モチベーションとやる気の違いとは?研修で活かす実践的アプローチ

5 部下指導・育成

ビジネス現場でよく使われる「モチベーション」と「やる気」。この二つの言葉、実は明確な違いがあることをご存知でしょうか?「やる気が出ない」「モチベーションが続かない」と感じる場面には、それぞれ異なる原因と対処法があります。
このコラムでは、モチベーションとやる気の違いを明確にし、それぞれを高める具体的な方法や組織内での活用術を解説します。

< このコラムでわかる3つのポイント >
1.「モチベーション」と「やる気」の根本的な違いの理解
2.人材育成や研修設計におけるモチベーション活用の視点
3.組織全体のモチベーションを高めるための具体的アプローチ

 

モチベーションとやる気の違いとは?

「やる気」と「モチベーション」は、日常的にビジネスや教育の現場でも頻繁に使われる言葉です。しかし、この2つの言葉を明確に区別して使っている人は意外と少ないかもしれません。
この章では、モチベーションとやる気の定義や意味の違いを明確にし、それぞれが人の行動にどのように影響を与えているのかを整理していきます。

モチベーションとは何か

「モチベーション」とは、行動の背後にある“動機”や“理由”のことを指します。語源は「モティーフ(motif)=動機」です。つまり、モチベーションは「なぜそれをするのか?」という理由づけであり、人が行動を選択する際の起点となるものです。これは心理学的には「動因」や「欲求」とも表現され、例えば「もっとスキルアップしたい」「評価されたい」という思いがモチベーションになります。ビジネスシーンで「社員のモチベーションが高い」と言う場合、それは単なる気分の問題ではなく、仕事に対する明確な目的意識や、行動を起こす理由があることを意味します。

やる気とは何か

一方で、「やる気」は感情や心理状態に近いもので、「今すぐ何かをやろう」と思える内的な活力のことです。「朝からやる気が出ない」というように、その時々の心理状態や体調、外的環境によって大きく変動するものです。やる気はエネルギーとしての側面が強く、持続性はモチベーションに比べて短い傾向があります。そのため、やる気だけに頼った行動は、途中で失速してしまうこともあります。

使い分けがもたらす組織への好影響

モチベーションとやる気を明確に区別して捉えることで、適切な人事戦略やマネジメント施策が可能になります。例えば、新人研修では「やる気」を刺激するような体験型のプログラムを組む一方で、中堅社員にはキャリア設計や役割に基づいた「モチベーションの源泉」を掘り下げる内容が有効です。
また、モチベーションは「欲求」や「価値観」に根差しているため、個々人によって大きく異なります。これを理解し、個別に動機づけを設計できるリーダーは、チーム全体の生産性を高めることができます。例えば、「このプロジェクトはお客様の人生に影響を与えるんだ」と伝えることで、社会的意義をモチベーションに持つ人のやる気が一気に上がることがあります。このように、モチベーションとやる気の違いを理解したうえで働きかけることで、より深く、持続的な行動変容を引き出すことができるのです。

次章では、「やる気」と深く結びつく「意欲」という概念に注目し、両者の関係性を心理的な視点から詳しく探っていきます。

「意欲」と「やる気」の関係

「やる気」と「意欲」という言葉は、日常会話の中でしばしば混同されます。しかし、それぞれが人の行動に与える影響や心理的な位置づけには明確な違いがあります。
この章では、「意欲」がどのように「やる気」と関係しているのかを掘り下げ、実務的な理解に繋げていきます。

意欲とは何か?その定義と構成要素

意欲とは、目標に向かって自発的に行動しようとする心理的な推進力のことです。単なる「気分」や「テンション」とは異なり、自分の中から湧き上がる「やりたい」「挑戦したい」といった内的な動機を指します。
意欲には次の3つの要素が含まれると考えられます。これらが揃うことで、意欲は継続性を持ち、困難な状況でも粘り強く行動を続けることができます。

  • 目的意識:何のために行動するのかが明確になっていること
  • 自己効力感:自分にはそれを達成できる能力があるという実感
  • 主体性:自分の意思で選択・行動しているという自覚
意欲を形成する心理的要因

意欲は生まれ持った性格だけでなく、環境や経験によって形成・変化します。例えば、過去の成功体験は「自分ならできる」という感覚を強化し、新たな挑戦への意欲を高めます。これが「自己効力感」です。
また、周囲からの期待や信頼も意欲の源になります。上司や同僚から「あなたならできる」と言われることは、責任感と同時にモチベーションを引き出すトリガーとなります。さらに、自ら目標を設定し、選択肢をコントロールできる環境では、より強い意欲が生まれます。つまり、「他人にやらされている」のではなく、「自分で選んでやっている」という感覚が、意欲の継続には不可欠なのです。

やる気との相互作用と違い

やる気と意欲の違いは、時間軸とエネルギーの特性にあります。
意欲は中長期的な心理的エネルギーであり、「なりたい自分」や「達成したい目標」など、未来志向の価値観に基づいています。一方で、やる気は瞬間的・感情的な高まりであり、その日の体調、気分、外的刺激に大きく左右されます。例えば、「将来的に経営幹部になりたい」という強い意欲がある人でも、睡眠不足やストレス、周囲からの否定的な反応によって「今日はどうしてもやる気が出ない」と感じることがあります。逆に、あまり強い意欲がなくても、「期限が迫っている」「上司に褒められた」などの短期的な外部要因によってやる気が一時的に高まることもあります。
このように、意欲とやる気は相互に影響を及ぼし合いながらも、それぞれ別個の性質を持つものとして理解することが重要です。

意欲を引き出すマネジメントの視点

企業のマネジメントにおいては、「やる気を出させる」だけでなく、「意欲を育てる」視点が不可欠です。そのためには以下のような取り組みが効果的です。これらを制度的に整備し、日常のマネジメントに組み込むことで、短期的なやる気だけでなく、継続的な意欲を育むことが可能になります。

  • 個人の価値観に基づいた目標設計
    業務目標だけでなく、本人のキャリアビジョンや関心と結びつけた目標を設けることで、意欲が内側から湧き上がりやすくなります。
  • 成長実感の提供
    定期的なフィードバックや、スモールステップでの達成経験を通じて、「できる」という感覚を積み重ねることが、意欲の源になります。
  • 裁量のある業務設計
    意欲は、「自分で決めている」という主体性が感じられる時に強くなります。過度なマニュアルや管理は、意欲を萎えさせてしまう可能性があります。
  • 心理的安全性の確保
    自分の意見を自由に言え、失敗を受け入れてもらえる環境は、意欲の維持に直結します。恐怖心や不信感は意欲の天敵です。

次章では、こうして育まれた意欲や価値観が「モチベーション」としてどう作用し、やる気や行動に結びついていくのか。そのメカニズムを深掘りしていきます。

モチベーションがやる気を引き出すメカニズム

モチベーションは、単なる気持ちの高まりではなく、人の行動を生み出す深い動機づけの構造を持っています。
この章では、モチベーションがやる気をどう生み出し、どのように行動に繋がっていくのか、理論的かつ実務的に解説します。

モチベーションの基本構造とは

モチベーションとは、行動の「理由」や「原動力」を意味します。つまり、人が「なぜ行動するのか」を説明する根本的な心理的要因です。これを理解するには、まず「動因(Drive)」と「誘因(Incentive)」という2つの概念が鍵になります。

  • 動因(Drive):内部から湧き上がる欲求や不快回避の欲望(例:上達したい、怒られたくない)
  • 誘因(Incentive):外部から与えられる刺激や報酬(例:昇進、賞与、表彰)

モチベーションは、この動因と誘因の相互作用で生まれます。どちらか一方だけでは不十分であり、人が行動するには「内側の欲求に外側の理由が加わる」ことが重要です。

行動心理学に基づく動機づけの仕組み

心理学における動機づけ理論の中で、代表的なものの一つがマズローの欲求階層説です。これは人間の欲求を5段階で捉え、下位の欲求が満たされると上位の欲求を求めるという考え方です。

  1. 生理的欲求(食事、睡眠など)
  2. 安全欲求(健康、雇用の安定など)
  3. 社会的欲求(仲間、所属、承認など)
  4. 承認欲求(評価、尊重など)
  5. 自己実現欲求(自分らしさの追求)

例えば、給与が生活費をまかなえない状況では、やる気や自己成長よりもまず「生活を安定させたい」という欲求が優先されます。逆に、基本的な欲求が満たされている場合は、「この仕事を通じて自分の価値を高めたい」といった高次のモチベーションが発動します。
このように、モチベーションは単なる「頑張る気持ち」ではなく、人間の根本的な欲求に基づいたシステムなのです。

モチベーションと行動の関係性

モチベーションがやる気を引き出すプロセスは、次のように整理できます。

  1. モチベーション(動機)が発生する。
  2. それに応じてやる気(エネルギー)が湧く。
  3. やる気が行動を生み出す。
  4. 行動の結果からフィードバックを得る。
  5. フィードバックが新たなモチベーションを生む。

つまり、モチベーションは行動の「起点」であり、行動によって得た経験がさらに新たなモチベーションに繋がっていくという、循環的な構造を持っています。この構造を理解しているかどうかで、人材育成やマネジメントの質が大きく変わります。やる気を一時的に上げることが目的ではなく、「行動を生み出す動機の連鎖」をどう設計するかが重要なのです。

現場で起きるモチベーション連鎖の実例

例えば、ある社員が「顧客満足度を上げたい」というモチベーションを持っていたとします。この動機に対して上司が「自主的に改善提案を出してほしい」と伝えると、やる気が高まり、社員は実際に改善策を実行します。その結果、顧客から感謝されることで達成感を得て、「もっと喜んでもらいたい」という新たなモチベーションが生まれます。
このような「動機 → 行動 → 成果 → 新たな動機」というサイクルを組織的に設計することが、継続的なやる気と行動を生み出す鍵となります。一方で、モチベーションが適切に設計されていない場合には、逆のサイクルも起こります。目標が曖昧、行動に対する評価がない、成果が可視化されないといった状況では、やる気が削がれ、モチベーションが低下していきます。
この点において、「評価制度」「業務設計」「フィードバックの質」は、モチベーションの設計に大きく関わってくる要素です。単に「頑張れ」と言うだけでは、根本的な行動変容にはつながらないのです。

次章では、このモチベーションをさらに分類し、「内発的モチベーション」と「外発的モチベーション」の違いに焦点を当てながら、それぞれの特性と実務での使い分け方について解説していきます。

内発的モチベーションと外発的モチベーションの違い

モチベーションはすべてが同じ質を持つわけではありません。人が何かを行動する際、その動機の源が「内側」から来るのか「外側」から与えられるのかによって、行動の持続性や質に大きな違いが出ます。
この章では、「内発的モチベーション」と「外発的モチベーション」という2つの概念を比較し、それぞれがビジネス現場でどのように活用されるべきかを解説します。

内発的モチベーションの特徴と効果

内発的モチベーションとは、「自分の内側から湧き上がる動機」によって生まれる行動意欲です。具体的には、好奇心、達成感、興味、成長への欲求などが該当します。例えば、「もっとこの分野を理解したい」「自分のスキルを試したい」といった気持ちがそうです。これらは他人からの報酬や強制ではなく、自分自身の価値観や欲求から自然に生まれるものであり、以下のような特長を持ちます。

  • 行動の持続性が高い
  • 自主性が高く、他者に依存しない
  • 挑戦や創造性を発揮しやすい
  • 心理的な満足度が高い

このタイプのモチベーションが高い人は、「やる気があるから行動する」というより、「行動すること自体が楽しい」と感じています。そのため、短期的な失敗や障害があっても意欲を維持しやすいのが特徴です。企業の研修やキャリア支援においても、この内発的モチベーションを引き出す設計がなされていると、社員は自ら成長を望み、主体的に動く傾向が強まります。

外発的モチベーションの役割と限界

一方、外発的モチベーションは「外部から与えられる動機」によって行動を起こすタイプです。典型的なのは報酬、昇進、評価、罰則などです。例えば、「評価されたい」「賞与をもらいたい」「怒られたくないからやる」といったケースがこれに当たります。外発的モチベーションは即効性があり、行動を促すには非常に有効です。特に、新入社員やルーティン業務において、まず行動を起こさせるには外発的要素が重要です。
ただし、以下のような限界もあります。

  • 報酬がなければ動かなくなる。
  • 長期的にはマンネリや疲弊につながる。
  • クリエイティビティや柔軟な思考が抑制される場合がある。

また、報酬が増え続けない限りモチベーションを維持できない“報酬依存”に陥るリスクもあります。これは「アンダーマイニング効果」として知られ、外発的報酬が内発的モチベーションをかえって損なってしまう現象です。例えば、「好きでやっていた仕事が、評価やインセンティブに過度に結びつくことで楽しくなくなった」というのはよくある話です。こうなると、仕事は“義務”になり、やる気は著しく低下してしまいます。

次章では、この内発・外発のモチベーションを踏まえたうえで、「やる気を高めるために企業や個人が実際にできること」に焦点を当て、実践的な手法をご紹介していきます。

やる気を高めるための具体的な方法

やる気が出ない、やる気が続かない。ビジネスの現場でも、こうした声は多く聞かれます。やる気はモチベーションに依存する部分もありますが、日常の習慣や環境、関わる人々の関与によって大きく左右される要素でもあります。
この章では、やる気を引き出し、継続的に保つための実践的なアプローチを紹介します。

目標設定の重要性と進捗管理

やる気を引き出す上で、まず鍵となるのが「明確な目標の存在」です。人は「何をすればいいかわからない状態」にいると、心理的に不安定になり、やる気が著しく下がります。逆に、目標が具体的で達成可能なレベルに設定されていれば、それに向けた意欲が自然と湧いてきます。
ポイントは以下の3つです。

  1. 具体性(何を、いつまでに、どのように)
  2. 現実性(実現可能であること)
  3. 意義性(本人にとって意味があること)

さらに、目標達成に向けた「進捗の可視化」も効果的です。例えば、進捗バーやチェックリストを活用することで、今どこまで進んでいるかを実感でき、やる気の維持に繋がります。中間目標の設定も有効で、小さな達成を積み重ねることが「やれている自分」を実感させ、次の行動を促します。

成功体験を積み重ねる仕組み

やる気を高める最もシンプルな方法の一つが、「成功体験を重ねること」です。人は何かをやって「うまくいった」「認められた」と感じると、自信がつき、またやってみようという気持ちになります。この原理を活かすためには、業務を「小さな成功に分解する」ことがポイントです。いきなり大きな成果を求めるのではなく、細かなタスクやプロセスに目標を設定し、達成のたびにポジティブなフィードバックを行う仕組みを作りましょう。
また、成功体験は必ずしも業務の結果だけに限定されません。「自分の考えを発言できた」「同僚に感謝された」といった日常的な行動の中にも、やる気を支える小さな成功が存在します。上司やチームがそれを見つけて認識し、フィードバックしていくことが非常に重要です。

環境づくりとチームの影響

やる気は個人の内面だけでなく、「周囲の環境」や「人間関係」に強く影響されます。例えば、静かで集中できる作業環境、質問しやすい雰囲気、明るいコミュニケーションなどは、やる気を後押しする要素になります。
一方で、常に緊張感がある、発言すると否定される、成果が可視化されないといった環境では、やる気は急速に失われていきます。特に「心理的安全性」はやる気にとって重要な要素であり、「ミスをしても責められない」「自由にアイデアを出せる」環境は、挑戦する意欲を引き出します。
また、チームメンバーのやる気は伝播します。周囲に前向きに取り組む人が多いと、自分もやってみようという気持ちが生まれやすくなります。逆に、常に不満を言う人が多い職場では、モチベーションの伝染が逆方向に働いてしまいます。そのため、やる気の高い人をチームの中心に据え、成功体験や前向きな言動を積極的に共有する文化をつくることが、全体のやる気向上につながります。

継続するやる気を支える習慣とは

やる気には波があります。だからこそ、継続的にやる気を保つためには「習慣化」が必要です。習慣とは、無意識でも繰り返せる行動のことであり、一度身につけてしまえば、やる気の有無に関わらず行動を維持することができます。
効果的な習慣化のステップは以下の通りです。

  1. 行動のきっかけを決める(トリガーの設定)
    (例)朝出社後すぐに日報を入力する、昼休憩後に進捗をチェックする
  2. 行動を小さく始める(習慣のハードルを下げる)
    (例)最初は5分だけ集中して作業する、1日1回だけチャレンジしてみる
  3. 成功を実感しやすくする(報酬・承認の設計)
    (例)習慣が続いたら可視化する、上司が定期的に承認する

次章では、こうしたやる気を一時的なものに終わらせず、組織全体として「モチベーションを維持する」ための具体的な戦略について掘り下げていきます。

モチベーションを維持するための戦略

どんなにやる気やモチベーションを高めることに成功しても、それが長続きしなければ、成果として現れることはありません。特に組織においては、持続的に高いモチベーションを保つための「仕組み化」と「習慣化」が極めて重要です。
この章では、モチベーションを一時的な燃焼に終わらせず、継続的に維持するための実践的な戦略を紹介します。

フィードバックと承認の活用法

人は、自分の努力や成果が他者に認識され、承認されることでモチベーションを維持しやすくなります。これは「外発的モチベーション」に分類される要素ではありますが、内発的モチベーションと連動し、長期的な行動継続を後押しする効果があります。
フィードバックは以下の3つの観点で設計することが望ましいです。

  1. 即時性:成果や行動に対して、できるだけ早くフィードバックを与える。
  2. 具体性:何が良かったのか、どこを工夫したのかを具体的に伝える。
  3. 双方向性:上司からの一方通行ではなく、対話型で相互理解を深める。

例えば、営業担当が契約を1件獲得した際、「ナイスです!」だけではなく、「先方の課題をきちんと整理して提案できていた点が良かったですね」と伝えることで、本人の認識と成長意識が強化され、モチベーションの循環が生まれます。
また、定期的な「1on1ミーティング」や「日報フィードバック」なども、承認とフィードバックの場として有効です。承認を組織文化に組み込むことで、社員の心理的な充足感が高まり、長期的な行動意欲を育てやすくなります。

組織文化と心理的安全性の重要性

モチベーションの維持には、個人の努力だけでなく、「組織文化」が大きく関係しています。特に注目すべきなのが「心理的安全性」という概念です。心理的安全性とは、「自分の意見を自由に言える」「失敗しても責められない」と感じられる状態のことです。Google社の研究でも、心理的安全性の高いチームは成果が高く、学習力やモチベーションも高いという結果が示されています。
モチベーションが長続きしない職場には、以下のような共通点があります。

  • 意見を言っても無視される、または否定される。
  • 失敗すると責任追及が強く、挑戦を避けるようになる。
  • 同僚同士の信頼関係が希薄で助け合いがない。

逆に、以下のような文化がある職場では、モチベーションの維持が容易になります。

  • 「まずはやってみよう」という挑戦の雰囲気がある。
  • 成果だけでなく、プロセスも評価される。
  • メンバー同士で称賛し合う風土がある。

組織として心理的安全性を高めるには、リーダーがまず「聞く姿勢」「受け止める姿勢」を持つことが出発点です。部下の話を遮らず、批判せずに受け入れることで、徐々に風通しの良い環境が形成されていきます。

リーダーシップとマネジメントの役割

モチベーションの持続には、リーダーの存在が不可欠です。ただし、ここで求められるのは「強く引っ張る」タイプのリーダーではなく、内発的モチベーションを引き出すファシリテーター型のリーダーシップです。効果的なリーダーは、部下に対して「どうしたいのか?」「何がしたいのか?」を問いかけ、その内面の動機を一緒に探ります。そして、それが業務や組織の目標と結びつくように調整し、本人の価値観や成長意欲を尊重する形で支援します。
また、リーダーはメンバーの特性に応じて、以下の様にモチベーションの設計を変える必要があります。こうした個別対応は簡単ではありませんが、マネジメントの精度を高めるうえで避けて通れない重要なポイントです。

  • 外発的報酬に反応しやすい人には、成果を可視化し、賞賛を頻繁に与える。
  • 内発的動機づけが強い人には、自由度の高い業務や新しい挑戦の機会を与える。

次章では、モチベーションが低下する原因とその兆候、そして実際に現場でどのような対策を講じればよいのかを、より具体的に解説していきます。

モチベーション低下の原因と対策

モチベーションは一度高めたからといって永続するものではなく、環境や人間関係、個人の心理状態によって上下するものです。社員のモチベーションが低下している状態を放置すれば、パフォーマンスの低下だけでなく、離職や組織全体の士気の低下にも繋がります。
この章では、モチベーションが低下する主な原因を明らかにし、具体的な対策方法について実務的な視点で解説します。

モチベーションが下がる典型的な原因とは

モチベーション低下の原因は大きく分けて3つのカテゴリに整理できます。

1. 業務上の不満や不整合
  • 自分の仕事が意味のあるものと感じられない。
  • 成果が適切に評価されていない。
  • 担当業務が自分の強みや関心と合っていない。
2. 人間関係のストレス
  • 上司や同僚との信頼関係が築けていない。
  • 意見が言いにくく、孤立している。
  • チーム内に対立や不平等感がある。
3. キャリアや将来像の不透明感
  • 将来のキャリアが描けない。
  • 成長の機会が感じられない。
  • 上司や会社からの期待やビジョンが伝わってこない。
個人要因・組織要因の見極め方

モチベーションが低下している原因が、本人の内面にあるのか、外部環境にあるのかを見極めることは、正しい対策を取るうえで非常に重要です。例えば、「最近やる気がなさそうだ」と感じる社員がいたとします。これを単なる「怠け」と捉えてしまえば、対応を誤るリスクがあります。その社員が実は、仕事に対して強い不満を抱えていたり、評価されていないと感じていたりする可能性があるからです。
チェックポイントとしては以下が挙げられます。個人要因であれば、ストレスマネジメントやリフレクションの場の提供が効果的です。組織要因であれば、役割設計や評価制度の見直し、チーム内の関係性改善が必要になります。

  • 業務に対して関心を失っていないか。
  • 話しかけたときに反応が鈍くなっていないか。
  • 最近、成功体験や前向きなフィードバックがあったか。
  • キャリア面談や1on1で将来の話ができているか。
小さな成功と改善サイクルの設計

モチベーションを回復・維持するには、「小さな成功」と「継続的な改善」を意識した業務設計が効果的です。

  • スモールステップの導入:大きなゴールをいくつかの小さなタスクに分解し、達成感を積み重ねる。
  • 振り返りの場を設ける:週次・月次での振り返りを通じて、「何ができたか」「何を学んだか」を言語化する。
  • 挑戦機会の提供:安全な失敗を許容し、自分で考えて動ける余地を残す。

また、リーダーや上司が「できたこと」「前回よりも進歩したこと」を積極的に認識・承認することは、モチベーション回復において極めて重要な要素です。さらに、「成果が出るまで我慢しよう」とせず、途中経過やプロセスを評価することで、社員のやる気は維持されやすくなります。

まとめ

モチベーションとやる気は、ビジネスにおける生産性やパフォーマンスに直結する重要な要素です。しかし、多くの現場では両者が混同されがちで、それぞれに適したマネジメントやアプローチが実践されていないケースも少なくありません。
このコラムでは、モチベーションとは「動機づけ」、やる気とは「心理的な勢い」と捉え、違いを明確にしました。さらに、それぞれを高める方法や、モチベーションを持続させるための組織的な戦略についても詳しく紹介しました。特に人事担当者や経営者にとっては、社員の状態を正しく理解し、適切なサポートや研修を導入することが、離職率の低下や生産性の向上につながります。今後の人材育成や組織づくりの参考として、ぜひ本内容をご活用ください。

 

 

監修者

髙𣘺秀幸
髙𣘺秀幸株式会社秀實社 代表取締役
2010年、株式会社秀實社を設立。創業時より組織人事コンサルティング事業を手掛け、クライアントの中には、コンサルティング支援を始めて3年後に米国のナスダック市場へ上場を果たした企業もある。2012年「未来の百年企業」を発足し、経済情報誌「未来企業通信」を監修。2013年「次代の日本を担う人財」の育成を目的として、次代人財養成塾One-Willを開講し、産経新聞社と共に3500名の塾生を指導する。現在は、全国の中堅、中小企業の経営課題の解決に従事しているが、課題要因は戦略人事の機能を持ち合わせていないことと判断し、人事部の機能を担うコンサルティングサービスの提供を強化している。「仕事の教科書(KADOKAWA)」他5冊を出版。コンサルティング支援先企業の内18社が、株式公開を果たす。

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