リカレント教育とリスキリングの違いとは?企業が知るべき活用ポイント

4 新人研修・キャリア形成

近年、DXの加速や事業環境の変化により、企業は従業員のスキルを継続的に更新し、競争力を維持することが求められています。その中で注目されているのが「リカレント教育」と「リスキリング」です。両者はいずれも社会人が学び直しを行う概念ですが、目的やアプローチ、適用範囲において明確な違いがあります。

本コラムでは、まずそれぞれの定義と特徴を整理したうえで、企業が人材育成の一環としてどのように取り入れるべきかを解説します。また、リカレント教育に関するメリット・デメリット、導入事例、支援制度、実施時の注意点まで幅広く取り上げ、実務担当者が明日から活用できる知識を提供します。変化の時代を生き抜くための戦略的な学びの在り方を、一緒に考えていきましょう。

< このコラムでわかる3つのポイント >
1.リカレント教育とリスキリングの定義と違いの整理
2.企業におけるリカレント育成のメリットと課題の理解
3.効果的なリカレント育成導入に向けた制度設計と運用のポイント

 

リスキリングとは?

リスキリング(Reskilling)とは、既存の職務や業務領域を超えて、新しい役割や業務を担うために必要なスキルを体系的に習得することを指します。近年はデジタルトランスフォーメーション(DX)の加速や、ビジネスモデルの急速な転換が進む中で、企業にとっても個人にとっても極めて重要な人材戦略の一つとなっています。従来の「知識の更新」や「資格取得」とは異なり、リスキリングは職務そのもののシフトを伴うことが多く、習得するスキルの性質や目的もより実務直結型である点が特徴です。

リスキリングが注目される背景

リスキリングが世界的に注目されるようになった背景には、主に以下の3つの要因があります。

  1. 技術革新の加速
    AI、IoT、RPA、クラウドなどの先端技術は、従来の業務プロセスを根本から変えつつあります。かつては人が担っていた定型業務が自動化され、新たに必要とされる職務は、データ解析やサービス設計など高付加価値型へと移行しています。
  2. 業務構造の大幅な変化
    製造業からサービス業、IT分野まで、多くの業界で業務構造が変化しています。例えば、銀行では窓口業務からオンライン金融サービスへの移行が進み、製造業では機械操作よりも生産プロセス全体の最適化やメンテナンス技術が重視されるようになっています。
  3. 労働市場と人材需給の変動
  4. 日本では人口減少と高齢化が進行し、企業は新規採用だけで必要なスキルを確保することが困難になっています。外部からの採用よりも、既存社員を再教育し新しい業務に対応させる方が、コストや適応の面で有利です。

これは、時代の変化や技術革新に伴い従来のスキルセットが陳腐化した場合、従業員が再び市場価値を持ち続けるための“再武装”とも言えます。特に企業においては、経営戦略の実行に不可欠な人材能力の再構築として位置づけられます。

リスキリングの目的と特徴

リスキリングの目的は単なるスキル更新ではなく、業務転換を前提としたスキル再構築です。たとえば、営業職からデータアナリストへの転換、製造現場の作業員からIoT機器のプログラム制御担当への移行などが該当します。主な特徴は以下の通りです。

項目内容
主な目的新しい職務・業務への適応
対象者現職社員(職務変更予定者) 
主な期間数か月〜1年程度
学習内容     実務に直結する専門スキル
成果指標新業務の遂行度、業務移行スピード
企業におけるリスキリングの意義

企業がリスキリングを導入する意義は大きく、単なる研修制度の提供にとどまりません。

  • 戦略的人材配置の実現:外部採用ではなく既存社員を新しいポジションへ適応させることで、文化的適合性や組織理解度を活かせます。
  • 採用コスト削減:中途採用に比べ、募集・面接・教育のコストが抑えられます。
  • 従業員エンゲージメントの向上:企業が長期的な成長機会を提供することで、社員の帰属意識やモチベーションが向上します。
リスキリング成功の鍵

効果的なリスキリングには、経営戦略と直結させることが欠かせません。単に「新しいスキルを学ばせる」だけでは、実務で活かせないケースが多いのです。必要なスキルの選定、学習設計、OJTとの組み合わせ、成果測定までを一貫して計画することが重要です。

このように、リスキリングは「短期集中・実務直結・業務転換型」の学びであり、変化の激しい現代のビジネス環境において、企業と個人双方の生存戦略となり得る取り組みなのです。

リカレント育成とは?

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リカレント育成(Recurrent Education)とは、社会人が一定期間ごとに教育機関や研修の場に戻り、体系的な学び直しを行うことを指します。「リカレント」とは「循環する」という意味であり、学生から社会人になった後も、生涯を通じて学びと就業を繰り返すライフスタイルを前提としています。欧州では1970年代から概念が提唱され、日本でも働き方改革や人生100年時代の到来を背景に注目度が高まっています。

リカレント育成の定義と特徴

リカレント育成の最大の特徴は、職業や人生のステージに応じた計画的な学び直しであることです。単発の研修や短期スキル取得にとどまらず、数か月から数年単位の学習期間を設けて、専門知識や幅広い教養を再習得します。対象は業務転換を前提とした人材だけでなく、現職での能力向上を目指す人材も含まれます。たとえば、管理職候補者がMBAプログラムで経営知識を体系的に学ぶ、エンジニアが最新のAI技術やセキュリティ知識を大学院で学び直すなどが該当します。

リカレント育成が求められる背景

近年、企業や個人がリカレント育成に取り組む必要性はますます高まっています。その背景には以下の要因があります。

  1. 人生100年時代とキャリアの複線化
    60歳以降も働き続けるケースが増え、40代・50代でのキャリア転換やスキル再構築が必要になる場面が多くなっています。
  2. 産業構造の変化
    製造業中心からサービス業・情報産業中心へとシフトする中で、必要とされる知識やスキルも変化。過去の経験だけでは競争力を維持できなくなっています。
  3. 学び直しの制度拡充
    政府や自治体による補助金、企業の自己啓発支援制度、オンライン教育の普及により、社会人でも学びやすい環境が整ってきました。
リカレント育成の目的

リカレント育成の目的は、単に目の前の業務課題に対応するだけでなく、中長期的な視野で能力を高め、持続的なキャリア形成を支えることです。具体的には以下のような狙いがあります。

  • 経営環境の変化に柔軟に対応できる人材を育成
  • 組織内での高度人材の確保
  • 従業員のモチベーションやエンゲージメント向上
企業におけるリカレント育成の位置づけ

企業がリカレント育成を導入する場合、その位置づけは「長期的人材戦略の柱」となります。新卒採用時のスキルだけに頼らず、キャリアの節目ごとに学習機会を提供することで、組織全体の知的基盤が強化されます。特にグローバル展開やDX推進を進める企業にとって、こうした継続的な能力開発は競争優位性の源泉となります。

リカレント育成とリスキリングの違いとは?

リカレント育成とリスキリングはいずれも「社会人の学び直し」を意味しますが、その目的や期間、対象範囲には明確な違いがあります。混同されやすい概念ですが、企業が人材育成施策を検討する際には、両者の特性を正しく理解し、使い分けることが重要です。

用語の整理
  • リカレント育成:長期的なキャリア形成を支援するため、人生や職業の節目ごとに体系的な学びを繰り返す取り組み。教養から専門知識まで幅広く学び、業務や人生全般に役立つ力を高める。
  • リスキリング:技術革新や事業変化に伴い、新しい業務を遂行するためのスキルを短期間で習得する取り組み。実務直結型で成果までのスピードが求められる。
比較ポイント

両者を区別するための主な比較ポイントは以下の通りです。

項目リカレント育成リスキリング
主な目的長期的キャリア形成、知的基盤の強化新業務への即時対応
学習範囲専門知識+教養+汎用スキル実務に直結する専門スキル    
学習期間数か月〜数年数週間〜1年程度
対象者全社員(特に中堅・管理職)業務転換予定者 
成果指標    能力の総合向上、キャリア持続新業務の習熟度
適用シーンの違い
  • リカレント育成の適用例:中堅社員が経営大学院に通い、将来の管理職や経営幹部に備える/技術職が新たな分野(AI、環境技術など)を体系的に学び、研究開発力を高める
  • リスキリングの適用例:製造現場の社員がIoT機器操作やデータ分析スキルを習得し、新たな製造ラインを担当/営業職がオンラインマーケティングやデジタル広告運用を短期集中で学びDX営業にシフト
企業が混同しやすい理由

両者は「スキルアップ」「学び直し」という共通ワードで説明されることが多く、メディア記事や研修パンフレットでも区別が曖昧な場合があります。特に以下の点で混同が生じやすい傾向があります。

  • 学習の最終目的を明示せずに制度を設計している。
  • 対象者が重なっており、どちらの施策でも活用できるスキル領域がある。
  • 期間や内容が柔軟で、境界がぼやけるケースがある。
併用のメリット

実際の人材戦略では、リカレント育成とリスキリングを併用することが多くあります。例えば、全社員に対しては長期的なリカレント育成プログラムを用意し、特定部門の急な業務変化にはリスキリング研修を実施する、という方法です。これにより、長期的な能力基盤の強化と短期的な業務対応力向上を両立できます。

リカレント育成のメリットとデメリット

リカレント育成は、生涯にわたって学びと就業を繰り返すことで、個人の能力を継続的に高める取り組みです。企業にとっては人材競争力を維持する重要な戦略ですが、導入や運用には利点と同時に課題も存在します。本章では、企業・従業員双方の視点からメリットとデメリットを整理します。

メリット
  1. 組織の知的基盤強化
    リカレント育成により、社員は最新の知識や技術、業界動向を体系的に吸収できます。特に技術革新が早い分野では、過去の知識が陳腐化しやすく、定期的な学び直しが組織全体の競争力を保つ鍵となります。
  2.  長期的なキャリア形成支援
    従業員が中長期的な視点でキャリアを描けるようになり、社内における役割やポジションの選択肢が広がります。これにより、離職率の低下や社内異動の活性化が期待できます。
  3. イノベーションの創出
    異なる分野や新しい知識を学ぶことで、既存業務との組み合わせから新たな発想やサービスが生まれやすくなります。これは、事業多角化や新規事業創出にも寄与します。
  4. 社員エンゲージメントの向上
    企業が継続的な学習機会を提供することで、「自分は会社から期待されている」という意識が醸成され、モチベーション向上につながります。
デメリット
  1.  コストと時間の負担
    長期的なプログラムは、受講料や外部講師費用、受講中の業務代替要員確保など、企業にとって金銭的・人的コストが大きくなります。
  2. 即効性の欠如
    リカレント育成は中長期的な効果を狙うため、成果が現れるまで時間がかかります。短期的な業務改善には向かない場合があります。
  3. モチベーション維持の難しさ
    数か月〜数年にわたる学習期間では、受講者のモチベーションを維持する工夫が必要です。特に業務と並行して学ぶ場合、負担感から離脱するケースもあります。
  4. 活用機会のミスマッチ
    学び直しで得た知識やスキルが、すぐに現職で活かせない場合があります。職務設計や配置計画とセットで進めなければ、投資対効果が低下します。

リカレント育成の支援制度とは

リカレント育成を推進するうえで、企業や個人が利用できる公的・民間の支援制度は年々拡充しています。特に政府は、労働市場の変化と人材の流動性向上を背景に、社会人の学び直しを後押しするための助成金や教育制度を整備しています。本章では、日本国内で利用できる主要制度と、企業独自の支援事例を紹介します。

公的支援制度

(1)教育訓練給付制度(厚生労働省)

教育訓練給付制度は、雇用保険の被保険者または離職者が対象で、厚生労働大臣が指定する講座を受講した際、受講費用の一部が給付されます。種類は以下の3つです。

  • 一般教育訓練給付金:受講費用の20%(上限10万円)を支給。
  • 専門実践教育訓練給付金:受講費用の最大70%(上限年間56万円、最長3年間)を支給。主に大学院や専門職大学など長期的な学びに対応。
  • 特定一般教育訓練給付金:指定された専門性の高い講座に適用され、受講費用の40%を支給。

(2)人材開発支援助成金

企業が従業員に対して職業訓練を実施する場合に、訓練経費や訓練中の賃金の一部を助成する制度です。リカレント育成に該当する長期的な研修も対象となります。特にデジタル分野や生産性向上に資する訓練は優先的に支援されます。

(3)社会人向け大学・専門職大学院

文部科学省は社会人の学び直しを促進するため、夜間・週末開講やオンライン対応の大学院コースを拡充しています。MBA、MOT(技術経営)、教育学、福祉分野など多様な選択肢が用意されています。

民間・自治体の支援

(1)企業連携型研修

複数の企業が共同で教育機関と提携し、業界横断型のリカレント教育プログラムを実施するケースが増えています。これにより、コスト削減と受講者間のネットワーキングが可能になります。

(2)自治体の補助金制度

地域の産業振興や雇用安定を目的に、自治体独自で学び直し支援を行う場合があります。受講費用の一部負担や、地域産業に特化した講座の開講などがその例です。

企業独自の支援事例

(1)学習費用補助制度

社員が業務関連の資格取得や大学院進学を希望する場合、費用の全額または一部を会社が負担します。特にグローバル企業では、海外MBA派遣や国際資格取得支援が一般的です。

(2)長期休業制度

リカレント育成のための留学や集中研修を受ける社員に対し、数か月〜数年の休職を認める制度。復職後のキャリアパスも事前に設計されることが多く、離職リスクを減らせます。

(3)オンライン学習プラットフォーム契約

社員が自主的に学べるよう、UdemyやLinkedIn Learningなどの有料オンライン講座を全社契約し、自由に利用できる環境を整備する企業も増えています。

支援制度活用のポイント

制度を活用する際の注意点は、目的と受講内容の一致です。助成金や給付金は対象講座や条件が細かく規定されており、制度申請のタイミングを逃すと利用できないことがあります。また、企業側は制度利用と業務計画を連動させ、受講後の活用場面を明確にしておくことが効果最大化の鍵となります。

リカレント育成の事例

リカレント育成は、企業の規模や業種を問わず導入が進んでいます。ここでは国内外の代表的な事例を取り上げ、具体的な取り組みとその成果を紹介します。

国内企業の事例

(1)大手製造業A社:技術革新対応型リカレントプログラム

A社では、製造ラインの自動化・ロボット化が進む中で、中堅・ベテラン技術者の再教育を実施。対象社員は年齢に関係なく、週2回、半年間にわたってIoTやAI制御の基礎を学びました。加えて、現場OJTと連動したプロジェクト課題を設定し、受講内容をすぐ実務に反映できるよう設計しました。その結果、新設備の稼働率向上や不良率低減に貢献し、教育投資効果が数値で示されました。

(2)金融業B社:MBA派遣制度

B社は次世代経営層の育成を目的に、毎年数名を海外MBAプログラムに派遣。学費や渡航費は全額会社負担とし、帰国後は経営企画や新規事業部門に配属されます。この制度は20年以上続いており、経営幹部の約3割が同制度出身者という実績があります。

(3)IT企業C社:オンライン学習プラットフォーム全社導入

C社では、社員が必要な時に必要なスキルを習得できるよう、Udemy Businessと提携。利用状況を人事部がモニタリングし、学習データを昇進や評価の参考情報として活用しています。結果として、自発的な学習文化が定着し、離職率低下にも寄与しました。

海外企業の事例

(1)米国大手小売D社:退職後も利用可能な教育制度

D社は従業員が退職しても、一定期間はリカレント教育プログラムを利用できる仕組みを提供。これにより、退職者とのネットワーク維持やブランド価値向上につながっています。

(2)北欧E社:完全給与保障型の長期学習休暇

E社は、社員が最大1年間、全額給与保障で学び直しに専念できる制度を導入。復職後は新たな職務やプロジェクトに就くことが前提で、制度利用率は毎年10%以上を維持しています。

共通する成功要因

各事例に共通するのは、以下のポイントです。

  • 目的の明確化:単なる研修ではなく、事業戦略や人材計画と直結している。
  • 業務との連動:学習内容を現場に活かす仕組みがある。
  • 制度の持続性:単発ではなく、継続的に実施できる仕組みを構築している。

リカレント育成を行う際のポイント

リカレント育成を成功させるには、単に教育機会を提供するだけでは不十分です。企業戦略、人材ポートフォリオ、現場ニーズを踏まえ、制度設計から運用、評価までを一貫して行う必要があります。本章では、導入・実施時に押さえておきたい5つのポイントを解説します。

1. 目的の明確化と戦略的整合性

リカレント育成は長期的な取り組みであり、効果が出るまでに時間がかかります。そのため、制度を開始する前に「何のために実施するのか」を明確に定義することが不可欠です。たとえば、DX推進のためのデジタル人材育成、グローバル展開に対応できる経営幹部候補の育成など、企業の中長期戦略と一致させる必要があります。

2. 対象者の選定と柔軟な参加枠

全社員を対象とする場合もあれば、特定層(中堅・管理職、技術職など)に絞る場合もあります。重要なのは、社員のライフステージやキャリア志向に合わせて柔軟な参加枠を設定することです。選抜制と希望制を組み合わせ、モチベーションの高い人材を優先しつつ、多様な層に門戸を開く仕組みが望ましいです。

3. 学習方法の多様化

リカレント育成では、オフライン研修、オンライン講座、OJT、プロジェクトベース学習などを組み合わせることで効果が高まります。特にオンラインと対面のハイブリッド形式は、業務との両立や参加率向上に有効です。

4. 現場との接続

学びを現場業務に反映できる仕組みを用意することが、制度の価値を高めます。たとえば、受講後に社内プレゼンや業務改善提案を義務付けたり、新しいプロジェクトへの参加機会を与えるなどが効果的です。

5. 成果測定とフィードバック

制度の効果を可視化するために、学習前後でのスキル評価や業務成果の変化を測定します。受講者からのフィードバックも定期的に収集し、プログラム改善に活かします。

成功のための補足ポイント
  • 経営層の関与:トップマネジメントが重要性を理解し、積極的に支援することで社内の理解が進みます。
  • 社内広報の活用:成功事例や受講者の声を社内報やSNSで発信し、学びの文化を醸成します。
  • 制度の持続性確保:短期的な流行で終わらせず、年度ごとの予算計上や外部パートナーとの長期契約を行う。

リカレント育成の導入の流れ

リカレント育成は、制度設計から運用まで一貫性を持たせることが成功の鍵です。ここでは、企業が実際に導入する際の一般的なプロセスを6つのステップに分けて解説します。

ステップ1:現状分析と課題抽出

まず、自社の事業戦略、人材構成、スキルマップを分析します。現在の人材に不足している能力や、将来的に必要となるスキルを洗い出すことが出発点です。ここでは、人事部門だけでなく各部門の管理職や現場の声も反映させることが重要です。

ステップ2:目的設定と対象者選定

リカレント育成の目的を明確化します。DX推進、グローバル化対応、管理職育成など、目的によって対象者やプログラム内容が変わります。対象者は年齢や職種に限定せず、意欲や適性も考慮しましょう。

ステップ3:プログラム設計

期間、学習方法、学習内容を設計します。外部教育機関やオンラインプラットフォームとの連携を検討するほか、社内講師制度の活用も有効です。学びを業務に直結させるため、ケーススタディやプロジェクト型学習を盛り込みます。

ステップ4:制度整備と支援策

費用補助、学習時間確保、休業制度など、受講者が学びに専念できる環境を整えます。公的助成金や教育訓練給付金の活用も併せて検討します。

ステップ5:実施とフォローアップ

プログラム実施中は、進捗確認や学習支援を行います。メンター制度や学習コミュニティを活用し、モチベーション維持を図ります。終了後は受講者が成果を発表し、社内共有する機会を設けると効果的です。

ステップ6:評価と改善

制度の効果を定量・定性の両面から評価します。スキル向上度、業務改善効果、離職率変化などのKPIを設定し、結果を次年度のプログラム改善に反映します。

リカレント育成を行う際の注意点

リカレント育成は長期的な投資であり、制度設計や運用を誤ると効果が薄れてしまいます。以下では、導入・運用時に特に注意すべきポイントを6つに整理します。

1. 業務負担との両立

長期的な学びは、通常業務との両立が大きな課題になります。業務調整が不十分なまま受講を始めると、学習時間の確保が難しく、成果が出にくくなります。事前に業務分担や代替要員を確保することが必要です。

2. 目的と学習内容のミスマッチ

学習内容が企業戦略や受講者のキャリア目標と一致していない場合、投資効果が低くなります。プログラム選定時には、事業計画や部門ニーズに合致しているかを確認するプロセスを必ず設けましょう。

3. モチベーション維持

数か月〜数年に及ぶ学習では、モチベーションが中だるみしやすい傾向があります。定期的な進捗確認、社内での成果発表、上司からのフィードバックなど、学習を継続する仕組みを組み込みます。

4. 成果の可視化不足

学習効果が見えにくいと、経営層や他部署からの理解が得られにくくなります。スキル評価や業務改善事例など、成果を可視化し、社内外に共有することが制度継続の鍵です。

5. 一律設計のリスク

全社員に同じプログラムを提供する「画一型」設計は、多様なニーズに対応しづらくなります。対象者ごとにレベルや目的に応じたカスタマイズを行い、柔軟性を確保しましょう。

6. 単発で終わらせない

一度きりの研修で終わらせると、知識やスキルが定着せず効果が薄れます。学び直しをキャリア全体のプロセスに組み込み、継続的に実施する仕組みを構築することが重要です。

 

まとめ

リカレント教育とリスキリングは、いずれも社会人がスキルや知識を更新するための有効な手段ですが、その目的や適用範囲は異なります。リカレント教育は、長期的なキャリア形成や人生設計を視野に入れ、学び直しを通じて幅広い能力を高めるアプローチ。一方でリスキリングは、DX推進や新事業対応など、比較的短期的かつ具体的な業務変化への対応を目的とする傾向があります。企業がこれらを効果的に活用するには、自社の事業戦略や人材ポートフォリオを踏まえ、必要なスキルセットと学習機会を明確にすることが不可欠です。

本コラムではメリット・デメリット、支援制度、事例、導入プロセス、注意点を整理しましたが、実際の導入には各企業の文化や現場ニーズに合わせたカスタマイズが求められます。変化の速いビジネス環境で競争力を維持するためには、単なる研修制度の提供ではなく、従業員が自発的に学び続けられる環境づくりが重要です。今こそ、自社にとって最適な学びの形を設計し、未来の成長基盤を築く一歩を踏み出すべき時です。

 

 

監修者

髙𣘺秀幸
髙𣘺秀幸株式会社秀實社 代表取締役
2010年、株式会社秀實社を設立。創業時より組織人事コンサルティング事業を手掛け、クライアントの中には、コンサルティング支援を始めて3年後に米国のナスダック市場へ上場を果たした企業もある。2012年「未来の百年企業」を発足し、経済情報誌「未来企業通信」を監修。2013年「次代の日本を担う人財」の育成を目的として、次代人財養成塾One-Willを開講し、産経新聞社と共に3500名の塾生を指導する。現在は、全国の中堅、中小企業の経営課題の解決に従事しているが、課題要因は戦略人事の機能を持ち合わせていないことと判断し、人事部の機能を担うコンサルティングサービスの提供を強化している。「仕事の教科書(KADOKAWA)」他5冊を出版。コンサルティング支援先企業の内18社が、株式公開を果たす。

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