通行ではなく、上司と部下の関係性の中で育まれます。研修では、管理職が部下のやる気を引き出す具体的なコミュニケーション法や、個性に応じた指導のあり方を学びます。これにより、現場での「動機づけマネジメント」が機能しやすくなります。
3. 組織風土の改善
モチベーション研修が組織全体で行われることで、「感謝を伝える」「承認する」「フィードバックする」といった前向きな習慣が根づいていきます。その結果、心理的安全性が高まり、挑戦や学びを支援する風土へと変化していきます。
研修は「気づき」から「行動変容」につなげるもの
モチベーション研修の本質は、単なる座学や理論の理解ではありません。受講者が「自分の考え方や行動を見直す」きっかけとなり、日常業務で実践できる変化を起こすことが目的です。そのため、ロールプレイやワークショップを取り入れたアクティブラーニング型のプログラムが多く採用されています。「自分がどんなときにやる気が出るのか」「部下は何に困っているのか」といった問いに向き合いながら、気づきを深めていきます。
研修後には「学んで終わり」にしない仕組みづくりも大切です。例えば、研修内容を現場で振り返る時間を確保したり、定期的に実践事例を共有する仕組みを設けることで、習慣化を図ることができます。
成果を出すためには設計と継続がカギ
研修を導入するうえで忘れてはならないのが、「目的の明確化」と「継続性」です。何のために研修を行うのか、研修後にどの様な状態を目指すのかを明確にし、それに沿ったプログラム設計を行う必要があります。
また、1回限りの研修でモチベーションが大きく変わることはほとんどありません。継続的な取り組みやマネジメント層の巻き込みがあってこそ、現場での行動変容につながります。
モチベーション研修を行うメリットとデメリット
モチベーション研修の導入を検討する際、多くの経営者や人事担当者が気にするのが、「実際に効果があるのか」「自社に合うのか」といった点です。
効果を最大化するためには、メリットだけでなく、想定されるデメリットや注意点も事前に把握しておくことが重要です。本章では、モチベーション研修の代表的な利点と課題を、実務視点で整理して解説します。
【メリット①】社員の主体性と行動力が高まる
モチベーション研修の最大のメリットは、社員の「内発的動機づけ」を促進できることです。外的な報酬や命令ではなく、「自分の意思で行動する」力を養うことができ、業務に対する姿勢が大きく変わります。
例えば、以下の様な変化が期待できます。この様な「行動変容」が生まれると、業績向上やチームの活性化にも波及していきます。
- 上司からの指示を待つのではなく、自分で考えて動くようになる。
- 業務改善の提案が増える。
- チームに対する貢献意識が高まる。
- 目標達成への責任感が強くなる。
【メリット②】管理職のマネジメントスキル向上
モチベーション研修は、一般社員だけでなく、管理職にも大きな効果を発揮します。特に、以下の様なテーマを扱う研修では、上司の接し方が変わるケースが多く見られます。これにより、部下の感情や思考への理解が深まり、単なる指示命令型ではない「支援型マネジメント」が機能しやすくなります。結果として、部下の定着率や職場のエンゲージメントも改善されやすくなります。
- 部下のやる気を引き出す対話法
- 状況に応じた承認の伝え方
- モチベーションタイプ別の指導方法
【メリット③】離職防止・組織風土の改善につながる
モチベーション低下は、しばしば離職の前兆です。その点で、研修を通じて社員が「自分の価値」「組織への期待」を再認識できれば、退職防止にも効果があります。
また、組織全体で研修を共有することで、職場に共通の価値観や言語が生まれやすくなります。
例えば、「フィードバックは成長のチャンス」といった考え方が浸透すれば、指摘や改善もポジティブに受け入れられる風土へと変化しやすくなります。
【デメリット①】一時的な効果で終わる可能性がある
最大のリスクは、研修が「その場かぎり」で終わってしまうことです。どれだけ内容の良い研修であっても、現場に戻ってからの実践が伴わなければ、効果は持続しません。
特に以下の様な状況では、効果が定着しにくくなります。これを防ぐには、研修後のアクションプラン設計や、チーム内での実践共有の仕組みづくりが欠かせません。
- 上司やチームが研修に無関心。
- 研修内容と実際の業務が乖離している。
- 振り返りやフォローアップの機会が用意されていない。
【デメリット②】内容が抽象的になりがち
モチベーションというテーマは抽象度が高いため、研修の内容や講師によっては、理論だけが先行し、現場での活用イメージが持てないという課題があります。
その結果、以下の様な声が出やすくなります。
- 「いい話だったけど、実務でどう活かすのか分からない」
- 「やる気の出し方は分かったが、チームには響かなかった」
対策としては、自社の課題に即した事例やケーススタディを取り入れること、ワークショップ型で実践につなげる構成にすることが有効です。また、受講対象者の階層(新入社員/中堅社員/管理職)に応じて、研修内容をカスタマイズすることも重要です。
【デメリット③】研修効果の測定が難しい
モチベーションは数値化しづらく、他の研修(例:スキル系・制度系)と比べて効果測定が難しいという課題もあります。特に短期的な業績や数字への影響が見えにくいため、「本当にやって意味があるのか?」と社内で懐疑的な意見が出ることもあります。
この点を補うには、以下の様な工夫が考えられます。定性的な情報と定量的なデータを組み合わせることで、効果の可視化と社内への説得力が高まります。
- 研修前後でのアンケートによる意識変化の確認
- 1on1やチームミーティングでの行動変化の観察
- 研修後の振り返りレポートによる内省の促進
モチベーション研修を成功させるコツ

モチベーション研修は、ただ実施するだけでは効果が見込めません。重要なのは、研修を通じて受講者の意識と行動をどのように変化させ、組織全体の成果にどう結びつけるかという視点です。
ここでは、モチベーション研修を「一過性で終わらせない」「確実に現場に定着させる」ために必要な設計・運営上のコツを具体的に解説します。
【コツ①】目的を明確にし、共有する
研修を成功させる第一歩は、「何のために行うのか」という目的を明確にすることです。例えば、以下のように目的を具体化することで、対象者の理解度と集中度は大きく変わります。また、この目的は受講者だけでなく、上司・関係部署とも事前に共有しておくことで、研修の意義や期待値を統一しやすくなります。
- 若手社員に自律的に働く姿勢を持たせたい。
- 管理職に部下のやる気を引き出すスキルを習得させたい。
- チーム全体のコミュニケーションを活性化したい。
【コツ②】対象者ごとに内容を最適化する
同じ「モチベーション研修」といっても、受講者の立場や経験によって響く内容は異なります。したがって、対象者に合わせて研修プログラムを最適化することが成功のカギです。一律の内容ではなく、以下の様に「階層別」「職種別」のアプローチで設計することで、受講者の納得感と実践意欲が格段に向上します。
- 新入社員向け:仕事の意味づけや価値観の整理、自分の強みを見つけるワーク
- 中堅社員向け:成長停滞期の乗り越え方、自走力の強化
- 管理職向け:部下との関わり方、タイプ別動機づけ手法、1on1での対話力強化
【コツ③】双方向・体験型の学習スタイルにする
モチベーションは理屈ではなく「感情」が関係するテーマです。座学中心の受け身な研修では、頭では理解しても心に残らず、行動変容につながりません。
そのため、以下の様なアクティブラーニング型の構成が効果的です。「気づき→共感→実践」のサイクルを研修内でつくることが、実効性を高める最大のポイントです。
- 自己分析ワーク(モチベーションの源泉を言語化)
- グループディスカッション(他者の価値観を知る)
- ロールプレイ(上司部下の対話を疑似体験)
- ケーススタディ(現場の課題をもとに思考)
【コツ④】上司や現場と連動させる
研修効果を持続させるためには、受講者だけでなく、職場全体との連動が必要です。特に重要なのが、直属の上司の関与です。以下の様な仕組みがあるだけで、研修内容が「現場の話題」として定着しやすくなり、結果的に行動変容にもつながります。
- 上司が研修内容を理解し、フォローの声かけをする。
- 1on1やミーティングで研修の学びを振り返る。
- チーム内で「やる気が上がった瞬間」を共有する機会を設ける。
【コツ⑤】研修後のフォローアップを設計する
「やって終わり」ではなく、「やってからが始まり」という意識で、事後のフォローアップを設計することが不可欠です。有効なフォロー例は以下の通りで、継続的に「思い出し」「試し」「定着させる」環境をつくることで、研修が日常業務に生かされやすくなります。
- アクションプランの提出と進捗確認
- 数週間後の振り返りワークショップ
- 部署単位での実践事例の共有会
- eラーニングや動画での再学習コンテンツ提供
モチベーション研修で具体的に何が向上するか
モチベーション研修は、「気持ちの問題」として片付けられがちな領域に、体系だった理論と実践を持ち込み、行動に変化をもたらします。では実際に、研修を実施することでどの様な具体的成果が得られるのでしょうか。
本章では、モチベーション研修によって向上が期待できる主要な項目を、社員個人・チーム・組織という3つの視点で整理して解説します。
【個人レベル】仕事への主体性・行動力の向上
研修によって、自身のモチベーション源泉や働く意味を再認識した社員は、業務への取り組み方に変化を起こしやすくなります。特に若手・中堅層では、日々の業務を「やらされ仕事」と感じていた社員が、研修を通して「選んでやっている」という自覚を持てるようになるケースが目立ちます。
主な効果としては、以下の様なものが挙げられます。
- 「指示待ち型」から「自走型」への意識転換
- 問題発見・改善提案の増加
- 自己成長への意欲向上(資格取得、読書、学習など)
- 苦手業務にも前向きに取り組む姿勢の醸成
【コミュニケーション面】対人関係スキルの向上
モチベーションに関する研修では、「人との関わり方」や「感情の扱い方」も重要なテーマです。これにより、対人スキルの向上にも効果が表れます。特に管理職層では、1on1ミーティングや部下との日常会話の質が明確に変わったという声も多く、マネジメント力強化の一環としても効果的です。
- 部下・上司・同僚への感謝や承認の言葉が自然と出る。
- チーム内の対話が活発化する。(雑談・相談・フィードバックなど)
- 職場内での摩擦や誤解が減少する。
- 部下指導のストレスが軽減され、定着率が改善する。
【チームレベル】協働意識とエンゲージメントの向上
モチベーション研修が全社的または部門単位で行われた場合、受講者間に共通言語と価値観が生まれやすくなります。これにより、組織内の連携や一体感にも好影響が見られます。また、メンバー同士でモチベーションを高め合う風土が醸成されることで、「誰かが落ちていても自然と支え合う」関係性が生まれやすくなります。
- チームの目標への意識が強まり、方向性の統一感が生まれる。
- 相互理解が進み、心理的安全性が向上する。
- 協力・助け合いの文化が定着しやすくなる。
- 会議やミーティングが活性化する。
【組織レベル】離職率・生産性・風土の改善
個人・チームレベルでの変化が波及すると、組織全体にも明確な成果として現れるようになります。例えば、以下の様な効果が期待されます。「数値では見えにくい部分が整うことで、結果的に数値が改善される」というのが、モチベーション研修の本質的な効果ともいえるでしょう。
- 離職率の低下(特に若手・中堅層の早期離職)
- 生産性・効率の向上(無駄な待機時間や手戻りが減少)
- 定量・定性の目標管理がスムーズになる
- 働きがいのある会社ランキングや従業員満足度の向上
【継続性の視点】一過性で終わらない変化の促進
モチベーションは日々の環境や出来事に大きく左右されるため、単発の施策では効果が持続しにくいという側面があります。しかし、研修の中で「振り返りの習慣」や「感情の言語化」「動機の棚卸し」が身につけば、変化は持続可能な形で組織に根づきやすくなります。以下の様な取り組みと連動することで、モチベーション研修の効果は継続的な組織成長へとつながっていきます。
- 日報や週報で感情の動き・気づきを記録する。
- チーム内で月に1回、モチベーションについて語る機会を設ける。
- 上司が部下の「やる気のツボ」に関心を持つマネジメントを徹底する。
モチベーション研修を自社内で行う方法

モチベーション研修というと「専門講師を呼ぶ」「高額な費用がかかる」というイメージを持つ方も少なくありません。しかし、内容や進め方を工夫すれば、自社のリソースで効果的な研修を実施することも可能です。
本章では、社内でモチベーション研修を行う際の進め方やポイント、必要な準備について具体的に解説します。
【STEP1】目的と対象を明確に設定する
まず最初に行うべきは、「なぜこの研修を行うのか」という目的の明文化です。目的が曖昧なままだと、内容も参加者の集中度もぼやけてしまいます。目的と対象が定まることで、後のコンテンツ設計や運営もスムーズに進みます。
具体的には、以下のように明確にしておくと効果的です。
- 目的例:若手社員に自律性を持たせたい/中堅社員のやる気を再点火したい。
- 対象者:新入社員/中堅層/管理職など、階層別に明確化。
【STEP2】社内講師をアサインする
自社内で研修を行う場合、講師役を誰にするかは非常に重要です。以下の様な人材が適任です。
講師が持つべき姿勢は、「答えを与える」のではなく「気づきを促す」ことです。一方的に話すのではなく、受講者の内省を引き出すファシリテーターとしての役割を担うことが理想です。
- 経験豊富で社内外の信頼があるマネージャー
- 教育やファシリテーションに慣れている人事担当者
- 過去にモチベーション研修を外部で受講した経験のある社員
【STEP3】社内課題に基づいたコンテンツ設計を行う
一般的なモチベーション理論を扱うことも大切ですが、より効果的なのは、自社の実態に合ったテーマを選定することです。以下の様に、現場のリアルな課題をテーマに落とし込むことで、受講者の納得感や参加意欲が高まります。
- 「最近、目標に向かって動けていない社員が多い」→目標設定と行動の関係をテーマにする。
- 「部下との関係性に悩んでいる管理職が多い」→承認や信頼の築き方を扱う。
- 「チームが受け身になっている」→自律性や責任感の醸成を中心に設計する。
【STEP4】ワーク中心で「気づき」を促す進行を意識する
モチベーション研修は、「自分で気づく」「他者と対話する」プロセスが特に重要です。社内研修であっても、以下の様なワークを取り入れることで、実践的な内容に仕上がります。座学ではなく体験型にすることで、受講者の感情や思考に深くアプローチできます。
- モチベーションを感じた経験を振り返る自己分析ワーク
- 自分と他者の価値観を比較するグループディスカッション
- ケーススタディ(例:やる気を失っている部下への対応方法)
- 研修後の行動宣言を記載するアクションプラン作成
【STEP5】フォローアップと現場連動を設計する
研修後のフォロー体制も、社内研修成功のカギです。以下の様な取り組みを取り入れることで、研修の学びが「現場での行動」に結びつきやすくなります。
また、社内イントラや社内報を使って、受講者のコメントや気づきを紹介するのも効果的です。これにより、研修に参加していない社員にもポジティブな刺激を広げることができます。
- 上司との1on1で学びを共有・深掘り
- 数週間後に振り返りのミニワークを実施
- チーム内で「やる気が上がった瞬間」を共有する習慣をつくる
- 研修で作成したアクションプランの定期確認
モチベーション研修を外部に委託する際の注意点
モチベーション研修を外部の研修会社や講師に委託する企業は少なくありません。専門性や実績を活用できるという点では大きなメリットがありますが、外部委託には独自のリスクや注意点も存在します。
本章では、外部研修を成功させるために事前に押さえておきたい重要なポイントを解説します。
【ポイント①】研修の目的と期待成果を事前にすり合わせる
まず最も重要なのは、「何を目的に研修を行い、どの様な変化を期待しているか」を外部講師・研修会社としっかりすり合わせておくことです。
例えば、「若手社員の主体性を高めたい」「管理職の部下育成力を高めたい」といった具体的なゴールを共有することで、講師側の内容設計や言葉選びにもブレがなくなります。
逆に、「とにかくモチベーションを上げてほしい」といった抽象的な依頼では、研修後の成果が不明確になり、「効果が分からない」「現場に活かしにくい」といった不満につながる可能性が高まります。
【ポイント②】講師の得意分野と自社課題の相性を見極める
外部講師にはそれぞれ専門領域や得意スタイルがあります。講師によっては、心理学的アプローチを重視するタイプ、組織論や経営視点に強いタイプ、現場経験が豊富な実務家タイプなど、方向性が大きく異なります。
自社の課題と講師の強みが噛み合っていないと、良質なコンテンツであっても受講者に響かないことがあります。可能であれば事前に以下の様な情報を確認しましょう。また、事前にオンラインでの顔合わせや打ち合わせを設け、講師の人柄や雰囲気もチェックしておくと安心です。
- 講師の過去実績・対象階層・研修スタイル
- 同業種・同規模企業での導入事例
- 実際の受講者アンケートやフィードバック内容
【ポイント③】カスタマイズ対応の柔軟性を確認する
モチベーション研修は、業界や職種、対象者の属性によってアプローチの仕方が変わるため、「パッケージ型」の一方的なプログラムでは成果が出にくいことがあります。
そのため、以下の様な柔軟な対応が可能かどうかは、委託前に必ず確認しておきたいポイントです。また、事前に「自社ならではの状況」を詳しく共有することで、研修内容の精度も大きく向上します。
- 自社の課題や現場の事例を取り入れられるか。
- 受講対象者の層(新入社員/中堅社員/管理職)に合わせた構成が可能か。
- ワークやディスカッションを組み込んだ体験型設計ができるか。
【ポイント④】研修後のフォロー施策と連動する設計にする
外部研修の成果を持続させるためには、研修後の社内でのフォロー施策と連携できる設計が理想的です。
例えば、以下の様な設計ができるかを確認しましょう。研修当日だけでなく、「その後どう活かすか」まで含めた提案があるかどうかは、研修会社の本気度を見極めるポイントにもなります。
- 研修後にアクションプラン作成を組み込めるか。
- フォローアップ資料や復習用スライドを提供してもらえるか。
- 上司や人事が研修内容をサポートしやすいような解説資料が用意されているか。
まとめ
社員のモチベーションは、組織の成長と成果に直結する重要な要素です。しかし、日常業務の中で個々のモチベーションを的確に把握し、適切な対応をとることは容易ではありません。そこで注目されているのが、体系的に設計されたモチベーション研修です。本コラムでは、モチベーションを左右する要因や社員の状態の見極め方、研修導入のメリットとデメリット、自社内と外部委託それぞれの実施方法など、あらゆる角度から研修の実像に迫りました。
モチベーション研修は「やる気」だけでなく、スキルや行動の変化、組織風土の改善にもつながる有効なアプローチです。中小企業や人事部門の方が、自社に合った導入方法を見つけ、着実に成果を出すためには、正しい知識と準備が不可欠です。
監修者

- 株式会社秀實社 代表取締役
- 2010年、株式会社秀實社を設立。創業時より組織人事コンサルティング事業を手掛け、クライアントの中には、コンサルティング支援を始めて3年後に米国のナスダック市場へ上場を果たした企業もある。2012年「未来の百年企業」を発足し、経済情報誌「未来企業通信」を監修。2013年「次代の日本を担う人財」の育成を目的として、次代人財養成塾One-Willを開講し、産経新聞社と共に3500名の塾生を指導する。現在は、全国の中堅、中小企業の経営課題の解決に従事しているが、課題要因は戦略人事の機能を持ち合わせていないことと判断し、人事部の機能を担うコンサルティングサービスの提供を強化している。「仕事の教科書(KADOKAWA)」他5冊を出版。コンサルティング支援先企業の内18社が、株式公開を果たす。
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