
この度、秀實社が運営するオウンドメディア 「實現(じつげん)」 では、一般社団法人 池田泉州奨学基金 代表理事 藤田 博久(ふじた ひろひさ)氏 にインタビューの機会を頂きました。

インタビューの目的
- 2024年10月1日、池田泉州銀行の出捐により設立された同基金が掲げる「若者の教育機会を経済的側面から支援し、人材育成と地域社会の発展に寄与する」というミッションを詳しく掘り下げる。
- 子どもの貧困率 11.5%、ひとり親世帯の貧困率 44.5%(いずれも2021年)という現実を踏まえ、“給付型奨学金” が高校生の学びと体験の格差をどう埋めるのかを探る。
「實現」サイトについて
- 「戦略人事で、人と組織の可能性を拡げる」をテーマに、組織戦略・マネジメント、人事評価制度、管理職研修・リーダーシップ、新人研修・キャリア形成、部下指導・育成、HRテクノロジー・イノベーション・その他―6カテゴリーでコラムを定期発信する秀實社のオウンドメディアです。最新の HR 知見と実践事例をお届けしています。
それでは藤田代表との対話をお楽しみください。
Q1:まず、池田泉州奨学基金を設立された背景と設立時の想いをお聞かせください。
藤田代表
池田泉州銀行は「幅広いご縁」と「進取の精神」をモットーに、地域金融機関として地元の発展を支えてきました。東京に肩を並べるほど多くの人口と事業所を抱え、アジア・チャイナ・ゲートである阪神港と3つの空港を有する恵まれた都市型マーケットを地盤としていることは、大きな強みの一つです。しかし大阪府・兵庫県には、全国平均を上回る子どもの貧困という厳しい現実があります。厚労省の統計では子どもの貧困率が11.5%、ひとり親世帯に限れば実に44.5%。「私たちの周りの地域課題に対してできることは何か」。議論を重ねる中で、「返済不要の給付型奨学金で高校生達を支えよう」という結論に至りました。2024年10月1日の設立にこぎつけるまで、行政との協議や制度設計に1年以上を費やしましたが、地域を良くしたいという思いが原動力となりました。年間10名という規模は小さくても、10年・20年と続くうちに100名・200名と育っていく。そうした“長い助走”を前提に設計しています。
Q2:多くの奨学金が大学生に支給される中、高校生に焦点を当てた理由は何でしょうか。
藤田代表
高校段階で経済的ハードルに直面すると、そもそも進学やキャリアの選択肢を描く前に諦めてしまうことがあります。授業料自体は就学支援金などで賄えても、部活動費、教材費、模試代、遠征費など周辺コストが重くのしかかります。経済格差が体験格差となり、「知らないから挑戦できない」負の連鎖が生まれる。高校生のうちに“選択肢を閉ざさない”ことが、大学進学率やその後のキャリア形成に大きな影響を与えると考えました。また高校は義務教育後の最初の進路選択ステージであり、このタイミングで支援を届ける意義は大きいと判断しました。
Q3:受給要件を“住民税非課税世帯” だけにとどめ、学力等で選抜しない方針の意図は?
藤田代表

学力基準を設けると、経済的困難を抱えながら成績を維持できなかった生徒が対象外になりがちです。私たちは“今まさに支援を必要とする若者”を逃さないために、世帯所得要件のみとしました。学力はあとから伸ばせますが、失われた進学機会は簡単には取り戻せません。
Q4:地元企業や経済界との連携について展望をお聞かせください。
藤田代表
銀行には業種も規模も異なる多様な顧客ネットワークがあります。その強みを活かし、寄付や協賛だけでなく、職業体験・インターンシップ・メンタリング など「教育と産業をつなぐ橋渡し」の役割を担いたいと考えています。たとえば製造業の現場見学やIT企業のプログラミング体験会、地元商店街での地域イベント企画など、リアルな仕事の手触りを感じてもらう機会を創出したい。将来的には“基金に参画する企業コミュニティ”を立ち上げ、学生と企業が双方向で学び合う仕組みに進化させるのが目標です。その過程で産学連携、自治体連携まで広げ、地域ぐるみで若者を育むエコシステムを築ければと願っています。
Q5:最後に、未来を切り拓こうとしている高校生へメッセージをお願いします。
藤田代表
まずお伝えしたいのは、「あなたは一人ではない」ということです。目の前の壁が高く感じられるとき、人はどうしても視野が狭くなり、「自分には無理だ」と結論づけてしまいがちです。しかし視点を少し変えるだけで、新しい道は必ず見えてきます。
- 小さな一歩を踏み出す勇気を持とう
たとえば大学のオープンキャンパスに行ってみる、地域のボランティア活動に参加してみる、好きな分野のオンライン講座を一日だけ受けてみる。小さな行動が「できるかもしれない」という実感を生み、次の行動を呼び込みます。 - 相談することを恐れない
先生・親・友人だけでなく、地域のNPO、オンラインの相談窓口など、話を聞いてくれる大人は想像以上にたくさんいます。私たち奨学基金も、ご縁をいただいた皆さんと、とことん向き合います。悩みを言語化し、他者に共有するだけでも心は軽くなるものです。 - 異文化に触れて視野を拡げよう
2025年の大阪・関西万博には世界中から人が集まります。英語が堪能でなくても、笑顔と「Hello!」だけで会話は始められます。異文化体験は“できない理由”より“やってみたい好奇心”を育て、将来の選択肢を飛躍的に増やします。 - 経験こそがあなたの価値になる
経済的困難や家族構成、不登校などの経験は、つらい記憶と同時に“誰にも真似できない学び”を含んでいます。困難を乗り越える過程で培った共感力・粘り強さ・問題解決力を、明日を切り拓く資源として活かしてください。 - 遠い目標は“今日できること”に分解しよう
「医師になりたい」「海外で働きたい」と思っても何から始めればいいか途方に暮れるかもしれません。まずは「理科の苦手分野を1日30分だけ復習する」「英単語を1日5個覚える」といった“小さなルーティン”から始めてみましょう。小さな成功体験は自己効力感を高め、次の挑戦に踏み出すエネルギーを与えてくれます。 - 私たちはあなたの挑戦を応援し続けます
奨学金を“給付して終わり”ではありません。進学後のキャリア相談、OB/OGとの交流会、企業とのマッチングなど、継続的なサポート体制を整えていきます。そして、支援を受けた後は、ぜひ次の世代を支える側に回ってください。あなたが培った知恵や経験が、さらに別の誰かの背中を押す。それこそが“ご縁”の連鎖であり、地域全体の底上げにつながると信じています。
最後に―もし今、将来が霧の中にあるように感じても大丈夫です。霧は歩き続けるうちに少しずつ晴れていきます。あなたの可能性は、あなたが思うよりずっと大きい。どうか自分を信じ、今日できる一歩を踏み出してください。私たちはいつでも、あなたのそばで応援し続けます。

高校生等への奨学金給付事業を実施する池田泉州奨学基金
一般社団法人 池田泉州奨学基金
https://www.sihd-sf.or.jp/
【編集後記】
池田泉州奨学基金は、返済不要の給付型奨学金を起点に “学び・体験の格差” を埋めようとしています。設立から間もないながら、藤田代表の言葉には「地域の若者を、地域の力で育てる」という覚悟が宿っていました。
秀實社「實現」サイトでは、今後も社会課題解決型の取り組みを継続的に紹介し、人と組織の可能性を拡げるヒントを発信してまいります。