近年、組織を取り巻く環境の変化により、管理職に求められる「マネジメントの力」が大きく変わりつつあります。単に部下を管理するだけでなく、成果を出すチームをつくるための戦略的な視点や、関係構築力、そして個々の成長を支援する育成力がより一層重視されるようになっています。
本コラムでは、「マネジメントとは何か?」という基本的な問いからスタートし、管理職に求められるスキルや具体的な業務内容、よくある課題とその対応方法までを幅広く解説します。管理職自身はもちろん、人事部門としてマネジメント力の育成支援を考える方にも役立つ情報をお届けします。
< このコラムでわかる3つのポイント >
1.管理職に求められるマネジメントの本質とその具体的な役割
2.マネジメント力を高めるために必要なスキルと日常での実践方法
3.現場で直面しやすいマネジメント課題とその解決アプローチ
Contents
そもそもマネジメントとは
マネジメントという言葉は広く使われている一方で、その意味や本質について正確に理解されていないことも少なくありません。ここでは、管理職にとってのマネジメントの定義や役割について整理し、その重要性を明らかにしていきます。
マネジメントの定義とは
マネジメントとは、組織やチームが目的を達成するために、人や資源、時間などを効果的に活用し、成果を最大化するプロセスを指します。特に管理職にとってのマネジメントは、単に業務を「管理」することではなく、部下や組織全体を巻き込みながら、目標に向けて導いていく包括的な活動です。
語源から見たマネジメントの本質
マネジメントの語源は、ラテン語の「manus(手)」に由来し、「操る」「扱う」という意味を持ちます。つまり、マネジメントとは何かを手で扱うようにコントロールする行為を表しており、現代においては「人・モノ・時間・情報」など多様な資源を活用する役割を担っています。
現代の組織におけるマネジメントの重要性
管理職においてこの概念が重要視される理由は、現代の組織が複雑化・多様化しているためです。例えば、リモートワークや副業解禁、ダイバーシティの推進など、働き方や価値観が多様になっている中で、従来型の指示命令型の「管理」だけでは組織を機能させることが難しくなっています。そのため、管理職には「人を活かし、チームとして成果を上げる」ためのマネジメント力が求められているのです。
マネジメントが求める多面的なスキル
マネジメントは「対人関係」に限らず、「目標の設定と進捗管理」「リソース配分」「業務プロセスの最適化」など多面的な要素を含みます。これはプレイヤーとしての個人の成果を出すのとは異なり、他者を巻き込みながらチーム全体としてパフォーマンスを発揮させる力が必要であることを意味しています。
管理職に求められる視点の転換
例えば、部下が仕事に対してモチベーションを持てず、成果が出ない状況があったとします。このとき、管理職は単に叱責や業務指示を行うのではなく、「なぜそうなっているのか」「本人の強みをどう活かすか」「どうすれば本人の納得感を得ながら成果につなげられるか」といった視点で介入する必要があります。これはまさに、マネジメントの本質に通じる部分です。
リーダーシップとの違いと共存
ここで注意すべき点は、マネジメントとリーダーシップが混同されがちであることです。マネジメントは「計画・組織化・指揮・統制」など、ある種の仕組みやプロセスの運用を重視するのに対して、リーダーシップは「ビジョンの提示」「組織の方向づけ」「影響力の行使」といった人間的な側面に重きを置くものです。両者は相反するものではなく、現代の管理職にはどちらの要素も求められます。
組織と自身を成長させる力としてのマネジメント
最後に、マネジメントを理解することは、管理職自身の成長にも直結します。単に自分の成果を出すことから、他者の成果を引き出す段階へと役割が変化する中で、マネジメントという概念を深く理解し、実践していくことが、組織全体の成長にもつながるのです。
マネジメントの種類とそれぞれの特徴

マネジメントと一口に言っても、その種類は多岐にわたります。ここでは、組織内で管理職が担うべき代表的なマネジメントの種類と、それぞれの特徴・目的について整理します。自身の役割に適したマネジメントの理解が、的確な行動につながります。
マネジメントの分類とは
マネジメントにはさまざまな観点からの分類がありますが、特に管理職に関係が深いのは、以下のような「機能別マネジメント」と「階層別マネジメント」です。それぞれが異なる役割を持ち、求められるスキルも異なります。
マネジメントの種類 | 目的・役割 | 主な対象 |
---|---|---|
業務マネジメント | 業務遂行の効率化と成果の最大化 | プロジェクト、タスク |
人材マネジメント | 部下の成長支援、配置、評価 | 部下・チームメンバー |
組織マネジメント | 組織構造や文化、目標の設計・調整 | 部署、部門、企業全体 |
情報マネジメント | 情報の収集・共有・活用による意思決定の質向上 | 社内データ、ナレッジなど |
リスクマネジメント | トラブル・損失の回避と事前予防策の構築 | 全社的リスク、法令対応等 |
階層別に見るマネジメントの特徴
管理職のマネジメントは、その役職や組織階層によって求められる内容が異なります。以下は、代表的な3つの階層におけるマネジメントの違いです。
- ミドルマネジメント(中間管理職):組織戦略と現場実務をつなぐ役割。方針の落とし込み、部門間の調整、部下育成など。
- トップマネジメント(経営層):全社戦略の策定、ビジョンの提示、企業文化の醸成など組織の方向性を示す役割。
- ロワーマネジメント(現場の管理者):日常業務の進捗管理や現場レベルでのチームマネジメントを担う。
例えば、現場に近いロワーマネジメントでは、個別の業務管理やメンバーとの日常的なコミュニケーションが求められますが、ミドル以上になると「部署全体」「部門の目標」など、より大きな視点でのマネジメントが必要になります。
マネジメントの種類を正しく理解する意義
自身が担っているマネジメントの種類とその目的を正しく理解していないと、行動の優先順位や部下への関わり方が曖昧になります。例えば、人材マネジメントが重要な状況で、業務マネジメントばかりに意識を向けてしまえば、部下のモチベーションや能力開発に悪影響を与える恐れがあります。そのため、管理職は「今、何をマネジメントすべきか」を常に明確にしながら業務に取り組むことが求められます。
各マネジメント領域のつながりを意識する
実際の業務では、これらのマネジメントは明確に分断されているわけではなく、相互に影響を与え合っています。例えば、業務マネジメントを効率化するためには、情報マネジメントの改善が必要であったり、人材マネジメントによって部下のスキルを高めることで、組織マネジメントが円滑に進むこともあります。したがって、マネジメントは「複合的かつ動的な活動」であるという前提を持ち、1つの領域だけに偏らずにバランスを取る視点が重要です。
管理職マネジメントの具体的な仕事内容
管理職に昇進したものの、何をどうマネジメントすればよいのか、業務の具体像が曖昧だと感じる方も多いでしょう。ここでは、管理職が担うマネジメントの実務を体系的に整理し、日常的な業務の全体像を明らかにします。
管理職の主な役割とは
管理職のマネジメント業務は、「人」「業務」「組織」の3つを軸に展開されます。それぞれの領域に対し、戦略的かつ実務的に対応することが求められます。
領域 | 主な業務内容 |
---|---|
人材管理 | 部下の指導・育成、評価、メンタルケア、キャリア支援など |
業務管理 | 目標設定、進捗管理、業務分担、業務改善、問題解決 |
組織管理 | チームの方向性づけ、部署間調整、会議運営、業務フロー設計、文化形成など |
1.「人材」のマネジメント業務
部下一人ひとりの強みや課題を把握し、最適な役割を与えることが基本です。また、成長支援のためのフィードバックや1on1ミーティング、メンタルヘルスへの配慮も不可欠です。単なる作業指示にとどまらず、「その人をどう成長させるか」という視点が必要です。例えば、スキルの不足を責めるのではなく、育成計画を立てたり、外部研修を提案するなど、前向きな関わりがマネジメント力を高めます。
2.「業務」のマネジメント業務
チームや部署の目標を達成するためには、業務をいかに効率よく回すかが鍵となります。進捗管理や課題抽出、リソース配分、優先順位の調整など、実行力が問われます。ここで重要なのは、ただ作業を管理するだけではなく、「なぜそれをやるのか」「この順番で良いのか」といった、業務の意味づけや再設計が含まれることです。
3.「組織」のマネジメント業務
自部署だけではなく、他部署との連携、組織方針との整合性もマネジメント対象になります。部署間の調整や業務フローの改善提案、チームビルディングなど、全体最適の視点が求められます。また、組織文化の形成や、行動指針の浸透といった“見えにくい領域”も管理職の重要な役割です。価値観やマインドセットの共有を通じて、組織全体の動きを円滑にします。
プレイングマネージャーの課題
中小企業や現場部門では、管理職がプレイヤー業務も担う「プレイングマネージャー」として活動することが一般的です。この場合、プレイヤー業務とマネジメント業務のバランスが大きな課題になります。
例えば、自分の作業に集中しすぎると、部下の状況把握が疎かになります。一方で、マネジメントに偏りすぎると、実務が回らなくなる恐れがあります。時間配分と優先順位づけのスキルが必要です。
目的を見失わないことが重要
どの業務においても、「目標を達成するためのマネジメント」であることを忘れてはなりません。目の前の仕事に追われていると、つい手段が目的化してしまいます。管理職は、常に「この行動が組織目標にどう貢献しているのか?」という問いを持ち続けるべきです。
管理職マネジメントに必要なスキル
マネジメントを機能させるには、管理職としての「在り方」だけでなく、具体的なスキルが求められます。ここでは、管理職に必要とされるマネジメントスキルを体系的に紹介し、なぜそのスキルが重要なのかを実務の視点から解説します。
スキルの全体像を把握する
管理職に必要なスキルは多岐にわたりますが、大きく分けると「対人スキル」「業務遂行スキル」「自己管理スキル」「戦略思考スキル」の4つに分類されます。以下の表でその概要を確認しましょう。
スキルカテゴリ | スキル内容(例) | 説明 |
---|---|---|
対人スキル | コミュニケーション力/傾聴力/フィードバックスキル | 部下との信頼関係構築や育成、モチベーション向上に不可欠 |
業務遂行スキル | 目標設定力/課題解決力/タスクマネジメント | チームとしての業務達成や効率的な遂行に必要 |
自己管理スキル | 感情コントロール/時間管理/セルフモチベーション | 長期的に安定して成果を出すための自己統制力 |
戦略思考スキル | 論理的思考/全体最適志向/組織目標との整合性を考える力 | 日々の判断を戦略的視点から導き、ブレない方針を打ち出す力 |
1.対人スキルの重要性
マネジメントにおいて最も基礎となるのが、対人スキルです。特に、部下とのコミュニケーションがうまく取れない管理職は、どれだけ高い業務スキルがあっても信頼を得られません。例えば、フィードバック一つ取っても、「成果だけを評価する」のではなく、「努力や過程も認める」姿勢が部下の意欲を引き出します。また、相手の話を途中で遮らず、しっかり傾聴することも信頼関係を構築する基本です。
2.業務遂行スキルでチームを動かす
業務のマネジメントに必要なのは、明確な目標設定とその達成に向けた実行力です。特に、部下のタスク管理や進捗確認を的確に行う力が、チーム全体の生産性を左右します。例えば、部下一人に業務が偏っていないか、リスクが潜んでいないかを常にチェックする視点が必要です。そのうえで、課題が発生したときには迅速に対応策を考え、解決へ導く能力も問われます。
3.自己管理スキルは管理職の「安定感」を支える
自分の感情や行動を適切にコントロールできる管理職は、周囲からの信頼を得やすく、部下に安心感を与えます。忙しい中でも冷静に判断し、感情的にならないことは、チーム全体の雰囲気にも好影響を与えます。また、時間管理も非常に重要です。プレイングマネージャーである場合、プレイヤーとしての業務とマネジメント業務の時間配分が成果に直結するため、自律的にスケジュールを管理する力が求められます。
4.戦略思考スキルで“先を読む力”を身につける
日々の業務に追われていると、目の前の課題にばかり目が向いてしまいがちです。しかし、管理職には「この判断が3ヶ月後、半年後にどう影響するか」を考える視野の広さが必要です。例えば、目の前の数値目標を達成するために無理な人員配置をした結果、半年後に離職が増えてしまっては本末転倒です。長期的な視点で戦略的な選択を行う力は、経験と意識の積み重ねで養われます。
管理職がマネジメントを高める方法

マネジメントスキルは、持って生まれた能力ではなく「習得と実践」で伸ばせるものです。ここでは、管理職が日々の業務の中でマネジメント力を高めるために取り組むべき具体的な方法を、段階別に解説します。
マネジメント力向上のステップとは
マネジメント力を高めるには、「理解」「実践」「振り返り」「改善」という4つのステップを意識することが有効です。それぞれを繰り返すことで、実践的なスキルとして定着していきます。
ステップ | 具体的な取り組み例 | 目的 |
---|---|---|
理解する | 書籍・研修・eラーニングで知識を学ぶ | マネジメントの理論と手法を体系的に知る |
実践する | 学んだ内容を現場で使ってみる | 実務における適用力を養う |
振り返る | 振り返りノートや上司・同僚とのレビューを行う | 成功と失敗の原因を明確にする |
改善する | フィードバックをもとに手法を調整し再挑戦する | マネジメントの精度と柔軟性を高める |
日常の中でできる3つの実践方法
マネジメント力向上は、特別な時間を取らなくても、日々の業務の中で習慣的に行うことが可能です。以下は特に有効な3つの方法です。
- 1on1ミーティングを活用する
定期的な1on1は、部下の状態把握や育成、関係構築に役立ちます。ただ話すだけでなく、「部下が何を考えているのか」を深掘りする質問力が鍵となります。
- フィードバックを習慣化する
良い点も改善点も、タイムリーに伝えることが成長につながります。日々の小さな行動に目を向け、適切な言葉でフィードバックする習慣を持つことが大切です。
- 目標と行動を紐づけて可視化する
目標だけを伝えても、行動に落とし込まれなければ意味がありません。目標→行動→進捗の流れを明文化・共有することで、マネジメントが形になります。
外部リソースを活用する
自己流だけでは伸び悩むこともあります。その場合は、社内外のリソースを活用するのが効果的です。例えば、人事部が提供する研修や、外部のマネジメント研修、コーチング、読書会などがあります。また、近年ではオンラインで完結できるeラーニングや動画講座も充実しています。時間の制約がある中でも、自分のペースで学習を継続することが可能です。
管理職同士の対話も成長の鍵
同じ立場の管理職同士で悩みや実践事例を共有する場は、学びの宝庫です。他部署の視点に触れることで、自身の視野が広がり、思わぬ発見やヒントを得られることもあります。例えば、定例のマネジメント勉強会や、クロスファンクショナルな情報交換会などは、実務に即した成長機会として非常に有効です。
小さく始めて継続する
最も重要なのは、「完璧にやろう」とせず、できることから一歩ずつ実践する姿勢です。例えば、毎日5分だけでも部下と対話する時間を作る、会議のファシリテーションを意識する、など小さな積み重ねが大きな変化につながります。マネジメントは一朝一夕で習得できるものではありません。だからこそ、継続と改善を楽しむ気持ちが、結果として「力」になるのです。
管理職マネジメントのよくある課題と対策
管理職としてマネジメントに携わる中で、多くの人が共通して悩む課題があります。ここでは、よくあるマネジメント上の課題をテーマ別に整理し、それに対する具体的な対策や対応方法を紹介します。
マネジメントにおける代表的な課題とは
管理職が直面する課題は、主に「部下との関係性」「業務とマネジメントの両立」「組織間の調整」「目標未達」などに分類できます。以下の表に代表的な課題と対策例をまとめました。
課題 | 原因の一例 | 有効な対策 |
---|---|---|
部下との信頼関係が築けない | 一方的な指示、傾聴不足 | 定期的な1on1、共感を示す対話の実施 |
チームの成果が安定しない | 業務の属人化、目標の不明確さ | 業務の可視化、明確なKPI設定 |
プレイングとマネジメントの両立が困難 | プレイヤー業務の比重が大きい | タスクの棚卸し、委任可能業務の明確化と部下への委譲 |
他部署との連携がうまくいかない | 目的や情報の共有不足 | 定例ミーティングの設定、共通目標の設定と合意形成 |
組織目標が未達でモチベーションが低下する | 過度な負荷、短期成果への偏重 | 中間目標の設定、成果プロセスを評価に組み込む仕組みづくり |
1.部下との関係性がうまく築けない
部下との信頼関係の構築に悩む管理職は多く、コミュニケーション不足がその根本原因であることが少なくありません。ただし、頻繁に話しかければいいというわけではなく、「信頼される対話」が重要です。例えば、部下の発言を遮らずに聞き切る姿勢や、業務以外の話題で心の距離を近づけることも信頼構築には有効です。1on1ミーティングは単なる業務確認の場ではなく、「相手を理解する場」として設計しましょう。
2.プレイング業務との両立に悩む
多くの管理職が、マネジメント以外にもプレイヤーとしての業務を抱えており、時間や意識のバランスに苦しんでいます。この問題の対処には、「やらない業務」を明確にする勇気が必要です。タスクをすべて抱え込まず、「自分がやるべきこと」「他のメンバーに任せられること」を定期的に整理することが重要です。部下の成長の機会と捉え、段階的に業務を委譲する習慣を持つと、マネジメントに集中できる環境が整ってきます。
3.チーム成果のバラつきが大きい
成果が安定しない理由は、メンバーの属人化や評価基準の不統一が多く見られます。個々の力量に頼る体制では、長期的なチーム力の構築は困難です。業務プロセスを文書化・共有し、KPIを明確に設定することで、目標に向けた共通の方向性が生まれます。また、業務改善やナレッジ共有の場を設けることも、成果の再現性を高めるために有効です。
4.組織間連携がうまくいかない
部署をまたぐ調整は、立場や目的の違いから対立を生むこともあります。重要なのは、共通の目的と情報を「共有する機会」を意識的に作ることです。例えば、プロジェクトキックオフや定例会議で「なぜこの連携が必要なのか」を丁寧に説明するだけでも、連携の質が大きく変わるケースがあります。単なる作業調整に終わらず、目的の共有を起点にした関係性構築がカギとなります。
5.成果が出ず、メンバーのモチベーションが低下
「頑張っているのに評価されない」「目標が遠すぎて実感が湧かない」といった状況が続くと、チーム全体の士気は大きく下がります。対策としては、達成感を感じやすい中間目標を設定し、小さな成功体験を積み上げることが重要です。また、評価制度が成果主義に偏っている場合は、「努力」「プロセス」「貢献度」といった視点も評価軸に取り入れることで、やる気を引き出すきっかけになります。
マネジメント力が高い人の特徴
マネジメントの成果には、管理職の「質」が大きく影響します。ここでは、マネジメント力が高い人に共通する行動や考え方の特徴を紹介します。自分自身のマネジメントスタイルを見直すヒントとしてご活用ください。
組織の中で「信頼されている」
マネジメント力が高い人のもっとも大きな特徴の一つは、部下・上司・他部署など、あらゆる関係者から信頼されているという点です。これは単なる人気や好感度とは異なり、「約束を守る」「言動が一貫している」「誠実な姿勢を貫く」といった日常的な行動の積み重ねによって築かれます。例えば、会議の時間を守る、部下の発言を否定しない、意見を聞いた上で判断を下すなど、小さな行動が信頼を生む要因になります。
目的と手段を混同しない
マネジメントがうまくいかない管理職は、手段が目的化しているケースが多く見られます。一方、マネジメント力が高い人は「目的=組織の目標達成」「手段=業務や手法」と切り分けて考えることができ、状況に応じて柔軟に対応します。例えば、KPIが未達であっても、それが「目標に向かうプロセスの一部」と認識できれば、焦らず建設的に行動できます。状況を俯瞰し、「今、何のためにこの業務を行っているのか?」を常に意識しています。
部下の強みを活かして成果を出す
マネジメント力が高い人は、自分の力で成果を出そうとはせず、チームの力を引き出すことに長けています。そのために部下一人ひとりの個性や強みを見極め、役割分担を最適化します。例えば、発想力のあるメンバーには企画を、慎重なメンバーには品質管理を任せるなど、個性に合わせた配置を行うことで、メンバーのパフォーマンスを最大化させます。
傾聴力と対話力が高い
コミュニケーションの質はマネジメントの成果に直結します。マネジメント力が高い人は、聞く力に優れており、相手の話を最後まで聞いたうえで反応する姿勢を徹底しています。また、伝える際にも「一方的に伝える」のではなく、「相手の立場に配慮した言い方」や「納得感を重視した説明」を意識しています。これにより、部下が心理的安全性を感じ、相談や提案がしやすい環境が整います。
フィードバックが的確である
マネジメント力が高い人は、フィードバックの精度とタイミングを大切にしています。成果が出た時には即座に認め、課題がある場合も責めるのではなく、改善に向けた具体的なアドバイスを行います。例えば、「○○の進め方は良かった」「次は△△を意識するともっと良くなる」といった形で、行動に焦点を当てた建設的なフィードバックを習慣化しています。
感情をコントロールできる
マネジメントの場面では、トラブルや思い通りにいかない状況が頻繁に発生します。マネジメント力が高い人は、こうした場面でも感情を爆発させることなく、冷静な対応を貫きます。これは、自分自身の感情やストレスと向き合い、適切に対処する「自己管理スキル」に裏打ちされています。感情の起伏が少ないことで、部下からの信頼や安心感も高まります。
学び続ける姿勢を持っている
変化の激しい現代では、過去の成功体験にとらわれず、継続的に学び続ける姿勢が重要です。マネジメント力が高い人ほど、自分のやり方に固執せず、他者の成功事例や最新の知見から柔軟に学んでいます。例えば、書籍・研修・セミナーなどを積極的に活用し、得た知識を即実践に活かす。このような“学びと実行のループ”を回し続けることで、常に自身のマネジメントをアップデートしています。
マネジメント力が低い人の特徴
「マネジメントがうまくいかない」「部下がついてこない」―こうした悩みの背景には、マネジメント力の不足が潜んでいます。ここでは、マネジメント力が低い人に共通する特徴を明らかにし、改善への第一歩となる視点を提供します。
指示命令型のコミュニケーションに偏る
マネジメント力が低い人に見られる典型的な傾向は、一方的な指示命令に偏ったコミュニケーションです。部下の話を聞かず、指示を出すだけでは、信頼関係は築けません。例えば、部下の意見や提案を「とにかくやれ」「あとで聞く」などと軽視すると、部下は「自分は必要とされていない」と感じ、やる気を失います。マネジメントは命令ではなく、双方向の対話が基本であることを忘れてはなりません。
業務の丸投げ・過干渉の両極端に陥る
マネジメント力が低い人は、任せきりか過干渉のどちらかに極端に偏る傾向があります。丸投げしてしまえば、部下は迷いや不安を抱え、逆に細かく干渉すれば、自律性が損なわれます。理想的なのは、「任せる範囲」と「伴走する範囲」を明確にし、必要に応じてサポートする姿勢です。例えば、新人には業務の背景から丁寧に説明し、ベテランには成果と期限だけを共有するなど、部下の成熟度に応じた対応が求められます。
自己中心的な判断をする
「自分のやり方が正しい」「自分の成果が最優先」と考えてしまう管理職も、マネジメント力が低い傾向があります。こうしたスタンスは、チームの協働意識を損ない、メンバーの主体性を削ぐ要因になります。例えば、会議で自分の意見ばかりを押し通し、他の提案に耳を貸さない。あるいは、成果を独り占めし、部下の貢献を認めない。こうした態度は、組織全体の雰囲気に悪影響を与えます。
目的や目標を示さない
「何のためにこの仕事をやるのか」が不明確な状態では、部下は納得感を持って動けません。マネジメント力が低い人は、業務の背景や全体像を伝えず、目の前の作業だけを押しつけてしまいがちです。部下が主体的に動くには、「なぜこの業務が重要なのか」「どんなゴールを目指しているのか」を、丁寧に共有することが必要です。目標のない状態では、努力が成果につながりにくくなります。
フィードバックがない、または否定的
成果が出たときも、改善点があるときも、何も言わない管理職はマネジメント力が低いと見なされます。さらに悪いのは、否定的なフィードバックばかり行うケースです。例えば、「そんなこともできないのか」といった人格否定に近い言葉を使えば、部下のモチベーションは一気に下がります。適切なフィードバックは、行動に焦点を当て、成長を促すものです。フィードバックは「支配」ではなく「支援」の姿勢が必要です。
自己評価と他者評価にギャップがある
自分では「うまくマネジメントしている」と思っていても、実際には周囲からの評価が低いケースがあります。これは、自己評価と他者評価のズレによるもので、フィードバックを受け入れる姿勢がないと、改善は難しくなります。マネジメント力を高める第一歩は、「自分は完璧ではない」という前提に立ち、周囲の声に耳を傾けることです。360度評価や、定期的なフィードバック面談を活用するのも有効です。
まとめ
管理職に求められるマネジメントの役割は、単なる「管理」から「成果を生むチームづくり」へと進化しています。マネジメントとは、部下を導き、目標に向けて組織全体を動かす力であり、その実践には多角的なスキルが必要です。特に、現代のマネジメントにおいては、コミュニケーション力や育成力、戦略的思考などが重要視されており、従来の業務管理的な視点だけでは十分とは言えません。
本コラムでは、マネジメントの基礎からスキル習得、課題解決の方法までを幅広く解説しましたが、実際の現場で活かすには継続的な実践と改善が求められます。人事部門においても、管理職のマネジメント力を育成・支援することは重要なテーマです。マネジメント力の強化は、組織全体の成果に直結する要素であり、人事施策の中心に据える価値があります。本コラムを通じて、自社の管理職育成やマネジメント力強化のヒントが得られたなら幸いです。
監修者

- 株式会社秀實社 代表取締役
- 2010年、株式会社秀實社を設立。創業時より組織人事コンサルティング事業を手掛け、クライアントの中には、コンサルティング支援を始めて3年後に米国のナスダック市場へ上場を果たした企業もある。2012年「未来の百年企業」を発足し、経済情報誌「未来企業通信」を監修。2013年「次代の日本を担う人財」の育成を目的として、次代人財養成塾One-Willを開講し、産経新聞社と共に3500名の塾生を指導する。現在は、全国の中堅、中小企業の経営課題の解決に従事しているが、課題要因は戦略人事の機能を持ち合わせていないことと判断し、人事部の機能を担うコンサルティングサービスの提供を強化している。「仕事の教科書(KADOKAWA)」他5冊を出版。コンサルティング支援先企業の内18社が、株式公開を果たす。
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