ウェルビーイングとは何か?組織と人の関係性を深める具体的な実践法を説明

1 組織戦略・マネジメント

働き方改革や健康経営の推進が進む現代において、「ウェルビーイング」という概念が注目を集めています。単なる従業員の健康維持にとどまらず、心身の充実や仕事への意欲、そして組織全体の活性化にもつながる重要な視点です。しかし、「具体的に何から始めればよいのか分からない」「どのように組織へ定着させればよいのか」と悩む企業も少なくありません。
このコラムでは、ウェルビーイングとは何かという基本的な定義から、組織に導入する方法、そして人と組織の関係性を深める実践法までを分かりやすく解説します。

< このコラムでわかる3つのポイント >
1.ウェルビーイングが組織に与える具体的な影響
2.実践的にウェルビーイングを導入するためのステップ
3.ウェルビーイングを定着させるためのマネジメントの役割と行動指針

 

ウェルビーイングとは

現代の企業経営において「ウェルビーイング(Well-being)」という言葉は、単なる流行語ではなく、経営戦略の一環として本格的に検討されるようになっています。では、この「ウェルビーイング」とは一体何を意味するのでしょうか。日本語では「幸福」や「心身の健康」などと訳されることが多いですが、その本質はより広範で、多面的な概念です。

ウェルビーイングの語源は、世界保健機関(WHO)が1946年に定義した「健康」の概念にあります。「健康とは、身体的・精神的・社会的に良好な状態にあること」と定義されており、この考え方がウェルビーイングの基本となっています。つまり、単に病気がないという状態ではなく、人として「よく生きる」「満たされている」と実感できることが、ウェルビーイングの本質です。

企業や組織においては、従業員一人ひとりが身体的にも精神的にも、そして社会的にも安定し、活力を持って仕事に取り組める環境を整えることが、ウェルビーイングの実現に直結します。たとえば、十分な休息や柔軟な働き方の確保、職場での人間関係の良好さ、キャリアの成長機会などがすべてウェルビーイングに寄与する要素といえるでしょう。

また、ウェルビーイングは単なる個人の幸福を追求するものではありません。組織全体のパフォーマンス、つまり「組織力」を高めるうえでも重要な要素となります。近年では、従業員のエンゲージメント向上や離職率の低下、生産性向上などの指標に対して、ウェルビーイング施策が有効であることが、国内外の調査や実践事例から明らかになってきています。

このように、ウェルビーイングは「人の幸福」と「組織の成果」を同時に高めるアプローチとして、多くの企業にとって欠かせないテーマとなっています。今後の経営において、この概念をどのように理解し、どのように実践へとつなげていくかが、企業の持続的成長を支えるカギになるでしょう。

組織におけるウェルビーイングの必要性

企業経営において、人材は単なるリソースではなく、価値創出の源泉として認識されつつあります。そうした中で注目されているのが「ウェルビーイング」の視点です。個人の幸福度や健康状態は、業務の成果や組織全体のパフォーマンスに密接に結びついており、組織の健全性を維持・向上させる上で欠かせない要素となっています。

働き方の多様化やメンタルヘルスの課題、長時間労働への懸念など、職場環境を取り巻く課題は複雑化しています。こうした状況下で従業員の心身の健康を守ることは、単なる福利厚生の範囲を超えて、経営の本質的な課題といえます。たとえば、慢性的なストレス状態にある従業員は、判断力や創造性、生産性が低下しやすく、ひいてはチーム全体の士気や組織文化にも悪影響を及ぼします。

一方で、ウェルビーイングが確保された職場環境では、従業員の満足度やエンゲージメントが高まり、離職率の低下やチームの一体感が生まれることが多くの調査で報告されています。従業員一人ひとりが「この職場で働きたい」と感じる状態が、組織としての強みを形成していくのです。これは採用競争が激化する中で、優秀な人材を惹きつけ、定着させるための差別化要因にもなります。

また、人的資本開示の義務化やSDGs、ESG投資の影響もあり、企業は社会的責任と透明性をもって人材への取り組みを外部に示す必要があります。ウェルビーイングの実践は、企業の信頼性やブランドイメージ向上にもつながり、対外的な価値を生み出す戦略要素ともなり得ます。健康経営銘柄に選定されることや、働きがいのある企業として評価されることも、今や経営成果の一部です。

企業にとっての競争優位は、テクノロジーや資本力だけでなく、「人が安心して活躍できる環境」を提供できるかどうかにシフトしています。ウェルビーイングはその根幹にある概念であり、単なる流行語ではなく、変化の激しいビジネス環境を生き抜くための持続可能な経営資源といえるでしょう。

ウェルビーイングを導入するメリットとデメリット

ウェルビーイングの導入は、組織にとって多くの利点をもたらしますが、一方で現場運用や文化形成においていくつかの課題も存在します。このセクションでは、ウェルビーイング施策を導入する際の代表的なメリットとデメリットを整理し、バランスの取れた視点での理解を促します。

項目メリットデメリット
エンゲージメント意欲・満足度向上、業務への主体性一時的な施策では効果が持続しにくい
組織パフォーマンス  離職率の低下、生産性向上成果測定が難しく、KPI設計が複雑
経営・社会的評価健康経営認定、SDGs、人的資本開示に貢献経営層の理解や初期コストがネックになる

まずメリットとして挙げられるのは、従業員のエンゲージメントや生産性の向上です。健康状態が良好で、職場に安心感と信頼関係がある環境では、従業員は積極的に業務に取り組みやすくなります。例えば、メンタルヘルスへの配慮や柔軟な働き方、キャリア支援などを通じて個々のニーズが満たされると、自然と仕事へのモチベーションも高まります。これは結果として業績向上や離職率低下につながり、組織の安定性が強化されます。

さらに、採用ブランディングや企業の社会的評価という観点からもメリットがあります。ウェルビーイングに積極的に取り組む企業は「人を大切にする組織」として認知され、就職先としての魅力が高まります。健康経営優良法人の認定やSDGsへの貢献は、企業価値の向上にも寄与します。従業員満足度の高い職場は、口コミやSNSなどを通じて対外的な評価にも直結します。一方で、ウェルビーイングの導入にはいくつかのデメリットや注意点も存在します。第一に、施策が形骸化しやすいというリスクです。表面的な制度整備だけでは、本来の目的である「従業員の幸福と健康の向上」にはつながりません。たとえば、フレックスタイム制度を導入しても、組織文化や上司の理解がなければ利用されずに終わることもあります。

また、定量的な効果測定が難しい点も課題です。売上や利益と異なり、ウェルビーイングは主観的な要素を多く含むため、KPIの設定や評価方法に工夫が必要です。さらに、施策の導入には一定のコストやリソースがかかるため、短期的なROIが見えづらいことも、経営層の理解を得るうえでのハードルとなります。

つまり、ウェルビーイングの導入は万能薬ではなく、組織ごとの課題や風土に応じた設計と丁寧な運用が求められます。メリットとデメリットの両面を理解したうえで、中長期的な視点から取り組むことが、成功のカギとなるのです。

ウェルビーイングを導入する方法

ウェルビーイングの重要性を理解したうえで、実際にどのように組織へ導入すればよいのかという点は、多くの企業にとっての関心事です。導入にあたっては、理念の明確化、実施計画の策定、関係者の巻き込み、評価体制の構築といった複数のステップを踏む必要があります。

導入ステップ内容主な目的
ステップ①  自社にとってのウェルビーイングの定義設定経営理念との整合・共有 
ステップ②アンケート・面談等による現状把握実態に即した課題抽出と課題解決
ステップ③ 柔軟な勤務制度、支援体制、職場環境整備などの施策設計組織文化への反映、従業員満足度向上
ステップ④効果測定・フィードバック・改善サイクル継続的改善と定着、成果の最大化

最初のステップは「組織としてのウェルビーイングの定義を明確にする」ことです。ウェルビーイングは広い概念であるため、自社にとっての優先領域を明確にすることが重要です。たとえば、「メンタルヘルスの改善を最優先にする」「柔軟な働き方を推進する」「働きがいを重視する」といった方向性を定め、その上で具体的な目標設定を行います。

次に、現状把握と課題の洗い出しが必要です。従業員アンケートや面談、健康診断データなどをもとに、心身の状態や職場環境について定量・定性の両面から分析します。このプロセスを通じて、従業員が何に満足しており、何に不満を感じているのかを把握することで、より的確な施策立案が可能になります。
続いて、具体的な施策の設計と導入を行います。施策にはさまざまな種類があります。例えば、柔軟な勤務制度、キャリア支援プログラム、健康相談窓口、社内コミュニケーション活性化の仕組み、オフィス環境の改善などです。大切なのは、これらの施策を単独で導入するのではなく、全体として一貫性を持たせ、組織の方針と連動させることです。

施策導入の際には、現場の理解と協力が欠かせません。トップダウンによる発信に加え、ミドルマネジメント層を巻き込んで現場での実践を促す仕組みが求められます。上司自身がウェルビーイングの必要性を理解し、模範となる行動をとることで、現場への浸透度が大きく変わります。

導入後は、定期的なモニタリングとフィードバックが必要です。実施した施策が実際に従業員の状態や組織文化にどのような影響を与えているのかを測定し、必要に応じて見直しを図るサイクルを構築します。ここでは、従業員満足度調査や1on1ミーティングの活用などが効果的です。

このように、ウェルビーイングの導入は単なる制度設計にとどまらず、組織文化の変革を伴う中長期的な取り組みとなります。段階的かつ持続的に進めることが、成功への鍵と言えるでしょう。

ウェルビーイングの考えを高めて維持する方法

ウェルビーイングの施策を導入することは重要ですが、それ以上に大切なのは、それを「一時的な取り組み」で終わらせず、継続的に育て、組織文化として根付かせることです。ここでは、ウェルビーイングの考えを高め、長期的に維持するための具体的な方法について解説します。

まず注目すべきは「リーダーの行動と姿勢」です。組織の価値観や文化は、トップや管理職の言動に強く影響されます。上司が率先して休暇を取得し、健康に配慮した働き方を実践する、あるいは部下との対話を重視するなど、日常の行動がウェルビーイングの浸透に直結します。また、リーダーが従業員の状態に関心を持ち、心身の健康や仕事のやりがいに配慮する姿勢を見せることで、組織全体にポジティブな連鎖が生まれます。

次に、ウェルビーイングを「個人任せにしない仕組みづくり」も必要です。健康管理やキャリア開発といったテーマは、個人の自己責任にされがちですが、企業として支援の枠組みを整えることで、取り組みの継続性と公平性が担保されます。たとえば、定期的な1on1ミーティングや社内相談制度、メンタルヘルス研修などの仕組みを設けることで、組織としての責任ある姿勢を示すことができます。

さらに、「成功体験を共有し合う」ことも有効です。ある部署で実施された取り組みが効果を上げた場合、それを組織全体に展開することでモチベーションの向上や施策の定着につながります。社内報やイントラネットでの事例紹介、表彰制度の活用など、情報共有の工夫により、組織全体が学び合い、支え合う文化を醸成することができます。

また、「外部環境の変化に合わせて柔軟に見直す」姿勢も重要です。社会情勢や働き方のトレンドが変化する中で、固定化された制度は形骸化する恐れがあります。従業員アンケートやヒアリングを通じて継続的にニーズを把握し、必要に応じて施策をアップデートすることが、維持・発展につながります。

最後に、「ウェルビーイングの意義を継続的に伝える」ことを忘れてはなりません。制度や施策だけではなく、その背景にある価値や目的を社内で共有し続けることで、従業員の理解と共感が深まり、組織文化として定着していきます。

このように、ウェルビーイングの継続には、仕組み・人・文化の3つの観点からのアプローチが不可欠です。一度導入したから終わりではなく、常に対話と改善を繰り返す姿勢が、組織力の向上と人の幸福の両立を実現する鍵となるのです。

まとめ

ウェルビーイングは、従業員一人ひとりの健康や幸福を高めるだけでなく、組織全体の生産性や創造性、ひいては企業の持続的成長にも寄与する極めて重要な視点です。特に、人的資本への注目が高まる昨今、従業員の心身の状態をどのように整え、仕事に向かう意欲を引き出すかが、企業の競争力を左右するといっても過言ではありません。例えば、健康経営の実践や心理的安全性の醸成、キャリア支援といった具体策を組み合わせることで、実践的なウェルビーイング施策を構築できます。このコラムを通じて、自社に必要な取り組みのヒントを得ていただけたなら幸いです。

 

 

監修者

髙𣘺秀幸
髙𣘺秀幸株式会社秀實社 代表取締役
2010年、株式会社秀實社を設立。創業時より組織人事コンサルティング事業を手掛け、クライアントの中には、コンサルティング支援を始めて3年後に米国のナスダック市場へ上場を果たした企業もある。2012年「未来の百年企業」を発足し、経済情報誌「未来企業通信」を監修。2013年「次代の日本を担う人財」の育成を目的として、次代人財養成塾One-Willを開講し、産経新聞社と共に3500名の塾生を指導する。現在は、全国の中堅、中小企業の経営課題の解決に従事しているが、課題要因は戦略人事の機能を持ち合わせていないことと判断し、人事部の機能を担うコンサルティングサービスの提供を強化している。「仕事の教科書(KADOKAWA)」他5冊を出版。コンサルティング支援先企業の内18社が、株式公開を果たす。

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