近年耳にすることが増えてきた、ティール組織とは何なのか?ティール組織モデルの詳細を解説します!
従来の組織構造との違い、成功の要因、導入事例、そして未来の展望を包括的にご紹介。自己管理、全体性、目的志向を重視した次世代型組織の可能性を探ります。
Contents
組織構造とは

なぜ「組織構造」が重要なのか?
あなたの会社では、「誰が何を担当しているのか」「誰に相談すればよいのか」が、はっきり見える状態でしょうか?
ビジネスの現場では、こうした“あたりまえ”の整理ができていないだけで、業務が滞ったり、無駄なトラブルが起こったりすることがあります。
この土台となるのが、「組織構造」です。
本記事は、経営者や人事担当者の方に向けて、「組織構造とは何か?」という基本から実務に役立つ要素までを、事例を交えて解説します。
組織構造とは?
組織構造とは、企業や団体がその目標を達成するために、人や業務をどう配置し、どう連携させるかを決める“しくみ”です。企業の戦略や規模、事業内容に応じて、構造の形はさまざまに変わります。
この構造が整っているかどうかで、組織の効率性・スピード・連携力は大きく左右されます。
組織構造が整っていると、こんなメリットが
- 誰が何をすべきかが明確になり、業務の無駄がなくなる
- 上司・部下の関係性がはっきりすることで、判断や対応が迅速に行えるようになる
- 情報の流れが整理され、現場の声や問題が上層部に届きやすくなる
たとえば、新しい市場に進出したり、新製品を開発したりするような変化の多い局面では、柔軟に対応でき、判断や行動が速い組織構造が成功のカギとなります。
組織構造を支える6つの要素
組織構造は、単に「部署をつくる」「階層を定める」だけではありません。以下のような要素がしっかり設計されてはじめて、組織はうまく機能します。
1.指揮命令系統
誰が誰に指示するのかを明確にする仕組みです。
混乱や責任のなすりつけを防ぎ、現場の動きをスムーズにします。
事例:トヨタ自動車
大手製造業のトヨタ自動車では、指揮命令系統が明確に定められています。製造ラインの現場では、現場監督がラインリーダーに指示を出し、ラインリーダーが作業員に具体的な作業内容を伝えるという階層的な構造が確立されています。これにより、製造過程がスムーズに進行し、品質管理も徹底されます。
2.職務分掌
誰が何を担当するのかを明確にし、役割を分けることです。
仕事の重なりや抜け漏れを防ぎ、チームワークが向上します。
事例:ヤマト運輸
物流企業のヤマト運輸では、職務分掌が明確に設定されています。営業部門は新規顧客の開拓や契約の締結を担当し、配送部門は荷物の集荷・配達を行います。また、管理部門は各部門のサポートや業務の調整を担当しています。このように明確な職務分掌により、各部門が効率的に機能しています。
3.報告系統
どの情報を、誰が誰に伝えるかを定める仕組みです。
情報の「伝わらない」「知らなかった」を防ぎます。
事例:ソフトバンク
IT企業のソフトバンクでは、プロジェクトマネージャーが週次ミーティングでチームの進捗状況を部門長に報告します。部門長はその情報を経営陣に伝え、必要な意思決定を行います。この報告系統により、プロジェクトの進行状況が全社的に共有され、問題が早期に発見・解決されます。
4.組織の文化
その組織らしさを形づくる、価値観や行動の“空気”です。
メンバーがどのように判断し、行動するかに影響を与えます。
事例:Google
Googleでは、風通しのよいコミュニケーションと、新しい発想や工夫を大切にする文化があります。社員は自由にアイデアを提案でき、業務時間のうちの20%を、自分の興味のあるプロジェクトに取り組むことが推奨されています。
こうした環境が、次々と新しい価値を生み出すサービスの開発を支えているのです。
5.ビジョン
組織が目指す未来の姿を明示したものです。
社員が「なぜこの仕事をしているのか」を理解できるようになります。
事例:テスラ
テスラのビジョンは、「持続可能なエネルギーの未来を加速すること」です。このビジョンに基づき、電気自動車の開発や再生可能エネルギーの普及に取り組んでいます。全社員がこのビジョンを共有し、持続可能な未来の実現に向けて努力しています。
6.ミッション
組織の存在意義や役割を示すものです。
日々の意思決定や行動の“軸”になります。
事例:ネスレ
ネスレのミッションは、「質の高い栄養を通じて、人々の生活の質を向上させること」です。このミッションに基づき、ネスレは世界中で高品質な食品や飲料を提供し、健康だけでなく、心の充実や暮らしの豊かさといった“心身ともに満たされた状態(=ウェルビーイング)の向上に貢献しています。
全社員がこのミッションを共有し、顧客に最高の価値を提供することに注力しています。
組織構造は「仕組み」であり「文化」でもある
これら6つの要素がバラバラではなく、一貫して設計されている組織は、環境の変化に強く、社員の力も引き出しやすくなります。
組織に必要な3つの要素

どれだけ立派なビジョンを掲げていても、実際に組織が動かなければ意味がありません。企業が戦略を実現し、目標に向かって一体となって進むためには、組織としてどのように人を活かすかという視点が不可欠であり、経営者にとっても重要なテーマです。
そのために必要な要素は数多くありますが、なかでも特に重要なのが、以下の3つです。
1.明確な目標設定 ― 組織の“進む方向”を示す
組織がバラバラの方向に進んでいては、どんなに優秀なメンバーが集まっていても成果は上がりません。そこでまず必要なのが「目標設定」です。
明確な目標は、組織の“羅針盤”のようなもの。方向性がはっきりすることで、各メンバーが自分の役割を理解し、チームとしての一体感が生まれます。また、目標に紐づいた業務の優先順位が明確になるため、戦略に基づいた行動がとれるようになります。
事例:あるIT企業の取り組み
この企業では、年間売上目標を「前年比120%」という具体的な数値で定めました。さらに、それを部門ごとに細かく分け、各チームに目標を割り当てています。
たとえば、新製品の開発にあたっては、「6月末までに試作品を完成させる」「7月中にユーザーテストを開始する」といった重要な節目(進捗の目安)をあらかじめ設定しています。
さらに、それぞれの節目に向けて行動計画を立て、3か月ごとに進み具合を確認・振り返る仕組みも整えています。
こうした取り組みにより、目標が単なるスローガンで終わることなく、日々の業務に具体的に落とし込まれ、現場の行動が戦略に直結しています。
2.効果的なコミュニケーション ― 情報は“血液”のように流れる
組織にとって、情報は血液のようなもの。うまく循環していなければ、誤解や停滞、モチベーションの低下を引き起こします。効果的なコミュニケーションは、組織の健全な運営に欠かせません。
意思疎通がスムーズになると、誤解が減り、意思決定が早まり、チーム間の信頼関係も深まります。特に、現場の声や課題が迅速に共有される仕組みがあることで、問題が早期に解決され、業務の流れがスムーズになります。
事例:グローバル企業での実践例
あるグローバル企業では、毎週のビデオ会議を通じて、各国のプロジェクトチームが状況を共有しています。会議では、進捗報告や課題の洗い出し、成功事例の共有などが行われ、各地域のチームが連携しやすい土壌が生まれています。
また、社内ではチャットツールを活用し、リアルタイムでフィードバックが行える環境も整備。プロジェクトマネージャーがチームから寄せられた声を定期的にまとめて共有することで、組織全体に透明性が生まれ、風通しの良い職場づくりに貢献しています。
3.適切なリソース管理 ― “人・モノ・金”の使い方が結果を分ける
いくら優れた戦略や目標があっても、それを実行するためのリソース(人材・時間・資金など)が適切に管理されていなければ、成果は期待できません。リソースをどれだけ適切に使いこなせるかが、組織の生産性を大きく左右します。
特に人的リソースの管理においては、「適材適所」の視点が重要です。スキルや経験に合った役割や担当業務に配置することで、メンバーの力を最大限に引き出すことができます。
事例:製造業における取り組み
ある製造業の企業では、プロジェクト管理ソフトを導入し、各工程でのリソース使用状況をリアルタイムで可視化しています。
たとえば、製造ラインに必要な人員配置を常に最適化することで、作業のムダを減らし、全体の生産効率を高めています。さらに、スタッフのスキルマップを作成し、定期的なトレーニングを実施。人材のレベルアップを図るとともに、繁忙期やトラブル時の柔軟な人員調整を可能にしています。
成果を生む組織は「シンプルだけど本質的」
目標が明確で、情報が行き交い、リソースが適切に活用されている――
この3つが揃った組織は、外的環境の変化にも柔軟に対応し、メンバーの力を無駄なく活かすことができます。
逆に、これらが曖昧なままだと、どれだけ人を増やしても、どれだけ時間をかけても、期待した成果にはつながりません。
組織がより強く、しなやかに進化していくために――。
まずはこの「3つの基本」に立ち返ることが、最も確実な第一歩かもしれません。
企業の代表的な組織構造

組織のかたちは、戦略のかたち
― 代表的な3つの組織構造を知る
企業の“中身”は、見た目ではわかりません。けれども、どういうふうに人が配置され、どのように動いているか――つまり「組織構造」を知れば、その企業の戦い方や強みが見えてきます。
企業の戦略や規模、事業の性質に応じて、組織構造の選び方はさまざま。
ここでは代表的な3つの組織構造を紹介し、それぞれの特徴やメリット・注意点を見ていきましょう。
1.職能別組織 ― 専門性を高める「分業型」
職能別組織は、人事・営業・製造・開発など、機能ごとに部門を分けて編成される、最も基本的な構造のひとつです。それぞれの部門が特定の専門性に集中することで、高い業務効率と知識の蓄積が期待されます。
メリット | 課題 |
●専門性が磨かれやすく、教育や人材育成がしやすい ●業務が標準化・効率化されやすい | ●部門ごとに“縦割り”になりやすく、横の連携が弱くなる ●全体最適よりも、部門最適が優先されてしまうことも |
事例:大手製造業A社
A社では、人事部・営業部・製造部といった形で、機能別に部門を編成。人事部は採用・研修、営業部は販売と顧客対応、製造部は品質管理や工程改善に特化しています。
この分業によって、それぞれの部門が高度な専門性を発揮し、生産性向上にもつながっています。ただし、部門間の連携をどう強化するかが、今後の課題とされています。
2.事業部制組織 ― 自律分散で動く「独立型」
事業部制組織は、製品ごと・地域ごとなどに事業単位で組織を分け、それぞれが独自の戦略と責任で動く構造です。1つの会社の中に、複数の“ミニ会社”が存在しているようなイメージです。
メリット | 課題 |
●各事業部が迅速に意思決定できる ●市場や顧客ニーズに合わせた柔軟な対応が可能 | ●経営資源が分散しやすく、全社的な最適化が難しくなる ●事業部ごとの方針がバラバラになり、統一感が失われる恐れも |
事例:多国籍企業B社
B社では、「北米」「ヨーロッパ」「アジア」と地域別に事業部を編成。それぞれの事業部が独自のマーケティング戦略や製品開発を行い、地域特性に合わせた施策を展開しています。
この仕組みにより、各市場での対応スピードが大きく向上。しかし一方で、本社の戦略との整合性をとるために、事業部長同士の連携や本社との調整が求められています。
3.マトリックス型組織 ― 専門性と柔軟性の“いいとこ取り”
マトリックス型組織は、職能別と事業部制の両方の構造を組み合わせた形で、1人の社員が2つ以上の指揮命令系統を持つ場合もあります。たとえば、「営業部所属」と同時に「プロジェクトXのメンバー」として動くといった具合です。
メリット | 課題 |
●専門性と柔軟性の両立が可能 ●部門をまたいだ協力体制が促進される | ●指示系統が複雑になり、混乱や指示の重複が起こりやすい ●明確な役割分担や強固なコミュニケーションが不可欠 |
事例:テクノロジー企業C社
C社では、各プロジェクトに対して複数の部門から人材を集め、プロジェクトごとに専任のチームを編成しています。
たとえば、「プロジェクトX」には、技術担当、市場調査や販売戦略を担う営業企画担当、製品の全体管理を行う製品マネージャーが、それぞれの部門から集まり、共同で製品開発を進めています。
このように、部門を越えて知識や視点が集まることで、新しい発想や工夫が生まれやすい環境が整備されています。
一方で、複数の上司から異なる指示を受けることで板挟みになる場面もあり、チーム内での調整力と情報共有の仕組みづくりが重要なポイントとなっています。
組織構造に「正解」はない
それぞれの組織構造には一長一短があり、「これがベスト」と言える構造は存在しません。大切なのは、自社のビジネスモデルや成長ステージに応じて、最適な構造を選び、運用・改善していくことです。
とくに中堅・中小企業においては、「今の体制が本当に今の事業に合っているのか?」を定期的に見直すことが、持続的な成長への第一歩になります。
次回は、従来の組織モデルを覆す“次世代型の組織”について紹介していきます。あなたの組織の未来に、新しいヒントがあるかもしれません。
常識を変える次世代型組織モデル「ティール組織」とは

常識を変える次世代型組織モデル
― 「ティール組織」とは何か?
これまでの組織モデルにおいては、「上司がいて、指示を出し、部下がそれを実行する」という形が当たり前とされてきました。けれども、今、その“常識”を大きく揺るがす新しい組織モデルが注目を集めています。
それが、「ティール組織(Teal Organization)」です。
上下関係や命令系統を最小限にしながらも、高い成果と柔軟性を発揮する――。
一見、理想論にも見えるこのモデルは、実際に成果を上げている企業も出てきており、「次世代型の組織」として世界中で研究と実践が進められています。
ティール組織の起源は「組織の進化史」
「ティール組織」という概念は、フレデリック・ラルー氏の著書『Reinventing Organizations』において体系的に提唱されました。
彼は、人類の歴史とともに組織の形も進化してきたとし、それを5つの色(赤(レッド)・琥珀(アンバー)・オレンジ・緑(グリーン)・ティール)で表現しました。
中でも「ティール(青緑)」は、最も進化した状態として位置づけられており、以下の3つの原則が特徴です。
ティール組織の3つの特徴
1.自主経営(セルフマネジメント)
ヒエラルキー(階層構造)を極力なくし、上下関係に頼らずとも、組織が自律的に機能する仕組みを持ちます。
役職や肩書きに依存せず、現場のメンバーが自分たちで意思決定し、問題を解決します。
例:スウェーデンの家具メーカーIKEAでは、一部の店舗運営において自己管理の仕組みを導入しています。 各チームが、自分たちで業務計画を立て、必要な人員や資材の管理を行いながら、現場で判断して動いています。 たとえば、店舗スタッフは在庫の確認や売り場のレイアウト変更を自ら考えて実行し、来店するお客様のニーズに素早く対応しています。 このような運営方法により、スタッフ一人ひとりの自主性が尊重され、判断や行動のスピードが向上しています。 |
2.全体性(ホールネス)
仕事とプライベートを分けるのではなく、「人間らしさ」や「感情」も含めた“全体の自分”でいられる組織環境を大切にします。
メンバーは仮面をかぶらず、ありのままの姿で関わることが奨励されます。
例:アウトドアブランドのパタゴニアは、全体性を重視した企業文化を体現しています。 社員が自分の価値観やライフスタイルを尊重されながら働ける環境を整えており、たとえば「波が良ければサーフィンに行ってもいい」といった柔軟な勤務スタイルが社内に浸透しています。 また、環境保護活動への参加も奨励されており、社員は仕事の枠を超えて社会的な意義にも関わりながら働いています。 こうした取り組みにより、社員が無理に自分を作らずに過ごせることで、安心感や信頼関係が高まり、自発的な行動や創造的な提案にもつながっています。 |
3.進化する目的(エボリューショナリー・パーパス)
組織は、経営陣が一方的に指示や戦略を決める「トップダウン型」ではなく、状況や外部環境の変化に応じて、組織自体の“存在意義”が進化していくという考え方です。
メンバー一人ひとりが「組織の目的」を感じ取り、それに沿って判断・行動するのです。
例:イギリスのオンライン銀行Monzoは、目的志向の組織文化を持っています。 Monzoは、「より良い銀行を作る」という明確なビジョンを掲げ、全社員がこのビジョンに向かって働いています。 たとえば、新しいサービスの開発や改善において、顧客のフィードバックを重視し、全社員がそのフィードバックを基にサービスを改善するための具体的な行動を取ります。このように、全社員が共有するビジョンに向かって協力し合うことで、強い一体感とモチベーションが生まれます。 |
ティール組織は“組織図がない”?
ティール組織の最大の特徴は、伝統的な組織図や管理職という概念が存在しない、または極めて薄いという点にあります。
たとえば、従来の組織であれば「上司の承認がなければ進められない」ことでも、ティール型では「必要な人と相談し、納得が得られればすぐに動く」という文化が根づいています。
それにより、意思決定のスピードが格段に上がり、社員のエンゲージメントや主体性も高まるとされています。
とはいえ、すべての企業に適しているわけではない
理想的に見えるティール組織ですが、導入にはいくつかの前提条件があります。
- 一人ひとりの自己管理能力や共感的コミュニケーション力が必要
- 社員同士の信頼関係が構築されていること
- 経営層が「組織をコントロールする」のではなく、「育てる」という姿勢を持っていること
こうした土壌がないまま形式だけを真似ると、かえって混乱を招くリスクもあるのです。
中堅・中小企業でも“部分導入”が現実的な選択肢
ティール組織をいきなり全体に導入するのは難しくても、まずは一部に取り入れてみるというやり方であれば、多くの企業にとって現実的に実践できます。
たとえば
- プロジェクトチームに限ってセルフマネジメントを導入する
- 日々の会議で「全体性」を重視した対話を取り入れる
- 年度方針を“固定”するのではなく、必要に応じて変化させる運用にする
このように、ティール型の要素を“今の組織に合ったかたちで”取り入れていくことが、次世代型の柔軟な組織づくりにつながります。
新しい組織の形は「人の可能性」から生まれる
ティール組織の本質は、「組織は命ある存在であり、人が持つ力を信じる」という哲学にあります。
管理や監視ではなく、信頼と対話を軸にした組織――。
それは、これからの時代に求められる“変化に強く、持続可能な組織”の姿なのかもしれません。
組織の5つの進化体型

組織も“進化”する
― 色で読み解く5つの組織モデル
「うちはこういう組織だから」と、今のやり方を当たり前のものとして、そのまま続けていませんか?
実は、組織にも“歩んできた歴史”や“成長の段階”があります。
フレデリック・ラルー氏は、人類の意識や価値観の変化に着目し、組織のあり方を5つの段階に分けて整理しました。そして、それぞれを色で表現することで、組織の進化を視覚的に理解できるようにしています。
この「色で読み解く組織モデル」は、組織というものが一つの“成長の道のり”をたどっていることに気づかせてくれます。
ではここから、赤・琥珀・オレンジ・緑・ティールの5つの段階を順番に見ていきましょう。
【赤の組織】
力と恐怖による支配が組織を動かす時代
最も原始的な組織形態が「赤」です。ここでは、リーダーの“強さ”が支配の根拠となり、秩序は力で保たれます。指示は上から下へと一方的に流れ、従うことが絶対とされます。
特徴 | 即応性と強い統率力 |
課題 | 創造性・多様性・柔軟性に乏しい |
事例:軍隊やギャング組織
上下関係が明確で、リーダーの命令は絶対。反抗や異論は許されず、ルールを破れば罰が与えられる。これは、安定性が必要な危機対応型の組織に適してはいますが、変化に弱く、成長が止まりやすい傾向もあります。
たとえば、軍隊では、上官の命令に対して絶対的な服従が求められます。任務の遂行においては個人の判断よりも命令の順守が最優先とされるため、迅速な動きや統制のとれた行動が可能です。一方で、変化への対応や現場からの提案は生まれにくく、環境の変化に対して柔軟性を欠くリスクがあります。
【琥珀の組織】
秩序と役割で支えられる“官僚型”の組織
赤の混乱を避け、秩序や規律を重視する組織が「琥珀」です。ここでは、明確なルールと職務分掌によって安定がもたらされ、ピラミッド型の階層が整備されます。
特徴 | 安定性・予測可能性・規律 |
課題 | 変化への適応が遅く、硬直化しやすい |
事例:官僚機構、公的機関、旧来の大企業
日本の省庁や大企業の管理部門などが典型例です。文書主義、稟議文化などが根づいており、手順に則って物事を進めることで組織全体の一貫性が保たれています。
たとえば、意思決定には複数の承認を要し、稟議書や会議での合意形成を経て進められます。こうした仕組みは、責任の所在を明確にし、トラブルを回避するうえでは有効です。
しかしその反面、スピード感や現場の柔軟な対応には乏しく、変化の多い現代社会においては対応が遅れるリスクがあります。現場の声が届きにくくなり、「決められたことを守る」ことが優先される風土が強まると、組織全体が硬直化しやすくなります。
【オレンジの組織】
成果と競争によって進化する“効率重視”の組織
次に登場するのが「オレンジ」。ここでは、効率化・目標達成・イノベーション(これまでになかった新しい仕組みや価値を生み出すこと)が組織のキーワードになります。成果主義が導入され、役割と評価が明確に紐づきます。
特徴 | 業績重視・合理性・イノベーションの推進 |
課題 | 個人主義に傾きやすく、内的動機が軽視される |
事例:アメリカのAmazon(アマゾン)
Amazonでは、徹底したデータ活用と効率の追求により、インターネット上で商品やサービスを販売する「オンライン通販」の分野で、世界最大級の企業へと成長しました。各部署やチームに対して具体的な数値目標が設定され、達成度に応じた評価や報酬制度が導入されています。
また、業務の進め方や手順を見直したり、自動化を進めたりすることで、生産性と競争力の最大化が図られています。
一方で、成果に対するプレッシャーの大きさや、従業員間の競争が過熱しすぎるといった課題も指摘されています。効率と成果を求めるオレンジ型の組織は、強い推進力を持つ反面、人間関係や働きがいの維持に配慮が必要とされます。
【緑の組織】
人間らしさを大切にする“共感型”の組織
「緑」の組織では、数字や成果よりも、人との関係性や共感、組織の“文化”を大切にします。
一人ひとりの個性や価値観が尊重され、自分らしく働ける環境が整えられていることが特徴です。
特徴 | 民主性・文化重視・共感とつながり |
課題 | 意思決定に時間がかかり、効率が落ちることも |
事例:日本のサイボウズ株式会社
サイボウズでは、「チームワークあふれる社会をつくる」という理念のもと、社員一人ひとりの価値観やライフスタイルを尊重した組織づくりが進められています。
たとえば「100人いれば100通りの働き方があってよい」として、在宅勤務や副業、育児・介護と両立しやすい制度を整えています。
また、情報は原則すべて公開され、職位に関係なく自由に意見を述べられる風土が根づいています。このような文化重視の経営は、社員同士の信頼関係を深め、共感を土台としたチームづくりを可能にしています。
一方で、全員の声を尊重することで、意思決定に時間がかかる場合もあり、スピードと合意形成のバランスが課題になることもあります。
【ティールの組織】
自律と目的に導かれる“進化型”の組織
そして最も進化した組織モデルが「ティール」です。ティール組織では、ヒエラルキーを持たず、指示命令に頼らないセルフマネジメント、自分らしさを発揮できる全体性、そして変化に応じて進化する目的の3要素が軸になります。
メンバーは役割に縛られず、自分の個性や強みを活かして、自由度の高い働き方ができるのが特長です。
特徴 | 自律性・柔軟性・進化するビジョン |
課題 | 高い信頼関係と自己管理力が必要 |
事例:オランダのブートゾルフ(看護サービス)
ブートゾルフでは、管理職を置かず、看護師チームが地域に根ざしてサービスを提供しています。各チームは、自らスケジュールや業務内容、看護計画を柔軟に調整し、意思決定を行う自律的な運営を行っています。これは単なる“自由”ではなく、看護師一人ひとりの専門性と信頼に基づいた仕組みであり、役職や序列にとらわれずに人間性を活かして働く環境が整っているのが特長です。
その結果、現場の判断で改善提案を即実行できる体制が整い、患者からの高い信頼と満足度を維持しながら、現場主導でのサービス向上が実現しています。
あなたの組織は、今どの色に近いですか?
ラルー氏の5つの色は、「優劣」ではなく「段階」です。
どの段階にも強みと課題があり、すべての企業がティール型を目指すべきという話ではありません。
しかし、自社の“今”を客観的に見つめ、次のステージを考えるヒントにはなります。
変化が激しい時代だからこそ、組織そのものも進化し続ける必要があります。
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ティール組織とホラクラシー組織の違い

― 次世代型組織をどう見極め、取り入れるか?
人が育つ組織、変化に強い組織、社員が活き活きと働く組織――。そんな“理想の組織”を目指して、近年注目を集めているのが「ティール組織」と「ホラクラシー組織」です。
どちらの組織もヒエラルキーにとらわれず、メンバーの主体性を大切にする新しい組織の形ですが、考え方や運営の仕方にははっきりとした違いがあります。
自社に合っているのはどちらなのか――。ここではその違いを整理し、中小企業が取り入れる際のポイントもわかりやすく解説します。
ホラクラシー組織とは?
明確なルールと“役割ベース”で動く合理的な組織
ホラクラシー組織は、ブライアン・ロバートソン氏が開発した運営モデルで、ティール組織に比べて、より制度とルールに基づいた運用がなされます。
役割ベースの構造
役職や肩書き(ポジション)ではなく、「担う役割」に責任と権限を持たせる
定期的な会議体
ガバナンスミーティング(仕組み調整)とタクティカルミーティング(日々の実行)で、組織を動かす
役割や判断の流れを文書で明確にしたしくみ
あらかじめ「誰が」「何を」「どう決めるのか」がルールとして決められており、それに沿って運営されます。
この仕組みにより、意思決定のスピードが早く、役割同士の衝突や曖昧さを避けやすいのが強みです。
代表事例:米国・Zappos(ザッポス)
通販会社ザッポスは、従来の階層型構造を撤廃し、全社員が役割単位で意思決定に関わります。明文化されたルールの下、社員は責任と裁量を持って日々の業務を推進しています。
ティール vs ホラクラシー
違いを一覧で比較
比較項目 | ティール組織 | ホラクラシー組織 |
---|---|---|
基本思想 | 組織も“生き物”。自然な進化を尊重する | 明文化されたルールと役割で運営 |
意思決定 | 自己管理による合意形成 | 役割ごとの権限に基づく意思決定 |
組織構造 | 固定的な組織図はなく、柔軟に変化 | 役割とサークル(部門に相当)で構成 |
リーダーの役割 | 支援者・伴走者(サーバントリーダー) | 明文化された枠組みでの進行役 |
強み | 人間性を活かす組織文化、柔軟な適応力 | 迅速な意思決定、透明性と効率性 |
導入の難しさ | 組織文化の変革が前提、移行に時間がかかる | 運用ルールが複雑で、習得に時間がかかる |
日本企業での導入事例
ティール組織:ソニックガーデン
エンジニアが営業や顧客対応も行い、プロジェクトを自律的に推進。チームごとに独立性が高く、個々の創造力が成果につながる運用を実現。 |
ホラクラシー組織:リクルートライフスタイル
役割と責任を明確にし、チーム単位での意思決定を可能に。制度と制度や運営の進め方をしっかり整えることで、柔軟かつ効率的な組織運営を行っている。 |
中小企業にとっての現実的な導入ポイント
特に中小企業において、いきなり組織全体を大きく変えるのは非現実的です。
そこでおすすめなのが、段階的導入です。
ティール導入のポイント
- 少人数のチームから自己管理を試す
- 360度評価やフィードバック文化の導入
- 「理念共有」や「信頼」を土台に置く組織づくり
ホラクラシー導入のポイント
- 役割ごとの責任明確化
- 定例ミーティングの進め方や記録方法を統一する
- 業務のルールや流れを見える形にする(可視化)
重要なのは「形」より「機能」
どちらの組織モデルも、“理想の未来”に向けたヒントを与えてくれますが、大切なのはその形をまねることではなく、組織がよりよく機能するために、どの要素を取り入れるかを考えることです。
今の組織にどんな課題があるのか。
どのような働き方を実現したいのか。
そして、それを実現するためにどこから変えればよいのか――。
“組織の未来”に対する視野を広げる一歩として、ティール組織とホラクラシー組織の違いを知ることは、大きな価値があるはずです。
まとめ

ティール組織モデルは、従来のヒエラルキー型組織とは異なり、自己管理、全体性、目的志向の3つの柱を持つ次世代型の組織モデルです。このモデルは、メンバーが自律的に行動し、組織全体の目的に向かって協力し合うことで、柔軟性と創造性を高めることができます。ティール組織の導入には、リーダーシップの転換、信頼と透明性の確保、目的志向の強化、柔軟な働き方の推進が重要です。
一方で、ティール組織の導入には、従来の組織文化との考え方や価値観の違いによる戸惑いやズレ、コミュニケーションの課題、パフォーマンス評価の難しさなどの課題があります。これらの課題に対しては、段階的な移行、教育プログラムの導入、情報共有の仕組みの整備、360度評価や自己評価の導入などの解決策が有効です。
ティール組織の未来は、多くの可能性と挑戦に満ちています。テクノロジーの進化、グローバルな働き方の広がり、社会的な責任の重要性の増加などが、ティール組織の発展を支援します。また、継続的な教育プログラムと意識改革が、ティール組織の成功を支える重要な要素となります。
ティール組織は、未来の働き方を示すモデルとして、多くの企業にとって参考となるでしょう。その導入には時間と努力が必要ですが、その結果として得られる柔軟性と創造性は、組織の持続的な成功に大きく貢献します。
監修者

- 株式会社秀實社 代表取締役
- 2010年、株式会社秀實社を設立。創業時より組織人事コンサルティング事業を手掛け、クライアントの中には、コンサルティング支援を始めて3年後に米国のナスダック市場へ上場を果たした企業もある。2012年「未来の百年企業」を発足し、経済情報誌「未来企業通信」を監修。2013年「次代の日本を担う人財」の育成を目的として、次代人財養成塾One-Willを開講し、産経新聞社と共に3500名の塾生を指導する。現在は、全国の中堅、中小企業の経営課題の解決に従事しているが、課題要因は戦略人事の機能を持ち合わせていないことと判断し、人事部の機能を担うコンサルティングサービスの提供を強化している。「仕事の教科書(KADOKAWA)」他5冊を出版。コンサルティング支援先企業の内18社が、株式公開を果たす。
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